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ここに来てオレたちは成長していると思う

 そんな調子で、ホームシックになる暇も無いくらい、非日常というか、非現実的な忙しい毎日が続いた。


 まず、朝食の後はお勉強を1時間くらい。算数の計算を一通りと、国語の文章読みと内容確認と漢字練習という感じで、日常生活で必要そうな基本をちょこっとやるだけだ。やる分をやってしまえば終りなので、皆とっとと片付ける。


 苦手な人には、得意な人がコツを教えてあげたりしていると、神宮司先生は、それを見てニヤニヤしている。


 で、その後はその日の予定。

 使っていなかった畑をきれいにしたり、邪魔になっている倒木を切って片付けたり、ネコ車でいろんな物を運んだり、石を掘り返したり、牧場の手伝いに行ったり、いろいろだ。何をやっても楽しい。


 何が嬉しいって、私有地だからオレ達にもいろんな機械を操作させてくれるのだ。初めは怖がっていた女子の人たちも、今では率先して動かすようになっている。

 のこぎりとか、危険な道具もどんどん使わせてくれる。むしろ、仕事としてやれ! という感じなのが、ちゃんと認められているようで、なんか嬉しい。


 そして、その作業をするときにも、それぞれの仕組みについてとか、何故そうする必要があるのかとか、どうすると危険かとか、気を付けるポイントとか、その道の専門家の人が面白く教えてくれるので、オレ達はここに来てずいぶん物知りになった気がする。

 実際に自分の手でいろんな道具を使って作業をしてみて、難しさを理解して、どうするといいか自分で考えて工夫したりすることで、上手くできた時の充実感は半端ない。


 たぶん、学校の勉強と同じようなことをしているのだと思うけど、実地で必要に応じて教えてもらうことで、今自分たちがしている作業の目的と必要性を理解しやすいし、楽しくできるし、なにより、教えてくれる人たちを心底尊敬してしまうのだ。


 仕事をする大人はみんな、スゴイ。カッコイイのだ。


 とにかくいろんなことを、なんでもやった。

 毎日同じメンバーで協力して作業をしているので、それぞれ、何が得意とか上手いとか、根性があるとか、無理しても頑張るとか、記憶力がすごいとか、指示を出すのが上手いとか、こうするといいとかいう工夫を考えるのが上手いとか、動物を手懐けるのが上手いとか、紐をピッチリ結ぶのが上手いとか、作業がきれいとか、雑だとか、それぞれの個性がなんとなく分かるものだ。


 とにかく、オレの初めの心配とは裏腹に、皆、とてもてきぱきと動いて、頼もしい。


 神宮司先生はよく、「こういうのは○○が得意だな」と言って仕事を任せる。そう言われると、皆、はりきって仕事をする。

 自分の存在価値を認めてもらって、自分の力を皆のために役に立てることができるって、なんていう満足感だろう。


 神宮司先生は、オレ達の使い方が本当に上手いと思う。先生に自分のイイ所を見つけてもらいたくて、皆、本気で毎日がんばっている。


 ここに来て、一番変わったのは平君だ。水玉さんの豆鉄砲を食らって以来、別人のようだ。

 率先して大変そうなことをやりたがるし、リーダーというか、ムードメーカーというか、とにかく、いじめグループの下っぱという雰囲気は一掃されている。


 そして誰よりも、女子に優しく、そして意外にも野生動物にも優しい。

 水玉さんの影響だと思うけれど、人間に住む場所を狭められている野生動物を守りたいだとか、杉を切ってドングリを植えるとか、そんなことばかり言っている。


 影響を受けやすい性格なのかもしれないけど、オレは今の平くんは大好きだし、お互い、しっかり友達として認識して仲良くやっている。呼び方だって「優雅」と呼び捨てだ。


 平くんと仲良くなるなんて、以前ではまったく考えられなかった状況だけど、今では以前の状況を笑いのネタにできる程の仲になっている。意外にも、優雅は面白くて、いいヤツだったのだ。


 夕方の作業が終わったら自由時間。

 晩御飯の支度にはかけちゃんをはじめ、有志が毎日手伝いに行く。


 他にも、集落の各家庭の庭の手入れやお掃除、畑仕事の手伝いとか、どこの家が何をして欲しいという要望を、残りの皆でお手伝いに向かっては感謝されて、いい気分になって帰ってくる。


 すると、ちょうど晩御飯ができているという充実した毎日を送っている。ここに来て、1週間以上経った。みんな、逞しくなったと思う。精神的にも、肉体的にも。


 そして各家庭にお手伝いに行った時に、古い道具があったりすると、それをきっかけに昔はこれをどういう風に使って、どういう生活をしていたとか、おじいちゃんおばあちゃんがいろいろ話をしてくれるのが面白い。

 だって、今の生活とぜんぜん違うから。昔の方が、子供が家の役に立っていたんだなあと思った。お手伝いは大変だけど、いろいろ体験できるのはうらやましい。昔の方が大変そうだけど、皆で一緒になんでもやって楽しそうでいいなあと思う。





 晩御飯を食べて後片付けして、お風呂に入ってしまえば本格的な自由時間だ。


 みんなスマホやタブレットを自由に持って来ているので、初めの頃は動画を見たりゲームをしたり個人で遊んでいたけど、だんだん、皆でカードゲームやオセロや将棋を指したりするのが普通になってきた。


 集落に将棋の段持ちのおじいさんがいて、オレ達に教えてくれるのだ。

 矢倉囲いとか舟囲いとか、将棋にこんなにいろいろな技があるなんて知らなかった。やっぱり専門家はスゴイ。カッコイイ。話を聞いているだけでも楽しい。


 そして今日の夜は、オセロのトーナメント戦だ。ちなみにオセロの台と駒は手作りの紙製だ。


 今、将棋の台と駒も、皆が対戦をしている待ち時間中に製作している。こっちは、木彫りの本格的っぽいヤツだ。


 オセロトーナメントの2回戦が始まった頃、大人達の様子がいつもと違う事に気づいた。何かバタバタしていて、ひそひそ話をしている気配がする。


「何かあったのかな?」

 オレは、対戦相手の梅野さんに話を振った。

「ん? 何が?」


「先生たち、何かそわそわしてない?」

「んー、そう?」

 梅野さんは周りを見回してから言った。


「あ、そういえば。ぐーちゃん、晩御飯の時いなかったよね」

 《ぐーちゃん》とは、神宮司先生の愛称である。ここに来てから、女子を中心にそう呼ばれるようになっていた。

「え? そうだった?」


 大人たちのバタバタは、まあ自分たちには関係ないだろうと、そのまま皆で盛り上がっていると、オレとかけちゃんだけがぐーちゃん先生に呼ばれた。何だろう?


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