第10話『情報開示2回目』
西暦1987年、小惑星レヴィアン発見。
西暦1995年、小惑星レヴィアンの衝突確率が上がる。
西暦1996年、ISSの建造中止。レヴィアン対策に予算を転用。
西暦2002年、対レヴィアン対策二案を制定。
西暦2007年、小惑星レヴィアンの衝突確率が上がる。
西暦2011年、東日本大震災発生。レヴィアン対策で原発事故は防がれる。
西暦2013年、対レヴィアン対策として建造された宇宙船インディアナが出立する。
西暦2015年、日本国憲法改正。自衛隊が国防軍となる。
西暦2016年、東京オリンピック開催。
西暦2018年、宇宙船インディアナ、レヴィアンの軌道変更に失敗。
西暦2019年、小惑星レヴィアンが日本上空に達し、自衛隊によるミサイル迎撃で爆散する。
西暦2019年(エルテミア歴211年)、日本国一部の地域を残して惑星フィリアに国土転移する。
エルテミア歴211年、日本は国土転移した地域を支配するイルリハラン王国と交流をする。
同年、日本、国土転移した地域:ユーストルの地下に重大な地下資源を発見する。
同年、フィリアの国際機関アルタランは、日本人を農奴にしようと画策をする。
同年、フィリア人と地球人との間でハーフが生まれ、ハーフが持つ特異性からフィリア人の存続の危機に陥ると発覚する。
同年、イルリハラン王国が日本を国家として承認する。農奴政策は白紙になる。ハーフは世界には公にしないことになる。
同年、日本、国防軍を改編し、海自と空自を統廃合して天上自衛隊に改組する。
同年、国内備蓄が尽きる前にイルリハラン王国と貿易を開始。経済活動が正常化する。
エルテミア歴212年、日本の北海道、東北地方、九州、中国地方で起きている星の径が異なることで起きた傾斜問題に取り組むため、三十年スパンで総額百兆円の事業計画を発表する。
エルテミア歴216年、茨城県神栖市須田浜とユーストルをつなぐ接続地域、通称『陸上の渚』の都市化が完了する。
エルテミア歴217年(転後六年)、ユーストルを中心とした開発事業開始五年目を記念した式典でテロ事件が勃発。現職総理をはじめ、佐々木元総理を含むハーフの事実を知るフィリア各国要人が死去する。
同年、調査の結果、国際民間軍事企業チャリオスがテロに加担していることが分かる。チャリオスの幹部は皆ハーフ。
同年、調査結果を日本の臨時総理が開口一番で報告をする。ハーフの存在と特異性を全世界に公表する。
同年、チャリオスが全世界に向けてサイバーテロを実行。日本及びフィリアを占領するべく進軍する。
同年、日本は防衛出動を発令。九十年ぶりに国家総動員を実行。対チャリオス戦に向け全国規模で準備をする。
同年、チャリオス、日本に向けて攻撃を開始する。日本、フィリアの技術を使用した防衛装備を駆使して国民、国土を守りつつ応戦する。
同年、日本臨時総理、共に転移した米海軍原子力潜水艦に搭載していた核兵器の使用を決断。イルリハラン軍の協力のもと核兵器を非殺傷を目的として使用する。
同年、イルリハラン王国軍と共同でチャリオスを壊滅する。
同年、日本臨時総理、戦争及び核兵器使用の責任をもって辞任。
同年、テロ事件及び発端となるユーストル有事が終結する。
これが世界Bの日本Bが歩んだ国土転移と最初の防衛出動を発令し、終結したまでの時系列である。
*
四月十四日、午前九時。
対策班が膨大な情報を基に作成した資料を佐々木総理は目に通す。
書類の束のトップには日本Bが国土転移をする原因となった小惑星レヴィアンを発見した1987年から、最初の防衛出動を発令した2025年までの事象が時系列準に記され、参照ページには各事案に対して詳細な経緯や用語が記されていた。
渡された資料が日本B内で政府が公表したものばかりなため、世間に対して機密となることは特に記されていない。
しかし、それでも特筆するべき用語が記されていた。
熱を電気に変換し続ける『レヴィニウム』。
電気を受けることで力場を発生する『フォロン』。
その力場を流動させることで、秒速三百キロから三千キロまで加速する『バスタトリア砲』。
レヴィニウムとフォロンを合わせたレヴィロン機関を用いたドローン『鉄甲』。
レヴィロン機関を応用したシールド発生装置『コクーン』。
バスタトリア砲を利用した転移装置『ペオ・ランサバオン』。
具体的な原理は示されず、表面的な数字であるがそのどれもがこの地球Aには存在しないSF作品に登場する代物ばかりだ。
だが、これらは日本Bが国土転移した直後から六年目の有事にかけて実際に使用された。
