シーン6 決戦
ジニーは目に涙をいっぱいためてあかり達を睨みつけた。
昨夜の話をしたことで、リアルに思い出してしまったのだろう。
ジニーは手の甲でぐいっと涙をぬぐうと、両手を腰に当てて胸を張った。
「ふんっ!
もともと『一石二鳥』は、エネルギー集めと戦闘能力、両方を兼ね備えた鵺を選んだアラジン様の作戦です!
盗作しないで!」
「そ、それはそうかも知れないけど……っ!」
突然の断罪にあかりはたじろいだ。が、智恵は果敢に反論する。
「そんなの、バカホーキが勝手にやったこと! あたし達は盗作疑惑には無関係だわ!」
額に手を当て、水上はため息をついた。
「お前達、そこは問題じゃないだろう!
ホーキングが……」
水上のツッコミは、ジニーの絶叫によって遮られた。
「鵺! エネルギーはもうたまってるんでしょ!?
足りないなら早くためて、あいつらをやっつけて!!」
「ぎゃああああああ~~~す!
いくでー! おーーーたーーーけーーーびーーーー!!!」
ジニーの命に従い、鵺が最後のエネルギーを蓄えようと鳴き声を出した。
その声はこれまでにない程強く、鼓膜をつんざき、精神を引き裂く響きが直接あかり達を襲い、その余波は街中に広がっていく。
あかり達は両耳を押さえて悲鳴を上げた。が、その悲鳴すらかき消されて微かにしか聞こえない。
あかり達は這うように水上のそばに集まった。
「な、何……? この、声……!?」
「み、耳が、おかしくなりそう……!」
「くっ……この、音量は……とんでもないわね……。あたしの……計算によれば……!」
だが水上の苦悶は三人のそれを遥かに上回っていた。顔からは血の気が失せ、目は虚ろに焦点を失い、全身が細かく痙攣している。
「せ、先生、大丈夫……ですか……?」
美佳の必死の呼びかけに、水上の目に意思の光が微かに戻った。
「ぐ……っ……。あれ程広範囲の人を苦しませたこの声……。
間近で聞くのは……耳が……心が……保たない……っ!」
鵺の鳴き声はいつ終わるとも知れず続いていた。この声が終わる時は、鵺の攻撃準備が完了する時だ。
だが、水上がそれまでもつかどうか……。
「長官……っ!!」
「先生の苦しみ方……普通じゃないわね……」
「そうだね……」
水上を心配するあかり達。その様子に、水上は心に引っかかっていた違和感の正体に気付いていた。
「鷹城……お前……大丈夫……か……?」
「え……あ、はい……。すごくうるさくて、耳が壊れそうですけど……」
戸惑いながらの答えに、水上は確信した。
「やはり……な……」
「え……?」
水上は智恵の目を見た。その瞳の中に秘められたものは……。
「鷹城……携帯の……電源を……入れろ……」
「え、でも……」
「携帯の電源を、入れろ……!!」
水上の声はかすれていたが、その語気は強かった。
その言葉の意味は、智恵より、むしろあかりと美佳に伝わっていた。
「……! そうか! 智恵!」
「智恵ちゃん!」
水上は力を振り絞って智恵の肩を掴んだ。
「早くしろ……! こうしている間も……ホーキングは……お前を守っているんだぞ……!
激しく、消耗しながら……!」
「ど、どういう事……ですか……?」
智恵は水上の言葉がよく理解できなかった。いや、理解することを拒否していたのだ。頭が、いや、感情がホーキングを拒絶していた。
美佳はそんな智恵を気遣うように、智恵の顔を見つめた。
「智恵ちゃん、ずっと寝てなかったって言ってたけど……この鵺の声が原因じゃないよね……?」
「うん、ずっと必殺技を開発してて……」
「長官も、大勢の人も……この鵺の声で眠れなくされていたんだよ!」
あかりの言葉に智恵は目を見張った。信じられなかった。
「でも、私たちは、ウォルフさんや弧次郎さんに守ってもらって声を聞かずに済んでいたの。
それは……智恵ちゃんも同じだよね……?」
「うそ……」
美佳の言う通りだった。その声を聞かないで済んでいたという事実は自分でも動かしようがない。
「携帯の電源入ってないと、智恵ちゃんを守る事は出来ても、すっごい量のエネルギーを使っちゃうんだって。だから……」
水上は力を振り絞って、智恵の肩を揺すった。
「お前がホーキングを拒否することで、彼の負担が無駄に大きくなっているんだ……!」
「智恵ちゃん……!」
智恵は携帯を取り出し、電源を入れた。だが、待ち受け画面にホーキングの姿はない。
「ホーキくん、大丈夫!? ホーキくん!」
智恵の携帯に呼びかける美佳。ウォルフは昼間の彼のただ事ではない様子を思い出していた。
「ホーキング……!
