第06話『天自艦隊対潜戦闘用意』
海上自衛隊に限らず、各国の海軍にとって最も恐れる存在は、戦闘機でも空母でもない。
それは潜水艦である。
別名、海の忍者。
水中という不可視の領域を移動し、音もなく敵艦へと忍び寄る。そして一度その存在が牙を剥けば、一撃で巨艦を海底に沈めることができる。まさに一撃必殺の兵器だ。
第二次世界大戦では、潜水艦によって無数の艦艇や民間船が沈められた。日本はその最大の被害国の一つであり、それが後の海上自衛隊に対潜戦闘という血肉の教訓を刻み込んだ。以来、海自は異常なまでに厳格な対潜訓練を繰り返し、世界でも屈指の対潜能力を獲得した。
だが、それでもなお潜水艦は恐怖の象徴だった。
水上艦が敵を発見するにはレーダーや光学センサーを使える。しかし海中ではそれらは意味をなさない。光は水深五十メートルでほぼ失われ、音だけが頼りとなる。潜水艦の世界は、完全な闇と静寂に包まれた空間だ。
映画や漫画では水中が青く透き通って描かれるが、現実は違う。潜望鏡を海面に出す瞬間以外、潜水艦の乗員は「何も見えない世界」を航行している。敵の位置を知る唯一の手段は、海水を伝って届く音。
そのため、水上艦も潜水艦も、互いを探すにも逃れるにも音にすべてを懸けている。
水の中を走る一つのスクリュー音、ソーナーが拾うかすかな反響。その音を聞き分けることが生と死を分ける境界線となる。
〝てるづき〟ソーナー室では対潜警戒を強めており、天自艦隊旗艦〝かが〟の左舷に停泊しながらも対空対潜警戒は継続していた。
水測員の海曹はヘッドホンを身に着け、目の前に映る音紋を表示するモニターを見ながら海中の些細な音も聞き漏らさず凝聴していた。
そこに聞こえる船のとは異なるスクリュー音。これ最速発見のために訓練を重ねてきた手前、聞き逃すはずがない。
「魚雷音聴知。方位、右一六〇度」
魚雷が誕生してから百五十年以上経過しても、魚雷の航跡を完全に把握することは出来ない。音のみで把握するため、大まかな方角は分かっても距離までは分からない。
「ソーナーよりCIC、魚雷音探知。方位、右一六〇度」
ソーナー室からCICに向けて速報を流す。
直後、艦内放送が掛かった。
『対潜戦闘用意』
合わせて艦内全域に対潜戦闘を示す鐘が鳴り響いた。
訓練では幾度と経験した対潜戦闘だが、当然本番は初めてだ。
しかし、クルーは全員本番さながらの訓練をし、時には成功、時には失敗と成否を経験している。体に染みついた経験は突発的であっても自然と動き、対潜戦闘が宣言されたことで非番も含めて総員配置で艦内をクルーは駆け巡った。
『CICよりソーナー室、魚雷はこっちに向かってきているのか? 送れ』
艦内無線で砲雷長が呼びかける。
「魚雷音大きくなる。本艦付近に向かっている」
『どこのか分かるか? 数は一発か? 送れ』
「長距離魚雷と思われる。潜水艦の音は魚雷音以前では拾えていない。数は一発」
集中力を総動員して記憶を遡らせても、魚雷音がし始める以前では注水音もエンジン音もしなかった。考えられる可能性は、通常動力型か二十キロ以上遠くから発射したかだ。
通常動力型はエンジンを完全に切れるから、黒潮に乗ってくると無音で近づいて発射でき、原潜は切ることが出来なくても二十キロも離れると知覚は出来ない。
水測員は色々と考察を思いつくが、口に出すのは事実のみだ。それらを考えるのは艦長を始め幹部の仕事で水測員の仕事ではない。
主基が動く振動を感じた。
魚雷を探知したらとにもかくにも移動しなければならない。
現代の軍艦の装甲は薄く、魚体を受ければ一発で沈んでしまう。アメリカの空母でさえ沈んでしまうほどだ。それだけ魚雷は脅威で、一秒の反応の違いで生死を分ける。
魚雷との距離が分かれば衝突時間が分かり、より正しい動きが出来るが、音のみが頼りでは分からない。だから動くのだ。
