シーン6 その頃のディスペアー
狐仙の庵。
悟空は今後の動きについて指示を与えるため、狐仙シスターズを召集していた。
「さて……。あのねーちゃん達がこっち来たみてえだな」
「そうですわね、悟空様」
「きたきたー!」
狐仙シスターズの表情には一片の怯懦もない。むしろついに全力でMSガールズに対峙できるという期待が、全身から満ち溢れていた。
「では、作戦のご指示を……!」
黄仙が促すと、悟空は三人の顔をぐるりと眺め、話し始めた。
「そうだな。
あのねーちゃん達の妄想力は半端ねーし、迂闊にあっちの妄想領域で暴れたら何が起こるかわかんねえ。
だからまずは、どんな夢を見てんのか、調査だ。
お前達はそれぞれの夢の中に侵入して、調べてこい」
狐仙シスターズは顔を見合わせた。折角の任務が、調査だけとは物足りないのだ。
悟空は少し苦笑して、言葉を続けた。
「そんなに残念そうな顔すんな。今回お前たちには、卑弥呼様から預かった三人の刺客を補佐につける。
調査もそいつらに手伝わせればいい。
あいつらの妄想領域をきっちり見極めれば、倒すのは簡単だろ?
まずはきっちり調査しとけ。引っかき回すのは、それからだ!」
三人の顔がぱぁっと明るくなった。
「かしこまりましたわぁン、悟空様ン」
「お任せ下さいませ、悟空様っ」
「うん、わかった、大聖様ー!」
いそいそと準備を始める狐仙シスターズ。
悟空はもう一つため息をついた。
「……仙狸、お前いい加減に呼び方覚えろ」
「うん、わかった、大聖様ー!」
同じ頃。アラジンもまた、MSガールズの襲来を前に、部下を召集していた。
まず先鋒として悟空たちが迎撃に向かう事になったが、苦戦となればすぐにアラジン達にも出撃の命が下る事になる。常に万全の準備を整えておかねばならなかった。
「……準備は整ったか?」
アラジンは大声で呼びかけ、しばらく待つ。が、返事はない。
「……準備はできたのか?」
しばらくの、間。
「……準備出来ているのか!?
コードネーム・ジン!!」
「ハイハァ~……」
食い気味に、野太い男の声が響こうとしたその時。
「……と思ったが!
ジニー、奴らの妄想界侵攻に対する準備はどうだ」
「ハイ、アラジン様」
素直に答えるジニー。明らかに、娘とコミュニケーションを取った方が万事円滑だった。
「むはー! しどい! しどいのですアラジン様!
このコードネーム・ジン、必死の思いで満を持しておりましたものを……」
「ご命令通り、あの方にご協力を依頼して参りました!
少し時間はかかるそうですが……必ず助太刀に来て下さるそうです!」
涙目の父親を完全に黙殺して話を進めるジニー。有能である。
「ご苦労。そうか……やはり時間がかかるか……」
アラジンは、それでも焦りを感じてはいなかった。助太刀を要請した親友は、妄想界の中でもかなり大物の部類に入る。万全を期すためにも、彼の到着を待つつもりだった。そのために先鋒を悟空に譲る事になったのは癪だったが、それでも最後に勝つのは自分であると信じていた。
卑弥呼の用意した刺客は悟空にあずけられたそうだが、見ず知らずの者を戦力に組み入れて、うまくいくはずがないのだ。
と、アラジンが考えている間に、ジンはハイテンションでぶつくさ言っていた。
「おお、我が愛娘ジニー、冷たすぎるのだよジニー。
アラジン様と二人して父を完全無視とは、泣けてくるのだよ、よよよよよ……。
こうなったら父一人でもやってみせるのだよ!
ハイハァ~イ♪
天知る地知るお味噌汁♪ 豚汁ブラジルアルゼンチン♪
皆様おー待ちかねの~!
コードネーム・ジン! 満を持して! 今! 参上!!」
「あ、それからアラジン様、サルの方も動き出すようです。
私たちも……」
ジニーは出撃したくてうずうずしていた。無論悟空に対する敵対心も強かったが、前回狐仙シスターズに辱められたことも、大きな原動力になっていた。
悟空たちに手柄なんか立てさせてやるもんか、とジニーは誓っていたのだ。
「あぁっ、どうしたのだ愛娘ジニー。いつものようにツッコんでおくれジニー。
突如反抗期の方向性を変化させるとは、高等手段過ぎるのだよジニー。
てゆうか、たった5歳で反抗期とは、ハイグレード過ぎるのだよジニー」
「いや、もう少し様子を見る。充分に情報を集めてからでも遅くはない。
助太刀が来るまでは、じっくりと腰を落ち着けて情報を集めるのだ」
「かしこまりました」
アラジンの指示に、ジニーは静かに従った。はやる気持ちはあったが、作戦というものがある。自分が作戦を乱すことで、却って目的を果たせなくなるという事を、ジニーはたった5歳で理解していた。
「ところで……」
アラジンが話題を変えた。
「例のメモ帳は、筆跡に乱れがあったが……詳細なデータ収集、ご苦労だった」
「あ、あれは……」
ジニーの目が泳ぐ。あのメモ帳は、ほとんどが狐仙シスターズによって書き込まれたものだ。
筆跡の乱れなどではなく、書いたのが複数人だっただけなのである。
「な、なんと、ジニー、父にも内緒の特命を受けて、しかも既にミッションコンプリート!? なんと優秀な娘なのだジニー!
父はなんか……どんどん寂しくなってくるよ……」
「えっと、あの、あの情報はなんの役に……?」
ジニーは尋ねた。あんな辱めを受けてまで収集した情報だ。その重要性だけでも知っておきたかった。
アラジンは慌てて咳払いする。
「ま、まぁ、お前は、知る必要はない。
コードネーム・ジン、ジニー。いつ出動命令が出ても良いように、準備を整えておけ!」
「は……はいっ!」
「ハイハァ~イ♪
……さ、最後まで相手にしてもらえなかった……。
先行きが不安なのだよ……とほほほ……」
その頃。神託の間を出ていく三人の影があった。
「なるほど……。そういう事か……」
「へー? つまり、俺様の出番っつーワケだ……!」
「あははははははー!」