昼間彼と話した時、既に相当なダメージを負っていたようでした……。彼は……」
智恵の心の中で、色々な感情が激しくぶつかり合っていた。
ホーキングに対する反感、拒絶。自分の無力さ、焦り。
智恵はその感情の全ての根っこがつながっている事に気付いていなかった。
智恵の無意識の奥で、幼い頃の智恵が、泣いている事にも。
――魔法なんかない……。魔法なんかないんだもん……――
智恵がうつむいて肩を震わせているのを見て、あかりは力を込めて立ち上がった。
「弧次郎さん……! いきましょう……!」
「……ああ」
美佳も続いて立ち上がる。その表情は真剣そのものだ。
「ウォルフさんお願い……。早くホーキくんを休ませてあげないと……!」
「かしこまりました、お嬢様」
「念写!! MSシンクロナイズ!!」
「念写!! MSコラボレート!!」
レッドとブルーが、智恵と水上を守るように並び立った。
「智恵ちゃんは安全なところに隠れてて!」
イエローが智恵にそう声をかけた時、智恵の携帯から声が漏れた。
「おい、チビガキ……、お前も念写しろ……!」
ホーキングの声に弧次郎とウォルフは驚愕した。
「なにっ!?」
「ホーキング……!? 無理です、そんな状態で……!」
今の状態で、智恵の変身を維持させる事が出来るのか……。ウォルフは信じられなかった。
「無理じゃねぇ……! あれくれーで消耗なんか……してたまっかよ……!
ほらチビガキ、俺様を受け入れろとは言わねえ……。
あいつらと……三人で、戦うんだろ……?」
鵺の鳴き声の中で、それでもホーキングの声が、いや、心がはっきりと聞こえていた。
だが、ホーキングが急速に力を失っているのは明白だった。
「ダメだよ、こんな状態で力を使わせたら……死んじゃうかも……」
「智恵ちゃん……」
レッド達の声を無視して、ホーキングは続けた。
「俺様を妄想したのはおめーだ……。その妄想が消えなければ……俺様は死なねえ……。
消したくても……消せなかったんだろ……?」
水上はそれを聞いて、理解した。ホーキングの意思を。そして、彼が何をしようとしているのかを。
水上は絞り出すように、言った。
「そういう……事か……。
鷹城……念写、しろ……」
「えっ……?」
智恵は思わず聞き返す。
「しかし……!」
ブルーの変身は無理だ、とウォルフは思っていた。ホーキングの消耗は完全に限界を超えている。ホーキングがこれ以上力を使うことは自殺行為でしかないだろう。
だが。
「念写しろ、智恵!」
弧次郎が智恵を叱咤した。
「弧次郎!」
「弧次郎さん!?」
ウォルフとあかりが同時に叫ぶ。
だが弧次郎は、二人に言い聞かせるように、いやむしろ自分に言い聞かせるように、言葉を続けた。
「それがあいつの意志なら……!
念写する事が、少しでもあいつが智恵に受け入れられている証になるなら……!」
弧次郎の言葉を聞いて、ホーキングはふっと笑った。
「へー……、優等生の割には……物わかりがいいじゃねーか……。
ほら……念写しろ……! 逃げんのかチビガキ……!」
「うっさいわね……」
智恵は俯いたまま呟く。
そして、ゆっくりと立ち上がり、顔を上げた。
「……うっさいわね!!! してやるわよ!!