水測員はより詳細な音を得ようと、耳に全神経を集中させた。
*
久坂副長はCICにて状況の変化を見定めていた。
秋庭二佐より艦長権限を委譲され、副長との立場もあって自艦防護を優先するべく、何もできない艦橋にいるよりは、すぐに状況判断が出来るCICに常駐していた。
そこに来た魚雷音探知に、久坂副長はすぐに対潜戦闘用意の命を下した。
その命令により、各課の長は訓練に従い魚雷に対応するべく各々が判断をして各部下に指示を出し、アイドリング状態の主基を起動して〝てるづき〟を移動させようとする。
「CICより艦橋、天自艦隊に我が艦の意思を発光信号、手旗信号で伝達。自艦防護のため、DVM‐190左舷から離脱する、とな。送れ」
艦隊との訓練をしていれば問題ないが、〝てるづき〟は当然天自艦隊と対戦訓練をしていないので、単艦での移動となる。その際、不要な接触事故を防ぐために伝える必要があった」
『艦橋よりCIC,了解。離脱する伝達をする。終わり』
「〝ラファエル・ペラルダ〟の動きは?」
「探知はしていると思いますが、動きはありません」
魚雷の狙いは天自艦隊だろう、と判断して情報収集を優先したか。
すでに久坂副長の脳裏には魚雷がどこの国から発射したかは予想を立てているが、間違っても米軍には撃つまい。
さすがに実弾を発射したとなっては日本も黙ってはいないが、天自艦隊は未承認の武装勢力だ。海域の秩序を守るためと言えば同情は得られる。
悔しいが、国際社会は建前と言ったもの勝ちだ。
「未来異星技術で魚雷回避か迎撃をするなら、それだけで情報と脅威を植え付けられる。腹立たしいが悪くない手だ」
天自艦隊が日本と同盟または隷下に入るなら思う存分叩けても、属する国がない今では先手側が有利だ。だから日本も〝てるづき〟を派遣して対話の先手を取ろうとした。
「だが……位置が悪いな」
〝てるづき〟がいるのは〝かが〟の左舷で、魚雷は右斜め後ろから来ている。〝かが〟が邪魔ですぐに迎撃が出来ない。するにな回り込んだうえで天自艦隊を抜けないとならないのだ。
そしてセオリーでは迫ってくる魚雷を無誘導に持っていくべく、敵潜水艦に向けて魚雷を発射し、回避行動を取らせる傍らで有線を遮断させるのだが、敵艦と距離がありすぎるとそれすら難しくなる。
「ヘリを飛ばせ。正確な魚雷の位置を確認する」
水測員の話の通りなら、魚雷を発射したのは二十キロ近く離れている。であればまだ幾分猶予はある。
「副長、飛ばすことは出来ますが対潜装備を施していないので、今すぐ準備をしても飛ばすことにはもう到着しています」
「なんで施してない……この船の配備じゃないからか」
今回、〝てるづき〟は艦載ヘリを乗せずに来た。常に護衛艦に一機配備されているわけではなく、必要に応じて配備をする都合上、緊急出航ともあって配備をしていなかった。そして今あるヘリは本土から来た輸送目的だったから対潜装備をしていない。
〝てるづき〟の管轄ではないから勝手に出来ないのだ。
『艦橋よりCIC,副長、艦長より連絡はいる。迫る魚雷の対処は天自艦隊が行うため、本艦での対応はせずその場に留まれとのこと』
「なに? この攻撃は未来の技術を探るためだと分かってるだろうに対応すると言うのか」
または情報を与えずに対処できるのか。
本来なら連係も規約も何も決めていない他国の軍艦の意見を聞く義理はないが、別世界の日本となると仲間として見るべきか判断に迷いが生じる。
仮に仲間とみても訓練をしていなければ互いに足手まといとなろう。
「……分かった。対応は天自艦隊に任せよう。そう返信してくれ」
海自の誇りに掛けて対応する考えもあるが、効率を考えれば一隻と六隻なら六隻のほうが連携が取れる。
豪語する以上は確実に対処できるのだろう。沽券よりも結果と久坂副長は判断した。
