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二十一話 魔道具作成部

 ノイスは魔道具実習室の扉を静かに開けた。


 部屋の奥で工具を広げていたフィオラが、顔を上げる。


「先生、もうやめてください」


「ついに入部する気になったの? ノイス君」


 フィオラの目が、獲物を見つけたように輝く。


「先生のせいで、変な噂まで立ってるんです。

 もう勘弁してください」


「勘弁する気はないわ。

 私は、君が入部するまで諦めない」


 フィオラの目に、研究者特有の熱が宿る。


「けれど……ただ入れとは言わないわ」


 彼女は机の上に散らばった資料を、指先でとん、と叩いた。


「入部してくれるのなら、

 私にできる範囲で、君の望みも叶えましょう」


「望みですか……わかりました。

 それなら――条件付きなら、入部を考えてもいいです」


 ノイスの答えにフィオラの表情が変わる。


「条件付き……ね」


 研究者の目だ。


「いいわ。

 私にできることなら、何でも言ってみなさい」


 そのやり取りを、扉の外から見守る影があった。


「おいおい……ノイスのやつ、入部決めたのか?」


 ロウがこっそりドアに耳を押しつける。


「聞き耳を立てるなんて、よくないですよロウくん……」


 そう言いながらも、ルーシーはしっかり隣に立っている。


「ルーたんもついて来てる時点で同罪っしょ」


 ユミナがにやりと笑う。


「ちょっと、静かにして。

 聞こえないじゃない」


 ミレイユまで真剣な顔で扉に身を寄せていた。


「わかったわ……好きにしていいわよ。

 入部してくれたらいつでも自由にしてくれていいわ」


「その前に見せてもらってもいいですか?

 それで決めます」


「……ええ」

 

「先生の……その、すごく大きいですね」


「自慢じゃないけど、形も理想的でしょ?」


「こんなに大きくて形の良いもの初めて見ました。

 これ……触ってもいいですか?」


「いいけど、乱暴にしないで優しく触ってよね……」


「すごい。思ったよりも柔らかい……です」


「ふふ……本番はこれからよ」


「そんな……先生。これよりもすごい物がっ!?」


 ――廊下。


 ルーシーの顔が、一瞬で真っ赤になった。


「こ、これってよ……」


 ロウが三人と目を見合わせる。


「……これは間違いなく、いかがわしいことっしょ」


 ユミナが真顔で細かく頷く。


「入部する代わりに先生の身体を好きにするなんて……

 ノイスも案外やるわね」


 ミレイユまで小声で続けた。


「そ、そんな……!

 ダ、ダメです! そんなの絶対ダメです!!

 ましては、先生と生徒ですよ!?」


 ルーシーが勢いよく前へ乗り出す。


 ぎし、と扉がわずかに軋んだ。


「ルーたんわかってないなー。

 禁断の関係だからこそ、燃えるっしょ」


 ユミナがさらに焚き付ける。


「ノイスがあたしたちになびかなかったのって、

 先生みたいな年上が好みだったってわけね」


 ミレイユが肩をすくめる。


「いけません!

 ノイスくんにはまだ早過ぎます!!」


 ルーシーがさらに身を乗り出す。


「お、おい!

 押すなって! ルーシー!」


 背後から押され、四人の体重が一斉に扉へとかかる。


 ミシ、ミシ、と不穏な音が響いた。


「ちょ! まずいっしょこれ!」


 ユミナの声と同時に――


 バキッ、と乾いた破裂音が走る。


 留め具が外れ、扉が内側へ勢いよく倒れた。


 ――バタン!!


「うわっ!」

「きゃっ!」


 四人まとめて、部室へ雪崩れ込んだ。


「ロウ、ルーシー……それにユミナとミレイユまで。

 どうしたの?」


「ノイスくん! ダメですよ!!

 仮にも先生と生徒ですよ!

 ノイスくんがそういうお年頃なのはわかりますけど、まだ早いと思います!」


 起き上がるなり、ルーシーが真っ赤な顔でまくし立てた。


「……ん? 何のこと?」


 ノイスは本気で首をかしげている。


「それにしても、この魔石……

 この大きさなら作れるものの幅も広がりますね」


 そう言いながら、机の上の大きな魔石を手に取った。


「そうでしょ! そうでしょ!

