シーン9 美佳のぼうけん。
お城の廊下にはコツコツという靴音と、美佳の声だけが反響していた。
「あぁ……どうしよう、智恵ちゃんとも連絡取れないし、あかりちゃんとも……。
ウォルフさん、どうしたらいいかなぁ……?
……あ、ウォルフさん探さなきゃいけないんだった!」
ハッと思い出して立ち止まる。何度繰り返したかわからないその流れ。だが、本人は繰り返していること自体気付いていなかったかも知れない。
「えっと、まずは、ピアノの楽譜をなんとかしないと……」
何度も口にした言葉をまた繰り返した時、美佳の背後から笑い声が聞こえてきた。
「うーーーっふっふふふう、……ふう」
「あ! あなたは!」
美佳が振り返るとそこに立っているのは仙狸だった。
「うー、やっぱりうふふの高笑いは難しいよぅ……。
あ、ええと、こんにちはー!」
「こんにちはっ!」
二人は緊張感の全くない挨拶を交わす。しかし、仙狸にはやはり言いたい事があった。
「こないだはよくもやってくれた……けどー。
何か困ってるの?」
前回の文句を言おうとしたが、困っている風の美佳が気になって忘れてしまう。
「うん、舞踏会の後に弾くピアノの楽譜を忘れて来ちゃって……。
あかりちゃん達とも連絡取れないし、ね、ウォルフさん。
……あ、ウォルフさん探さなきゃいけないんだった!」
美佳が何を言っているのかわからない。
本来なら混乱する筈のところだが、仙狸は、まぁいっか、と流していた。と言うより、普段からあまり何もわからず合わせているタイプなのだ。
仙狸は同情の顔で、美佳に話を合わせる。
「い、色々困ってるんだね-。
うんとー、楽譜ならこのお城にもあるよー?」
「ほんと? 助かったぁ~。
どこのお部屋にあるか知ってる?」
「うん。えっとねー、この廊下の突き当たりの階段を上っていくと、塔になってるんだけど、その一番上の階の部屋に楽譜棚が置いてあるんだってー」
美佳は仙狸の親切に感激して、仙狸の両手を握った。
「そうなんだ、ありがとう! 行ってみるね!
行こ、ウォルフさん!
……あ、ウォルフさん探さなきゃいけないんだった!」
「じゃあじゃあ、ウォルフさん? 探すのはあたしも手伝ってあげるから、楽譜取りにいっておいでー!」
「うんっ!」
美佳は素直に返事をして塔を目指して歩き出す。
その背中に、仙狸が心配そうに声をかけた。
「あ、それから、途中に狼が出るかも知れないから、気をつけてねー!」
城の中で狼もないだろうが、美佳はそれも素直に受け止めて、仙狸に手を振った。
「うん、わかった、ありがとう~!」
くるりと踵を返して走り去る美佳を見送って、仙狸は楽しそうに笑う。
「ふっふっふー、これで一丁上がりーっ!
うーっふっふっふふー!」
仙狸の後ろの曲がり角から、中世風の男が出てきて、美佳の走って行った廊下を眺めた。
「よーし、狼ちゃんも出動ー! あはははははははー!」
男は笑いながら、美佳の後を追い、走り出した。




