第19話『共同会見後編』
報道陣の記憶に残る印象的な転後技術と言えば、何と言っても飛行技術であろう。
日本政府が公表した約二分間の転後艦隊が海面から数十メートルと空を飛んだ空撮映像は、世間に衝撃をもたらしたと同時に疑心も植え付けた。
昨今の生成AIの急成長で、実写に追従するクオリティを出し始めている。まだ人間の感性を騙し切るほどには達しないが、護衛艦を浮遊させる程度であれば作ることは可能だ。
それ故に政府が公開した浮遊する艦隊映像は、事実なのか専門家を交えての議論にまで発展した。
その事実確認をこれから出来ることに、大手メディアは内心興奮する。
先のレヴィニウムも歴史的エネルギー革命ができるので興奮したが、絵的に興奮するのはこちらだろう。
「次に紹介するのはレヴィロン機関です。これは簡潔に説明しますと、一種の反重力的なシステムで、無重力ではありませんが無音で自在に空を飛ぶことが出来るシステムです」
新政代表が次の技術名を告げると、視界の端から無音で柵付きの板が滑るように飛んできた。
「見ての通りこの〝フロートリフト〟にはレヴィロン機関が搭載され、人や物資の輸送をしているポピュラーな乗り物で浮遊機と呼称しています」
間近で見るこの地球にはない乗り物にカメラ群はフォーカスする。
「どなたか乗りたい方はいますか?」
レヴィニウムに続いて驚きを隠せない報道陣に対して新政代表は、また驚きの提案をした。
「いかに反重力的なシステムで飛べるとしても、マジックや偽装と思う方もいましょう。体験されるのが一番です。人数は十人は大丈夫ですので」
気づけばフリートリフトにはヘルメットが置かれていた。高所に移動するためヘルメット着用は義務だ。転後がしっかりと理解している。
先のパソコンよりは立候補しやすい提案に、全てのメディア各社が挙手をした。
「では数回に分けて飛びましょう」
生放送のため乗り降りの時間的ロスは報道では良くはないが、気球とは違う初の無音飛行が撮れるとなれば視聴者も容認する。
フロートリフトの柵の一部が開き、最初のグループが乗り込んでヘリメットを装着した。そして最後に新政代表も乗り込んだ。
「感覚的にはエレベーターや動く歩道と思って結構です。まずは上昇します」
責任者として乗り込んだ新政代表は、フリートリフトにある操作パネルに触れるとゆっくりと地面から離れて上昇した。
秒速十センチ程度の緩やかな上昇だが、誰が見ても外部要因がなく自力で浮遊しているのが分かった。
リフトが二メートルほど上昇すると止まり、今度は水平移動を始める。
「この会場を一周します」
手すりを掴んで落ちないよう身構えるが、代表の言う通り動く歩道のような感覚の移動にある意味拍子抜けを覚えた。
一切揺れないのだ。確実に空に飛んでいるというのに足場はしっかりしていて揺れそのものがない。ゴンドラやクレーン車でさえ揺れがあるというのに、体感上不安に誘う揺れがなかった。まるで空にあっても大地に立っている感覚だ。
そうした視界と体感のギャップに苦慮しながらも、リフトは揚塔場をなぞるように移動して再び地面へと降下した。
そして第二陣、第三陣と遊覧飛行を行ったのだった。
「――これがフィリア社会ではごく一般的な浮遊システムです。このレヴィロン機関は元々は生態として機能していまして、資料の通りフィリア人は全員生身で空を飛ぶことが出来ます。進化の過程で獲得した能力ですので、五十年フィリアで過ごした転後日本人は獲得できていません。人工レヴィロン機関は時速は新幹線を超す速度まで加速でき、この時代のモバイルバッテリーでもこのリフトを速度を出さなければ十時間は稼働できます」
さらっと新政代表は衝撃的なことを告げた。
モバイルバッテリーで十時間は稼働する。
