シーン5 あの後、何が起きたのか。
鵺の鳴き声は、さらに強く街中に響き渡っていた。
既に時刻は0時を回り、深夜の時間帯に入っていた。
あかり達MSガールズは、水上を含めて未だ意識不明。絶体絶命のピンチである。
「鵺、もうエネルギーはたまったでしょ?
早くあいつらにとどめさしなさい!」
ジニーは死刑執行の命令を下した。
「ぎゃあああああ~~~す!」
鵺が雷を放射しようと、その口を開けた時。
「そーさせるわけにはいかねーなあ……!」
突然響く声。
ジニーはきょろきょろと、声の主の姿を探した。
「誰っ!?」
屋上に飛び込んできたのは黄金色のホウキ――ホーキングだ。
ジンが身を乗り出して拳を振り上げた。
「おおっ! 魔法のホウキなのだよ!
魔法の絨毯と並び称される程の……」
「ホウキの方が明らかにメジャーだろ」
ホーキングがバッサリ斬り捨てると、ジンはおでこに手を当てて悔しそうに嘆いた。
「くあーーー! その食い気味のツッコミ!
ジニー、父は悔しいのだよ、我が愛娘以外にこんなツッコミ技術が……ぐはっ……」
無言でジンの頭を殴るジニー。
「……わ……我が愛娘もさすが……がくっ」
ストップモーションで倒れるジンを、ジニーは冷たい目で見下ろした。
「おとたまうるさい。
ふん、魔法のホウキみたいですけど、防げるんですか?
飛ぶのがやっとみたいだし、魔法使ってなんかできるようには、とても見えないんですケド」
ジニーがそういう間に、ホーキングはあかり達をかばうように、鵺の前に飛び出して……そのまま床に転がった。
普段は穂にある顔を柄の先端に移動させ、ホーキングはジニーを見上げた。
「うっせぇな……。こっちにも色々と事情があんだよ……!」
ジン、ジニー、鵺。ホーキングは少し身体を起こすと、それぞれを確認するように、順番に視線を向けた。
「こーゆう手しか使えねーのは納得いかねーが……っ!!」
ホーキングは渾身の力で飛んだ。高速の低空飛行で、ブルーが発射した鉄の弾丸を口で拾った。
すぐに急旋回して、立ち上がりかけていたジンの首にアース線を巻き付ける。
「うぐ!? んんんむむむむ~~~~???」
アース線が首にめり込み、ジンは充血した目を白黒させた。顔が鬱血して青黒く膨れ上がってくる。
「さっきの、弾丸のアース!?」
「こんな針金みてーなアース線でもな、こーゆー使い方も、ある。
くびり殺すのは無理でも、窒息くらいはすんだろ。
さぁ、このおっさんの命が惜しかったら……チビガキどもに手出しせずに帰れ……!」
ギリギリと首を締め付けられるジンはもう声も出ない。口がだらんと開き、舌が力なく垂れ下がった。
ジニーは少し震えながら、青ざめた顔でホーキングを睨んだ。
「ひ、卑怯者……!!
……なーんて、言うと思いますかぁ?」
突然ジニーは満面の笑みで言い放った。
「ふふーん、コードネーム・ジン、最大奥義!
『く、くるしい~~~! ……フリ!』なのだよ!」
「な、なにっ!」
どす黒く膨れ上がった顔のまま、ジンはウインクしながらサムズアップしてみせる。
ホーキングの攻撃は全くダメージを与えられていなかった。
ジニーがジンを助けようとしていなかったのも、全てわかっていたからだ。
「ぎゃああああ~~~~す!
策に溺れて油断したなぁ!? 気ぃ失っとる仲間達がガラあきやで!」
無力感で動けなくなっているホーキング。鵺は歓喜の雄叫びを上げてあかり達に顔を向けた。
もちろん彼女達は気を失ったまま倒れている。絶体絶命の危機だ。
鵺の口が大きく開いた。
「雷撃咆吼!! ぎゃあああああ~~~~す!」
稲妻の塊が鵺の口に生じた、その時。
「いまだっ!」
ホーキングが残った力を振り絞って飛翔した。
首にかかったアース線に首を引っ張られ、ジンがバランスを崩す。
「むぉ? お、おとととと……っ!?」
二、三歩よろめいたジンの目の前で、鵺が全力の雷撃を放射した。一撃で四人を抹殺しようという殺意がこもった、最大出力の雷撃だ。
その射線上に、ホーキングが飛び込んだ。
「ぐうぅぅぅ……っ!」
雷撃をまともに浴びて苦悶するホーキングから、アース線を伝って電流がジンに流れ込んだ。
「あ、ぬはぁぁああぁぁあああああ~~~っ!!」
「お、おとたまっ!!」
「な、なんやて!」
鵺が慌てて電撃を止めた時、ジンは身体中を黒焦げにして倒れた。身体の至る所から煙が立ち上っていた。
「ジ……ジニー……今度は……父がウェル……ダ……がくっ」
最後の言葉は、彼の最大限のユーモアだったのかも知れない。
ジンは目を閉じて、動かなくなった。
もう、動かなかった。
「お、おとたまーーーーーーーっ!!」
ジンの身体を揺り動かすジニー。だがジンの目は開かない。
「これでも……俺様、金属だからな……。
避雷針代わりにはなるって……わけだ……」
甚大なダメージを負ってなお、ホーキングは強気を崩さなかった。
気合で負けてはダメだ。気合で負けてしまえばあっという間に制圧されてしまうだろう。
今は『まだ何か仕組んでいる』と思わせておかなければならなかった。
「おとたま連れてアラジン様の所に戻ります!
現世界の者に知覚できないように結界を張っておくから、鵺はその中でエネルギー溜めてなさい!」
そう言うと、ジニーはジンを担ぎ上げ、ミニ魔法の絨毯に飛び乗った。
ジニーが飛び去った後には、鵺と傷ついたホーキング、そして意識不明のあかり達が残された。
「はん、うっとうしいホウキやなぁ」
忌々しげに呟きながら、鵺は結界に踏み込み、立ち止まってホーキングを振り返った。
「ジン様にアースつなげて……攻撃も兼ねて……。
最初からそれが狙いやったんやな……!?」
それだけ言って、鵺は結界の中に消えた。続いて、鵺の鳴き声が街中に響き始めた。
「こういうの、現世界じゃ『一石二鳥』とか言うらしいぜ、覚えときな……」
鵺の消えた空間に向けて、ホーキングは最後にそう呟いた。
……というのが、ジニーと鵺が代わる代わる話した、昨夜の真相であった。




