あの人が、やって来た
「え……?」
「えーっ!」
「ええーっ、水玉さん? なんでここにいるの!」
皆、水玉さんの登場で大興奮である。マジでビックリ。なんで?なんでここにいるの?
「あれー? 私、有名人みたいだねえ」
水玉さんは、照れて笑っている。思ったより、背が高くでびっくりした。
「せんせ、お疲れさま!」
「お茶、どうぞ! 冷えていますよ」
おばあちゃんたちにも大人気だ。
「ありがとう、皆さん、こんにちは! うひゃー、生き返るねえ」
と、おっさんらしいリアクションで応えていた。
オレたちは口をあんぐり開けて、ただその様子を見つめていた。
そんな周りの空気に気づいた神宮寺先生が、水玉さんをオレたちに紹介してくれた。
「えーと、このログハウスを一緒に作った友達の一人です」
「うおーっ、友達だったの?」
「先生、そんなこと一言も言ってなかったじゃん!」
皆、大興奮だ。
「そうだっけ?」
神宮司先生が笑って言った。
今になって思えば、熊野さんのいじめの時にすぐ水玉さんが出てきたのは、やっぱり神宮寺先生が水玉さんに直接連絡したからなのだろうか?うひゃー、先生、スゲー。
「じゃあ、親父さん。皆、期待しているから、一言どうぞ」
そう言って、神宮司先生は一歩下がって、水玉さんを前に押し出した。
「ははは、神宮司君が皆と仲良くやっているようで嬉しいよ」
水玉さんは神宮司先生の顔を覗き込んでから、くるりとこちらを振り返った。
「えーと、今日は学校改革のキモとも言える、『この夏、いろんな体験をしながら拠点作りをして楽しい思い出も一緒に作ろう!』に参加してくれた皆さん、どうも有難う。えー、どうしようかな。先に何か私に質問とか、ある?」
急に質問とか言われても……いろいろ、聞きたいことがあった気もするのだけれど、とか考える暇もなく。
「はいはーい! 何でここに来たのー?」
平くんのストレートな質問が炸裂した。スゴいなー、緊張とかしないのかな? うらやましい。
「ああ、それはもちろん、君たちに会いたかったからだよ」
水玉さんは平くんと向き合い、平くんの肩に両手をのせて、にっこりと笑った。
「何故なら、君たちはこの学校改革の、特別な存在だからね」
「と、特別?」
平くん、びっくり。
「そう、君たちは、開拓者だ。この学校改革という初めての試みに、果敢にも挑んでくれた開拓者なのだよ。
君たちの今後の成長によって、この学校改革は評価されることになる。
未来の子供たちのためにも、もちろん君たち自身のためにも、良い結果が出ることを私も心から望んでいるよ」
水玉さんは、オレたち皆を見渡して言った。
多分、軽い気持ちで質問をしたと思われる平くんは予想外にスゴイ返事が返ってきたので、ハトが豆鉄砲をくらった顔になっていた。
その様子を見た水玉さんは、今度はにっこり笑い、平くんの肩をポンポンしながら軽い調子で言った。
「まあ、何より楽しんでくれるのが一番だよ」
「そうだね、大人になった時に思い出して、『いい夏休みだった』って言えるように、頑張ろうぜ」
神宮寺先生がフォローした。
「はいはい、他に質問はー?」
「はーい、掃除以外って何をやるんスか?」
丹沢くんも、緊張しないタイプだ。
「はいはい、えーとね、これから掃除をするのは、君たちがこれから毎日お世話になる拠点となる場所だ。
これから毎日いろんなことをして、疲れて帰って来た時にほっとできる場所にするために、これからお世話になりますよという気持ちを込めて、今晩からちゃんと寝られるように自分たちできれいに整えてあげようっていうのが、まず今日の目標です。
是非、快適に寝られるようにしてあげてください」
「うんうん、それで? 明日は?」
「いろいろやることはあるよ。
とりあえず明日の予定は、まず、涼しい時間にご近所に挨拶をして回ります。その後、皆で使う、「すのこ」と「椅子」を作ります。これからよく使ういろんな道具に、慣れてもらいます。明日はそんな感じです。
その後は、整地したり、鶏小屋を作ったり、最近使われていなかった畑をきれいにしたり、酪農家の手伝いをしたり、釣りとか、虫取りとか、川遊びとか、池にブランコで飛び込んだり、花火とか、ピザを焼いて食べたり、あとご近所のおじいちゃんおばあちゃんのお宅で、困っていることを手伝ってあげるという、大事なミッションもあります。忙しいですよ」
水玉さんは、さらっと言った。
「何、今の? スゲー楽しそう!」
皆が聞きたかったことが、やっと確認された。
「えーとね、私が前に言ったことって覚えてくれているかな? 学校改革の生活面は私が高校生の時にこうだったらいいなと思っていたことが元になっているとか、学習面は小学校の時に考えていたことだとか」
「おー、覚えているー!」
皆が口々に叫んだ。スゴイテンションだ。
「おお、有難う! で、ですね。
今回、正直Bコースは何をどうやったらいいか、まったく決まっていなかったんですね。
本当は、学校内で何かいろいろ体験をするはずだったんですが、何か違うなあということで、じゃあ、今回は今の私が憧れる生活を実現させようではないかということになりました。
えーとね、私はよく、もしお金持ちになったらどんな生活をしたいなあとか、そんな妄想をするんですけれど、皆もするかなー?」
「するするー! おっきい家買うー!」
「ネズミーランド買うー!」
「マンション建てるー!」
などなど、それぞれが大盛り上がりだ。
「そうか、そうか。想像するのは良いことだから、どんどん想像しよう!