念写!MSインストール!!」
智恵の叫びに呼応して、携帯が光を放った。
同時に、ホーキングの苦痛のうめきが漏れる。
「ホーキくん、大丈夫?」
イエローが心配して見つめる中、ブルーの変身が完了した。ホーキングからの返事は、ない。
「あかり、美佳! 打ち合わせた作戦で行くわよ!」
変身を終えたブルーは、レッドとイエローに声をかけた。
「OK!」
「う……うんっ!」
イエローは動揺しながらも、うなずいた。作戦はちゃんと覚えている。その通りにやれば、勝てるはずだ。そうすれば、ホーキングを休ませることもできる。
変身した三人が並び立つ。だがジニーはそれを待っていたかのように手を上げ、鵺の鳴き声をやめさせた。
「どんな作戦で来ても無駄ですよ! あなたたちでは鵺には絶対勝てません!」
声が止まり、戦いの雰囲気が迫ってきたのを感じ、レッドは高揚して言い返す。
「そんなこと! やってみなくちゃわからないでしょ!
っていうか! 絶対的なピンチから逆転! するから燃えるんだしっ!!」
「あたし達の力と作戦があれば、絶対に負けないわ! あたしの計算によれば!
美佳、お願い!」
ブルーも戦意高く、イエローに声をかけた。
「うん! ウォルチュる……」
「かしこまりました……ッ!」
イエローは盛大に噛んだが、ウォルフは間違えずに携帯をウォルツールに変形させた。
イエローはウォルツールの筆で空中に大量の絵を描いた。
そしてくるりとウォルツールをひっくり返して弦を弾く。
「ええ~~~いっ!」
弦の音色が流れ、空中の絵が実体化して屋上に着地した。
「な、何やっ!? 沢山の……ん? なんやねん? これ」
見回すと屋上に無数の金属棒が乱立している。
「避雷針よ! これで雷攻撃は無力!
あかり!」
「OK! 弧次郎さん!」
「応ッ!」
ブルーの合図で、レッドは携帯を構えた。
「ジラードっ!!」
「はぁぁぁぁああああっ!!」
レッドの叫びに呼応して、弧次郎の気合とともに携帯がジラードに変形する。
レッドはジラードを構え、鵺を見据えた。
「なんの罪もない動物たちを傷つけたくはないけど……」
レッドはその思いを振り切るようにジャンプした。
「とうっ!
……ひっ……さつ!!
奥義! 万斬刀!!」
空中で最上段に振りかぶり、着地する勢いを乗せて剣を振り下ろす。
だが待ち構えていたジニーは、鋭く鵺に合図を送った。
「鵺!」
「ぎゃああああ~~~す!
安易に近づいたら怪我するで!
雷撃咆吼!! ぎゃあああああ~~~~す!」
鵺の口から放射された雷撃は、空中のレッドが持つジラードに直撃した。
「きゃぁぁぁああっ!!」
「ぐぁぁあああっ!!」
屋上に叩きつけられたレッドを、鵺は勝ち誇って見下ろした。
「そない近付いたら、避雷針も関係あらへんわなぁ。
至近距離ならそっちに落ちるで!
これからは雷鳴っとる時は刀振りまわさんように気ぃつけや!」
「死んじゃえばもう気をつける必要もなくなりますけどねっ!」
そう言って、ジニーは次のターゲットを見定めるように、ブルーとイエローに視線を向けた。
「あかりちゃん……!」
放心状態で呟くイエローを鼓舞するように、ブルーは叫んだ。
「美佳、演奏やめちゃダメ!」
「あ、うん!」
イエローは演奏を続けて避雷針を維持する。
「避雷針は、雷は防げても音は防げへんやろ!
