シーン10 智恵とアキラ。
風呂上がりの髪を乾かしながら、智恵はアキラ・ユーマと名乗るその男をしげしげと眺めていた。
もちろん普段着はもう身につけている。
アキラは咥えたタバコに火をつけず、その先端を指先でポンポンと弾いていた。
「そっか、いつの間にかあたしも眠っていたって事ね」
眠れずに風呂に入った時は、夢の中だったのだろう。
アキラはタバコの先をポン、と弾いて智恵に顔を向けた。
「あぁ、そういう事になんだろーな。
ここはお前らの言う妄想界、だからな」
タバコを咥えたまま器用に喋るアキラ。智恵は彼の存在によって、不思議な安心感を覚えていた。が、やはり腑に落ちない。
「ってゆうか。あんたは誰なのよ?
なんかうちのバカホーキとキャラかぶってるんだけど……」
アキラは唇に貼り付いたタバコを摘み上げ、軽く振りながら答えた。
「さっきも言っただろ? 俺様はアキラ・ユーマ。究極の大魔法使いだ」
「うーん、どっかで聞いたことあるのよね……その名前」
智恵は自分の記憶を掘り起こそうとするように首をひねった。
「んまぁ? 思い出せねーもんは思い出せるときに思い出せばいい。
……必要な時に限ってど忘れすることも多いけどな」
アキラはあっさりとそう言って、ひとつ苦笑した。
「で? 起きてるときの意識を保ったままでこっちに来るって事は、何か理由があんだろ?」
アキラの問いに、智恵は素直にうなずいた。
智恵の中で、アキラに対する警戒心が薄れはじめていたのだ。
「うん。実は……。
ある人、ってゆうか、ホーキ? を探してるの」
「ホーキ? んなもん、その辺に転がってんだろ。
……って、なんか特別なマジックアイテムかなんかか?」
アキラは興味があるのかないのか読めない表情で尋ねた。
「なんか、あたしが妄想した存在らしいんだけど……。
アキラ……さん? とおんなじような事言ってるのよね。
俺様は究極の大魔法使いだー! とかなんとか」
智恵が呼び方に困っているのを見てアキラは大笑いする。
「あはは!
つーか、さん付けとかめんどくせーし、アキラでいいよ。
それとも? 師匠~! とでも呼ぶか?」
ニヤニヤ笑っているアキラに、智恵は思いっきり毒づいた。
「そんなわけないでしょ!
なんか年上っぽいからさん付けしただけ!
……全く、魔法使いなんて名乗る奴はどいつもこいつも!」
ぷりぷりと怒っている智恵を、アキラは興味深々で見つめた。
「へー、ちび巨乳ちゃ……」
「ん!?」
智恵の眼光が、人を殺せそうなくらいに鋭くなる。
アキラは慌てて言い直した。
「いやいやお嬢ちゃん、魔法、嫌いか?
結構つえー魔力感じるけどな?」
智恵はツン、とそっぽを向いた。
「あたしは科学者! 魔力とか、そんなのあるわけないでしょ!」
「あはは、そうかー? 魔法使いってのは科学者なんだけどな?
魔法を使えるって事は、マナ物理学の博士号持ってるみてえなもんだしな」
ホーキングも言っていた『魔法は科学』。アキラも同じことを言っている。
だからと言って、智恵はそれをそのまま受け入れる事はできなかった。
「そ、それはわかるけど……。
でも! あたしは魔法なんて……!」
否定する言葉が弱々しくなっているのを、智恵は自覚していた。
「ふーん。なんかそんだけ魔法にこだわってるとこ見ると……。
嫌いとか言いながら、ほんとは好きなんじゃねーの?」
ニヤニヤ笑いながら、智恵の顔をじろじろと見つめるアキラ。当然智恵は聞き流せない。
「……ふざけたこと言わないでよ。あたしは……!」
「……でだ。そのホーキ、探すんだろ?」
智恵の言葉を遮って、アキラは話題を変えた。
「しゃあねえ、俺様も手伝ってやるよ。
俺様に似たホーキってのにも会ってみてえし、経験値入りそうなミッションだしな」
火をつけなかったままのタバコをゴミ箱に弾き入れ、アキラは立ち上がった。
「何言ってんのよ、そんなのいらな……」
智恵の抗議の声を無視して、アキラは智恵に言い放つ。
「ほーら喜べ!
この、超ウルトラスーパーグレートワンダフルエリートウィザードのアキラ・ユーマ様が、力を貸すって言ってんだぜ?
もう天にも昇る気持ちだろ?
まずは……どこだ? 物置あたりから探すか?」
「だから、話聞きなさいよ! 別にあんたの力なんか……」
「とりあえずそこら中ディテクションしまくるか?
つーか、ちび巨……いや、お嬢ちゃんの発明にないのか?
魔法のホーキ探し機とかさ!」
「そんなのあるわけないでしょ!」
智恵はアキラのペースに乗せられながら、それでも必死で反撃した。
「それにあたしは鷹城智恵! 変な呼び方しないでよね!」
「オーケー! んじゃ、とっとと捜索開始しますか、智恵お嬢ちゃん!」
智恵はまた、殺人級の鋭い眼光をアキラに向ける。
「その呼び方も……今度したら殴るわよ!」
「……すいません」




