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13杯目 冬を告げる紅茶 ①

 昨夜から降り積もった雪が、商店街を一面の銀世界に変えていた。

 天気予報によると、雪はこの先、数日間は降り続けるらしい。子どもたちは見慣れない雪に心躍らせ、元気よく駆け周っている。

 普段はあまり人がいない商店街だが、クリスマスの飾りやイルミネーションで賑わい、どのお店も温かな光で輝いていた。


 その中を、鈴と和美が手をつないで歩いていた。

「おばあちゃん、雪がたくさん積もってるね!すごくきれい!」

 鈴がはしゃいだ声で言う。和美は微笑みながら、鈴の小さな手を優しく握り直す。

「そうね、こんなに積もったのはずいぶんと久しぶりね」

 路傍にくるぶしの高さほどの雪が積もっているが、商店街にはアーケードが取り付けられていて、楽に歩くことができた。

 2人は商店街の道を曲がり、路地裏に入る。

 メイン通りとは対照的に人影がなく、まだ誰の足跡もついていない、ふわりとした雪が一面に広がっていた。

 鈴は目を輝かせて、小さな足でそっと雪を踏み締める。まるで型をとったかのように、鈴の足跡がくっきりと残った。


 そしてその先には、まるで隠れ家のようにひっそりと佇んでいる『rheology(レオロジー)』があった。

 古民家風の建物は、雪景色の中でどこか北欧の山小屋のような雰囲気を醸し出している。

 扉に吊られているプレートは『OPEN』になっている。クリスマスの日でも通常営業していることを、2人は事前に確認済みだった。

 扉を開けると、ドアベルの音がが小さく鳴り響き、暖かな空気が2人を包み込んだ。

「いらっしゃいませ」

 カウンターの奥から店主の猫・ミアの可愛らしい声が聞こえてきた。窓側から離れて一番暖かい場所で座っていたようだ。

 普段よりも毛皮がふわふわとして厚みを増し、まるで小さな毛布のようだった。

「こんにちは」

 鈴は元気よくミアに声をかける。遅れて和美も入ってくる。

「いらっしゃいませ。外は寒かったですよね」

 ミアが心配そうに言うと、和美が微笑みながら答えた。

「ええ、本当に冷え込んでいますよ。鈴ちゃんと手をつないでいなかったら、指がかじかんでしまいそうでしたよ」

「それは大変でしたね。すぐに温かいものをご用意しますよ」

 ミアはふんわりとした毛を揺らしながら、カウンター席を指し示す。

 その言葉に、鈴と和美は笑顔で頷き、コートを脱ぎながら席へと向かった。店内の暖和な照明の下、雪の冷たさが少しずつ体から解けていくのを感じた。


 すると鈴がカウンターに身を乗り出すようにして、キラキラと目を輝かせながら言った。

「聞いてください! 私、初めてサンタさんからクリスマスプレゼントをもらったんです!」

「まあ、それは素敵ですね!」

 ミアは嬉しそうに頷きながら、ヒゲをふわりと揺らした。

「何をもらったんですか?」

 ミアが興味津々に訊ねると、鈴は背中のリュックサックを下ろした。

 そしてその中から慎重にゆっくりと大きな箱を取り出す。カウンターに置かれた箱にはきれいな赤いリボンがかけられていて、期待が膨らむ。

 リボンを解き、ゆっくりと蓋を開けると、中から立派なティーセットが出てきた。

「おぉ! これは凄いですね」

 ミアは驚きと感動が入り混じった声を上げた。

 瑠璃色の目を丸くして、隅から隅まで、じっくりとティーセットを観察する。

 少し小ぶりのティーカップには、白地の背景に可愛らしいシクラメンの花が描かれている。繊細な筆致で表現された花びらは、まるで風に揺れるような柔らかさを感じさせる。

 縁取りには金色のアクセントが施されていて、気品のある雰囲気だ。

 一緒に入っていたソーサーやティーポット、ティースプーンにも同じ絵柄が描かれ、カップとぴったり合うようなデザインになっていた。

「サンタさん、すごくセンスがいいですね。このティーセットは、きっと特別な場所でしか手に入らないはずです」

「うん! 私も見た瞬間、すっごく気に入っちゃったんです!」

 鈴は弾む声でそう答えると、大事そうにティーカップを両手で持ち上げ、嬉しそうに眺めた。

「これを使ってミアさんの紅茶を飲みたかったの」

 鈴は弾けるように明るい声で言う。

 鈴からの頼みに、ミアの瑠璃色の目が柔らかく細められる。

「私が使っていいんですか?」

「もちろん、ぜひお願いします」

 鈴は元気よく頷いた。その姿に、和美も微笑を浮かべながら見守っている。

「分かりました。それじゃあクリスマスにぴったりの紅茶を淹れますよ」

 ミアは張り切った声で応えると、カウンターの向こうで準備を始めた。

 カウンター奥の棚からキャニスターを取り出す。ガラス製で透明なキャニスターは中の様子を確認することができた。いつもは黒色や茶褐色の茶葉だが、今日の茶葉にはその他にも橙色や黄色、白色の花のようなものが入っている。

 彩りが可愛らしくて、キラキラしているように見えた。

「わあ、可愛い!」

 それから鈴が興味深そうに訊ねる。

「ミアさん、それは何が入っているんですか?」

「シナモンやクローブ、オレンジピールといったスパイスが入っています。柑橘系の甘酸っぱい香りが特徴的なクリスマスティーです」

「そんなものがあるんですか」と、和美が感心したように唸る。

「紅茶の創成期とほぼ同時に生まれたらしいです。当時はスパイスが高級品でしたから、パーティで出されていたようです。今ではヨーロッパの冬の風物詩になっているんです」


 続いてミアはヤカンに水を入れ、コンロにかけて沸騰させる。水が沸く間に、鈴が持ってきてくれたティーセットを洗い、準備していく。

 沸騰したら、ティーポットにクリスマスティーの茶葉とお湯をゆっくりと注ぐ。お湯が茶葉に触れると、さらに香りが引き立ち、部屋全体が温かみのあるスパイシーな香りに包まれる。

「うわぁ、いい香り……」

 鈴が思わずため息をつくと、和美もその香りに誘われて、リラックスした表情になる。


 ポットの蓋を閉じ、砂時計をひっくり返すと、茶葉が抽出されるのを待つ。

 この間に、ティーカップとソーサーをセットする。やはりカップとティーポットとお揃いのデザインだと、より一層美しく見える。

 砂がすべて落ちて抽出が終わったら、ティーポットを手に取り、ゆっくりとカップに注いでいく。

 クリスマスティーは美しい琥珀色で、少し赤みを帯びている。湯気と共に豊かな香りが立ち上った。

「お待たせいたしました」

 ミアは2人の前に、ティーカップを置いた。

 鈴は「わぁ!」と歓声を上げる。

 ティーカップに紅茶が注がれたことで、まるで命が吹き込まれたように見えて、胸が高鳴るのを感じた。

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