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夢幻戦隊MSガールズ  作者: 硫化鉄
第五話 「確執、そして恐るべき凶魔獣」

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シーン6 @その頃の生徒指導室

 生徒指導室にはあかりと美佳、そして水上が集まっていた。智恵の姿はない。学校を休んでいるのだ。

 そして、水上の顔色もかなり悪かった。


「先生、大丈夫ですか……?」


 美佳は水上の衰弱ぶりに異常なものを感じていた。クラスメートたちもそうだ。もしかしたら智恵も。

 だから自分やあかりが平気でいる事も、理由がわからなかった。

 水上は笑顔を見せたが、無理をしている事は明らかだ。


「まぁ、明日から休みになるから、昼間に眠れば大丈夫だろう。

 お前たちは全く影響がないみたいだが……、あの声は聞こえていないのか?」


 この数日続いている夜中に響いてくる声。

 耳を塞ごうが音楽をかけようが、脳に直接撃ち込まれるようなその声を消す事はできなかった。

 聞いているだけで脳が掻き回され、心が切り刻まれ、締め付けられる。眠ることなど出来ず、それが朝まで続くのだ。


「はい、あたしには聞こえてません。……ってゆうか、その声って、なんなんですか?」


「いや、聞こえている私にもわからないんだ。那須野も聞こえていないようだな?」


 美佳は心配そうな顔のまま頷いた。


「なるほどな。お前たちには聞こえていないのなら……。

 弧次郎、ウォルフ。お前たちが守っているんだな?」


 弧次郎たちは頷いた。


「……はい」

「あれは魔獣の……特に強力な魔獣の声だ。詳しい事はわからないが……」


 弧次郎たちも敵の正体は掴めていなかった。自分のパートナーを守る事で精一杯だったのだ。それだけ今回の敵が強力である事の証左だった。


「……どんなに音を遮断しても、部屋でテレビや音楽をかけていても、頭に直接響いてくるんだ。

 不気味な鳥の鳴き声のような……」


 水上はその音を思い出して身震いした。


「そうなんですか……。

 不気味な声じゃなくて、良い音楽が聞こえてくるんだったら良いのに」


 美佳は残念そうだが、敵が良い音楽を流すわけがない。


「お嬢様……」


 複雑な表情でつぶやくウォルフ。

 あかりは少し考えてから、口を開いた。


「そうだね……! 燃える音楽とか!」

「それはそれで眠れなくなるだろう」

「あ、そっか……」


 あかりも残念そうな顔になるが、勘違いも甚だしい。敵は深夜ラジオ局ではないのだ。

 水上は少々あきれながら、四人の顔を見回した。


「ま、まぁ私も色々調べて見た。伝承や神話などに似た話がないか、とな。

 あの声は、古事記や平家物語などに登場する、(ぬえ)という妖怪の伝承によく似ている」


 その言葉は弧次郎を驚愕させた。


「何! (ぬえ)……!? まさか……」


「弧次郎さん、何か知ってるの?」


 今回の敵が、(ぬえ)……。弧次郎には信じられなかった。なぜなら。


(ぬえ)は雷獣とも言われ……その強力さから、妄想界では凶魔獣と呼ばれている。

 まさか……凶魔獣を送れるほど、通路が大きくなっていると言うのか……!」


 悟空の言っていた『作戦は成功している』の意味が重くのしかかってきていた。


「まさかそんな……。ならばもっと大量の魔獣が送り込まれても良いはず……」


 鵺が通れるくらいの通路ができているのなら、バクくらいの魔獣は数十体の単位で現世界に来られる事になる。

 それなら何故敵はそうしないのか。鵺がこちらに来ているのなら、何故もっと直接的な攻撃を仕掛けて来ないのか。

 ウォルフはそこに拭えない違和感を感じていた。


「鵺って、そんなにすごい……凶魔獣? なの?」


 あかりの声には恐怖の響きはない。むしろ強い敵と聞いてワクワクしているようだった。

 弧次郎の危機感とは対照的だ。


「文献によって差異はあるが、頭は猿、胴体は狸で手足は虎、そして尻尾が蛇という妖怪だ。

 夜に不気味な声で鳴いて人々を病気にしたり、雷をあやつったりすると言う。

 間違いない……と思うんだが」


 授業のような口調で解説すると水上は弧次郎とウォルフを見た。妄想界の存在なら何かわかるかもしれないと思ったのだ。

 しかし弧次郎たちにも、新たな情報はない。


「ホーキくんなら何か知ってそうだけど……」


 美佳は残念そうに呟いた。

 それを聞いて、水上はふと、気になっていたことを思い出した。


「そうだな。

 しかし、お前たちは大丈夫なのに、何故鷹城は休んでいるんだ?