その事実と客観的証拠があるため、日本Aは有無を言わさず受け入れなければならない。
佐々木総理はこれらのことを国民、そして世界に向けて発表をする。
しかし、先進国の総理に限らず国家の代表としてこのことを公表したところで世論は訝しむだろう。これらはあくまでフィクションでエンターテイメントの範疇なのが常識だからだ。
受け入れるまでは説明を淡々とし続けるほかないが、間違いなくネット上では様々な議論を呼び起こすことだろう。
逆に言えば、失笑を買って話題にならないよりは浸透しやすいといえる。
警戒しなければならないのが排他的な考えを持つ人たちだ。
官民問わず『日本の自衛隊』とはいえ、異星が絡む時点で警戒心が強まるのは、良くも悪くもSF作品の影響だ。
超技術を使って侵略を企てていると、実証もなく感情論だけで陰謀を語る輩は必ず出る。
これは新政代表も理解しているため、こればかりは長期戦と理解している。
なにせ向こうでも日本Bはともかくフィリア社会が日本を受け入れるのに時間を要したのだ。
新規や変化を受け入れるにはどうしても時間がかかる。
その第一歩、いや、二歩目を踏み出す。
「総理、時間です」
総理補佐官が知らせる。
「分かった。行こう」
天自艦隊についての情報は官邸内では共有されている。各々様々な考えや意見を持っているだろうが、政府職員として政府の意見を第一義で動いてくれている。
佐々木総理は補佐官の知らせに応じて動き、官邸内の会見室へと向かった。
会見室では大勢のメディアが押しかけている。
十一日に起きた衝撃波と合わせて出現した所属不明艦隊に関する政府発表をするとしたことで集まったのだ。
今回は国内だけでなく海外でも注目度が高いため、欧米やアジア諸国のメディアも詰め掛けていた。
「総理、入られます」
職員の案内で佐々木総理が会見室に入り、壇上の脇に捧げられている日本国旗に一礼して演説台の前へと立つ。
「先日発生した衝撃波と、合わせて確認された所属不明艦隊について判明したことを説明します」
佐々木総理は衝撃波発生直後から判明した天自艦隊に関することを説明した。
防衛機密上天自艦隊の魚雷迎撃性能や中国潜水艦からの魚雷攻撃などは伏せるが、地球Bと日本Bの歴史や、天自艦隊の思想などは説明をする。
約三十分に渡り会見が終わるが、会場内は異様な空気で満たされていることを佐々木総理は肌で感じていた。
最初はよくある国際情勢不安と思っただろうが、総理という立場から並行世界だの異星だのと単語が公式会見で出れば、呆気にとられるのは必然だ。
その都度ふざけているのではなく、客観的で科学的事実を確認していると伝えている。
最大の根拠であるDNA検査を伝えても、信じられるには時間を要するだろう。
現職海上自衛隊二等海佐の秋葉一輝と、天上自衛隊三等曹士の秋葉典子とのDNA検査の結果、祖父と孫であることが実証された。秋葉二佐のご子息のDNAも調べれば解釈のしようもなく科学的事実となるが、十歳児ではあきらめるほかない。
もちろん実名は明かしてはない。
そこは政治的説明で回避しており、報道陣が調べようとしてもまずたどり着くことはない。
世界間を超えての親子関係までの確認はできないが、それでも秋葉一輝と秋葉典子にDNA的繋がりが実証できたのは、この非常識な説明の中に常識的な事実がある。これが重要だ。
次に質疑応答に入ると、大勢が挙手をして進行役が一人一人記者を指名する。
Q:「天自艦隊は、現時点で日本に対する敵対的意図や軍事行動能力をしてないと政府は判断していますが、自衛隊の防衛態勢に変更はありますか?」
A:「天自艦隊に敵対的意図は確認されていません。しかし、天自艦隊の存在そのものが国際情勢に新たな不確実性をもたらしているのも事実です。周辺海域の安定を確保するため、自衛隊の警戒・監視を含む防衛態勢は、現行のまま適切に維持されます」
Q:「並行世界、あるいは異星由来という説明は、国際社会において前例がない。アメリカや近隣諸国とはどの段階まで情報共有が行われており、日本が単独で判断している部分はどこまでなのか」
A:「アメリカをはじめとする同盟国および関係国とは、事実関係と安全保障上の評価について段階的な情報共有を進めています。その過程において、天自艦隊側とも連携し、共有可能な情報の精査を行っています。現時点で日本が単独で恣意的な判断を行っている事実はなく、国際協調を重視した対応を取っています」
