表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
41/79

四十一話 ルキウスの真実

「アリス・ノーチラスは、この世界の理から外れた存在。

 ――まさにバグだ」


 ルキウスは、ノイスを睨み据える。


「そして君は――

 そのバグが生み出した“怪異”だ」


「そんな……!」


 ルーシーが思わず声を上げた。


「怪異だなんて、酷すぎます!

 ノイスくんは、そんなものではありません!」


 震える声で必死に叫ぶ。


 だが、ルキウスはルーシーを見ようともしない。


 いや、最初から彼女の言葉に耳を貸すつもりなどなかった。


「ファンフォルド家は、代々この都市を支えてきた」


 静かな声で、ルキウスは続ける。


「血を繋ぎ、より優れた魔法使いを次代へ残すこと。

 それが、我々に課せられた責務だ」


 その視線が、ゆっくりとルーシーへ向く。


「《魔導操作》のスキルは希少だ」


 まるで、価値ある魔道具を見定めるような目だった。


「我が家の《光魔法適性》と組み合わされば、次代はさらに強固なものとなる。

 ファンフォルド家も、この魔法都市も、より盤石になる」


 そこに、ルーシー自身の意思は含まれていない。


 あるのは、血統と才能を量る冷たい計算だけ。


 そしてルキウスは、穏やかな声で告げた。


「私と子を残す。

 それが君の役目なんだ、ルーシー」


 あまりにも当然のことのように、彼は言い切った。


 そこに、羞恥も悪意もない。


「そんな……役目だなんて……」


 かすれた声が、ルーシーの唇から漏れた。


 ルーシーの顔から、すっと血の気が引いていく。


「あ……そう」


 ノイスが淡々と声を上げた。


「ルキウスさんはそんなことのために、

 ルーシーを婚約者に選んだの?」


 その声に、怒りはない。


 ただ、静かに何かを見限るような響きがあった。


「君にはわからないだろうが……」


 ルキウスは迷いなく返す。


「これはファンフォルド家だけでなく、魔法界の未来のためにも必要なことなのだ」


「……そっか」


 ノイスは小さく頷いた。


「勘が悪い僕でも、今のでわかったよ」


 静かな声だった。


「ルーシーは、ルキウスさんの隣では幸せになれない」


「……なに?」


 空気が凍りつく。


「ルーシーを物みたいに扱うあなたじゃ――」


 真っ直ぐ見据える。


「ルーシーの婚約者という立場は手に入っても、

 心までは手にできない」


「知ったようなことをっ!」


 怒号と同時に、白光が閃く。


「《フォトン・レーザー》!」


 閃光が真っ直ぐに放たれる。


 ノイスの足元に風が巻き起こる。


 ふわり、と身体が浮き上がる。


 同時に床石がせり上がり、ノイスの前に即席の土盾が形作られる。


 ――ズガァン!


 《フォトン・レーザー》が土盾に衝突し、砕けた破片が壁へ弾け飛んだ。


「……ついに魔法を使ったな」


 ルキウスの口元が、勝ち誇るように歪む。


 だが、ノイスは構わない。


 その視線は、まっすぐルーシーだけを見ていた。


「ルーシーにはさ」


 纏う風が、静かに渦巻く。


「持って生まれたスキルなんかどうでもよくなるくらい、

 いいところがたくさんあるんだ」


「君は何を言って――」


「勉強を教えるのが上手なところ。

 考え過ぎて、たまに一人で暴走しちゃうところ。

 周りに気を遣って、すぐに身を引こうとするところ。

 仲間思いで優しいところ。

 魔法の構築に無駄がなくて、すごく綺麗なところ」


 一つずつ、確かめるように言葉を重ねる。


「その中の、ほんの一部の“スキル”しか見ていない人に――」


 静かに言い切る。


「ルーシーを任せるわけにはいかない」


「ノ、ノイスくん……」


 ルーシーが口元を押さえる。


 渦巻く風に、ルキウスの目が見開かれた。


「謹慎中の身で学内で魔法を使用した。

 これで君の退学は揺るがない」


 勝ち誇る声。


 だが、ノイスは静かだった。


「……別に退学になったって構わないよ」


 その声に、迷いはない。


「ルーシーが心から笑えるなら」


 風に乗り、滑るように間合いを詰める。


 掌に圧縮された炎が灯る。


「――ごめんね。少し痛いかも」


 ノイスの掌がルキウスの胸元に触れる。


 ――バァンッ!!


