シーン8 @現世界某所
狐仙シスターズは、あらためて作戦を再開しようとしていた。
捕らえたジニーはロープを巻かれ、給水塔にぶら下げられていた。
狐仙はウンディーネが入った水筒を軽く振って、二人の妹分に顔を向けた。
「さぁて? そろそろ最終段階、いってみようかねえ?」
「いってみようかねー!」
仙狸がバンザイして喜んでいる。
黄仙は、仙狸のすぐ横にぶら下げられたジニーを見て、狐仙に尋ねた。
「姐様、あのガキんちょはどうします?」
「いいよ、そのままで。あのままつる下げとけば手も足も出ないだろ」
狐仙はあっさりと答えた。
仙狸はすぐ横にぶら下がっているジニーをハッと思い出して、ジニーをぐるぐる回したり、思いっきり押して揺らしたり、と、なかなかえげつない遊びを始める。
「ぐるぐるまきー! みの虫みの虫!」
「ちょ、ちょっと! 揺らさないで下さいっ!」
ジニーの抗議も聞かずにはしゃぎ回る仙狸。
黄仙は面白くなって、仙狸をからかった。
「タヌ子、なんかどんどん頭悪くなってない?」
その声にピタッと止まった仙狸は、黄仙を指さし、頬を膨らませる。
「あーーー! タチ姐、またタヌ子って言った!
ネコだもん、あ、にゃー!」
「あーもういいから! とっとと始めるよ!
タチ、ネコ、そのフタを開けな!」
苛立った狐仙がビシッと叱咤すると、二人は声を揃えて返事をした。
「了解ですっ!」
「はいにゃー!」
今ひとつちゃんと揃わなかった返事の後、二人は給水塔の上に飛んで、タンクの蓋をぐいっと開ける。
水筒の蓋を開けた狐仙が蓋のそばに立ち、水筒の中に溜めていたウンディーネを、タンクの中に注ぎ込んだ。
「ふふふ……。これでよし。ウンディーネが水を取り込むまで……」
「取り込むまでー!」
狐仙はにまーっと笑って、給水塔から飛び降りた。
「ガキんちょの持ってたメモ帳、とっくりと見せてもらおうかねえ?」
「もらおうかねー!」
仙狸と黄仙も飛び降りてきて、にんまりと笑う。
「や、やめて下さい!まだあたしほとんど何も書いてないですしっ!」
「書いてないならいいじゃないか。え?」
狐仙はニヤニヤ笑いながら、仙狸から手帳を受け取った。
「それでは、チェックターイム!」
「やったー!」
大喜びの黄仙と仙狸。ジニーは狐仙を睨みつけてわめいた。
「そんな事したら、アラジン様に言いつけてやるんだからーっ!」
睨みつけるジニーの目の前で、狐仙はメモ帳を開く。
「あぁら、あたしたちの事ずいぶん調べてくれちゃってるじゃないか。
うーんなになに?
リーダー狐仙。推定スリーサイズ93(F)、60、87?」
「すごい、当たってるー!」
仙狸はびっくりして飛び上がるが、狐仙は鬼の形相で否定した。
「何言ってるんだい! あたしのウエストは59だよ!」
狐仙がぷりぷりと怒っている中、黄仙はメモ帳を覗き込んで首を傾げた。
「姐様のデータだけ妙に詳しいですわね……?
あたし達とはメモの字も違うし……」
「ほんとだー!」
仙狸がつま先立ちで覗き込む。
狐仙は面白がって続きを読み始めた。
「そうだねぇ。黄仙は……?
ナンバー2、黄仙。イタチの妖怪。細っ! 胸でかっ!
……これだけかい? お嬢ちゃん?」
ジニーのほっぺをつっつきながら、狐仙は舌なめずりする。このちょっと気の強い幼女を気に入ったようだ。
ジニーは、そんな狐仙の気分には全く気付かず、必死に言い返す。
「うー、あたしには見ただけでサイズとかわからないですもん!」
「へー、じゃあこのあたしのサイズは誰が書いたんだろうねえ?
あんたのボス、見かけによらず……」
狐仙が意味ありげに含み笑いするのを見て、ジニーは慌てた。
しまった、これじゃアラジン様が誤解されてしまう。なんとかしなきゃ。
でも、この任務は、どうしてこんな内容なんだろう……?
「あ、アラジン様は……え、えろじゃ、ない、もん! ……と、思います、けど……」
しどろもどろになって目を泳がせるジニー。
「へえ~、ほんとにそうかねぇ?」
「姐様だけでなく、あたしたちのサイズまで調べさせて、一体何に使うのかしらぁ?」
狐仙と黄仙が左右からジニーのほっぺをつついて、意地悪く微笑む。
その隙に、仙狸はメモ帳に自分の情報を見つけた。
「えっとーぉ、最後の一人仙狸ちゃんはー。
仙狸、タヌキの妖怪。背が低くてぽっちゃり系。
……タヌキじゃないもん! ネコだもんっ!」
全力でクレームを入れる仙狸に、ジニーは左右のほっぺをつつかれながら経緯を説明する。
「え、でも、名前に狸って字が入ってますし……」
「この狸って字は、山猫って意味なの!!
ネコだもんネコだもんネコだも……にゃー!」
地団駄を踏んで言い返す仙狸の頭に、黄仙はぽん、と手を置いた。
「はいはい、タヌ子、わかったから」
頭に手を置かれたまま、仙狸は地団駄に両手をバダバタ振り回すのを追加した。
「タチ姐までタヌ子って言った!
キツ姐、みんなひどいよぉ~~!」
仙狸がバダバタと騒いでいると、給水塔のタンクから、ザバーッと水音が響いた。そして。
フーン……フーン……フーン……。
ウンディーネから発せられる、規則的な高音が聞こえてくる。
狐仙は待ちかねたとばかりに声を上げた。
「よぉしウンディーネ、来たようだね。
作戦第二段階、開始だよ!
ウンディーネ、人間どもを恐怖の底に追い落としてやりな!」
給水タンクから姿を現したウンディーネは、大きくその身体を伸ばした。
フーン……フーン……フーン……。
発する音を強めながら力を溜めると、ウンディーネは一層強い音を響かせた。
フーーーーーーーーン……!
非常ベルが鳴る。




