18杯目 猫とチョコレート ②
「それで鈴ちゃんは、何か作りたいものとかある?」
莉央はキッチンから顔を覗かせて、興味津々といった様子で鈴に尋ねた。
鈴は少し考えた後、小さな声で答えた。
「やっぱりバレンタインなのでチョコを使ったものがいいと思うんです」
「う~ん、今食べてもらったチョコケーキは少し難しいから、ガトーショコラとか作ってみる?」
その言葉に鈴は好奇心に満ち溢れた表情をする。
「はい! ぜひお願いします!」
莉央はどこからか大人用のエプロンを持ち出し、鈴の前で広げた。
「じゃあこれ着て。サイズ大きいけど、まあ大丈夫だよね!」
「はい!」
鈴は頷きながらエプロンを受け取り、嬉しそうに身に付けた。ややブカブカだったが、鈴は気にする様子もなく、キッチンに近づいていった。
一方でミアは、必要な材料をキッチンの棚から順番に取り出していく。
「それじゃあ、まずはチョコレートを溶かすよ」と、莉央はさっそく言った。
莉央は大きなボウルを用意し、刻んだチョコレートを中に入れた。そしてボウルを湯せんにかけ、じっくりと溶かし始める。
「やってみる?」
「はい!」
莉央はスプーンを鈴に渡し、慎重に持たせる。
鈴は少し緊張した様子だったが、手を動かしてボウルの中をかき混ぜ始めた。
「わあ、チョコが溶けてる!」と鈴は叫んだ。
「でしょ?でも湯せんは熱いから、気を付けてね」
莉央は笑いながら、注意を促した。
溶けたチョコレートの中にバターを少しずつ加え、鈴は真剣な表情でスプーンを動かしていった。
「よく混ぜると、もっと滑らかになるからね」
莉央の言葉に励まされながら、鈴は楽しそうに作業を進めた。
「今度は卵を割るよ。お願いできる?」
莉央が鈴に卵を渡す。鈴は緊張した様子で慎重に卵を握りしめた。
「割ったこと、ある?」
「ありますけど、あまり得意じゃなくて……」
鈴は困ったように笑いながら答える。
「大丈夫。失敗してもすぐ拭けばいいんだから、気楽にやってみて」
莉央は優しい声で励ましながら、鈴の手元に視線を注ぐ。
鈴はそっと卵をボウルの縁に当て、軽く叩いた。亀裂が入り、割れ目から卵黄が滑らかにボウルへ落ちる。続いて透明な卵白がゆっくりと続き、無事に殻を分けることができた。
「上手じゃん! じゃあ、次は卵黄に薄力粉を入れて混ぜるよ。これも慎重に混ぜないとダマになっちゃうからね」
莉央はゆっくりと薄力粉を加えていき、鈴がハンドミキサーで手早く混ぜた。生地が滑らかになっていく様子を見て、楽しそうに微笑む。
「ゆっくり混ぜて空気を抜かないようにね」
莉央の指導のもと、鈴は慎重にゴムベラを使ってメレンゲを生地に馴染ませていく。すべてが合わさり、滑らかな生地が完成した。
「さあ、型に流し込もうか」
莉央が型を用意し、生地を流し込む手伝いをした。鈴は集中した表情でゴムベラを動かし、生地を型の中で均等に広げていく。
「完璧だね!あとはオーブンに入れて焼くだけだよ」
莉央はオーブンの扉を開け、鈴と一緒に型を中に入れる。
「スイッチ、押してみる?」
莉央が言うと、鈴は背伸びをしながらオーブンのスイッチを押した。スイッチがカチリと音を立て、鈴は達成感に満ちた笑顔を浮かべた。
2人が一緒に料理をする様子は、まるで歳の離れた姉妹のようだった。
30分後、甘い香りが『rheology』全体にに漂った。
オーブンを開けると、見事なガトーショコラが焼き上がっていた。焦茶色の綺麗な表面は焦げ茶色に輝き、焼き上がった生地がふんわりと息づいているようだった。
「やったね、鈴ちゃん。これで完成だよ!」
莉央は喜び、鈴とハイタッチをした。
「鈴ちゃんが手伝ってくれたから、こんなに美味しくできたんだよ」
「ありがとうございます!」
鈴は頬を赤らめながら嬉しそうに答える。その表情を見た莉央も微笑み返した。
2人は出来上がったガトーショコラをプレゼント用にラッピングしていく。用意していて袋にリボンを結んで完成した。
「おばあちゃん、喜んでくれるかな……」
鈴は袋を手に取り、思い描いた場面を想像しながら、はにかんだ笑顔を浮かべた。
「せっかくですし、袋に入りきらなかった分を試食してみますか?」
ミアが柔らかな笑みを浮かべながら問いかけると、鈴は目を輝かせて大きく頷いた。
「はい!ありがとうございます!」
彼女の返事に、ミアは満足げに頷くと、さっそくお湯を沸かし始めた。
そして、程なくしてミアは香り高いアールグレイを淹れ、ガトーショコラの一切れを添えてテーブルに運んだ。紅茶の湯気とチョコレートの甘い香りがテーブルを包み込み、2人を心地よく誘う。
莉央と鈴はさっそくフォークを手に取り、同時に一口味わう。
「美味しい!」
鈴が瞳を輝かせながら感嘆の声を上げる。
「うん、最高だね!上手く出来て良かったね!」
莉央も満足そうに微笑んだ。
濃厚なチョコレートの風味が口いっぱいに広がり、アールグレイの爽やかな香りがその余韻を引き立てる。鈴は頬に手を添え、うっとりとした表情を浮かべる。
「これ、おばあちゃんもきっと喜んでくれるね!」
莉央の言葉に、鈴とミアも微笑みながら頷いた。rheologyの店内には、甘い香りと幸せな空気が満ちていた。




