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1週間目 水玉さん、再び

 今日の水玉さんは、赤地に黄色の水玉の派手なネクタイだ。

 何か、気合いを感じる。


「さて、皆さん1週間ぶりですね。


 クラスの皆と毎日しっかり話していますか? 1週間経ったのでだいぶ慣れて、全体的に落ち着いてきたのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?


 私のところには、各学校からいろんな報告が寄せられています。


 初日には女子と全然話そうとしなかった一人の男子が、皆の前で女子全員と話すはめになったとか、そういう報告が高学年でチラホラありました。


 やはり、高学年だと思春期に差し掛かっていたり、反抗期だったり、難しいお年頃なので大変だったみたいです。


 また、3日目くらいまで全く話せない子もいたようですが、とりあえず返事をすることで徐々に慣れてもらったり、会話を引っ張り出すのが上手い子がいたりして、各学校、今のところそれぞれがんばってくれている様で、大変嬉しく思っております。


 と、いうわけで今日は学校改革の〈学習面〉について、話をさせていただきます。


 私の言いたいことが、なるべく、ちゃんと皆さんに伝わる様に頑張って話しますが、これから私が話す内容は、常識のある人ほど理解し難い内容です。


 それを踏まえて、頭をやわらかくして、話を聞いて欲しいと思いますので、よろしくお願いします」


 水玉さんは、肩を上下して、首をぐるりとまわし、一回、深呼吸をした。気合を入れ直している感じだ。


「さて。以前、私が初めて皆さんに話を聞いていただいたときに、未来では今の時代をどう呼ばれると言ったか、覚えている人はいるでしょうか?


 それは、『精神低迷期』です。


 現代は、物理的なテクノロジーはどんどん発達しているのに精神面の発達が置き去りにされていると、そして、未来に向けてその精神性を高めていきたいという話をしました」


 あ、それって、オレが聞いていなかったヤツか? そんなことを言っていたの?

 今の時代を『精神低迷期』だって……?


 ちょっと待て。

 確かネットでは、この国は『民度』というヤツが高くて、海外でいろいろ褒められていたはずだけど? 

 水玉さんは、それを全否定しているということなのか?

