シーン8 @妄想界某所
妄想界の片隅、廃墟のような城跡。
以前ホーキングが自らの魔力を取り戻そうとしていた場所で、弧次郎は剣を構えていた。
「……むんっ……!
……奥義……! 万斬刀っ! はぁぁっ!」
弧次郎の振るった剣が、残されていた巨大な石垣が真っ二つに切断された。滑らかな切断面がずれて、地面に倒れ込む。
「……ふぅ……っ……!」
溜めていた息を吐き出し剣を鞘に収めると、拍手が響いた。
「さすが……お見事ですね、弧次郎」
見ていたウォルフの賛辞。弧次郎は目を閉じ、言った。
「見せ物のつもりはないんだがな」
その声に非難の感情はない。
ウォルフの傍らで、ホーキングが笑った。
「相変わらずツレないねえ。
……しっかし、優等生のお前さんが、パートナーを突き放すとは思わなかったぜ」
「あかりにとって、必要な事だと判断しただけだ」
弧次郎は静かに、だがきっぱりと答えた。
「それはわかりますが……。しかし、言葉が少なすぎたのでは……?」
「……不器用なタチでな」
弧次郎はボソッとそれだけ言うと口をつぐむ。
ホーキングはふっと苦笑した。
「んでもまぁ、いんじゃね? 本人が、自分で気付かなきゃならない事だってあらーな」
助け舟を出すようにホーキングが言うと、ウォルフは納得したようにうなずいた。
「自分で気付かなければならない事……。そうですね……」
「レッドの技が、お互いの全力がぴったり一致しねえと成立しねえって事は……。
むしろあかりの方がメインにならねーとダメだろ」
ホーキングの分析は正しかった。弧次郎はうなずく。彼にはわかり切っていたのだ。
「その通りだ……。あかりが俺の動きをコピーしようとしている限り……」
「それによ、お前なら気付いてんだろ?
あの技は、ただの技だ。必殺技にはならねーって」
ホーキングは弧次郎を遮って言った。
現状認識はもういい。これからどう進んで行くのか。ホーキングは弧次郎にそれを求めていたのだ。
「そうです。お嬢様や智恵様の必殺技と違って……」
「わかっている……!」
無論それは弧次郎にもわかっていた。ブルーのXV=DaMも、イエローのイエローシャドウバインドも、智恵と美佳が主体となって放つ技だ。
変身者が主体となり、パートナーが全ての力を注ぎ込む事で、必殺技が完成するのだ。
レッドが使う奥義・万斬刀は、明らかにそれとは違う。
「そらそーだろな。
第一、あの技はマスクドガイ雷牙? だっけ?
お前の元ネタの必殺技だろ?
だからとーぜん、単に技をコピーしてるだけだってわかってんだろ。
あかりがアレを自分の必殺技にしちまうくらいの気力がねーと何にもならんだろうな。
だがあいつにはそれが出来ねえ。あいつはお前になろうとしてるからな。
単にコピーしようとすっから自分の物にならねーんだぜ?」
「確かに……」
ウォルフは納得して呟いた。
あかりの出発点、それがマスクドガイ雷牙であり、目指すヒーロー像そのものでもあるのだ。
あかりの戦闘スタイルも、思考も、全てが『自分がマスクドガイ雷牙になるには』に帰結してしまうのは無理もなかった。
「とにかくだ。作戦立てようにも、お前らの戦力がアテになるかどうかで全然変わってくっからな。
とっととケリつけてくれよな」
喋るだけ喋って、ホーキングは消えた。
弧次郎は無言で剣を握った。頭の中にあるもやもやを振り切るためには、まだまだ身体を動かしたりなかったのだ。
その様子を見て、ウォルフは微笑んだ。
「……あてにしていますよ、弧次郎。私も、もちろんホーキングも。
……と、わざわざ言うのは野暮というものでしたね。
では」
ウォルフが消え去ると、弧次郎は剣を抜いて構えた。
全く隙のない、文句のつけようがない構え。
だが、やはりそれは、飽くまでマスクドガイ雷牙の構えでしかなかった。
「わかっているのだ……。
あの技だけじゃない。まだ俺達が本当のMSレッドになれていない事も……。
だが……っ!」
瞬間、弧次郎の近くに転がっていた岩塊が両断される。
こんな時でも弧次郎の太刀筋には一片の乱れもなかった。
完璧な、マスクドガイ雷牙の太刀筋。
弧次郎は目を閉じ、無意識に、絞り出すように呟いていた。
「あかり……!」




