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夢幻戦隊MSガールズ  作者: 硫化鉄
第六話 「必殺……??」

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シーン1 鵺、覚醒。

 鈍く光る鵺の身体。猿、狸、虎、そして蛇――。四体の動物の身体が一つの球体につながれていた。鵺の声は、その球体から発せられていた。肉体を持って来られない鵺の魂のようなものなのだろう。

 アラジン、ジン、ジニーの三人は、間近に迫った凶魔獣の誕生を、固唾をのんで見守っている。


「いやもうドキドキしますなぁ。わくわくもしますなぁ。

 冷静でいたい気持ちは山々川々谷々海々空々崖々沼々池々……。

 はっ! イッケイケでございますなぁ、しみじみと」


「……おとたまうるさい。

 鵺のエネルギーレベル99.8%。まもなく完全体になります!!」


 充分にエネルギーを蓄えた鵺の鳴き声は止まった。

 四体の動物は、密度を増していく負のエネルギーの中で、ゆっくりと融合を開始した。


「よし……これで! 現世界侵攻を為す大いなる力が今、誕生するのだ!

 MSガールズの小娘どもなど蹴散らしてくれる!!」


 アラジンが大音声で宣言した、その時。


「待ちなさい!!」


 闇を裂いて、少女の声が響き渡った。


「む……その声は……!」

「ま、まさか……!」


 アラジンとジニーが同時に声を上げた。

 そして少し遅れて、ジン。


「MSガールズだよジニー。父にはすーぐわかったのだよジニー」


「おとたまうるさい! あたしにだってちゃんとわかってます!」


 だがその時、意外な言葉が彼らの耳を打った。


「う、間違えた!」

「え、あかりちゃん?」


 登場するなり名乗りもせずに、緊張感のない会話を始める二人。

 敵の出鼻を挫くのならいいが、むしろ自分たちの出鼻を挫いているのはどうなのか。

 ジンは目を白黒させながらワクワクするという、なんとも複雑な顔で周囲を見回した。


「え?

 あ、違うみたいなのだよジニー。

 と言うことは……。

 誰なのでしょうアラジン様?」


 突然話を振られ、アラジンは焦って声の主の方を確認した。

 三人の女性の姿が見えた。暗くてよくわからないが、背の低い一人が一番高身長になっていた。

 もしかして別人か……とも思ったが、先ほどの声には聞き覚えがある。


「いや、あの小娘どもは、多分間違いなく……」


 自信があるのかないのかハッキリしないアラジンの返事は、また響いてきた少女の声に邪魔をされた。


「ま、待てーぃ!!」


 言い方を変えて同じ内容を叫んだ少女は、頭を振って考え込む。


「やっぱこれも違うなぁ……。こういう時のかっこいい台詞、なんだっけ……?」


 少女――富士宮あかりが『カッコいい登場台詞』を検討している横で、もう一人の少女――那須野美佳は何故か喜んでいた。


「あかりちゃんあかりちゃん、ディスペアーの人たちの中に、知らない子がいるよ!」


「え、そうなの? じゃあ、やっぱりかっこいい台詞で登場しないと!」


「あ、そっか。えっと……」


 果てしなく脱線していきそうな二人。これは長くなりそうだった。ところが。


「そこまでだ、お前たち」


 凛とした声に、二人が止まった。声の主は、水上鮎。アラジン陣営にとっては「知らない子」である。


「先生!」

「さすが長官! かっこいい!」


 一人入れ替わっただけで、やはりあのMSガールズに間違いはない、とアラジンは確信した。

 しかし、あの見知らぬ女は……そう言えば。


「ぬぅ、噂に聞いていた、MSガールズの長官……か」


 そうは言ったが、実はアラジンはそんな噂など聞いていない。

 『お前たちのことは全て把握している』と見せかけて心理的優位を確保しようとしたのだが、肝心のMSガールズ側はアラジンの言葉など全く聞いていなかった。


「富士宮、那須野、無駄話はそこまでにしておけ」


「ええ~~!? さっきのかっこいいの、あたしたちに言ってたんですか!?