どれほどの容量を差しているのかは不明だが、大衆が持っているのは一万mAhだろう。それで十時間も空が飛べるとは、航空機としては破格のコスパと言える。
ドローンでさえ数時間で騒音をまき散らし、搭載貨物も少ないのに、人が乗る前提で十時間となればドローン業界だけでなく航空機業界は塗り替えられる。
「では最後に、我が艦隊の浮遊をお見せしましょう」
おそらく最大の映像栄えに、元の位置に戻った報道陣たちは身構えた。
「映像作品で空母が空を飛ぶのがありますが、その再現となりますね。全艦浮遊させますのでどうぞ撮影してください」
新政代表はポケットから端末を取り出してどこかに連絡をする。
「今から三十秒後に浮遊します」
新政代表を含め、会見会場にいる全員が沖合に浮かぶ天自艦隊を見つめる。
体感で三十秒ほど過ぎた頃、微動だにしなかった艦隊に挙動が起きた。
レヴィロン機関でその海域に固定されていた十隻の護衛艦は、音もロケットのような噴出もなく、ゆっくりと上昇して喫水線の下の船体を露わとした。
艦隊の高度は報道陣に披露した二メートルをはるかに超す、数十メートルから百メートルと各々バラバラな高度まで上昇した。
新政代表の言う通り、世界的ヒットした海外映画のワンシーンを見ている印象だ。
それでも異質なのが音がないことであろう。
空母〝かが〟は二十万トンは超える巨体で、海上を移動することすら出力はすさまじいはずだ。なのにあれだけの巨体を一切音も推進器も使わずに飛ぶなんて、非常識過ぎて夢を見る気分になる。
直接目にする報道陣がそれなのだ。視聴者はより本当なのかと疑うだろう。
「運動性能などは防衛機密に入るためご説明できませんが、ご覧の通りレヴィロン機関は護衛艦を空高く浮遊させることが出来ます。続いてコクーンの説明をします。佐々木総理、お願いします」
「分かりました」
佐々木総理は波川海将補に耳打ちをする。
「コクーンの実演は、海上自衛隊に手伝いを願いつつ我々が責任を持つ形で行います。コクーンは不可視のシールドを展開するシステムです。物理現象は完全に遮断する優れた性能を持ち、速射砲程度であれば貫通しません」
説明の流れから「まさか」や「もしかして」と報道陣の中で考えがよぎる。
「これから、戦後日本の護衛艦の協力のもと、速射砲を我が艦隊に発砲してもらいます」
日本の防衛装備はそれなりに情報公開されている。防衛省提供だが発砲の瞬間の映像はあり、近年ではレールガンの発砲映像もあった。
だが、機密に引っかかるためターゲットに当たった映像はない。主砲と発射し、薬きょうを輩出する映像しかないが、説明からして命中する瞬間が撮影出来ることになる。
利敵行為になるも、総理が許可しているのならばコクーンに命中することは些末なことなのだろう。
「コクーンの展開範囲は広いので、詳細な照準をせずとも命中します。今回は〝かが〟の艦体のどこでもいいので狙ってもらいます」
場所を指定しないことで照準性能を誤魔化すようだ。それでも戦後護衛艦が意図的に転後護衛艦を狙うとは、常識ではありえない実演である。
そして、さらっと速射砲は通じないと言えるということは、それが限度でないと容易に想定できる。もしかしたらより上位の兵器も防げるかもしれない。
空に浮遊する天自艦隊とは裏腹に、一隻だけ海面に停泊する護衛艦がある。
海上自衛隊の護衛艦だ。116と艦首に書かれた護衛艦の甲板にある一門の主砲が、水平から仰角を上げて宙に浮く天自艦隊に向けられた。
本当に撃つのか。別の日本でシールドで阻まれるとは言え、護衛艦が護衛艦を撃つ現実に戸惑いは隠せない。
しかし、報道陣の心情など無視して、護衛艦は主砲を発射した。
パァンと発砲煙が上がり、その数秒後に音が届いた。上空百メートル付近に静止している空母〝かが〟の周囲に球上の波紋が現れた。
