シーン5 妄想界の三人?
妄想界に現れた富士宮あかりは、周囲を見回して途方に暮れていた。
周りの景色は見た事がある、と言うよりは既にお馴染みのものばかりだったが、どうもしっくりこない。
あかりは走り回って弧次郎を探した。
「えーと……いつも弧次郎さんとはどこで待ち合わせしてたっけ……?
……ん? そもそも待ち合わせなんてしてたかなぁ。
いつも気がついたら弧次郎さんと特訓してたしなぁ……。
そっか、特訓場に行けばいるかも!」
あかりは少し考えて、行く特訓場をセレクトした。
「まずは……滝!」
そう言った途端、背景が切り替わり、轟々と水音が響いてきた。
いつも特訓を行なっている滝だ。
ナイアガラ瀑布のような水量、そして数百メートルの落差を誇る、常軌を逸した滝である。
まさにあかりが『あたしのかんがえたさいきょーの滝』として妄想した滝だった。
だが、ここに弧次郎の姿はない。
「弧次郎さーん、いますかー?」
あかりの声は、轟く滝の音に虚しく飲み込まれていった。
「うーん、ここにはいないみたい。
……じゃあ、崖?」
あかりが次の特訓場をセレクトすると、背景が切り替わり、滝の音が消えた。
千メートルを超えるオーバーハングの崖。あかりの妄想した『あたしのかんがえたさいきょーの崖』である。
あかりはその上で弧次郎の姿を探したが、ここにもいない。
ひょうひょうと強風が吹きすさぶ。
「弧次郎さーん!」
あかりの声が虚しくこだました。
「ここも違うか……。
やっぱり氷山だ!」
背景が切り替わり、びょうびょうと吹きすさぶブリザードの音が支配した。
巨大な氷山が視界を埋め尽くす極寒の世界。『あたしのかんがえたさいきょーの氷山』だ。
「弧次郎さーん!
……うーん、やっぱり呼び出すか待ち合わせるかしてたかなぁ……。
よぉぉし!
……でろぉ~~~~! 弧~~次~~~郎~~~~!!」
力の限り弧次郎の名を叫び、指を鳴らす。なんかのアニメで影響されたのだろうか。
あかりの声と指の音がこだまして消えると、後にはブリザードの音だけが残った。
「……寒い……」
その頃。那須野美佳は狼狽えていた。
西洋風の城内。美佳自身、中世ヨーロッパ風のドレス姿で廊下をうろうろと歩き回っていた。
「あぁぁ、どうしよう、楽譜忘れてきちゃった……。
舞踏会の後にピアノの独奏をしなきゃいけないのに……。
暗譜、出来てたっけ……?
あぁ、王子様もご覧になるって言うのに……。
ねえウォルフさん、どうしよう?」
ちょっと設定がよくわからない独り言をつぶやいて、美佳はあたりを見回した。が、ウォルフの姿はない。
「……あ、ウォルフさん探さなきゃいけないんだった!」
はっと気づいて、また考え出す。
「そのためにもまずピアノ独奏を成功させなきゃ……。
楽譜、今から取りに帰っても間に合わないよね……。
お城から家まで馬車で二時間……。
あ、快速に乗れば一時間半でいけるかも! お城なんだから快速は止まるよね!
どう思う?ウォルフさん」
もちろん、ウォルフからの返事はない。
「……あ、ウォルフさん探さなきゃいけないんだった!
パパ、車で楽譜持ってきてくれないかなぁ……。
あ、携帯持ってきてるんだった、頼んでみよう!」
真新しいスマホを取り出して、父親の携帯を呼び出すが……。
「出ない……。
あ、そうか! この時代はまだ電話ないもんね……。
ねぇねぇウォルフさん、
……あ、ウォルフさん探さなきゃいけないんだった!
あ、そうだ! 智恵ちゃんに相談してみよう……!」
今度は智恵の番号を呼び出した。
呼び出し音が続く。
その頃、鷹城智恵は……。
「こーじーろー……寒い……」
あかりの寝言。そして、突然鳴るスマホ。
「智恵ひゃんお願い、れて……」
「よく言うだろ? 『泣く子と教頭には勝てぬ』と……」
智恵は、三人の寝言とスマホの着信音に囲まれていた。
「……眠れない……」




