五十四話 魔女狩りの号令
――MCRアジト・大広間。
そこには、欠陥魔人たちが集められていた。
その中央に立つのは――
MCRを率いる男、ヴォルテス。
杖を勢いよく床に突きつける。
――コォンッ!
重い音が大広間に響き、場の視線が一斉に集まった。
「よく聞け!」
ヴォルテスの声が響き渡る。
「作戦は――最終段階へと移行する」
その場に集う五人の幹部を、ゆっくりと見渡した。
「我らが誇る――」
口元が歪む。
「欠陥魔人たちよ」
「あのさ……わたし、その呼び名好きじゃないんだけど」
水色の髪を指で弄りながら、小柄な少女が不満そうに口を開いた。
「哀歌。欠陥魔人というのは、僕たちの名称です」
「好きとか嫌いという感覚は、よくわかりません」
双子の欠陥魔人のリオとレオが少女を見つめる。
「あのさー、リオレオ君。
その“哀歌”っていうのも、あんまり好きじゃないの。
わたしにはフィーラって名前があるんだから」
大きな瞳は左右で色が違い、宝石のように輝いている。
「ったく。
さっきからうるせぇな!」
ブラッドがフィーラを睨みつけた。
「我儘ばっか言いやがって。学園侵攻にも来なかったくせによ!」
「何よ……ブラッド。
わたしにたてつくの?」
フィーラの視線が鋭くなる。
「いい? わたしは特別なの。
あんたたちと一緒にしないで」
「っち。何が特別だよ」
ブラッドは鼻で笑う。
「お前の魔法が、敵味方関係なくぶっ壊しちまうだけだろうが」
ブラッドとフィーラの言い合いに、低い声が割って入った。
「その辺にしておきなよ」
闇を纏った黒ローブの男が、静かに言う。
「底辺同士の争いは、見ていてみっともない」
「おい……もういっぺん言ってみろ」
ブラッドがナイフのような形状の杖を構える。
「八つ裂きにしてやる」
「そうよ」
フィーラが喉元を押さえた。
「一番の新入りのくせに。
生意気よ、怨闇」
「何故、皆さんは争っているのでしょうか?
それは命令ですか?」
リオが静かに言う。
「もし命令なら――
僕たちも参加しなければなりませんね」
二人も杖を構えた。
その瞬間、大広間の空気が張り詰める。
魔素がひりつき、今にも戦いが始まりそうだった。
「やめないか」
ヴォルテスの声が響く。
「欠陥魔人たちよ。
今は争っている場合ではない」
「それって……どういうことよ。
もう始祖は回収したんでしょ」
フィーラがヴォルテスを睨みつける。
ヴォルテスは視線を全員に向けた後、静かに話しかけた。
「絶詠の魔女――アリス・ノーチラスに、この場所を特定された。
すでにこちらへ向かっているだろう」
その名を聞いた瞬間――
フィーラの口元がゆっくりと歪む。
「絶詠の魔女……?」
その名を聞いた瞬間、フィーラの指先がぴたりと止まった。
「きゃはは……!」
次の瞬間、肩を震わせて笑い出す。
「ついに会えるのね……あの魔女に」
ヴォルテスは構わず続ける。
「君たちには、全員で絶詠の魔女を迎え撃ってもらう」
「はあ?」
フィーラが眉を吊り上げた。
「こいつらと協力しろって?
頭イカれてるんじゃないの?」
ゆっくりと一歩前へ出る。
「魔女は――わたし一人にやらせなさいよ」
フィーラの声に反応するように魔素が大広間に広がった。
空気が震え、壁にかけられた灯りが揺れる。
「落ち着け。哀歌」
ヴォルテスの低い声が響く。
「相手は――あの魔女だ。
一人で手に負える相手ではない」
ヴォルテスの言葉には、確かな重みがあった。
「……そうかい」
ブラッドが口元を歪める。
「ボスがそこまで言うなら、やっぱ相当強ぇんだろうな」
指の骨をポキポキと鳴らした。
「そうだ。だが、君たち全員なら勝てる。
魔導技師も加わった六人で――」
ヴォルテスはゆっくりと言う。
「確実に仕留めてもらう」
その場にいる欠陥魔人たちを見渡した。
「組織の中で、魔女に対抗できる可能性があるのは――
君たちくらいだろう」
「まあ、全員でってのは気に食わねぇが……」
ブラッドが口元を歪めて笑う。
「楽しそうじゃねぇか――魔女狩りってやつだ」
「かしこまりました、ボス」
「僕たちにお任せください」
リオとレオは声を揃え、同時に頭を下げた。
黒ローブの男は静かに背を向ける。
「私は魔女には興味ありません。
あなたたちに任せますよ」
そう言い残すと、闇に溶けるように姿を消した。
「まあ、いいわ……
でも、最後にあの魔女を壊すのは、わたしにやらせてよね」
フィーラのオッドアイが、妖しく光った。
◇◇◇◇◇
――MCRアジト上空。
鳴り響く轟音。
岩でできた巨大な竜が、唸りを上げながら空を切り裂いて進んでいく。
「見えたわ」
先頭に立つアリスが、前方を指さす。
そこには――
巨大な要塞のような施設。
MCRのアジト。
「ここが……!」
ルーシーが息を呑む。
「……で、どうやって入るんだよ」
ロウが岩竜にしがみついたまま顔をしかめる。
「それはね……」
アリスが振り返る。
「このまま突っ込むのよ!」
「……は?」
「え?」
「しっかり捕まっていなさい」
その声は妙に軽かった。
「え? どういうことですか!」
「おい! こいつ全然減速してねーぞ!」
「まさか本気じゃないすよね!? 姉御!」
「死ぬ……もう死ぬわ!」
ミレイユはすでに白目を剥いている。
――ゴゴゴゴゴゴッ!
空気を切るように、岩竜が一直線に降下した。
「うわああああああああ!!」
「死ぬ! マジでやばいっしょこれ!!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいぃぃ!!」
ロウ、ユミナ、ルーシーの絶叫が空に響く。
岩竜は減速することなく――
そのまま施設へと突っ込んだ。
――ドォォォン!!
岩竜が激突し、壁を砕いて施設内部へと突入する。
砕けた岩が、爆発のように四方へ飛び散った。
その瞬間――
アリスがフルートを奏でる。
澄んだ音色が響く。
すると、空中に舞っていた岩片が――
ぴたりと静止した。
そして――
一斉に形を変える。
小さな石の翼。
無数の石の蝙蝠。
「《ストーン・バット》」
岩の蝙蝠たちが群れをなし、落下する仲間たちを受け止めた。
「うわっ!? なんだ、こいつらは!」
「岩が再編成して、別の魔法に……!」
ルーシーが驚きの声を上げる。
「絶詠の魔女様、さすがです……!
凄すぎます!」
「先に言ってくださいよ、姉御!
マジで勘弁してほしいっしょ……」
「……」
ミレイユは泡を吹いて気絶していた。
石の翼がゆっくりと羽ばたき、全員を施設の床へと降ろす。
アリスは軽やかに着地する。
ローブがひるがえり、金色の髪がふわりと舞った。
迷いなくフルートを構え、まっすぐ前を見据えた。
「さあ。迎えに来たわよ、ノイス」