何より艦長からの指示だ。無視するわけにもいかない。
「CICより副長。対潜戦闘中止。天自艦隊が対応するが、状況によって開始する。航海長、出航待機。いつでも出せるようにしておいてくれ」
久坂副長はマイクを手にして艦橋に指示を出す。
『了解、指示を待つ』
久坂副長は腕を組み、レーダーモニターに映る自艦を中心とした輪形陣を見続けた。
「副長、本当に待機ですか? 魚雷が来ているんですよ?」
「分かっている」
緻密な連携が出来るならいいが、連携が取れず行動が失敗する例は歴史上多々ある。
動きたいのは山々だが、ここは未来の異星技術を信じよう。
久坂副長はモニターを見続けた。
*
「ちょっかいを出してくるとは思っていましたが、よもや転移翌日で魚雷ですか」
全通甲板に集まっていた天自自衛官たちは対潜戦闘の合図と共に艦内へと駆け足で戻っていき、甲板には秋庭二佐たちと戦闘には直接関与しない天自艦隊代表団が残った。
「世界……いえ、星が違えど知的生命体が考えることは同じようですね」
「代表、その言い方ですとあなた方も似たようなことが?」
「はい。お渡しする資料にも書いてありますが、転移して二日目に陸自と学者のチームによる調査が行われ、同日に我が国が転移した土地を領土とするイルリハラン王国の人間と出会い、その土地をめぐって領有権を争っている隣国レーゲン共和国が来ました。危うく捕らえられるところ、イルリハラン王国の軍艦によって守られました」
「なるほど、転移して襲われ、戻ってまた襲われた、と言うことですか」
「ですが今回は前回と違ってそれも前提で来ていますので、魚雷ごとき恐れることはありません」
新政代表は柔和な表情を浮かべながらもはっきりと宣言した。
秋庭二佐からすれば魚雷は今すぐ対応すべきことだが、それすら問題にならないほどの対応力を天自艦隊は持っていることになる。
「……情報がアップデートされました。魚雷は長距離魚雷。データがないのでどの国のどの魚雷かは分かりませんが、距離一万五千ヤードの位置を七十ノットの速度で移動していますね」
「魚雷の正確な位置が分かるんですか?」
音でしか判明しない魚雷の位置を正確に把握するのは、テンポを考える映画や漫画の中の話だ。実際は大まかな方角しか分からず、それ故に海自でも撃沈判定を受けることがある。
「分かります。システムは明かせませんが」
魚雷の位置が分かると言うことは潜水艦の位置も分かると言うことだ。だとすれば対潜が根本から変わることになる。ぜひとも知りたいシステムだが、おいそれとしゃべりはしないだろう。
「ではその魚雷にアスロックやらを撃って迎撃ですか」
「いえ、それでは航走中の魚雷を正確に捕捉出来ると伝えてしまいます」
対潜戦闘の号令が掛かって二分が経つ。停止状態から魚雷を探知したらほぼ詰みだが、それでも回避運動をしようと主基と動かす。天自艦隊はその兆候が見られず、全ての艦種で動こうとしなかった。
「回避行動を取らないのですか?」
来須分析官が訪ねる。
「取る必要がありませんので」
よほど高度で確実な迎撃手段を身に着けたと見える。
「その上で波川海将補、秋庭艦長、お二人に許可をいただきたいのですが、対応は我が艦隊がしますので〝てるづき〟はその場に留まるよう連絡をしていただけますか?」
「〝てるづき〟に動くなと? 〝てるづき〟も対潜戦闘に入っていますが」
「お願いします。ここで連携を乱す動きをすると想定外のトラブルが起きるかもしれませんので」
新政代表は頭を下げた。
「……海将補、いかがしましょうか」
位置的に見て〝てるづき〟に当たる可能性は低い。しかし未来技術で艦隊には当たらないようにして、技術のない〝てるづき〟に当たることも考えられる。
艦隊は空に浮けても〝てるづき〟は浮けないのだ。