「波紋はコクーンの展開範囲を示しています。波紋の動きで分かりますように、対象を中心に繭のようにシールドを展開します。それゆえにコクーンと呼びます」
さらに海自の護衛艦は主砲を発射する。二発目、三発目と発砲し、その全てがコクーンによって阻まれる。
「どの兵器まで耐えられるかは説明できませんが、コクーンの性能は理解されたかと思います」
SF映画では馴染みのシールド。侵略側が大抵持っていてそれによって劣勢に立たされるのが常で、天自艦隊はまさに侵略者が持つべき装備をフル装備で来ている。
同系存在である日本だからよいが、敵対化してしまうと果たして応戦できるのか疑問を抱いてしまう。
そもそもこれだけの技術さを持って、転後日本は戦後日本と協力する必要があるのだろうか。
「最後にお見せするのは、これまでお見せした技術の集大成の防衛装備品です」
最後は鉄甲。転後側のドローンだ。
「正式名称は『多目的防護板』と呼びまして、文字通り多目的に機能するドローンです」
新政代表が語り始めると上空に静止していた天自艦隊がゆっくりと着水をする。重力に反した入水とあって津波は起きそうにない。
そして〝かが〟から無数の点が飛び出してきた。
その点はまさにドローン的な代物であるのは、報道陣はすぐに察した。空撮などでドローンは使用するし、イベントやパフォーマンスでドローン群を一斉起動することも見ていた。
様相はそれと酷似しているが、異様さも同じく備えていた。
まず音がない。目算で数百は下らないドローン群は、すべてレヴィロン機関を備えているようで一切音がない。そして全てがバラバラな挙動で移動しており、事前に組まれた単純な飛行プログラムとは思えなかった。
鉄甲と呼ばれるドローン群は、新政代表の背後に近づくと新たな動きを見せた。
正六角形の板状の形状をしている鉄甲は、垂直に立つことで六角形の面を報道陣側に向け、各側面を他の鉄甲同士が連結しあっていく。そして一枚の巨大な壁となった。
宙に浮く巨大な壁はそれだけで異様と圧迫感を醸し出す。
浮遊する音がないのも不気味さを助長していた。
「ご覧の通り、鉄甲は既存の航空機的制約がないため、こうして一枚の壁になることもでき……」
壁となった鉄甲は外縁から剝がれていき、新政代表含めこの場にいる一人ひとりのすぐそばに停止した。
「優秀な随伴機として物資持ちから盾にもなります。運搬できる貨物もこの世界のドローンの比ではありません。距離や稼働時間は話せませんが、転後日本では民生品として広く普及しています」
鉄甲は再び新政代表の背後に回ると、今度は一枚の壁ではなく意図的に空白の部分を作って『初めまして、戦後世界の皆さん』と文字を作った。
「以上を持って転後技術四点の説明を終わります」
しんと会見場は静まり返った。
資料だけならば事前に日本政府から伝えられて、四点の転後技術は知っていた。
ただ、知っていただけだ。理解は出来ていなかった。
あまりにもSF作品に登場する技術と差異がないことに、現実と作品を混同しているところがあった。
今目の前にあるのは、文字通りSF作品から現実世界に飛び出て来た技術ばかりだ。
並行世界で異星に国土ごと転移した日本。その異星で半世紀を過ごし、異なる歴史を歩むこの世界に来た。
現実を突きつけられ、誰よりも早く生の目で見た報道陣たちはその事実を受け入れるのに、どうしても時間を必要とした。
「本来でしたらこの後に質疑応答のところですが、質問したいことは膨大と思われるためこの場での質疑応答は控えさせていただきます。その代わり、誰でも質問を投稿できる専用フォームを用意します」
これは事前に通達されていた。転後日本の声と四つの技術。これらを見て質問をしない人はいない。一つや二つでは収まり切れず、何時間と使おうと終わることはないだろう。
