01-07.元駐屯地司令、王宮へ行く
「おお、サエコ! 相変わらずそなたは美しいな」
謁見の間での正式な着任のあいさつを行う前に、ギスリム国王から別室に招かれて戸田冴子は歓待された。
「お戯れを。国王陛下に置かれましてもご健勝のことと存じ上げます」
「堅苦しい挨拶はのちほど謁見の間で受ける。しばし昔懐かしい話でもしようではないか」
「そうですか、では失礼して。王子時代からギスリム様は催し物をなさるのがお好きでしたね」
「大好きだな。国民が驚いたり喜んだりするのを見るのは」
ギスリムはアルコールの入っていない果汁飲料を小姓に運ばせてきて、冴子をテーブルの席に座らせた。
自らも対面して席につき、快活な笑みを浮かべた。
「あの時一緒に催しを司会した<竜殺し>が今では新国家の元首で、余と並ぶ立場になろうとはな。不思議なものだ」
「そうですね。タモツは一時的とはいえ今はあなたの部下となっていますし」
「タモツがカディールに行くと聞いて、そなたとタモツとの間が何やらこじれたとも聞いておったが?」
「お恥ずかしい。愚かな女が男の旅立ちを許せずに駄々をこねただけの話です」
「実に可愛いではないか。余にも嫉妬する女の一人くらいあってほしいものだ」
ギスリムは笑った。
「女といえば、余の娘たちが今年で13と11になる。誰かと婚約をさせても悪くはない年頃だ」
「私たちの世界の感覚だと、まだ早いと思われますが……」
「そうか? 実のところ余は王座に就くことは諦めていたので娘たちを従兄弟たちと結婚させる腹積もりもあった」
「やがて生まれるお孫様の後ろ盾として、権力を握ろうとお考えだったのですか?」
「直截に申せばそうだ。孫を新王として王座に据え、摂政にでもなろうかとな」
「それが、兄上様の突然死、続いて前王様の憤死、弟君様たちの辞退によってギスリム様に王冠が回ってきた……」
「それで話は戻るが、娘たちのことだ。いまさら弟らの子と婚姻関係を結んでも益はない」
「姫様たちご自身の意向はお伺いしていないのですか?」
「王家の女が婚姻の相手を決めるのに、当人の意向など無いも同じこと」
ギスリムは断言した。姫たちを権力の道具と考えることに微塵も疑問は感じていないようだった。
「それで、ギスリム陛下は姫様たちの婚姻相手にどなたを選ぼうとお考えなのですか?」
「イサ、バルゴサ、カディール、いずれかの有力貴族、王族も考えていたのだが、今は考えが変わった」
「と、申しますと?」
「自衛官だ。新日本共和国の自衛官に嫁がせて、トラホルン人と日本人の連帯をより強化する」
「!?」
冴子は驚いた。




