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4組なら女子でも平気で話せるオレだけど

 そして、古民家へ向かう道中、女子の人たちを中心に誰からともなく文句が出始めた。


「あー、もー! ホントヤダ! 虫だらけ!」

「細かいのがスゴイよね、これって蚊なのかなー?」

「蚊柱っていうんでしょ? これってさ、なんか逃げても付いてくるよね」


 誰も答える気配が無いので、オレが答えてみた。


「これは、ユスリカっていうんだよ。この集団は全部オスで、メスを呼び寄せるために集団で飛んでいるんだって。蚊に似ているけど刺さないから大丈夫だよ」


「へー、そうなの?」

「でもー、刺さなくてもうっとうしいー!」


「うーん、まあ、うっとうしいんだけど、ユスリカは口が退化していて何にも食べられないから数日で死んじゃうらしいよ。その間に子孫を残さないといけないから、ユスリカも必死に生きているんだ、許してあげてよ」


「えー、そうなの?」

「ちょっと、かわいそうかも」


「それに、ユスリカはいっぱいいるからいいんだって。

 水の中で成長する幼虫の時には水をきれいにしてくれるし、そこに住む魚たちのエサにもなるし、成虫になった今も、他の虫や鳥のエサになっていて、一匹一匹は小さい存在だけど、いっぱいいるから存在に価値があるんだって」

「えー、でも嫌なものは嫌なの! 虫なんか、地球上からいなくなればいいのに!」 


 うーん、鈴木さんの虫嫌いは筋金入りだ。彼女には虫好きの弟がいて、ケンカをして口で負けると、仕返しに様々な虫を彼女の持ち物に入れて嫌がらせをするという話を聞いたことがある。弟くん、お姉さんも虫も可哀そうだから、やめてあげてほしい。


「えーと、じゃあ鈴木さんの希望通り地球上から虫が一匹もいなくなったら、地球は汚れっぱなしだよね?」

「大丈夫だよ、誰か人類が地球をきれいにする方法を考えてくれるから」

「いやいや、人類って、そんなになんでもできるほど万能じゃないよ。

 現に今ある浄化槽だって、水を実際にきれいにしているのは人類の叡智による技術ではなくて、ただ大量の微生物を水槽に入れて綺麗にしてもらっているだけだし。

 鈴木さんが嫌いな虫が地球上からいなくなったら、水は汚くなる一方だし、空気も汚れっぱなしだし、動物が死んでも分解されないから、あっという間に地球は生物が生きていけなくなると思うよ」

「え、そうなの?」

「そうだよ。逆に、地球上から人間がいなくなったら地球はどんどんきれいになるよ!

 車も工場も動かなくなるから空気は汚れないし、海にゴミも捨てられない。温暖化の心配もなくなるし、いい事づくしだ。

 つまり地球目線で考えると、地球を汚すだけで何の役にも立っていない人間よりも、虫のほうがはるかに地球の役に立つ良い存在なんだよ。

 その辺を人類は自覚して、もっと謙虚な姿勢でほかの生物たちと共生する努力をするべきだと思うんだ」


 オレは、いつも自分の脳内でぐるぐる考えていることを、ぺらぺらと話し続けていた。以前のオレなら、絶対こんなことを他人に話すなんてありえなかったのに。


 ふと気がつくと、みんなが、そんな話を聞きたいわけじゃないというような、ぽかんとした顔をしていることに気づいた。余計なことを言ってしまったと、もの凄く後悔した。


「うふふ、古井戸くんのそういうところが面白いよね」

 と、熊野さんが笑ってくれた。皆もつられて笑った感じで、最終的には笑い話になってしまった。


 そんな感じで、なんとなく、オレがいつも変なことを言っては皆を笑わせている様な立ち位置になってしまった。オレとしては、日々考えていたことを笑い話にされてちょっと不満ではあったけど、まあ、良かったことにしておこう。と、思った。




 そんなことを話している間に、古民家に到着した。


 すごく立派な大きい家で、藁葺き屋根もカッコイイ。しかし、家の裏の方に、新築の今風な趣のない建物が無理矢理くっついているのが気になった。


「先生、あの後ろの建物は何?」

 オレより先にかけちゃんが先生に聞いていた。


「あれはトイレとお風呂だよ。人数が多いし、風呂はともかくトイレだけは最新式の方がいいだろ?」

「トイレ、新しいの? 良かった~!」

 女子の皆さんが喜ぶ。


「ぼっとん便所だと思ってた~」

 そりゃあ、喜ぶな。ていうか、それでよく参加したな、渡辺飛鳥! 偉いぞ。


 古民家の玄関を開けると、さっきのと同じポンプ式の水道が右側にあって、正面にはもうひとつ内玄関があった。

 そして、その中は広い土間になっていて、高い敷居に足を引っ掛けそうになりながら、中に入る。

 土間には昔ながらのかまどの隣に、新しい水道が対照的に設置されていた。かまどの反対側には、広い部屋が広がっていた。


 奥にも部屋があって、全体が田の字の形になっている。天井の梁も、スゴイ立派。


 閉まっていた雨戸を開けると、その内側が廊下になっていた。その廊下のさらに内側を、障子で仕切った畳の部屋になっている。


 床の間と囲炉裏もあって、ますます、田舎のおばあちゃんの家っぽくって、オレは感動した。


 雨戸が開いて室内が明るくなったところで改めて見回すと、今晩、寝られるように掃除をするっていうから、どれだけ汚いのかと覚悟していたのに、ちょっとホコリっぽい程度でまったくキレイだった。


 広くて古い建造物に、すっかり皆ではしゃいで、トトロのメイ状態で走り回っていた。


「あっ、何かいる! まっくろくろすけだ!」

「いや、ただのクモだよ」

「クモ嫌い! 特に嫌い! 気持ち悪いッ」


 まあ、クモは嫌われ者である。


 古民家の良い雰囲気がある廊下の突き当たりに、唐突にピカピカの真新しいドアが付いていていた。

入り口から男女で分かれていて、男子は向かって左側。


 中に入るとすぐに脱衣所になっていて、左側にトイレ小用4器、大用4器がある。脱衣所の奥がお風呂になっている。シャワーが5つと、でかい風呂だ。


「トイレ、きれい!」

「お風呂、広ーい!」

 女子が騒いでいる。


「すげえ、早く風呂入りたーい」

 男子も気持ちは一緒だ。


 一通り家の中を見て回って落ち着いた頃、神宮寺先生はみんなを集めて一斉に掃除を始めさせた。掃除の基本は上から下へ、内側から外側へということで、ハタキを掛けてホウキで掃いて雑巾がけをする。


 さて。忘れたふりをしていたが、実はこれは最重要ミッションの始まりでもあった。

 それはつまり、掃除をしながら4組以外のクラスの人たち全員と、話さないといけないのだ。気がつけば、他の4組の人たちはもう既に、他のクラスの人とそれぞれ話しをしている。


 そしてオレは、すっかり忘れていたのだ。自分が人と話すのが苦手だったということを。初対面の人と話すことを嫌だと思ってしまうオレって、ホント、ダメ人間だ。


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