 じゃ、じゃあ、あっちには、あたしが言って良いですか!?」


 緊張感皆無のあかりに、とうとう水上のカミナリが落ちた。


「いいから早く変身しろ! あの怪物のような物が鵺なのかも知れないぞ。

 嫌な雰囲気だ……!」


「は、はいっ!」


 二人は慌てて携帯を取り出した。


「ウォルフさん!!」

「はい、お嬢様!」


「弧次郎さん!」

「応っ!!」


 あかりと美佳は声を揃えて叫ぶ。


「念写!! MS――」

「シンクロナイズ!!」

「コラボレート!!」


 二人の身体が光に包まれ、レッドとイエローに変身した。


 それを見ていたジニーは両手を腰に当て、ため息をつく。


「んもぉ、もうすぐ鵺も完全体になるっていう時に、うっとうしいですね!」


「ふん! いつもいつも学校の屋上を勝手に使って!

 そう思い通りにはさせないから!」


 レッドも腰に手を当てて言い返した。

 それにしても、また学校の屋上とは。ここが戦場になるのは三回連続である。

 そこまで言って、あかりは初めて敵の姿をハッキリと見た。暗くて見えづらかったのが、ヘルメットの性能で明るく見えるようになったのだ。


「え、ちょっと待って!

 な、なにこの子、かわいいっ!!」


「……え?」

「お、おい、あかり?」


 虚を突かれて一瞬戦いを忘れるジニーと弧次郎。


「あかりちゃん、前回の戦いは、私がここを選んだからで……」

「お嬢様、今はその事は……」


 突然あさっての方角から謎のフォローを入れるイエローに、ウォルフはおろおろしながら本筋に戻そうとする。危機的状況なのだ。

 ウォルフの焦燥感が高まっていく中、アラジンは、隣でちょっと嬉しそうにぽかんとしているジニーに檄を飛ばした。


「ジニー、鵺が完全体になるまで時間を稼ぐのだ!」

「あ、はいっ!!」


 ビシッと背筋を伸ばして返事をするジニーを、ジンはとろけるような顔で見つめながら、感嘆の声をあげる。


「さすがアラジン様からの信頼度MAXだねえ愛娘ジニー。

 父はジニーと一緒に時間を稼ぐフリをしながら、不測の事態に備えておくフリをするのだよ」


 腕をぐるぐる回してアップするフリをしているジンに、アラジンは鋭く命令した。


「コードネーム・ジン、お前は鵺本体を守っていろ!」


 ジンはぴょこんと直立して、右手を上げた。


「ハイハァ~イ、かーしこまりまくりでござい~ます♪

 時間稼ぎは愛娘ジニーに丸投げして、鵺の守護に全力を傾けるフリを……ぐはっ」


 ジニーの拳がジンの頭にヒットする。


「アラジン様、お任せ下さい!

 ……おとたまはもう帰ったら?」


「OH愛娘のジニー、今帰っても面白いテレビやってないのだよ……。

 帰るフリで勘弁しておくれ……」


 その会話は、MSガールズにも届いていた。ジニーたちが気付かぬうちに、これからどう動くか筒抜けになっていたのである。


「ねえねえあかりちゃん、あのおじさんが、あの子のお父さんみたいだよ?」

「え? うそっ!?」


 衝撃的な情報に、レッドは見事に食いついた。


「お嬢様方……!」

「お前たち、そんな事はどうでもいいから、早く鵺本体を!」


 水上から指示が飛ぶ。話が横道に逸れ過ぎだ。


「あ、そうか!」


 イエローが自分の置かれている状況を少し思い出した時。


「そうだよ二人とも! これも敵の時間稼ぎ作戦だよ! あたしの計算によれば!」


 智恵の声が屋上に響いた。


「む、鷹城! 来られたのか!」

「智恵!」

「智恵ちゃん!」


 三人の声が弾む。


「先生が家に電話入れてくれたから! ありがとうございます!」


 智恵はそう言いながら携帯を取り出した。


「智恵、体調は平気?」


「うん、睡眠不足なだけだから……!

