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そして、目が覚めた

「ん……?」


 どうやって布団に入ったのかまったく覚えていない。けど、スゴイたくさん夢を見ていた気がする。

 頭がぼーっとしている。


「ああそうだ、今日は史也がこっちに来るんだった!」

 嬉しさで、頭がパアッと活動を始め、ガバッと布団から起き上がった。


「あれ?」


 オレはびっくりした。何故ならそこは、自分の部屋のいつもの布団だったからだ。横には龍聖王もいる。


「え? あれ? いつ帰って来たんだっけ……? あれ? あの後……史也に会ったっけ……?」

 オレは頭が混乱した。

 そういえば、夏にしてはやけに空気が涼しい。寒いくらいだ。パジャマも長袖を着ているというのに。長袖……?


「……!」

 オレは嫌な予感に、全身から変な汗がどっと出た。


「えええ? ま、まさか…………?」

 時計の針は6時25分を指している。最近は朝ごはんの支度をするのに6時30分起きだったから、平日にいつも起きているような時間だ。


 とりあえず布団を出て、階段を下りてキッチンをのぞいてみた。母親がオレに気がついた。

「あら、おはよう!今日は早いのね」


「お、おはよう……」

 オレは恐る恐る、聞いてみた。

「あ、あの、今日って何月何日だっけ……?」


「4月5日よ。今日は6年生の始業式でしょ? そんなにはりきって起きてきたのに、何を言っているのよ」

 母親は、笑って言った。

「し、し……始業式……?」


 まさかと思っていたことが、大当たりしてしまったらしい。そうだ、もうひとつ。大事なことを聞かなくてはいけない。

「えーと、あれは? が、学校改革は……?」


 母親はきょとんとして答えた。

「学校改革? 何それ、今日学校で何かあるの?」

「え……?」


 とりあえずトイレに行って、落ち着いて考えることにした。


 何ということだ。

 どうやら、あの楽しかった日々や、水玉さんや、いろいろあったことも全部、壮大な夢オチということで終わってしまったらしい。

 あまりのショックで、頭がついていかない。 


 ぐーとおなかが鳴ったので、とりあえず朝ごはんを食べることにした。


 慣れた手つきで野菜を切って、食パンにいろいろ乗せて2種類のオープンサンドを作り、トースターに入れてタイマーを仕掛け、その間に飲み物を用意していると、母親が驚いた顔をしたまま、動きを止めてオレを見つめていた。


「えーと、今日は一体、どうしたの……?」

「何? 最近いつも、自分で作っているじゃん」

 そう言いながら、自分でも何かおかしいことに気がついた。


「……あれ?」


 ああ、そうか。確か、朝ごはんを作り始めたのは始業式の次の日からだったか……? あれ? でも夢だったし……いや、でも、ちゃんと作り慣れているし、なんだこれは?


 朝ごはんを食べながら、混乱する頭を整理することにした。落ち着けオレ、よく考えるんだ。


 まず、学校改革なんてものは存在しない。


 今日はいつも通りの始業式の日なのだ。6年生としての新しいクラスに、新しい担任の先生、新しい教室。それだけだ。


 学校改革が始まったあの日以来、毎日学校が楽しくてしょうがなかったけど、今日は久しぶりに、学校に行きたくないという気持ちを思い出してしまった。あんなに楽しい毎日は、実際にはあり得ないのだ。


 何であんな夢を見たのかな? いじめられすぎて、こうだったらいいのになっていう、オレ自身の願望があの夢を作り出したのか……?


 ああ、そうか。そう考えると、合点がいった。だから皆がオレをやけに過大評価していたんだ。オレにはきっと、素のままの自分を高く評価して欲しいっていう願望があったということなんだろう。


 でも、もしそうだったとしても、あの夢はオレの想像をはるかに超える、幸せな毎日だったなあ……あんな夢を見た後に、現実の学校になんて行きたくないなあ……


 とか思っていたけど、諦めて家を出た。

 すると、すぐ目の前を優雅が歩いているではないか。


「あ、おはよー!ゆー……」

 オレは、つい、声をかけてしまった。


「はあ? お前、何様だよ? 馴れ馴れしく声をかけるんじゃねえよ! クズが!」

 最上級に不機嫌な、まるで虫けらを見るような嫌悪の目でオレを見る優雅。いや違う、平くんだ。


 この顔で見られるのは久しぶりだった。忘れていた緊張感が、一瞬で蘇った。


「ご、ごめん……」

「うっざ!」

 そう言って、平くんはさっさと校門に向かって行ってしまった。


 そうだ、あれは、夢だったのだ。その事実を目の当たりにして、オレは愕然とした。もう、オレなんかとも仲良くしてくれたあの優雅は、存在しないのだ。

 オレの前を歩いているのは、オレのことを心の底から嫌っている、いじめっ子の下っ端の「平くん」だ。


 そしてそれは、平くんだけではない。クラスにいた全員、誰に会っても、気軽に声をかけてはいけないということを、自分に強く、言い聞かせた。


 でも、夢の中では毎日誰にでも会えば何か話をしていたから、つい声をかけてしまいそうだ。もし、現実でそんなことをしたら、ただの変なヤツと思われるだけだ。気をつけよう。


 気を取り直して、すぐ目の前の学校に向かうと、あっという間に校門に着いてしまった。


 第1校舎は5年生までだから、その賑やかな昇降口を素通りする。6年生の教室は第2校舎だ。オレは重い足取りで第2校舎に向かった。第2校舎の入り口にも、もちろん人だかりが出来ている。


 と、ここまでは夢と同じ光景だった。……あれ? 夢の中の第2校舎は古い木造の校舎だったのに、現実は普通の鉄筋コンクリート造りの校舎になっていた。


 まあ、よく考えれば今の時代、耐震構造の校舎になっていて当たり前なのだ。たぶん、古い木造校舎だったのはオレが何かで見かけた木造校舎に憧れていたからかもしれない。

 そこで夢と気づかなければいけなかったのか……


 とりあえず、今は大勢の人の向こう側にチラッと見えるクラス表から、自分の名前を見つけなければならない。


 6年生は4クラス。なんとか4組に名前があることを確認した。

 ……ん? 4組? 他のクラスメイトは? 大勢の人に揉まれながら、頑張って他の名簿を確認する。


 オレの前は〈日比野 史也〉だ! 後ろは〈穂坂 駆〉……ということは? 驚いたことに他のクラスメイトも、全員、あの夢と同じメンバーだった。

 オレは、鳥肌が立った。


「史也に会える……!」


 いや勘違いするな、オレ。史也じゃない、『日比野くん』だ。

 そして、『日比野くん』は今日、初めて一緒のクラスになったばかりで、まだ会ったことも、話したことも無い人だ。


 あの『史也』ではない。そう、自分に何度も言い聞かせた。


 だけど、駄目だ。すごい、ドキドキする。


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