いくでー! おーーーたーーーけーーーびーーーー!!!」
今度は最大音量の鳴き声が轟いた。耳をつんざく音がイエロー達を襲い、ウォルツールの演奏をかき消した。
「きゃあああああっ!!」
イエローの悲鳴。演奏がかき消され、消滅する避雷針。
ブルーがその光景を見ながら膝をつく。
「あ……避雷針が……!」
避雷針が一掃され、ジニーはさらに勢いづいた。
「ふんっ! 鵺の声ならその音楽もかき消す事ができるんですっ!」
ジニーの言葉を裏打ちするように、鵺はさらに鳴き声を強めた。
改めて放たれた鳴き声が、無防備な水上を襲う。
「あ……あああああ……っ!!」
「先生……!!」
水上に駆け寄るイエロー。ウォルフは覚悟を決めた。
「お嬢様!」
イエローはその声に秘められたウォルフの意思をはっきり受け取った。
「うんっ!」
ウォルツールを構え、イエローは別の曲を奏で始めた。その曲は静かで、人の心を和ませる響きがあった。音量こそ小さかったが、それでいて、鵺の鳴き声を押して脳に直接響いてくる不思議な旋律だった。
「……ん、あ……」
水上の顔に血の気が戻り、彼女はゆっくりと身を起こした。
「な、なんやて……! うちのおたけびを……」
動揺する鵺に、イエローは強い声で言い放った。
「あなたが声でみんなを怖がらせるなら……私が音楽でみんなを安心させる!
ウォルフさんお願い、先生にも……みんなの心にも、この音楽を届けて……!」
イエローの願いを成就すべく、ウォルフは全ての力を振り絞って、この演奏を人の精神に直接響かせた。
「かしこまりました!
はぁぁぁぁ……っ!!」
水上はイエローの演奏に心を癒された。身体にも力がよみがえり、ゆっくりと立ち上がった。
「那須野、良いぞ……!これで人々の心も……!」
ジニーは負けん気を丸出しにして言い返した。
「ううー! そんなの、平気だもん! 避雷針も消えてるし、雷には無防備でしょ!」
鵺の鳴き声を無効化されたとしても、ジニーたちの圧倒的有利は変わらない。鵺はブルー、イエローを睨みつけて声を上げた。
「せや! そっちの青いのんは何もでけへんみたいやし、黄色いのん雷でやっつけたらしまいや!」
鵺はイエローに狙いを定めるように、視線を止めた。
「お嬢様っ!」
ウォルフが叫ぶ。同時にブルーも声を上げた。
「美佳!」
叫んでから、ブルーはこの危機を乗り切る方法に頭を悩ませた。いや、自分に何ができるのかを必死に考えていた。
「えっと、あたしは……あたしは……!」
だがその思考が感情によって歪められている事に、彼女自身気付いていない。
水上は、自分の教え子の苦悩がどこに起因しているのかを見抜いていた。
「鷹城……! 何故ホーキングを受け入れない!?」
「智恵ちゃん……!」
「そ、そうだよ、智恵……!」
レッドがゆっくりと身を起こした。身体中に雷撃と落下のダメージが駆け巡っているが、そんなものを気にしている場合ではない。
「あかり……! 大丈夫……?」
ブルーの視線の中で、レッドは膝に左手をついて、ふらつく身体を支えていた。
「うん……。こんなピンチに……寝てられないじゃない……!」
「智恵……。ホーキングはお前が生み出した存在だ。
お前も心の奥底では、奴を認めているはずだ」
レッドの右手に握られたジラードが弧次郎の声を発した。
ブルーは弧次郎の言葉を否定出来なかった。だが、認めることなど余計に出来ない。
「でも……、でもっ! 魔法なんて……!
――魔法なんかない……。魔法なんかないんだもん……――
意識の奥で小さい子が泣いている。それが幼い頃の自分である事を、ブルーははっきりと認識した。
「智恵様! ホーキングが……あなたを守っていることも……。
あなたの拒絶が彼を弱らせていることも……わかっているのでしょう……!」
「でも……」
「智恵!」
なおも迷うブルーに、弧次郎が強く呼びかけた時。
「あああああ! ううううるせえええええっ!!」
ブルーの携帯からホーキングの怒鳴り声が響いてきた。
無論消耗し切ったホーキングの声は掠れ、必死で絞り出した声だとわかる。
ホーキングは完全にブチ切れていた。その怒りを全てぶちまけるような怒号。その場の全員が息を飲んだ。
「てめえら……!
なんもわかってねー癖して……好き勝手ばっか、言ってんじゃねえ……っ!
