表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
46/79

四十六話 不気味な双子

 ――1-Aの教室。


 突然開いた扉に、生徒たちは一斉に振り向いた。


 そこに立っていたのは、

 黒ローブを纏った二人の少年だった。


 小柄な体格。

 まだ幼さの残る童顔。


 濃い紫色の髪を揃いの髪型に整えた、瓜二つの少年たち。


 片方は黄色の瞳。

 もう片方は赤い瞳。


 黒ローブさえなければ、ただの愛らしい双子に見えたかもしれない。

 

 だが――


 その瞳には、感情がない。


「こんにちは、みなさん」


 黄色の瞳の少年が、にこりと微笑む。


「1-Aの皆さんですね」


 赤い瞳の少年も、全く同じ笑顔を浮かべた。


「僕たちは、双子のリオとレオと申します」


 その声は丁寧で、柔らかい。


 しかし――


 教室の空気が、凍りついた。


 背筋に冷たいものが走る。


 にこやかなのに、目はまったく笑っていない。


 スコルドがすぐに杖を構える。


「なんだ、お前らは?

 この学園は、部外者は立ち入り禁止だ」


 双子は同時に首を傾げた。


 まるで同じ人形のように。


「やめておいた方がいいですよ。

 スコルド先生」


 黄色い瞳のリオが静かに言う。


「……なぜ、俺の名を知っている?」


 スコルドの額に、嫌な汗が浮かぶ。


「学園の情報はすべて把握しております」


 赤い瞳のレオが淡々と答えた。


「あなたが魔法を唱えるより前に、ここの教室にいる生徒は数名死にます」


 リオが杖を構える。


「よく考えて行動した方がいいですよ。

 騒がなければ、危害を加えるつもりはありません」


 レオも杖を構える。


「おいおい……急に来て、何言ってんだ? こいつら」


 ロウが目を丸くする。


「……穏やかではありませんね」


 ルーシーもフルートに手を伸ばそうとしたが、二人の視線を感じて体が動かない。


「ちなみに、他の教室や学園施設もすでに占拠されています」


 レオが続ける。


「このクラスが勝手な行動を起こせば、

 他の場所では虐殺が始まるかもしれません」


 その言葉には、一切の感情が感じられなかった。


「ちょ……ミレイユ……。

 あの黒ローブ、見覚えあるっしょ」


 ユミナが小声で囁く。


「あ、あの黒ローブは……MCR……」


 二人は黒ローブの姿を見て、すぐに思い出した。


 ――殺されかけた、あの日のことを。


「僕たちの任務は、この教室を監視することです。ある目的が達成されるまではここを離れません」


 リオが淡々と言う。


「僕たちの使命は、その命令を遵守することです」


 レオも続けた。


 明らかに異常な雰囲気の二人に、教室は静まり返った。


「なんでこんな大事な時にノイピいないの……」


 ユミナが小声で呟く。


「そうよ……ノイスがいてくれれば、こんなやつら……」


 ミレイユも歯を食いしばる。


 ノイスの強さを知っている二人は、どうにかこの状況をノイスに伝えられないか考えていた。


「ルキウスに連れて行かれたから中央塔の方ね」

 

 二人は顔を見合わせ、一気に駆け出す。


 しかし――


 教壇にいたはずのレオが、目の前に立っていた。


 いつの間に移動したのか、誰にも見えなかった。


 道は完全に塞がれていた。


「動かないでください、と言ったはずです」


 レオが静かに言う。


「え、えっと……その……」


 ユミナが引きつった笑顔を浮かべる。


「あーしたち……その……トイレ行きたくて」


「そ、そうそう!」


 ミレイユも慌てて頷く。


「もう限界なんですよ!

 あたし、ほんとに漏れそうで……」


 レオは無表情のまま二人を見下ろした。


 その瞳には、まったく感情がない。


 空気が凍る。


「そうでしたか。

 それは、配慮が足りず申し訳ありません」


 口を開いたのは、もう片方の双子のリオであった。


「では、どうぞ」


 ――ドン!


 二人の目の前に、突然バケツが二つ現れた。


「う……嘘っしょ?