乗員二百人以上が乗るのに、魚雷に対して何もするなと命令は難しい。天自艦隊を信頼したくてもそれだけの信頼はまだないから、秋庭二佐は判断を悩んだ。
「秋庭艦長、ここは任せよう」
「よろしいのですか?」
「魚雷到達まで六分ほどだ。だとすれば艦隊との位置関係から今から動いたとしても迎撃は難しい。有線誘導なら回避は困難だからな」
魚雷は発射したらあとは人の手は加わらないイメージがあるが、実は魚雷は人為的にコントロールが出来る。光ファイバーの極細ワイヤーを繋ぎ、魚雷の射程と同等の長さでコントロールが可能なのだ。
七十ノットは百三十キロになり、五十五キロしか出ない護衛艦では速さで負けている。
謳い文句として海自の対潜能力は世界有数と言われても、それは潜水艦運用も含むため潜水艦を相手にして訓練上だが負けることは多々ある。
だから水上艦にとって潜水艦は脅威以外なく、攻撃される前に発見することを第一とする。
しかし、天自艦隊が転移した翌日に実弾の魚雷を放つことはないだろうと、どこか心の中で思ってしまった。
秋庭二佐は海将補の判断に従い、無線機にて〝てるづき〟に通信する。
「〝てるづき〟、こちら秋庭二佐だ。現在対潜戦闘の号令が掛かっていると思うが、魚雷の対応は天自艦隊が行う。〝てるづき〟は待機。これは海将補命令だ。送れ」
『了解。命令を副長に伝達する』
「以上だ」
「すみません。そろそろ酸素残量がなくなります」
坂井技術官が酸素バルブを目にしながら答えた。
魚雷攻撃で〝てるづき〟に帰る機会を失い、タイムリミットが迫ってしまった。
「……甲板の上ならば細菌汚染は問題ないか?」
「それは……はい。代表団の方と五メートルほど離れれば」
数年前の伝染病でも、屋内より屋外で数メートル離れれば感染リスクは低くなると散々喧伝していた。無機物に付着している細菌は防護服で守られ、感染に関しては距離を取れば問題ない。
互いに目算で五メートルほど距離を取ってマスクを取った。
「ふぅ……」
数十分ぶりの空気。潮の香りと合わさってどこか懐かしさも抱く。
「代表、それで魚雷への対応はどうなってますか?」
波川海将補は改めて訪ねた。
「すでに実行していますよ。直に分かります」
周囲を見渡して二千ヤードほどの間隔で開いている護衛艦を見ても、特に動きがあるようには見えない。魚雷が向かってきている方角の護衛艦も同じだ。回避運動を取る様子はなく、主基と止めているかのように静寂を保っている。
迎撃短魚雷を死角から放っているのか、それとも既存とは異なる防衛手段を取っているのか、秋庭達からすれば何も分からない。
だが、代表団は情報が更新される拡張式スマートウォッチを眺め続けるだけだ。
ある意味未知の世界に来る以上、襲われる危険性も理解したうえで来ているだろうから、魚雷に対して無知とは思えない。
それで平然としていると言うことは、絶対に防護できると確信しているからだ。
「秋庭二佐、天自艦隊は動きを見せませんが、通常はもう動いてますよね?」
手岸法務官が耳打ちする。
「ええ。魚雷を探知すれば回避行動と共に迎撃処置をとります。魚雷は一発で原子力空母を沈没または廃艦に持っていく威力を持ってますから」
「でも動かない」
「目に見えない対応策を持っているのでしょう」
もうすぐ魚雷が五千ヤードを切る位置に来る。
問題ないとしても緊張の糸は緩められない。
瞬間、爆発音が聞こえた。
その方角に目を向けるが、ハルナンバー195と書かれた護衛艦がいてその向こう側の海域を見ることが出来ない。
「代表、いまのは」
「ええ、魚雷が爆発したようですね」
「迎撃に成功したと言うことですか?」
壁になっている天自護衛艦は微動だにせず、海面も変わらない。そのことから安全圏で爆発した見て秋庭二佐は尋ねた。