自分の心の中にあるものを、どうしても認める事が出来ないやつの気持ち……。
消し去りたいと思っているのにどうしても消すことが出来ない思いを抱えて生きてる奴の気持ち……。
考えたことあんのか……っ!!」
ホーキングの怒りは、むしろブルー以外の仲間に向けられていた。
ホーキングを受け入れさせようとしていた仲間達に対して激怒していたのだ。
ブルーにはホーキングの怒りの意味がわからなかった。ホーキングは自分に対して怒っているはずなのだ。
でも、信じられない思いの中に、少しだけ安心感が混じっている事に、ブルーは気付いていた。
「ホーキ……?」
「チビガキ……おめーもおめーだ!
てめえの心の中も見えてねえ。
お前の大好きな科学、どんな事でもいつか実現出来る科学!
お前にとってそれは……魔法そのものだったんじゃねーのか!?」
そのホーキングの言葉は、今は何故かブルーの心にすっと入ってきた。
「科学は……魔法……?」
――なんでもできるえらい科学者になって、世界中を、もっともっと発展させていきたいです!――
心の中に、昔の自分の声が甦ってくる。
「科学は……魔法……」
――科学って言うのはね、人間が空想できることは、全て実現できるのよ。
今は無理でも、必ず科学は全てを実現するわ。……私の計算によれば!!――
「科学は……魔法……!」
ブルーは力強くうなずいた。頭の中がすっかり晴れたようだった。
「思い出したみてえだな……!
手こずらせやがって……!」
ブルーのヘルメットの中で智恵は目を閉じた。
バカホーキがまた偉そうに言ってる。
さっきまで死にそうだったくせに、生意気じゃない。
彼女の口元に笑みが浮かんだ。
「うっさいわね! 変形は出来るんでしょうね!」
「あぁ!? あったりめーだ! 俺様があんくれーで消耗するわけねーだろが!」
ホーキングのどら声が響き渡る。だがその声は掠れ声でも、無理に絞り出した声でもない。
「ホーキくん……元気になってる!」
「智恵が、彼のことを認めたから……!
くぅぅ! 燃える!!」
イエローとレッドの声が弾んだ。
反撃開始だ。
「ワイズ・オールマイティーガン!!」
「うぉぉぉぉっ!! 変形ィィ!!」
携帯がワイズ・オールマイティーガンに変形し、ブルーはそれを鵺に向けて構えた。
「私たちには、わかっていなかったのですね……。彼らの事は」
「……そういう事だな」
ウォルフとホーキングの声には、もうホーキングに対する反感の響きはなくなっていた。
水上はブルーへ反撃の指示を飛ばす。
「鷹城! ホーキング! この敵にはお前達の力が一番相性が良いはずだ!
力をあわせて……」
だが水上の指示は、ブルーの怒鳴り声にかき消された。
「このバカホーキ! あたしの『XVサーチャー』に文句があるっていうの!?」
「ったりめーだこの算数おたくが!
俺様の力をインストールしろ! ちったぁマシな、使える技にしてやる!」
早速言い争いが始まる二人。わだかまりは無くなったはずではなかったのか。
「なにっ? まだ……」
水上が呆れるのも構わず、二人の口喧嘩はヒートアップしていく。
「調子に乗ってんじゃないわよ!
あたしにとって科学は魔法なのはわかったけど、魔法そのものなんか認めるわけないじゃない!
魔法なんて、どーせいい加減なご都合主義のうそっぱちでしょ!」
反撃の出鼻を味方に挫かれた状況。敵は無傷で、どうしてすぐ攻撃をして来ないのか疑問なくらいだ。水上をはじめ、ブルー以外の全員が焦っていた。
「た、鷹城……?」
「智恵ちゃん……?」
仲間が呆れるほどの状態を、ジニーたちがそのまま放置するはずもなく。
「鵺……このスキに、おとたまの仇を!」
「ほんまこいつらアホやんな……!
無駄話の間に、溜めたエネルギー圧縮すんの終わってもうたで!
これ使て、最っ高の必殺技で一気にぶつけたる!
あのホーキには恥もかかされとるし、ただではすまさへんからな!