 どうやって……」


 何もない空間から急に現れたバケツに、ユミナは奇妙さを覚えた。


「今、どっからバケツを出しやがった?」


 ロウが鋭い視線で双子を観察する。


「それもありますが……もう一人のさっきの動き、まるで瞬間移動でした」


 ルーシーが冷静に分析する。


「ま、待ってよ。あたしたちも年頃の乙女だから、さすがに教室でみんなの前っていうのはね……」


 二人は顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。


「それは、困りました。

 あなたたちが、教室を出ることは許可されていません」


 レオが答える。


「でも、用を足すことは許可します」


 リオも続けた。


「ちょ……ちょっと!

 全然話通じないんですけど!」


 ミレイユが頭を抱える。


「もし……先程の用を足したいというのが嘘だった場合――

 反逆行動として認識します」


 レオが杖を構える。


「僕たちはここで監視をする役目があります。

 早く用を済ませてください」


 リオも杖を構えた。


(なにこれ……いきなり人生最大のピンチっしょ)


(あたしたちって、もしかして……ここでおしっこするか、死ぬかの二択を迫られてる?)


 二人は視線を送り合う。


(あたしは絶対無理! ユミナならそのくらい平気でしょ?)


(いやいやいや、平気なわけないっしょ!

 あーしをなんだと思ってんのさ?)


「あ、あの……引っ込んじゃったっていうか、

 もう大丈夫っていうか……」


 ミレイユが必死に誤魔化す。


「あーしも……トイレ我慢できるくらいだったの、忘れてたっしょ」


 ミレイユとユミナはゆっくりと席の方へ戻ろうとした。


「我慢はいけません。

 出るかどうか座ってみないとわかりませんよ」

 

 リオが首を傾げる。

 

「早くお二人とも座ってください」


 レオが杖を構える。


「これが最後の忠告です。

 嘘だったのなら、反逆行為と認識します」


 双子から、静かな殺気が溢れ出す。


 ――この二人なら、躊躇なく人を殺す。


 なぜか、それだけははっきりとわかった。


「「さあ!」」


 双子に威圧され、ミレイユとユミナは泣きそうな顔でバケツの上にしゃがみ込んだ。


「マジ……あり得ない。

 死んだ方がマシかも……」


 ミレイユの顔は青ざめていた。


「一か八か、風魔法で吹き飛ばすしかないっしょ」


 ユミナは密かに風を溜める。


「おかしいです。

 お二人は、下着を履いていないのでしょうか?」


 リオが二人を見下ろした。


「用を足す時は、下着を下げるはずです。

 確認いたします」


 レオが無表情のまま、ミレイユのスカートへ手を伸ばす。


「い……いやあ!!」


 反射的に、ミレイユの手が振り抜かれた。

 

 ――パァン!!


 思い切り、レオの頬をビンタする。


 教室の空気が、凍りついた。


「反逆行為を確認しました……」


 レオが静かに呟く。


「始末します。――放て」


 レオの杖から、短い詠唱と共に雷弾がミレイユへと放たれる。


「きゃああああ!」


 ――バチンッ!


 雷が弾ける音が響いた。


 ミレイユの目の前には――


 背中を焼き焦がしたスコルドが立っていた。


「俺の生徒に手を出すな」


「……スコルド先生」


 スコルドは焼け焦げた背を押さえながら、二人を睨みつけた。


 双子は、その様子を静かに観察していた。


「……庇う理由は理解できませんが」


 リオが小さく頷く。


「要注意人物であるスコルド先生の戦闘能力低下を確認」


 レオが続ける。


「1-A全体の敵意、大幅低下。

 反逆の意思なしと判断」


 二人はゆっくりと杖を下ろした。


「もう一度言います。

 皆さんが行動を起こさなければ、危害を加えるつもりはありません」


 リオが淡々と言う。

 

「僕たちは、ここを監視する任務を与えられているだけです。

 従ってください。選択肢はありません」


 レオも同じ口調で続けた。


 教室は完全に静まり返った。


 誰一人、動けない。


「先生! あたしのせいで……!」


 背を焼かれたスコルドを見つめ、ミレイユが目に涙を溜め、声を震わせる。


「このくらい大したことはない。

 生徒を守るのも教師の務めだ」


 スコルドは短く言った。

 

(まずいっしょ……

 ノイピ、早く戻ってくるっしょ)


 ユミナは祈るように、ぎゅっと手を握った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