 念写! MSインストールっ!!」


 新たに現れた本物の『背の低い三人目』が変身するのを見て、アラジンはほくそ笑んだ。揃っていれば、一回の戦いで全滅させられる。手間が省けるというものだ。


「フン、三人揃ったか。だが……」

「そっちだって三人じゃない!」


 言いかけたところでブルーが割って入った。


「って、あれ? 初対面が二人?」


 見覚えのない二人にブルーが首をかしげると、ジンとジニーが一歩前に出た。


「ハイハァ~イ! ディスペアーの大幹部、アラジン様の右腕。いやむしろ左腕!

 コードネーム・ジン! 満を持して、今、参上!!」


「あたしはジニー! アラジン様の魔法のランプの……妖、精……?」


 最後はちょっと自信なさげに言いよどむジニー。だが。


「わぁ、ランプの妖精さんなんだぁ!」

「なるほど……。だから可愛いんだね!」


 イエローとレッドが歓声をあげた。

 ジニーはまた一瞬ぽかんとしたが、すぐに気を取り直して叫ぶ。


「そ、そうよっ! ランプの妖精、ジニー! サルがなんと言おうと、妖精っ!」


 えっへん、と胸を張るジニー。『妖精』と認められたのが嬉しいのだろう。


「と言うことは、ここでは父が魔人担当なのだね?

 それよりもジニー、『今、参上!』って言ったのに、誰も『さっきからいただろ!』って突っ込んでくれないのが寂しいのだよジニー」


 この会話を聞いていた三人は、顔を見合わせた。


「本当に親子みたいだよ。ね、あかりちゃん」


「信じられない……」


「完全に母親似、ね。あたしの計算によれば」


 レッドはブルーの説に納得し、また安心した。なるほど母親似なのであれば、あんな濃い顔の筋肉おじさんに全く似ていないのも理解できるし、似なくて良かった、という安堵の気持ちもわいてくる。

 レッドは大きな声でジニーに声をかけた。


「そっかぁ、よかったね! ねね、お母さんはどんな人?」


 その問いかけに、ジンは怒っているのかふざけているのかわからない顔で言い返した。


「ぬぬー! その話題には……母親の話題には決して触れてはいけないのだよMSガールズの諸君!!」


「え? あ、ご、ごめんなさい!」


 慌てて謝るレッド。確かにちょっと配慮に欠ける無神経な問いかけだった。


「いろんな悲しい事情があるのかも知れないよ、あかりちゃん。

 それだけでオペラとかミュージカルが何本も作れちゃうような……」


 慰めるように、イエローはレッドに寄り添った。


「お嬢様、そろそろ本題に……」


 ウォルフがどうにか話を元に戻そうとするが、レッド達はまるで聞いていない。


「そうだね! 例えば……奥さんの仇を捜して、親子二人で旅をしているとか……!」


「王様に見初められて連れて行かれた奥さんを取り戻しに王宮へ向かっているとか……!」


「ううん、奥さんの死を悲しむあまり、奥さんのDNAでクローン少女を作った科学者かも知れないわ!」


「科学者には見えないけど……?」


 首を捻るレッド。

 それにしても三人の妄想はそれぞれ誰のものかすぐにわかるのが彼女達らしかった。


「お前達……」


 弧次郎が深いため息をつく。

 三人の好き勝手な妄想に、ジンは身体を大きく膨らませて、大音声を浴びせた。


「ぬっは~~!!

 他人の家庭に土足で踏み込むようなその発言……!

 もう……もう怒ったァ~~~~~!! ……フリっ!」


 頭の上で拳を振り回し、『もう怒ったぞー』とばかりに地団駄を踏む。だが全く攻撃してくる気配はなかった。


「フリだけ? よかったぁ~」


 安堵に胸を撫で下ろすイエロー。

 ジンはさらに大きなモーションで、両手を腰に当て、頬を膨らませた。


「それだけでは不足と言うのか!!! ならば!!