Q:「DNA検査を最大の根拠としているが、世界を越えた生物学的連続性が成立する理論的説明はまだ示されていない。政府として、この現象を科学的にどう位置付けているのか」
A:「並行世界や世界線など呼称は様々ですが、歴史的に同一系譜と確認される人物が別の世界から到来した事例は、政府としても初めて確認したものです。本件は現行の学術体系では未解明の領域に属します。そのため政府は断定的な評価を避け、国内外の研究機関による科学的検証結果を基に、段階的に整理と判断を行っていきます」
Q:「現在通称天自艦隊は排他的経済水域内にいるとのことですが、今後艦隊は補給などでどこかの港に寄港すると思われます。同じ日本人とはいえ、ルーツが異なる以上その候補地では不安が広まると思います。政府としてどう判断をされますか?」
A:「天自艦隊の寄港や補給については、現時点で具体的な計画は決定していません。政府としては、第一に我が国の安全確保、第二に地域住民の安心、第三に国際社会への説明責任を重視して判断します。仮に補給や寄港が必要となる場合でも、場所や方法は限定的かつ段階的に検討し、関係自治体や関係国と十分な調整を行います。同時に、衛生・治安・環境面を含めたリスク評価を実施し、必要な措置を講じたうえで対応します。天自艦隊が日本に対して敵対的意図を有していないとの認識はありますが、それと国民の不安は別の問題です。政府は一方的な判断を行うのではなく、透明性を確保し、説明を尽くしながら慎重に進めていきます」
Q:「先ほどの会見で、政府は天自艦隊への支援や援助について言及しておりません。政府として天自艦隊をどう対処をするつもりですか? また、支援に対する対価を求めるつもりですか?」
A:「天自艦隊への対応については、現時点では支援ありき、対処ありきといった固定的な方針を定めているわけではありません。政府としては、天自艦隊を一方的な保護対象や脅威として位置付けるのではなく、事実関係と相互の意図を慎重に見極めたうえで、必要最小限の対応を検討しています。仮に人道的配慮や安全確保の観点から何らかの支援が必要と判断される場合でも、それは国際法および国内法の枠組みの中で行われるものであり、無制限な援助を想定しているものではありません。また、対価の有無についても現段階で結論を出している事実はありません。支援と引き換えに何らかの見返りを前提とすることは、相手の立場や状況、国際社会への影響を慎重に考慮する必要があります。政府としては、我が国の主権、国民の利益、国際的責任の三点を踏まえ、拙速な判断を避けつつ対応していきます」
Q:「今後、天自艦隊の人々が国内に上陸する際、それは日本人として扱いますか? それとも外国人として扱いますか?」
A:「天自艦隊の人員の法的な位置付けについては、現行法制の枠内では前例がなく、単純に『日本人』あるいは『外国人』のいずれかに即断できるものではありません。政府としては、戸籍・国籍制度、入管制度、そして国民の権利義務との整合性を慎重に精査したうえで、段階的に判断を行います。現時点では、国内に上陸する場合であっても、直ちに国籍上の地位を確定させることはせず、特別な法的整理が必要な存在として暫定的に扱う方針です。また、戸籍やパスポートに関する事案については、天自艦隊側も十分に認識しているところであり、我が国が下すいかなる判断についても尊重するとの意思表示を受けています。これらの対応は排除や差別を目的とするものではなく、法的空白を避け、治安と人権の双方を守るための措置です。最終的な扱いについては、国会での議論や専門家による検討結果を踏まえ、透明性を確保したうえで決定していきます」
前代未聞の発表を行った記者会見は、近年まれにみるインパクトを有していた。
先進国の代表がフィクションが現実に起きたと公表すれば当然と言える。
ネットでは日本のみならず海外でも転載され、様々な論評が駆け巡る。
ついに日本が狂ったとか、時代が追いついたとか、信じたり信じなかったりと様々である。
各国も当然反応する。
元々オープンチャンネルを傍受して近隣諸国は事態を把握していたが、公になる前に動くと国際問題となって軋轢を生む。そのため日本が動くまで露骨に動かず知らぬふりをしていたが、公となれば話は別だ。
漁夫の利、おこぼれをもらおうと外務省経由で情報共有を高レベルで行いたいと打診が相次いだ。
その打診内容はどの国も外交上あたりさわりのないものだが、一部だけ軍拡を図るや過去の侵略を再燃させるなど批判と反対的なコメントが出たりもした。
