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夢幻戦隊MSガールズ  作者: 硫化鉄
第七話 「どきっ☆女だらけの水泳大会♪・前編」

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シーン9 @水上先生の家

 氷だけが残ったグラスは水滴をまとい、曇っていた。

 あかりがその水滴を指でなぞると、指の下で育った大きなしずくが流れ落ちる。

 グラスの底には、僅かに残った白い液体が薄まっていた。

 カラン、と氷が崩れる涼しい音が鳴る。

 あかりは黙ってそれを見つめていた。


「少しは落ちついたか……?」


 あかりのグラスにカルピスを3センチ注ぎ、水上はあかりに問いかけた。


「はい、長官……」


 あかりの目の前でグラスにミネラルウォータが注がれていく。


「でも、弧次郎さんに見捨てられたあたしに、出来る事なんてあるんでしょうか……」


 氷の音を立てて、ストローでかき混ぜるあかり。その水面を見つめながら、あかりは呟くように言った。


「見捨てられた? さっきも言っていたが、何故そう思うんだ?」


「だって、あたしとじゃ必殺技もできないし、弧次郎さんに聞かれたことにもちゃんと答えられないし……。

 それで弧次郎さんは妄想界に帰っちゃったから……」


 あかりはカルピスをかき混ぜながら、放心したようにその水面を見つめ続けていた。


「ふうん。私はそう思わないけどな」


 そう言って、水上はカルピスの瓶を持ってキッチンへ消えた。


「え……?」


 あかりは顔を上げ、水上が消えたキッチンに視線を向けた。

 視線の中でキッチンから戻ってきた水上は普段と全く変わらない顔だった。


「弧次郎がいると、富士宮は弧次郎に頼ろうとするだろう?

 特訓を見てもらい、わからない事があると意見を求め……。

 富士宮は、常に弧次郎に解答を求めていたんじゃないのか?」


「そう……かもしれません……」


 責める口調でもなく、同情でもなく、普段と全く変わらない水上に、あかりは素直に答えていた。

 水上は小さくうなずいて、あかりの向かいの椅子に腰かけた。


「だから、弧次郎に質問されたときに富士宮はまともに答えられなかった。

 弧次郎は、富士宮に、自分で答えを見つけて欲しかったんじゃないのか?」


「自分で……答えを……」


 あかりは自分の心に染み込ませるようにつぶやいた。

 思えば、パートナーの弧次郎と出会う前から、あかりは常に『こういう時、マスクドガイ雷牙なら』とばかり考えていた。

 パートナーの弧次郎と出会ってからは、直接話を聞けるし確認もできる。より一層、自分で考えることから離れていたのではないか。

 今あかりは、その事に気付きかけていた。いや、心の奥ではすでに気付いていたのだろう。

 今あかりは、はっきりとそれを意識し始めていた。


「必殺技もそうだ。富士宮は弧次郎の必殺技をコピーしようと頑張った。

 その頑張りは認めるが……それではその技は富士宮の技にはならないだろう?」


「あたしの……技……」


 自分の技、なんてあかりは考えた事も無かった。

 マスクドガイ雷牙の技を練習して、特訓して、身に着けて……。

 雷牙の技があれば、負けるなんてことはありえないはずだった。

 雷牙の技さえあれば……。自分が努力して、その技を完璧に使えるようになれば……。

 ぐるぐると考えるあかりに、水上の声が響く。


「今まで富士宮は、弧次郎の技を二人で放とうとしていたわけだ。

 それではうまくいくわけがない。弧次郎の技ではなく、二人の技にしなくてはな。

 弧次郎はそう言いたかったんだろう。

 そのためには、富士宮、お前自身が自分の答えを見つけなくちゃな」


「あたしの、答え……」


 あかりはもう一度その言葉を繰り返した。

 自分で答えを出さなければならないのだ。

 だが、問いの意味すら計りかねている体たらくで、何の答えを出せるというのだろう。あかりにはわからなかった。

 水上は、あかりの目をストレートに見つめながら問うた。


「弧次郎は『何故剣を振るうか』と聞いたんだな?

 私も同じ事を富士宮に聞きたいな」


「それは……」


 あかりは言葉を飲み込んだ。その答えは、あかりの中に存在しないのだ。

 あかりは正直に水上に話した。


「敵を倒して、みんなを守るため……。

 でも、その答えじゃ弧次郎さんは『話にならない』って……。

 でも、あたしは……!」


 あかりの声が震えた。

 みんなを守りたい。それは嘘偽りのない本心だ。なのに何故それではいけないのか。

 あかりの心は出口のない螺旋に閉じ込められていた。

 水上はひとつ息をついて、もう一度あかりの目を見た。


「富士宮、弧次郎が聞いたのは『何故剣を振るうのか』だ。

 富士宮の答えは『戦う理由』であって、『剣を振るう理由』じゃないだろう?」


 水上の言葉が、あかりの心にひとつの波紋を生じさせた。


「え……?」


「那須野も鷹城も、戦う理由は同じだろう。

 しかし、お前達は三人とも戦い方が違う。

 富士宮は、何故剣を振るうんだ?」


「それは……」


 あかりはその問いに答えることができなかった。

 だがあかりは、無限に続く螺旋の中に、出口の気配があるのを感じていた。


「それが見えてきた時、はじめて富士宮は自分の技として、二人の技として、必殺技を生み出す事ができるんだと私は思う」


 自分の技。

 それまで考えた事もなかったその言葉が、あかりの心にこだましていた。

 それは、マスクドガイ雷牙のコピーではなく、MSレッドオリジナルの技という事だ。

 そのためには――。


「剣を、振るう理由……。

 ……わかりました、長官!

 っていうか、まだわからないけど……。

 必ず、見つけてみせます!」


 あかりの声に力が戻っていた。


 そうだ。あたしはマスクドガイ雷牙じゃない。雷牙になんてなれるはずもない。

 でも。

 でもあたしは、MSレッドなんだ。なら――。


 水上はあかりの目に光が戻ったのを見て、ふっと笑みを浮かべた。


「そうだな。答えは既に富士宮の中にあるはずだ。あとは、それに自分で気付けるかどうかだな」


「はい! 長官!」


 あかりはすっかりいつもの調子に戻っていた。

 まだ答えは見つからない。だが見つからない答えなら、見つかるまで探せばいい。

 水上はひとつうなずいて、立ち上がった。


「うむ。

 さて……富士宮、ちょっと外に出かけないか?」


「え……?」


 きょとんとしているあかりに、水上は重ねて声をかける。


「いいから来い。家の中にいても、何もならないだろう?」


 あかりは勢いよく立ち上がった。


「……はい! そうですね!」


 二人が出て行った後、テーブルには氷が溶け切ったカルピスのグラスが、水面を揺らしていた。

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