 堪忍袋のぉ~~~!! 緒がぁ~~~!! 切れた!! フリも付け加えるのだよ!」


「結局フリだけじゃない! 怖くないよーだ!」


 見上げるほどの大きさになったジンに、思いっきりあっかんべーをするレッド。ヘルメットがあるので舌は見えず、なんとなくのニュアンスだけが無理矢理伝わった。

 そこにブルーが割って入る。


「ちょっと待ってあかり! これは罠よ!」


 だが。


「フン、今頃気付いてももう遅い!」


 叫ぶアラジン。続いてジニーが大きな声で報告した。


「アラジン様っ、鵺のエネルギーレベル、100%に達しました!

 完全体になります!!」


 光球に引き寄せられ融合した動物達の身体が膨れ上がり、禍々しい姿に変貌してゆく。


「くぅぅ、これが狙いだったのね!」

「謀られたわね……!」


 悔しがるレッドとブルー。ジニーはカチンと来て言い返した。


「人聞き悪い事言わないで下さいっ!

 謀るまでもなく勝手に無駄話してたくせにっ!」


「ふん、どうせあたし達が無駄話しなければ謀るつもりだったんでしょ!」


 ブルーが言い返すが、どうも論理的には分が悪い。


「無駄話という自覚はあったんですね……」


 ウォルフは静かに慨嘆した。


「もう手遅れですよ! 鵺は完全体へのメタモルフォーゼを開始しているんですから!!」


 ジニーが胸を張って勝ち誇るが、ブルーも負けてはいない。対抗するように胸を張り、自信を持って言い放った。


「ざーんねん! もう鵺の弱点は見抜いてるわよ!」


「なにッ!?」


 アラジンは動揺した。

 この短時間で、一体どんな弱点を見つけたというのだ。そもそもこの凶魔獣に弱点などないはずなのに。


「さっすが智恵ちゃん!!」


 イエローの賛辞を背に受けて、ブルーは鵺の身体を繋いでいる光球を指差した。


「あたしの計算によれば!

 鵺の弱点は、動物4匹の身体を繋いでいるあのエネルギー球!

 あれに間違いないわ!」


 ブルーの指さす光球を見て、レッドは納得してうんうんと頷いた。


「確かに! 見るからにあやしいよね!」


 鵺の魂とも言える光球が意味ありげに浮かんでいれば、誰でも怪しいと思うだろう。

 せめて隠しておけば良いのに。


「あれを破壊すれば、動物たちを融合させる力が切れて鵺としての身体を維持出来ないはず!」


 ブルーの分析は的を射ていた。鵺のコアともいうべき光球が、四つの動物を融合させていたのである。


「よぉぉっし! 燃えて来た!

 弧次郎さんお願い!

 ジラードっ!!」


 気合のこもったレッドの叫びに呼応して、弧次郎が吼えた。無駄に話が進まずに溜まっていたフラストレーションを一気に解放するかのように、弧次郎の宿った携帯は力いっぱい変形する。


「はぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 あの剣は……!


 アラジンの脳裏に先の戦いがよぎった。


 あの剣は、バクが高速で打ち出す圧縮空気弾を全て斬った剣だ。

 あの剣は、バクにとどめを刺した剣だ。

 

「ぬう……っ! 鵺がメタモルフォーゼを完了するまで、なんとしても奴らを近づけるな!」


 アラジンの命令に、ジンは大仰に敬礼してみせた。


「かーしこまりまくりー、でござい~ます!

 コードネーム・ジン!命に替えましても、奴らを鵺に近づけさせぬフリを……ぐはっ」


「かしこまりました! アラジン様っ!」


 殴りがてらにアラジンへ応えると、ジニーはレッドの前に飛び出した。


「絶対に、ここは通しませんよ!!」


 ちょこまかと素早いジニーに通せんぼをされ、鵺に近づけないレッド。だが彼女は、ジニーに剣を向ける事が出来ない。


「くぅぅっ、ジニーちゃん……!」


 息詰まるレッドとジニーの攻防が続く中……。


「ディーフェーンス! ディーフェーンス!」


 ジンの無責任極まる応援ボイスが通り過ぎて行く。


「おとたま、ほんとうるさい。ってゆうかウザい」

「ぬはー、父涙目……」


 父親の応援をバッサリ切り捨て、ジニーは完璧にレッドの攻撃を封じ込めていた。


「くぅぅ、鵺に近づけない……。このままじゃ……!!」


 レッドとジニーの目まぐるしい攻防。イエローは全くついていけず手をこまねいていた。


「どうしようウォルフさん……!」


「近づけないなら、撃てば良いだけ!