それを見越して質疑応答の時間は設けず、投稿フォームを用意するとのことだ。
「基本的に質問内容に制限は設けません。どのように質問をして構いませんが、類似や重複する質問は統合して返答します。そして防衛機密などに触れる質問は答えられないので、その類の質問には差し控えると返答させていただきます」
質問をしたいのはこの場の報道陣だけでない。一般市民も、企業も、各国もより詳細なことが知りたいだろう。ならば無制限での投稿は助かる。
未来のシステムならばより高度なAIが選別して自動返答するのかもしれないから、双方の不満を最小限とするやり方だ。
しかし、この会見は世界を大きく揺るがすことになる。
転後技術四種全てがこの社会に置いて根底から覆す革命級の代物だ。
一つでも独占できればその分野で覇権が取れるから、世界中であの手この手で転後日本に接触を図るとするだろう。
さすがに武力で奪取は来ないだろうが、相当な諜報員が動くかもしれない。
まかりなりにも報道に携わる以上、そうした話は熟知している。外交的な圧力もあるだろう。
どうあれ転後技術をめぐって国内外で混乱が起きる。
政治、経済、安全保障。その全てが再定義を迫られることになるだろう。
「……いえ、失礼しました。一つだけ明確に答えられない質問があります。質問自体はお断りしませんが、回答が出来ないものがありました。それは知的財産に関わることです。並行世界とは言え未来から来ている以上、未来でヒットした商品や作品、企業などを知っています。並行世界で分岐したこの世界で当てはまるわけではありませんが、もしかしたら同じものが生まれることも考えられます。その人たちの財産を保護すると同時に、市場に誤解を招いてしまうためそうした類の質問には一切答えません」
分かりやすいのが連載作品だろう。2073年から来たのであれば現時点で連載している作品は完結している。分岐している以上同じ結末になるかは分からないが、それでもネタバレは今努力している人々への冒涜だ。知りたい人もいれば知りたくない人もいる。ヒット商品も、汗水流して作り出したものをバラされてはたまらない。
市場にも如実に反映されるから、そこを最初にくぎを刺すのは未来人としては当然だろう。
「最後に一つ、言わせていただきます。この会見を見た方々は様々な思想を巡らせていると思います。これらがこの社会に現れたらどのような変革や混乱を生むのか。利益はどれほど生まれ、どれほどの失業者や倒産が起きるのかを。おそらく明日の市場は大混乱となりましょうが、今しがた説明した技術は戦後日本を含めて技術供与の予定はありません。技術の要となるレヴィニウムとフォロンの予備には限りがあり、到底この社会に広められる量はないからです。想像の上では大変革となる技術も、現実で広がらなければ意味はありません。それでも期待と不安から市場は動くでしょうが、今慌てて判断する必要はありません。ですが、帰還を目指すうえでは技術供与は不可欠ですので、その噂が広まったころから動いても十分でしょう。その上で動いてもらえればと思います」
新政代表は最後に必ず動くであろう市場に向けて釘を刺し、初の二つの日本の共同会見は幕を下ろした。
*
日本時間四月二十九日に行った二つの日本の共同会見は、全世界に大きな波紋を生んだ。
いかに転後日本が実演した四種の技術の早期提供をしないとしても『存在』している事実は変わらない。
存在しない絵空事に現を抜かすことはないが、存在した超技術を前にして黙っているほど人類は無欲ではなかった。
テレビ、ネットでは文字通りお祭り騒ぎとなった。
会見が日本時間の十五時だったこともあり、ワイドショーから夕方の報道番組と連なって転後技術の検証を会見時の実演を基に考察が行われ、ネットのSNSでも各々の価値観と偏見に満ちたコメントがあふれ返った。