超・雷撃咆吼!! ぎゃあああああ~~~~す!」
超高密度のエネルギーが雷撃となって、鵺の口から放射された。
狙いはブルー。
「あかり!」
「うんっ! でぇぇぇいっ!!」
飛び出したレッドがブルーに向かう超高圧の雷撃をその剣で受けた。
「ええっ! 雷撃を……受けた……!?」
「んなアホな!」
驚愕しながらも雷撃を放射し続ける鵺。レッドと力比べの様相だ。
「気合いがあれば、出来ない事なんかない!」
レッドが力を込めて押し返す。だが鵺の表情にはまだ余裕が残っていた。
「ほんなら受け切れへんくらいパワー上げるだけや!
ぎゃあああああああ~~~~す!」
どんっ、と雷撃の圧力が跳ね上がった。レッドはその圧力に押しこまれた。
「ぐぅ……っ!」
なんとか二三歩後退して踏みとどまるが、長くは持たないだろう。
ホーキングはいい加減苛立ちの最高潮に達していた。
「てめえいい加減にしろ! そんな偏見に囚われて、ダチを見殺しにすんのか!」
「智恵……っ!」
「智恵ちゃん……!」
ブルーはヤケを起こしたように言い放った。
「……もうっ! わかったわよ!
ワイズ・オールマイティーガン! アドオン・インストール!」
ワイズ・オールマイティーガンが光を帯びて、新たな力がインストールされた。
「……これでいいんでしょ!
あかり、美佳、待たせてごめん!
行くよ鵺! XVサーチャー!」
自信たっぷりに狙いを定めるブルー。もちろん標的は鵺だ。
「く、な、なんや!?」
たじろぐ鵺に向けて引き金を引く。
……カチッ。
銃口は光らない。
「あれ?」
慌てて何度も引き金を引いてみるが、XVサーチャーは発動せず、ただ空撃ちの音が響くだけだ。
空撃ちを続けるブルーを指差して、ジニーは思いっきり嘲笑した。
「あはははっ! なぁんだ、こけおどしにもなってないですよーだ!」
「てめえ……、まだ……ッ!」
怒り心頭に達しているホーキング。だがブルーも負けずにブチ切れていた。
「このバカホーキ! 役立たず! あんたのデータ、バグってんじゃないの!?」
「んなわけあるか! このバカチビ! おめーが認めねえ限り、俺様に力は戻って来ねえんだ!
おめーに魔法を使えとは言わねえ! 俺様が魔力を担当してやる!
科学と魔法を融合させろってんだよ!」
一を言われて十返すホーキングにブルーのボルテージも上がっていく。もう他人が口を出せる状態ではない。
「何言ってんのよ! 魔法なんて……」
言いかけるブルーにかぶせて、ホーキングは畳みかけた。
「科学は魔法なんだろ!
おめーの算数頭にもわかるように教えてやる。
A=B、ならばB=A。簡単な算数だ!
科学=魔法なら、魔法=科学だろうが!」
その言葉は、天啓のようにブルーの心に刺さった。
「おめーが覚えるまで何度でも言ってやる。
魔法ってのはなぁ、科学なんだよ!!」
そしてついに。
「……あああもう!! わかったわよ!」
銃にホーキングの力が勢いよく流れ込んでいく。
「よっしゃ、これでやっと……!」
力の充填が完了し、銃がシグナルを出した。
「何これ……XV……DaM……?」
「良いから撃て!」
ホーキングの檄が飛ぶ。
ブルーは銃を構え、鵺に照準をあわせた。
「えぇいっ! XV=DaM! シューーーートっ!」
引き金を引くと、銃口から光線が鵺に照射された。
「な、なにっ?」
「な、なんやっちゅうねん!」
鵺に照射された光は一点目掛けて集まり、内部のコアを映し出す。そのコアに、光の刻印が刻まれた。
「この、光は……!」
水上が目を見張る。
ブルーはそれに答えるように呟いた。
「X線と|可視光線《Visible Rays》による探知と刻印……」
美しい光の刻印に目を奪われていたブルーに、ホーキングは次の指示を出した。
「よし、チビ、セレクターを『光』にあわせろ!
光の粒子の弾丸で、奴のコアを撃ち抜く!