 ワイズ・オールマイティーガン!!」


 ブルーの携帯は、無言で変形した。

 銃を構え、光球に狙いを定める。

 

「鵺が雷獣なら、電気エネルギーを放出させれば……!

 アイアンビュレット・アース付き! いっけええ~~~っ!!」


 気合を込めて引金を引くと、鉄の弾丸が狙い通りに飛んで行く。

 命中すれば敵に食い込み、銅線が垂れ下がる。敵が雷を発しようとしても、銅線がアースになり、電気を地面に拡散してしまうだろう。

 だが、弾丸は光球に命中する手前で弾き飛ばされた。そして――。


 ガンッ。


「あいたっ!!」


 ジンの頭に大きなたんこぶが膨れ上がってくる。


「え……!? 跳弾……?」


 銃弾が、光球に当たる前に弾かれた。

 その事実を、ブルーは信じられない思いで見つめていた。何もない空間で銃弾が弾かれたのだ。


「ふん、甘かったなMSガールズ。鵺は今はサナギのような物。完全体として羽化するまで、目に見えぬ繭のような結界に覆われているのだ!」


 勝ち誇るアラジン。ジニーも尻馬に乗って、あっかんべーをする。


「そんなへなちょこ弾丸じゃ、繭は破れませんよーだ!」

「へなちょこの割には結構痛かったのだよ……」


 大きなたんこぶを撫でながら、涙目のジン。あれだけジニーに殴られてもこぶひとつ出来ない頭だ。このたんこぶも『フリ』なのかも知れない。疑惑のたんこぶだ。


「やっぱり近付いて、繭ごと切り裂かないと!!」


 レッドがジラードを構え、ジニーを抜こうと力を溜めた。

 が、その時。


「もう遅い!!」


 アラジンの声とともに、鵺の鳴き声が響き渡った。


「鵺、メタモルフォーゼ完了ですっ!!」


 光球を体内に取り込んで完全体となった鵺は、ゆっくりと身を起こしてレッドたちを見据えた。

 そして、ひときわ大きく口を開いた。


「ぎゃあああああ~~~~す!」


 繭を破り、遂に鵺の叫びが直接響き渡った。

 しかし、あの脳に響いてくる叫びではなく、ただの大音量だ。

 その声は、少し人間が口で叫んでいるような響きがあった。ちょっと思っていたのとは違う感じだ。

 だが、みすみす鵺を完成させてしまったのは間違いない。レッドは唇を噛んだ。


「くぅっ! やられた……っ!」


「やられた感は全くないが……」


 水上が呆れ顔で呟くと、ウォルフ達も同意の声を上げる。


「そうですね……。ある意味、自滅……」

「お前達……」


 弧次郎がため息をついた。

 その時、鵺の叫びが止まった。そして鵺は苛立った目で、周囲を見回した。


「はぁ~、出番まで長すぎやっちゅうねん!

 待ってるだけで疲れたがな。

 自分のエネルギーためるんも自分でやらされて!