 一体、何を言っていたの? 今になってスゴイ聞きたい……


 水玉さんは、机の上で両手の指を交互に組む格好で話しを続けた。


「その『精神低迷期』の原因は今の学校教育にあると、私は考えています。


 何故、『精神低迷期』の原因が今の学校教育にあるといえるのか。ではまず、今の教育体制がどういうものか、改めて確認してみましょう」


 水玉さんは、1枚のフリップを持ち上げた。そこには、今現在の学校教育の当たり前な流れが書かれていた。


「まず、皆で一緒にいろんな教科のお勉強をします。

 教科書で習ったことをたくさん理解して、とにかくたくさん覚えることが最重要課題です。

 テストをして、どれだけ身についているか確認をして、成績表を渡されます。

 そして、その成績に見合ったレベルの学校を受験して、それぞれのレベルの学校に進学して、卒業して、そして就職します。


 間違っていませんよね?」


 水玉さんは、テキトーに指さしながら説明をすると、フリップをパタンと伏せた。


「私は、今の教育体制は、未来には『無個性教育時代』と呼ばれると考えています。


 つまり現代社会は、『無個性教育による精神低迷期』なのです。では、『無個性』とは、どういう意味か。説明します。


 まず皆で同じお勉強をします。ここは、良いです。皆が平等に同じ教育を受ける権利がある、ということですから。教育は、大事です。


 そして、テストをして、成績をつけて、優劣をつけて、そして卒業させる。


『自分は優秀だ』という優越感を持って卒業する生徒と、『自分はお勉強ができないダメな人間だ』という劣等感を持って卒業する生徒。それを見送る教師」


 水玉さんが両手をパッと広げた。


「たぶん今、皆さんは今のくだりを当たり前だと思って聞いていたと思います。


 しかし私は、まずここで、間違っていると思うのです。


 義務教育に於いて、生徒が『自分はバカで、ダメな人間だ』などと思いながら卒業していくなんて、本来あってはならないことだと、私は思います。


 しかし、現実は全国で大勢の生徒達が、自分の尊厳を失い、『自分はお勉強が出来ないダメな人間だ』と思いながら、間違った劣等感を抱いたまま、卒業して行くのです。


 そしてその劣等感は、生涯に渡って取り払われる当てすらありません。


 ここで勘違いをして欲しくないのが、今、私が言わんとしていることは、『かけっこをした時に皆で手を繋いで一緒にゴール』をすることとは、根本的に違います。


 かけっこは、速い子がいて、遅い子がいる。お勉強も得意な子がいて、苦手な子がいる。それで良いのです」


 水玉さんが、一口水を飲んだ。


「『不良』と呼ばれる生徒がいます。


 彼らはだいたい、成績が悪い生徒達です。彼らのような生徒が現れるのは、私は自然なことだと思います。


 自分の得意分野ではないお勉強で、成績が悪いと評価され、お勉強が得意な生徒達に見下され、『ふざけんなよ、やってらんねーよ』と、なるのは至極当然で、私としては、彼らはとても素直な存在だと思います。


 私は、彼らが世の中に現れたのは時代の自然な流れで、その時点で、教育を一旦、見直してもよかったのではないかと考えています。


 しかし、社会は教育を見直すのではなく、彼らの存在を否定し、叱りつけ、落ちこぼれと呼んで排除することしか、してきませんでした。


 そうやって、義務教育の場において、自分自身を全く評価されず、否定されっぱなしで落ちこぼれの烙印を押されたまま社会に放り出された人間が、どんな大人になるでしょうか。


 その結果が、今の『精神低迷期』社会だと、私は考えるのです」


 ここで、水玉さんは猫背だった姿勢を正して、背筋をのばし、少し、笑顔になった。


「しかし、中には『不良』とはまた別な、学校側が強制する社会の価値観に振り回されない、強い意志を持った生徒達がいます。


 独自の考えで上手いこと現実逃避をすることができ、学校側が考えるのとは違う、別な種類の頭の良い生徒や、お勉強以外のやりたいことを見つけてそちらに全力投球し、そのまま将来の仕事につなげることができる要領の良い、逞しい生徒達です。


 彼らはとても貴重な社会の潤滑油の様な存在で、あらゆる分野で自分の意志を貫いて活躍されています。とても、有難い存在です。


 しかし多くの生徒は素直、且つ従順で、幼少期から親に言われるままに塾に通い、お勉強ができることが人としての一番大事なことであると信じて疑うこともありません。


 だって、親にも、先生にも、世間にも、皆にそう言われながら育てられているのですから当然です。


 なので、お勉強ができる子は褒められ続けて増長し、不得意な子はストレスを溜め続けるばかりです。


 戦後の大変な中から今の教育制度まで立ち上げたのは、本当に素晴らしいと思います。


 しかし、あれから何十年も時は経っているのです。


 時代も環境も変わっているのに、教育方法を見直すどころか、逆に、更にお勉強内容は複雑化し、海外の教育にまで振り回され、子供の負担が増えるばかりで一向に改善される様子が見られません。


 学校の成績を上げるために親が躍起になってしまって、小学生の頃から塾に行くのが当たり前になってしまって、学校から帰っても遊びに行く暇もありません。


 そして、塾では学校より進んだ授業を受けて、学校の授業は簡単すぎてつまらないとか、全く意味のない優越感を持ってしまったり、訳の分からない劣等感を植え付けられたりしているという話も聞きます。


 子供たちの間でも、お勉強ができる人が一番素晴らしく、人間としての価値がある存在であるという考え方が当たり前になっています。


 間違った方向に進んでいるのに、そのことから目を逸らし続け、その挙句それが常識と化してしまった社会。


 間違った常識に支配された、とても残念な社会になってしまっていると、私の目には映るのです。


 私は、今の子供たちは可哀そうだと思っています」


 おっさんは、ここで大きなため息をついて、コップの水を飲み干した。


「さて。


 では、私が考える『未来的教育制度』とは、どういうものか。そのことについての提案をしたいと思います」


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