シーン2 朝の生徒指導室。
朝。MSガールズは、水上によって始業前の生徒指導室に集められていた。
「さて、例のウンディーネへの対策だが……
富士宮はどうした?」
水上は智恵達を見回した。智恵と美佳は来ているが、あかりがいない。
「あかりちゃんは、朝練してます!」
美佳の答えに、水上は首をひねった。
この時間、確かにグラウンドでは運動部が朝練をしている。しかしあかりが運動部に所属しているなどという話を、水上は聞いたことがなかった。
「朝練……?」
「一人で、無心で剣を振りたいのだろう。自分の答えを見つけるために」
突然弧次郎の映像が空中に浮かんだ。
水上は驚いた。あかりがここにいない以上、弧次郎がここにいるはずはない。
「弧次郎? 何故ここにいるんだ?」
「あ、私があかりちゃんから携帯預かって来てるんです。
朝ミーティングに、弧次郎さんも参加するようにって」
美佳がそう答える間に、ウォルフとホーキングの映像が現れた。
「なるほどな。それならミーテングを始めるか」
水上が全員を見回すと、ホーキングがまず口火を切った。
「とりあえず、敵味方の状況をまとめて、作戦はそっからだな」
「そうですね」
ウォルフがうなずくと、全員がホーキングを見た。
敵――ウンディーネについて一番詳細に知っているのが彼だという事を、誰もが認めていたのだ。
ホーキングはすーっと息を吸って、話し始めた。
「まず、ウンディーネっつーのは、地水火風の四大元素の一つ、水の精霊だ。
本来魂も性別もない存在なんだが、女の精霊とされているな。
で、人間の男と結婚することで魂を持てるんだが……もしその男が裏切ると、ウンディーネに殺されて、ウンディーネも魂を失っちまう。
その際に使うのが『眠ると死に至る魔法』ってわけだ」
「ふむ……また『眠り』に関する能力か……」
水上が腕組みをして考え込む。
「そう言えば、前の鵺も、人を眠らせない作戦だったもんね」
「最初のバクも、人を強制的に眠りに落として夢を食べていたわ」
美佳と智恵が、今までの敵を思い出しながら言った。
「眠りが関係なかったのはひょうタンの時だけだね」
美佳は携帯に付いている黄色いひょうたんのストラップを指でつつく。
「そうですね……。妄想界の力の源は、人間の夢や空想などですから……。
眠りに関する敵が多いのも当然かも知れません」
「しかし、ウンディーネがその魔法を使っている様子はない。
ホーキング、他に特筆すべき能力はないのか?」
水上は情報を反芻しながら、ホーキングにたずねた。
「まぁ、魔法使いとしての見地から言えば、ウンディーネは水の精霊だから、水系の魔法は一通り使えるだろーな。水を操るのもお手の物だろう。それから……」
ホーキングはそこで一旦言葉を切り、弧次郎に視線を向けた。
「なんだ……?」
ホーキングは弧次郎に視線を向けたまま、彼に答えるように言った。
「ウンディーネの身体は、水の特性を備えてる。つーか、水そのものと言って良い。
つまり、刃物で斬ることは、出来ねぇ」
ホーキングが言った、決定的なその言葉にも、弧次郎の表情は変わらない。
「なるほど。是が非でも、万斬刀をあかりのものにする必要があると言う事か」
ホーキングはうなずいた。
「わりぃな。出来なければ、今回はレッドの力は役に立たねえ。
レッド抜きで作戦を立てる必要がある」
弧次郎が完璧なポーカーフェイスでホーキングにうなずいた時。
「あれ……?」
突然美佳が声を上げた。
「お嬢様、どうしました?」
「うん。あのね、水は斬れないけど、氷なら斬れるよね……?」
美佳の提案に、ウォルフが身を乗り出す。
「なるほど……。一度ウンディーネを凍らすことが出来れば……!」
だが水上は冷静だ。
「しかし……それほど大量の水を一気に凍らせることが出来るのか?」
「一気に凍らせるのは難しいですね。あたしの計算によれば。
温めるより冷やす方が難しいんです。
それに、凍らせて斬る方法にはいくつか問題があるし……」
智恵が少し考えながら言った言葉に、ウォルフは引っかかった。
「問題……ですか?」
「そう。ウンディーネも闇の力で操られているんだから、その闇の力のコアがあると思うんだけど……。
それがもしウンディーネと一体化して水の特性を持っているとしたら、一旦斬れても、融けて液体になってしまえばまた再結合する可能性が高いわ。
もう一つ。水であるウンディーネを斬ると言う事は、二つに分けると言う事。
それぞれがウンディーネとして分裂する可能性も否定出来ないと思う」
智恵が喋り終わるとホーキングは引き継ぐように喋り出した。
「まぁ、凍らせる方法はないわけじゃねぇ。冷気の呪文ってのもあるからな。
ただ、俺様にはそれが使えねえ。このチビが呪文唱えればあるいは……とは思うがな。
ただし、凍らせて斬ったとしても問題があるってのは、チビが言ったとおりだ」
「何よえらそーに! あたしが魔法の呪文なんて唱えるわけがないでしょ!」
即座に噛み付く智恵に構わず、水上はゆっくりとうなずいた。
「なるほどな……。
そうすると……是が非でも富士宮に頑張ってもらうしかないわけか……」
「あかり様の状況はどうなのです? 弧次郎」
ウォルフが弧次郎に問いかけるとホーキングが割って入った。
「まぁ、昨日今日で出来るようなもんでもねえだろ、気にすんな」
珍しく優しい事を言うホーキングに、こちらも珍しく智恵が同意した。
「そうね。何とかする方法は必ずあるはずだわ。あたしの計算によれば!」
「智恵ちゃんがそう言うんだから、間違いないよ!」
水上は大きくうなずいた。
「そうだな。そのための作戦ミーティングだ。
しかし……敵が水そのものだとすると、やっかいなことにはなりそうだな」
水上の懸念は、ホーキングも同様に抱いていた。
「まぁな。敵ながら良いところに目をつけたもんだぜ」
「どういう事……?」
首を傾げる美佳に水上が答える。
「水って言うのはとても特殊な物質なんだ。この地球上の生命は、水の特殊性故に存在出来ていると言っても良い」
「確かに……」
納得してうなずく智恵。
美佳は頭上にハテナを浮かべながら首を傾げていた。
「えっと……??」