 その魔石は部でも上位の品だけど、

 倉庫にはもっと手に入りにくいレア素材が――」


 フィオラが胸を張る。


「ノイスくんが……触ってたのってもしかして……」


 ルーシーはようやく誤解だったと理解し、恥ずかしそうに俯いた。


「……まあ、そんなことだろうと思ったけどな」


 ロウが制服を手で払いながら、立ち上がる。


「あの奥手のノイピが、そんなことするわけないっしょ」


「そうね。

 でも、誰かさんだけは本気で信じてたみたいだけど」


 ユミナとミレイユの視線が、ゆっくりとルーシーへ向く。


「え!? さ、さっきは、みんなも――」


「変な妄想しちゃうなんて……

 意外とエッチなんだぁ? ルーたん」


 にやり、とユミナが笑った。


 ルーシーの顔が、さらに真っ赤になる。


「も、もう知りませんっ!」


 顔を両手で覆ったまま、ルーシーは勢いよく部室を飛び出していった。


「……ルーシー、どうしたの?」


 本気で分かっていない顔のノイス。


「いや、何でもねぇよ」


 ロウが即答する。


「お前は一生そのままでいろ」


「……?」


 ノイスは首を傾げるが、深く考えない。


 フィオラがパン、と手を叩いた。


「それで、話はまとまったわね!

 魔道具作成部に入部決定ね」


「あ! ちょっと待ってください」


 ノイスが冷静に制止する。


「毎日とかは無理ですよ。

 僕はロウやルーシーと過ごす時間も大事にしたいので」


 さらっと言う。


 ロウは呆れたように頭を押さえる。


「……それ、ルーシーがいる時に言ってやれよ」


「ふえ?」


 ノイスは本気で不思議そうだ。


「ちょっ! あーしたちは?」


 ユミナが慌てて割り込む。


「ユミナとミレイユは……まあ、どっちでもいいかな」


「は? ちょっと、扱いひどくない?」


 ミレイユがじとっと睨む。


 ノイスは少し考えるように目を伏せた。


「嫌いとかじゃないよ。

 ただ……信用できないってだけだから」


 一瞬、空気が止まる。


「余計にひどいっしょ!」


 ユミナが机をばんっと叩いた。


 ロウが腕を組んで頷く。


「まあ、当然だな」


 フィオラが軽く咳払いをした。


「では、ノイス君。

 魔道具作成部の部室は西棟一階の奥よ。

 放課後は私もいるから、顔を出すのは好きなタイミングで構わないわ」


 フィオラの目は、本気そのものだった。


「他の部員たちにも、君を紹介しておきたいしね」


 ノイスは小さく息を吐く。


(……毎日じゃないし、別にいいか)


 深く考えずに、入部届にサインする。


「……分かりました。

 約束通り、部にある素材は自由に使わせてください」


 フィオラの目が、きらりと光る。


「もちろんよ。むしろ好きなだけ使いなさい」


 ノイスは心の中で頷く。


(今は師匠に素材をおねだりできないし……

 手持ちだけじゃ作れるものにも限界があるからね)


 実利はある。


 目立つのも嫌だが、素材が手に入るなら悪くない。


 ノイスは、半ば無理やり自分を納得させた。


(……まあ、素材目当ての入部ってことで)


(面倒くさくなったら、行かなきゃいいだけだし)



◇◇◇◇◇

 


 ある日の放課後。


 教室はすでに人がまばらだった。


「今日は用事があるんだ」と言って、ロウは先に帰っている。


 ルーシーも図書室へ向かったらしい。


(……暇だな)


 机に頬杖をつきながら、ふと思い出す。


(あ。そういえば、魔道具作成部)


 条件付き入部。


 素材は自由。


(せっかくだから、顔を出そうかな)


 ノイスは立ち上がり、鞄を肩にかける。


 そして、気まぐれのように――魔道具作成部の部室へと足を向けた。

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