01-08.元駐屯地司令、姫たちと出会う
「あなたがサエコ? 本当に美しい人ね」
と、第2王女のサルヴァ姫が歓声を上げて近寄ってきた。
第1王女のシーリン姫はその後ろで無表情をしてただ立っていた。
謁見の間で正式に外交武官としての着任の挨拶を述べたのち、戸田冴子1佐はギスリム国王からの伝言により、娘たちに会うようにと命じられた。
姫たちが暮らす後宮の一室に冴子は呼ばれ、そこにはすでに二人の姫君が侍女たちとともに冴子を待っていた。
バルゴサの血筋をあまり感じさせないサルヴァ姫は人懐っこい気性のようで、見慣れぬ日本人の女を相手にしても気後れすることなく、積極的に話しかけてきた。
冴子は元来人付き合いが苦手なたちで、なかでも子供の相手となるとどうしていいか分からなかったのだが、第2王女はするっと懐に飛び込んでくる気安さでいつのまにか冴子の緊張をほぐしてしまっていた。
対して、第1王女シーリンはどこか警戒するような様子で遠巻きにそれを見ているばかりだった。
冴子が自己紹介をして日本風に頭を下げてみても、
「知っておる」
とだけ言って、不機嫌そうな顔をした。
やや遅れてギスリム国王が入室してくると、二人の姫君は顔を輝かせて父に駆け寄った。
どうやらギスリム国王は娘たちにとっては良い父親として慕われているようだ。
「今日お前たちにサエコを引き合わせたのは、これからお前たちに日本語を覚えてもらいたいからだ」
ギスリムは唐突にそう言った。
「お待ちください、陛下。私は家庭教師としてこの王宮に派遣されたわけではございません」
「分かっておる。なにもつきっきりで娘たちに日本語を教えろと言っているのではない」
ギスリム国王は困ったような顔をして言った。
「市中にも日本語を教える教師は増えたが、トラホルン人の日本語教師では発音などを正確に教えるのに不安が残る。日本生まれの人間から見ておかしなところがあったら指摘してやって欲しいのだ」
「……承知いたしました。尽力いたします」
この世界のならいとはいえ、政略結婚の道具にされる姫たちの立場に戸田冴子は同情を覚えていた。
新日本共和国との同盟関係強化のために、娘たちをまるで賞品ででもあるかのように自衛官に与えようという考えには反発を覚えていたし、自分がその手伝いをするのかと思うと複雑な気持であったが。
「私たちは日本人の夫を迎える、ということですか?」
第1王女シーリンは聡明さの片鱗をうかがわせて、するどく切り込んだ。
「新日本共和国との関係を盤石なものにするために?」
「え!? 噂に聞く<竜殺し>みたいに、素敵な殿方がいるかしら?」
第2王女サルヴァはもともと日本人に関心が強かったようで、どうやら喜んでいるようだった。