で、ですね、私が憧れる生活はですね、綺麗な空気に、綺麗な景色、そして綺麗な川には生き物がたくさん住んでいてっていうそんな最高の環境で、最高の職人たちを集めた、こじんまりとしたコミュニティーを作ることです。
農家や酪農家はもちろん、こだわりのハムやベーコンを作ってくれる肉屋に、最高のチーズ職人、あとはおいしいパン屋さんとケーキ屋さんと和菓子屋さんと定食屋さんとかあったら、幸せだなあと思うんですよ。
で、私はそこでお豆腐屋さんをやりたいんです。お豆腐、作ったこと無いんですけど」
一同、爆笑。
「ははは、そんなにウケるとは思わなかったな。いや、本気で皆にね、お鍋持って買いにきて欲しいと思っているんですよ。
まあこれは私の個人的な見解ですけど、昔ながらの材料を使って、昔ながらの作り方で、作ってすぐ食べる。これが、一番の贅沢なごちそうだと私は思うんですよね。
君たちだって、さっきおばあさん達の作ったお料理、食べたでしょ? スッゴイ美味しかったでしょ? あれこそ、昔ながらの材料と作り方で作られたものなんだよ」
ああ、そうだったのか。だから、あんなに美味しかったのか!
「えー、つまりですね、このBコースを利用して私の憧れを形にしてしまおうというのが、今回の目的になります」
水玉さんは、両手をバッと広げた。
「つまり、その内容とは、昔と同じありのままの原材料で、昔ながらの作り方で作ったものを、皆でおいしく食べようよ! ということです。
そして、その形にするまでの間にも、皆にありとあらゆる経験をしてもらいたいと思っています。
私も一緒に、豆腐を作ります。味噌もうどんもチーズもベーコンもアイスクリームも作るし、その前の牛や豚や鶏も育てます。
育てて、食べます。食に対する、感謝の気持ちを、しっかりと現実を見て考えて欲しいと考えています」
「はあ……」
今、何かちょっとスゴイことを言っていた気がしますが……
「まあ、もっともそれらの作業をするための施設を作るところから始めないといけない状況なので、開拓者である君たちにとっては、まだまだ先の話になりますね。
気長に、頑張りましょう。
これから、あらゆる体験をひとつひとつ積み重ねて行ける君たちは、本当にラッキーだと思います。大人になる頃には、ものすごい経験値が貯まっていることでしょう。
というわけで、これから皆で本当に美味しいものを食べるために、食についていっぱい考えて、働いて、自分たちで作りましょう!
私は、本当に美味しい物が食べたいんです。皆も一緒に、美味しいものを食べるために、頑張りましょう!」
美味しいものを食べられると言われて、素直に喜ぶ一同。
「おーっ!」
水玉さんと神宮寺先生が入れ替わった。
「よーし、じゃあお腹もいっぱいになったし、さっそく今日の仕事に取りかかろうと思いまーす!
あ、そうそう、大事なことを忘れていた。ここにいる間も、当然、「全員と話しましょう」は続行されます! 違うクラスの人とも、自己紹介をしながら、どんどん話してくださいね」
神宮寺先生が手を叩いて言った。
「おやつには、そこの沢でスイカが冷えているそうなので、楽しみにして頑張ってください!」
「はーい!」
皆そろってタオルを首から掛けてオレ達の拠点となる古民家へ向かった。