 不完全な段階からよう働かせてくれましたなぁほんまに!」


 突然流暢に喋りだす鵺。しかも関西弁。そして不機嫌。

 レッド達にも衝撃が走る。


「なんか、不機嫌みたいだね……」


 レッドの受けた衝撃はそこか。


「そうだね、なんかイメージもだいぶ違った感じ!」


 イエローはどちらかと言えば喜んでいる風だ。


「そんな事より、見ろ! エネルギー球が……!」


 弧次郎が必死で話を戻そうと叫ぶ。弱点と目されていた光球が消えてしまっているのだ。


「あぁ、うちのコア? コア外にぶら下げとくアホはおらんやろ。うちの身体ん中に大切にしもとるで」


 当たり前と言えば当たり前である。


「上等! じゃあ、身体ごとコアを切り裂くのみっ!」


 レッドはさらに燃え上がって、ジラードを握りなおした。


「よし、その意気だ! いくぞあかり!」

「はいっ!!」


 鵺の完成に安心していたジニーの隙をついてレッドが鵺に飛びかかる。その時、イエローの声がレッドを止めた。


「ちょっと待って!」


 レッドは飛び下がり、鵺と距離を取ってイエローに叫ぶ。


「どうしたの? 美佳!」


「だって、身体ごとって……! 鵺の身体って……」


 そう。鵺の身体は、こちらの世界の動物を依り代にしているのだ。


「そっか、四匹の動物を傷つけることになる……!」


 レッドがジラードを構えなおして考え込む。その時、ブルーが叫んだ。


「安心して! 二人とも!」


「智恵!?」

「智恵ちゃん!」


 ブルーは銃を構えて胸を張った。マスクの中は、思いっきりドヤ顔になっている事だろう。


「こんな事もあろうかと、寝ないで考えた必殺技!

 あたしの計算によれば、体内にある弱点の場所も正確に見つけ出すことが出来る!」


「なにっ!?」


 アラジンが動揺を見せたが。


「……ん……?」


 ブルーの言葉に、水上はふと違和感を覚えていた。


「さすが智恵ちゃん!」

「智恵! 頼むわ!」


 歓声を上げるレッドとイエローの期待を打ち壊すように、鵺の叫び声が轟いた。


「ぎゃああああ~~~す!

 こっちにかて必殺技くらいあんねんで!

 夜やから気付かんかったやろけどな、空見てみ!」


 見上げると空一面を黒い雲が覆い尽くしていた。今にも降り出しそうな雲の中から、不穏な音が響いてくる。

 水上の表情に緊張が走った。


「雷雲……! いつの間に!」


 焦る水上。鵺は勝ち誇って言い放った。


「うちは雷獣、鵺! 雷を操る凶魔獣や!

 雷雲呼ぶのに時間かかったけど、時間稼ぐ必要はあらへんかったなぁ!」


 だがブルーも負けずに言い返す。


「ふん、そんなの怖くないわ!

 いくわよ……! XV・サーチャー!!」


 銃から光線が発射されるのと同時に、鵺が叫んだ。


「いってまえ! 轟雷竜!!」


 雷雲から稲妻が閃き、屋上を襲った。


「きゃああああっ!!」

「お嬢様っ!!」


 イエローが耳を押さえてしゃがみ込む。


「ぎゃああああ~~~~す!

 どや、雷の味は? ……あら?」


 誰も雷を喰らっていない。しゃがみ込んだイエローも、音に驚いただけだ。そして、今自分の身体に謎の光が当てられている。

 鵺は一瞬にして、その全てに気付いた。

 そこにブルーの声が響く。


「サーチ完了! あかり、鵺のコアはど真ん中!」

「了解!!」


 鵺の身体に当てられた光は、体内にあるコアの位置を正確に浮かび上がらせていた。

 レッドはギリッとジラードを握り直す。


「鵺! もう一発、雷を落として!」


 ジニーの命令に、鵺はもう一度叫び声を上げた。


「ぎゃあああ~~~す!