テレビ局は急遽SF作家、物理学者を呼び、およそ揃うことのない分野の方々を呼んで映像から分かる考察をし、ネットではテレビが発しない不確実性中心の発言が目立った。
大衆に対価を経て発信するテレビと、匿名性が高く明確なルールのないネットは、対比する形で議論が広まっていく。
共通する話題もあり、とにかく技術が現代とはかけ離れているがゆえに、戦後日本の支援が必要なのかと言う点だ。
むしろ艦隊が本気を出せば戦後日本を占領することも不可能ではないため、支援を求めずに日本を乗っ取って作らせれば早い意見も出たりする。
少なくとも戦後日本の自衛隊が総力を挙げてもコクーンを突破して勝てない意見が占めた。
逆に、転後日本を完全に取り込んで日本をバージョンアップしてしまおうと過激な意見もある。戦後日本を取り巻く安全保障環境は日々過酷さを高めており、不満と閉塞感がそうした考えも助長させていた。
戦後日本が全体で転後日本化できれば、敗戦国の負い目を抱く必要はないからだ。
しかし、それは感情論から始まっているのに加え、八十年以上に渡り日本を守ってきた先代たちへの冒涜とも取れる。宥める意見もあれば賛同する意見もあり、文字通り混沌とした状態となった。
そしてもう一つ、強く反応した勢力がある。
いわゆる左派系の市民団体であった。
四種の技術は民生だけでなく軍事にも大きな変革をもたらす。特にレヴィロン機関やコクーンは、防衛のあり方そのものを変えかねない技術であり、日本の安全保障環境に与える影響は計り知れない。
それゆえに彼らは強い警戒感を示した。
日本が再び圧倒的な技術的優位を手にした時、その力がどのように使われるのか。過去の歴史を踏まえれば慎重であるべきだと主張し、転後日本との技術協力や軍事面での連携に反対する声明を出す団体も現れ始める。
もっとも、その主張に賛同する者ばかりではない。
戦後八十年以上にわたり日本は専守防衛を掲げ、国際社会の中で平和国家として歩んできた。現実の日本を見ず、最悪の可能性だけを語っているのではないかと批判する声も少なくなかった。
それでも彼らは警鐘を鳴らし続ける。
転後日本の出現は、それほどまでに従来の価値観や前提を揺さぶる出来事だったのである。
企業は両極端とも言える反応を見せた。
特に電力事業者と大量の電力を消費する企業との温度差は大きい。
電力事業者にとってレヴィニウムは脅威だ。もし実用化されれば電気料金そのものの概念を揺るがしかねず、既存の事業モデルは根本から見直しを迫られる。
一方でデータセンターやサーバー運営を主力とする企業は羨望の眼差しを向けていた。
これまで膨大な電力を消費して行っていた冷却が、レヴィニウムによって発電と同時に行えるようになる。電気代の削減どころか、余剰電力を売却できる可能性すらあるのだ。
それはデータセンターに限らない。工場、物流施設、研究施設など、冷却設備を抱える企業の多くが同様の恩恵を受けられる。
なにより地球温暖化が叫ばれる現代において、熱を電力へ変換し続けるレヴィニウムは、まさしく夢の物質であった。
仮にその供給網を握ることができれば、どれほどの利益が生まれるのか想像すら難しい。
だが、レヴィニウムに限りがあるのがその羨望にくぎを刺してくる。元々転後地球で恒星間転移装置を建造するために来たから、予備を含めても必要分しか持ってきていないだろう。それが何キロ、何トンかは秘匿されたが、地球社会に流通させるにはまず足りない。
艦隊と言う限られたスペースしかないため、欲しいと難しいの考えが民間で広まった。
様々な意味合いで加熱する民間とは異なり、国家なり軍部は大きな反応を見せなかった。
見せられないとも言えるだろう。