「はい。護衛艦DDG‐195〝しらね〟が魚雷を処理しました」
どうやって処理したかは語らないだろう。可能性が多岐にわたるから考えるだけ無駄だ。
有線誘導で移動していたのなら、とある国の潜水艦は失敗したことを悟っている。二発目を撃つかは艦長か司令部の判断となる。
天自艦隊の対応能力を探るためなら二発目は撃たないのが秋庭二佐の考えだ。一発だけなら処理して終わるが、二発目もなると発射点となる潜水艦を沈めないとならない。
しかも排他的経済水域内とはいえ、とある国の潜水艦を自由にさせるのは職務上許されないから〝てるづき〟は動かなければならない。
天自艦隊も〝ラファエル・ペラルダ〟も動かれては困るから、この一発で終わるはずだ。
秋庭二佐は無線機を手にした。
「〝てるづき〟、こちら秋庭。爆発音は確認したか? 送れ」
『こちら〝てるづき〟、爆発音を確認。魚雷の航走音が爆発の直後途絶えたので魚雷が爆発したと思われる』
「二発目の音は確認できるか? 送れ」
『確認されない』
「分かった。引き続き待機を継続し、その他は副長の指揮に従え。終わり」
「どうやら潜水艦は離脱に向かうようですね。今の魚雷はやはり牽制と調査でしょう」
「新政代表、潜水艦の動向も分かるのですか?」
「いるであろう海域を調べたらいました。どの国家所属なのかも、日本Bの二〇一九年時の記録と参照して確認しました」
「まあ、あそこでしょうね。ああ、口には出さなくて結構です」
「そうですね。海将補の考えは合っていると思います」
「……仮に世界に晒せば、天自艦隊が高度な対潜能力を持っていると晒すことになりますね。あの国は晒されても逃げるでしょうが、そちらの能力が露呈するのはよくない」
「ええ。ですが今のところ向こうが確認したのは、突然爆発したことだけでどうやって爆発したのかは不明です。何かした印象は与えても決定打がなければ皆さん同様に多くの可能性を考察するだけですので、何も恐れることはありません」
こうして会話をするだけで、天自艦隊の人々が『日本人』であっても国外の人と認識する。
五十年の時差と異星の経験はここまで乖離を生むのだと痛感した。
『対潜戦闘用具収め』
音声放送で天自艦隊の戦闘が終了した通知が来る。
「日本Aのみなさん、余計な横やりが来ましたが、日が暮れることもありますので今回の会談はここまでとしたいのですがいかがでしょうか」
太陽は西の海に沈もうとし、空は青から夕暮れ色に変わりつつあった。あと一時間もしないでここらは月明かりでしか見通せない暗闇となろう。
「そうですね。聞きたいことは山積みですが、そこはこの資料を見て満足したいと思います。ラインの確保が出来れば、次回は政府が対応に当たると思います」
「こちら側としましては、引き続き皆さんや〝てるづき〟との関りを希望したいですね。他の方となると受け入れにまた時間が掛かるでしょうから」
「うれしい提案ですが、決定権はこちらにはありません。考慮していただけるよう上申するだけです」
「なに、こちらがお願いをすれば無碍にはしないでしょう」
来訪側が『お願い』をすればもてなす側は無視できない。秋庭二佐にしても未来の孫との関りもあるから、乗員はともかく秋庭二佐は確定だろうなと内心思ったのだった。
やはり代表部は天自艦隊ではなく日本Bの代表のようだ。良くも悪くも自衛官らしくない。
であるならば、顔を見せない艦隊を纏める司令部とこの艦の艦長は艦橋かCICにいるのだろう。今回は自衛隊ではなく日本としての接触だから、艦隊のトップが出なかったのは説明が出来る。
「それでは皆さんを〝てるづき〟にお送りします」
これが海外ならば挨拶の作法として握手やハグとなるが、日本人同士ならお辞儀で終わる。
こうして秘密裏ながら、史上初の別世界から来た日本との初接触は幕を下ろした。




