シーン3 @妄想界
その頃。
弧次郎とウォルフはホーキングを探して城跡へ来ていた。
だがホーキングの姿はない。
二人はため息をついた。どうにもやりきれなかった。
「完敗、でしたね……」
「……あぁ」
「ホーキング……。来ていたはずですが……」
ウォルフは静かに言ったが、心の内は荒れていた。それは弧次郎も同じだっただろう。
昨夜の敗戦時、ホーキングはいたはずなのだ。だが何もせず、仲間を、何より智恵を見殺しにした。
許せるはずもなかった。
「なんのつもりなんだ、あいつは……!」
弧次郎は静かに怒りを爆発させた。
「妄想主との連携が取れないどころか、まともに意思の疎通も出来ないとは……!」
「そうですね……。
しかし、彼も智恵様の中から生まれた存在のはず。
ああまで反目しあうなどという事が、あり得るのでしょうか」
ウォルフにはそこがどうしてもわからなかった。もちろん怒りはある。だが、どうしてこのような事が起きるのか理解できなかったのだ。
「さぁな。奴の考えていることなどわからない。
理解しようという気も起きないがな」
弧次郎はあくまでドライに言い切った。
どんな事情があろうが、ホーキングがした事は許せるものではないのだ。
「弧次郎……」
「とにかく、次は必ず勝たねばならない。
ブルーの力があてに出来ない以上、俺達が何とかするしかないな」
弧次郎は厳しい口調で言った。それは自分の覚悟そのものだ。そしてウォルフは充分にそれを理解していた。
それでもウォルフは心に何かが引っかかっているのを無視できない。
「そうですが……」
言いかけるウォルフに、弧次郎は頷いて言った。
「わかっている。今まで俺達はあいつの作戦に助けられてきた。
しかし、それだけに頼っているわけにもいかないだろう。
あいつが味方のままだったとしても」
「それは……そうですね」
ウォルフは頷いた。
「敵の力や弱点、こちらの力、どちらもはっきりしているんだ。
厳しい戦いになるだろうが、必ず打ち破る方法はあるはずだ」
「……はい」
「じゃあ、俺は行くぞ。
俺達にはあまり余計な事を考えている余裕はないはずだ。
あいつらを、守らなければな」
弧次郎はいつになく雄弁に語ると、口をきゅっと閉じた。
「わかりました。まずはお嬢様方をお守りし、鵺を倒すこと……」
「……そういう事だ」
そう言って、弧次郎は姿を消した。
見送ったウォルフは一つため息をつくと、ほつりと呟いた。
「そういう事、ですか……」
ウォルフは何の気無しにぐるっと見回し、ふと視線を止めた。
「……ん?」
視線の先、壁の隅に、金色のホウキが転がっていた。周りの瓦礫に隠れて、よく見ないとわからない。
こんなところに隠れていたのか、とウォルフはため息をついた。
「……聞いていたのですか。
そこにいるのでしょう? ホーキング」
「いねー……よ……」
返ってきたホーキングの声はかすれ、途切れ途切れに聞こえて来た。
普通じゃない様子にウォルフはホーキングに駆け寄った。
「ホーキング、どうしたのです?」
金属製の身体に異常はない。だが消耗なのか、ダメージなのか、その顔は苦痛に歪んでいる。
「へっ……。だぁから……いちいち敬語使ってんじゃ……ねぇ……。
どうも……しねーよ……」
「しかし……尋常な状態では……!」
「どうもしねーって……言ってんだろ……!
妄想主と有り得ねーほど反目して……意思の疎通も満足にできねー役立たず……か。
へっ……図星過ぎてなんも言えねーや……」
ホーキングは苦笑を浮かべた。
「ホーキング……。
智恵様と意志を通じる方法は、何かないのですか?」
ウォルフの問いに、ホーキングはさらに盛大に苦笑する。
「意志を通じる方法、ねぇ……。
こっちが聞くってのがスジだろ、普通……。
お前らにはできてんだからな……。やり方って言われてもピンとこねーくらい当たり前によ……」
「それはそうですが……。
あなた方がお互いに避けあっている限り……いえ、そもそも何故あなた方は避けあうのです? 何故避けあう事ができるのですか!?」
詰め寄るウォルフに、ホーキングは視線を反らして吐き捨てた。
「知るか……! んなコト俺様に聞くな……。
とにかく……俺様は力を取り戻さなくちゃなんねーんだ……」
ホーキングは唸り声を漏らしながら身を起こそうとする。が、そんな力は残っていなかった。
「力……。自分の力……!
そんな状態になってまで、何故力に執着するのです!
智恵様に協力することも守る事も放棄して、何故そんなに力にこだわるのです!」
「うる……せぇ……っ……!
俺様は究極の大魔法使いなんだ……!
アホどもを黙らせる力持ってて……当然だろうが……!」
ウォルフは目を閉じ、深くため息をついた。
「……わかりました。時間の無駄だったようですね……。
私がお嬢様方をお守りします」
ウォルフはそう言って、ホーキングを拾い、壁に立てかけた。
「ゆっくり養生して、好きなだけ力を追い求めて下さい。
……それでは」
ウォルフが姿を消すと、残されたホーキングは苦し気に呻き声を上げた。
「けっ……。だから……怒ってる時くれぇ……敬語使ってんじゃねぇ……ってんだ……。
……ぐぅっ……!
しっかし……シャレになんねーぞ……こりゃ……」