 爆炎が弾ける。


 衝撃波と共に、ルキウスの身体が吹き飛び、背後の壁へ叩きつけられる。


 石壁が砕け、粉塵が舞う。


「……ああ、やっちゃった。

 ごめん、師匠」


 頭をかくノイス。


 ノイスの言葉を聞いたルーシーの瞳には、

 大粒の涙が滲んだ。


「ノイスくん……」


 震える声で名前を呼ぶ。


「そんなふうに、私のこと……見てくれてたんですね……」

 

 ノイスは少し照れくさそうに笑った。


「いや、他にもたくさんいいところあるよ。

 例えばね――」


 言い終わる前に。


 ルーシーは堪えきれなくなったように、ノイスの胸へ飛び込んでいた。


「もう十分です……!」


 胸に顔を埋める。


「ノイスくん、ありがとう……」


 震える声は、涙で滲んでいた。


 その光景を、粉塵の向こうから睨みつける影。


「――ふざけるなァァァッ!!」


 怒号が室内を震わせる。


 崩れた瓦礫を払い、ルキウスが立ち上がる。


 額から血が流れている。


「私の前で……」


 声が震える。


「私の前で、戯れるなど……!」


 光が荒れ狂う。


「ルーシーは私の婚約者だぞ!!」


 歯を食いしばる。


「ファンフォルド家を裏切って……このような真似をして」


 冷たい視線が、ルーシーを射抜く。


「ウィンディ家一族諸共、どうなるか……理解しているのだろうな?」


「……っ」


 ルーシーの顔が強張る。


「閃光よ。収束し――」


 ルキウスが杖を振り上げる。


 その先端には、いつの間にか細い亀裂が走っていた。


 先ほどの衝撃で傷んだのか、杖そのものがわずかに歪んでいた。


「あっ」


 ノイスが小さく声を上げた。


「その杖、やめた方がいいよ」


 ルキウスの眉が跳ねる。


「たぶん先が割れてる。

 そんな状態で無理に魔素を収束させたら――」


 ――バンッ!!


 杖の先端が暴発した。


 制御を失った光が逆流し、ルキウスの手元で爆ぜる。


 閃光。


 衝撃波。


 ルキウスの身体が、後方へ大きく吹き飛ばされた。


 そのままでは、頭から壁に叩きつけられる。


「っ――!」


 ノイスは即座に踏み込む。


 風を纏い、吹き飛ぶルキウスの先回りをして、身体を抱え込んだ。


 だが、勢いまでは殺しきれない。


 二人の身体はそのまま背後の壁へ激突した。


 ――ドォンッ!!


 石壁が砕け、執務室に砂埃が舞う。


「ノイスくんっ!」


 ルーシーが悲鳴を上げる。


 崩れた壁の向こうを見つめるが、砂埃に遮られて二人の姿は見えない。


 だが、砕けたのは外壁ではなかった。


 崩れた石壁の奥に、さらに別の空間が広がっている。


 執務室とはまるで違う、薄暗い隠し部屋。


 そこは、誰にも見せるつもりのなかった場所だった。


「ああ……なんだ」


 ノイスが目を細める。


「ルキウスさん、ちゃんとルーシーのこと見てくれてたんですね」


「やめろ……!」


 背後から掠れた声。


「それ以上、見るな!!」


 ルキウスの叫びが響く。


 その隠された部屋の壁一面には、

 無数の写真が貼られていた。


 何十枚も。何百枚も。


 そのすべてが――


 ルーシーが写っている写真だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