XV=DaMの刻印狙って、撃て!」
「よぉぉし! ワイズ……」
ブルーは言葉を切って、ふっと息を吐いた。
「キングガン! フォトンビュレットぉ!
いっけえええ~~!!」
ワイズ・オールマイティーガン、いや、今やキングガンから発射された光の弾丸は、寸分の狂いもなく鵺に向かう。
「鵺、逃げなさい~っ!」
ジニーの指示を聞くまでもなく鵺は弾丸を避ける。が。
「はぁぁぁああああああっ!」
ホーキングの気合の声とともに弾丸は進路を曲げた。
「な、なんや、あの光……お、追ってくる……!」
ホーキングの意思によって操作された弾丸は、鵺の身体を構成する動物達の隙間に滑り込み、刻印されたコアを破壊した。
「ぎゃああああああ~~~~……す……」
断末魔の声を響かせながら、鵺の身体が崩れ落ち、四体の動物に分離した。
後に残ったのは、怒りに震えるジニー一人だ。
「う、うそ……鵺まで……!!
覚えてなさいよ、MSガールズ!!
次こそは必ず……おとたまの仇を……!
うわぁぁぁぁん!!」
ジニーは泣きながら、ミニ魔法の絨毯で逃げ去っていった。
「ふわぁ~~、なんとか勝ったぁ~……」
ジニーを見送って、レッドはぐっと身体を伸ばした。
「動物たちも、無事なようだな。消耗はしているようだが」
水上が鵺になっていた動物達を少し調べてから言った。
「元気だったら少し危なかったですね、虎さんもいるし……」
イエローが言うと、水上は頷いた。
「とりあえず、動物園に連絡だな」
水上が携帯を取り出す。三人はうなずいて変身を解除した。
「それにしても、智恵とホーキングの必殺技、すごかったね!」
あかりは智恵に満面の笑みを向けた。あっさり上機嫌になったホーキングのドヤ顔に、ウォルフは感服した顔で声をかける。
「あの時、力を取り戻そうとしていたのは、こういう事だったのですね……。
動物を傷つけないように、光の弾丸を操って四匹の実体の隙間を通した……。
それで呪文を取り戻す練習をしていたのですね……。智恵様を守りながら……」
ホーキングは慌てて目を泳がせた。
「ん? ば、バァカ、ち、ちげえよ! 俺様は……」
「やっぱりホーキ君、良い子だね!」
美佳が胸の前で手を合わせ、嬉しそうに微笑む。
「ちげえっつってんだろーが!」
わめくホーキングをなだめるように、いやむしろ煽るように、弧次郎は口を開いた。
「良かったな、武器の名にも、名前を入れてもらえたじゃないか」
「違うわよ! 単に名前長くてめんどくさかっただけで……」
たまらず智恵が言い返す。水上はふっと苦笑した。
「まぁまぁ、二人とも、素直に仲良くしたらどうだ?」
「ば、バカ言ってんじゃねえ!!」
「ば、バカ言わないで下さい!!」
二人の声が完全にシンクロする。美佳は大喜びだ。
「やっぱり仲良しだっ」
美佳だけでなく、その場の全員が智恵とホーキングを温かく見守る、みたいな空気が醸成されていた。
二人にはそれがどうにも我慢ならない。
「くそ、このバカチビ! これから思いっきり魔法仕込んでやるからな!」
「はぁ? あたしが魔法なんか使うわけないじゃん!
あたしはあくまで天才科学者なんだから!
魔法はあんたの担当ね! あんたが自分で言ったんでしょ? 魔法を担当するって!
認めてあげただけでもありがたいと思いなさいよね!」
早速始まる口喧嘩。だがあかり達は、そんな二人を温かく見守っていた。
二人の喧嘩は、これからも続いていくのだろう。二人は切っても切れない関係なのだから。
「んだとこの!」
「何よ、文句あんの?」
こうして、街中を恐怖に陥れていた真夜中の声は消え、人々に安らかな眠りが戻った。
智恵の中にあった大きな壁も、少しずつ崩れ始めていた。
しかし、父を失ったジニーは、更にMSガールズへの憎悪を高めている。
新たな強敵の、出現であった。




