01-06.元駐屯地司令、王都へ行く
トラホルン王国の王都ボルハンにほど近い新日本共和国の飛び領地である、異世界自衛隊のカリザト駐屯地。
その駐屯地司令室――。
「外交武官?」
戸田冴子1等陸佐は方面から打診されたその役職名に、思わず聞き返した。
「なんだ、それは」
「新日本政府が新たにもうけた役職になります。外交官と駐在武官を一人が兼ねるということになります」
「外交と言っても、つまりはトラホルンとのパイプ役ということだな」
「そう理解していただいて結構かと思います」
方面から伝達事項を伝えに来た若い女性幹部がそう言ってうなずいた。
「わかった、ありがとう。そのお話お受けしよう」
「では、後日正式に方面から異動の命令が下るかと思います。よろしくお願いします」
女性幹部はきれいな退出要領で駐屯地司令室を出て行った。
「あのギスリム王と、ハジメとの間の伝書バトということか?」
やれやれ。あの二人に使われる立場になろうとは……。
思い切って断っても代わりは探せるのだろうが、タモツがカディールに旅立ってしまった今、冴子は正直寂しかった。
気軽な話し相手とはいかないだろうが、昔の自分を知っているギスリム国王と話せるならそれも良いと思った。
後任者に申し送りを済ませた後、駐屯地司令職を退いて数日の休暇を消化した。馬に乗って思い出のあるテモスという村を訪ね、王都ボルハンでもタモツといった場所を再訪してまわった。
沖沢タモツは、戸田冴子にとってかけがえのない存在だったが、恋人かというと、それはよくわからなかった。
なにしろ、相手はまだ7歳の転生者である。冴子も転生者ではあるが、もうこの世界に生まれ直してから29年が経過していた。
22歳も年上の女にいつまでも男がこだわっていられるものなのか、冴子には確信がなかった。
それでも、今はまだタモツが自分のことを思っていてくれるということを信じていたかった。
休暇を終えると冴子は方面に出向き、外交武官という新しい役職に着任した。名前の通り、外交をしつつも自分の身は自分で守れ、ということなのだと冴子は理解している。
カリザト駐屯地に隣接する官舎村と呼ばれる村で馬を買い上げて、王都ボルハンまで移動した後はそれを売却した。
「いつでもどこでも馬を返せるレンタル店があったら便利なのだがな……」
冴子はそうつぶやいて、王都ボルハンの中央通りの石畳を歩いて行った。
旧市街に入ると、やがて小高い丘の上に王宮の威容が見えてきた。