 もう一発! 轟雷竜!!」


 再び稲妻が閃くが、やはりMSガールズにはヒットしない。


「無駄よ! この学校の屋上には、避雷針があるから!」


 ブルーが余裕を持っていたのはこのためだった。雷を落とされても避雷針があれば防げる。

 だが実際避雷針があっても安全とは言い切れないので、良い子は雷雨の時は家に避難していて欲しい。


「避雷針……だと……?」


 アラジンの呟きに、水上の解説が入った。


「そう、いくら雷を落とそうが、避雷針が全て受けて地中に流してしまう。

 そちらの必殺技とやらは、無力だな!」


 つい解説してしまうのは水上の職業病だろう。無論アラジンも避雷針のことは知っているのだが。


「ぬぅ……。真面目な戦闘になると出番がないのだよ……。とほほ……」


「……おとたまうるさい。

 でも、そっちにだって手は出せないでしょーだ!」


 父をバッサリ切り捨てて、ジニーは水上にあっかんべーをした。


「そっか、ど真ん中ってことはやっぱり……」

「そうね。動物たちを傷つけることになる……」


 手を出しあぐねているレッドとブルー。

 弧次郎は打開策を求めてブルーに尋ねた。


「智恵、何とかならないのか?」


 ブルーは自分の銃を見ながら、考え込んだ。


「弾丸は直進する……。光も反射か屈折させないと曲げられない。

 鵺の体組織は、4つの動物の集合体だから、わずかな隙間はあるはずだけど……。

 そこをくぐり抜けるような弾道を描いて攻撃することは……」


「ホーキ君の力でなんとかならないのかな……?」


 イエローの問いは素直な気持ちから出たものだったが、皆の表情は一瞬、凍りついた。


「ホーキングは……」


 もう私達に力を貸してくれる事はないでしょう。


 ウォルフはその言葉を飲み込んだ。力を取り戻す事にしか興味を示さなかったホーキングの姿は脳裏に焼きついている。

 だがこの危機的状況でそれを話しても、結果は悪い方にしか動かないだろう。


 ウォルフはホーキングについて口をつぐんだが、水上は疑問を口に出した。

 ずっと心に引っかかっていたのだ。


「変身しているんだからホーキングはいるのだろう?

 何故、ホーキングは喋らないんだ?」


 ブルーが握る銃が震えた。これは怯えから来る震えではない。拒絶と苛立ちが彼女の手を震えさせているのだ。

 ブルーは顔を上げ、力を込めて叫んだ。


「あんなのの力なんて必要ないです!

 科学の力で……必ず鵺のコアを撃ち抜く方法を……」


 その声をかき消すように、鵺の咆哮が響き渡った。


「ぎゃああああああ~~~す!

 残念やったなぁ? うちにはまだまだ必殺技、あるんやで!

 空から落とした雷が防がれるんのやったら、直接打ち込めばええだけや!

 雷撃咆吼!! ぎゃあああああ~~~~す!」


 雷撃が、鵺の口から発射された。ぐるっと掃射するように首を回すと、三人全てが巻き込まれ、吹き飛ばされる。三人は気を失って倒れ、変身が解けた。

 バチッと弾けた雷撃が水上を襲い、彼女を昏倒させた。


「……フン、他愛のない」


 呆気なく片付いた四人を眺め、アラジンは嘲笑を浮かべた。鵺は無傷で四人を倒したのだ。


「さすが、鵺の力は絶大ですなぁ~。MSガールズの面々もみんな黒こげに!

 う~ん、ウェルダン☆」


「おとたま、あれは黒こげではありませんっ! 気絶しているだけでしょ?

 鵺、今度こそとどめを刺しなさい!」


 気を失っている今なら、確実にとどめを刺せる。ジニーは張り切って命令を出した。


「ぎゃああああああ~~~す!

 ちょっとエネルギー切れてしもとるさかい、もっぺん負のエネルギーためて、今度こそ仕留めさせてもらいますわ~。

 いくでー! おーーーたーーーけーーーびーーーー!!!」


 耳をつんざくような鳴き声が街中に広がっていった。それは今まで人々を苦しめ続けた声だった。

 完全体になった鵺が発するその声は、今までとは比較にならない強さで、人々から負のエネルギーを搾り取っていった。


「フフフ……。これで夜が明ける頃には、MSガールズも亡き者に……。

 コードネーム・ジン! ジニー! 後は任せるぞ!」


 アラジンは満足気に、魔法の絨毯を広げた。


「ハイハァ~イ♪

 かしこまりまくりでござい~~……ぐはっ」


「かしこまりました! アラジンさまっ!」


 二人に見送られて飛び去るアラジン。

 鵺の鳴き声は、さらに強く、夜の街に染み渡ってゆく……。

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