転後日本がこの会見で披露した技術は、すでに戦後日本が公表したものだからだ。これがネットの掲示板程度なら信用度のなさから見向きもされないが、世界有数の国家である日本が公式に発表すれば、それは事実と受け止められて即座に分析はされていた。
そのどれもが脅威で、社会に引用したり軍用に転用すれば莫大な恩恵が得られるのは、各国はすでに分かっていた。
ではなぜ大きな反応を新たにしないのかと言えば、今回の公表で逆にしなかったことがあるからだ。
それは天上自衛隊の攻撃手段である。
エネルギー、移動、防御、複合機。どれもが攻撃に転用できるが、直接の攻撃手段は一切公表していなかった。
天上自衛隊は主になにで攻撃をするのか。主砲による艦砲射撃なのか、未来のミサイルによる攻撃なのか。はたまた粒子またはレーザー系の攻撃なのかを語っていない。
軍部からすれば攻撃を防がれるよりもどう攻撃を仕掛けてくるのかを考える。
なぜなら相手からの攻撃手段によって対応を考え、反撃をする戦術を構築出来るからだ。鉄壁の守りだけ知っても戦術は完成しない。攻防共に知ることで総括的な戦術と戦略を構築できる。
しかし、転後日本は守る技術は見せても攻める技術は見せていない。
これではどう戦後側は対応すればいいのか不明なのだ。
軍にとって未知数は何より嫌う。国防に繋がり、一人ひとりの兵士の命に係わるのに、未知の状態で挑むのは三流以下と言える。
公表では艦隊は全十隻とある。そうなると、艦隊運用で必須の攻撃型潜水艦がいないのも気になるところだ。単に秘匿しているのかそれとも不要と判断したか。
四種の技術を組み合わせれば潜水艦は不要ともいえる。
なにせ転移した星では空に浮くのがスタンダードだとなれば、海中に身をひそめる潜水艦は需要が戦略原潜くらいしかない。
転後日本が侵略や支配を目論んでなければ、攻撃、戦略潜水艦は持ち込まない可能性はあるし、空に飛ぶ以上こちら側の潜水艦戦術は意味をなさない。
空母を持つのに艦載機の説明をしないのも狡猾だ。衛星写真から艦載機は確認できるが、形状が既存の戦闘機とは異なりすぎてどのような機動性能を持っているのか推測できない。
コックピットが見当たらないから無人機と思われ、鉄甲と組み合わせての運用と思われるが全容が分からなければやはり対策の取りようがない。
仮に天自艦隊と有事が起きたとしても、対空、対艦ミサイルはコクーンで防がれ、空戦しても制空権を得るには鉄甲への効率的な対応が必要だ。
潜水艦は空を飛ばれては魚雷が通じない。
海空共に圧倒的対応力を天自艦隊は握っていた。
各国軍が数十年、あるいは百年近く積み上げてきた海空戦術は、天自艦隊の前では全て崩れ去る可能性があった。
転後日本は、自身の声を発表したにもかかわらず、実は多くを語っていない。それなのに平和主義を語ったところで安心感は持てなかった。
当然代理人を通じて投稿フォームに質問をするが、期待する返答はないだろう。
ならば各国はどう動くかはおのずと限られる。
世論は騒然とし、政府は沈黙をする。
しかし、共通認識として戦後世界は〝転後〟を受け入れるしかなかった。
生成AIが普及し、誰もが想像を映像化出来る時代となっても、事実を生成することは出来ないのだから。
こうして歴史に一石を投じる会見は幕を下ろした。
*
空母〝かが〟の代表部執務室。
誰も部屋にはおらず、照明も灯らず光るのは各機器の状態を示す小さな光源だけだ。その新政代表の机に置かれたノートパソコン。画面は暗かったが、人知れずモニターに光がともった。
情報を受信してスリープから解除され、一つのウインドウが開いて受け取った情報を表示した。
『計算終了 帰還予想 十年』
そしてモニターは再び消灯して執務室は闇に閉ざされた。