ただ、その国からそうしたコメントが出るのは様式美でもあるので日本外務省は無視して取り合わない。
日本メディアも大々的に報じた。天自艦隊が提供した資料は、政府の添削を経て公表されるためまだ会見の映像しか出せず、コメンテーターは添削をすることで都合のいい発表をするのではないかと批判的な反応をしたりする。
ただ、この添削は必然である。なぜなら著作権と肖像権が深く絡むためだからだ。
天自艦隊が提供した日本Bメディアは、日本Aメディアと同一であること。キャスターなどニュース記事を書いた人も発表する人も同一人物がいるため、画像処理をしないと大混乱に陥るためだ
よって内容はともかく公表方法は考える必要があり、どう批判されようと説明をしつつ実施しているほかなかった。
そしてDNA検査で世界を超えて親類関係が証明された件でも同様だ。身分に関係なくプライベートに根強く関わるため、状況から対象者は政府関係者及び自衛官と絞られるのは致し方ないが、それ以外は漏らさぬよう広報は徹底された。
もしこれが世間に知られ、さらに天自自衛官の名簿が流出するようなら虱潰しにメディアは同姓同名を調べだすだろう。
ただ、日本政府はまだ天自艦隊の人員名簿を入手していないので、現時点で民間が追跡可能なのは秋庭一輝のみである。
「……さすがにお祭り騒ぎだな」
〝てるづき〟艦長室にて、ノートパソコンを見ながら秋庭艦長はつぶやいた。
ノートパソコンにはコメントが書き込めるニュースサイトが開いており、今朝方発表された天自艦隊と政府対応について一般市民が思う様々な意見が書き込まれていた。
ちなみにこれは読むだけであって秋庭自身が書き込むことはない。
これは自衛官として中立を保つ必要があるため、不用意な書き込みは自身の進退に影響を及ぼすことがある。一切身分を明かさず、完全な匿名で書く分ならまだいいが、少しでも身分につながる発言をすると問題視される。
護衛艦の艦長である秋庭はより厳しく、禁止こそされていないがキャリアと信用を考えて原則SNSにコメントは書かないようにしていた。
ネットの声、主に若者の多くは肯定的な意見が多い。
全員とは言わないが、秋庭艦長らの世代からアニメや漫画には深く浸透してきている。ああした異世界や別世界とはフィクション上は数多で見てきているから、実際に起きたとしても受け入れはそう難しくない。
まだ国民のほぼ全員が対岸の火事として安全性バイアスがかかっているから肯定的だが、天自艦隊と周辺国の動向次第でその考えは変わるだろう。
〝てるづき〟艦内も似たようなものだ。直に接触したこと、艦隊の全容を目の当たりにし、魚雷防御を容易くした『自衛隊』とあって、妙な親近感を持ってしまっている。
かく言う秋庭もDNA鑑定で証明された、孫となる典子天曹がいるとなれば危機感を抱くのは難しい。
自称ならばいくらでも警戒するが、科学的に証明されては疑いたくない思いが勝ってしまう。
なにせ世界Bで秋庭艦長はもう亡くなっている。典子天曹からすれば会ったこともない祖父なのだ。できれば敵対して沈めるような事態にはなってほしくない。
孫を殺す祖父なんてあってはならないのだ。
艦内電話から着信音が鳴り響いた。
「私だ」
艦長室の電話に出るのは艦長しかいない。秋庭艦長は短く答える。
『艦長、横須賀地方総監より、秋葉二等海佐は至急、総監室へ出頭するよう下命がありました』
「総監から? 了解した」
十中八九昨日の派遣に関することだろう。すでに報告書は上げているためどのような経緯があったかは知っているはずだ。
魚雷攻撃に関しては波川海将補預かりのため記していないが知らないはずがない。
叱責ではないとはいえ、トップからの呼び出しとなると様々な考えがよぎる。
しかし、どう考えても結論はでないため、おとなしく出向くに限る。
秋庭艦長は当直士官に離艦する旨の連絡をして、正装に着替えて艦長室を出た。
意外と知られないが、軍艦の艦長は簡単に乗艦も離艦も出来ない。一人でさらっと乗艦したり離艦することは出来ず、必ず当直士官の見送りと出迎えをしてもらうことになっている。
これは艦長という職位の権威と責任を可視化するための、各国海軍に共通する古くからの慣習だ。
秋庭艦長がタラップに着く頃には当直士官が並んでおり、秋庭は敬礼をしてタラップを降りる。合わせて当直士官が号笛を吹き、秋庭は陸地に足を下した。
仰々しいが、それが艦長としての応対だ。
「乗艦時間は追って連絡をする」
秋庭艦長はそれだけを告げて総監室のある庁舎に向けて歩き出した。