 鷹城も、ホーキングが守っているのだろう?」


「確かに……」


 ウォルフは考え込んだ。

 智恵が学校を休んでいる理由。一つの考えが浮かんだが、ウォルフはあり得ない事だと否定した。

 だが。もしあり得ない事が起きているのだとしたら……。


「風邪とか引いちゃったのかなぁ……」


 ポツリと呟く美佳。

 あかりはハッと気付いて携帯を手に取った。


「そうだ、メール来てないかな」

「昼休みにメールしておいたから返事来てると良いんだけど……」


 二人は携帯を覗き込むが、智恵からの返信はない。


「鷹城はこのところ携帯の電源は切っているようだしな……」


 突然美佳は声を上げた。


「……あ!!」


「お嬢様……?」

「なに? 美佳」


 美佳は重要な事に気付いていた。智恵に何が起きているのか――。


「智恵ちゃんが携帯の電源を切ってるから、ホーキくん智恵ちゃんを守れなかったんじゃないかな……?」

「あ……そうか!」


 あかりは納得した。確かにそれなら辻褄が合う。

 水上は確認するように、弧次郎たちへ視線を向けた。


「そういうものなのか?」


「……確かに、携帯を切られていては連絡を取ることは出来ない」


「しかし、守る事は可能なはずです。……力の消耗は激しいですが……」


 二人の答えに、水上は肩を落とした。

 守る事はできる。だが、智恵が拒絶している事で激しく消耗してしまうのだ。拒絶されているホーキングが、消耗してまで智恵を守るだろうか……。事実、智恵は学校を休んでいるのだ。

 水上は、一つため息をついた。


「感情的に、色々とこじれていそうだからな……。あいつらは」


「電源を入れてもなかなか出て来なくなっていた程……だからな」


 弧次郎がそう言ってウォルフに視線を送ると、ウォルフは弧次郎と目を合わせてうなずく。

 しかし美佳は異を唱えるようにつぶやいた。


「でも……ホーキくんが智恵ちゃんを守らないなんてあるのかなぁ……」


「お嬢様……」


 美佳の優しさにウォルフは胸を打たれていた。しかし、状況を見れば……。


「とにかく、当面は鷹城とホーキング抜きでいくしかないだろうな。

 まずは今回の事件に関連のありそうな情報を集めよう。

 二人とも、一応鷹城にもメールしておいてやってくれ」


 水上は智恵たちの件に関しては結論を出さずに話を進めた。

 その気持ちはあかりたちにも伝わっていた。


「はい!」


 あかりが早速メールを打とうとした時、美佳が何かを思い出して声を上げた。


「……あ! そう言えば!」


「ん? なんだ? 那須野」


 美佳は新聞に気になる記事が載っていたのを思い出していた。

 先ほど教わった鵺の詳細が、記事の内容と繋がったのだ。


「こないだ新聞に、動物園で虎が一頭行方不明になったって記事が載ってたんです。

 もしかしたら……」


「虎か……」


 水上にも偶然とは思えなかった。

 もちろん動物の虎と妖怪の鵺は全く別の存在だ。

 だがそのタイミングが気になった。あまりにも符合しすぎている。


「そっか、もし鵺を作ろうと思ったら、虎は必要だもんね!」


 あかりがなるほど、と手を打った。


「つ、作る??」


 弧次郎がびっくりしてあかりを見る。

 美佳は笑顔でうなずいた。


「うんうん、虎の手足と狸のお腹、蛇の尻尾と猿のお尻だっけ?」


 美佳が指を折って鵺を構成する4つの動物を上げたが……。

 一体何を聞いていたのか。


「お嬢様、少々違うようです」

「ごめんなさい、レシピ覚えるの苦手だから……」


「れ、レシピ……」


 弧次郎が呆気にとられてつぶやく。


「美佳、それだと顔がないじゃん!」


 あかりの脳内に、美佳の言う通りの鵺が浮かんでいた。

 だいぶシュールな映像だ。


「富士宮、それもツッコミどころが違うぞ。

 ……しかし、そうなると狸や猿、蛇も集められた可能性が高いな」


 水上は呆れ声でツッコむと少し考え込んだ。


「そうですね……。

 しかし虎以外の動物に関しては、野生のものを捕獲する事も出来る筈です。メディアには期待できないでしょうね」


「そうだな。そこから何かの情報を得ることは不可能だろう」


 二人は厳しい見解を述べたが、水上はまだあきらめる気はなかった。


「まぁ、敵の居所に関しては、例の声の影響がある範囲を詳しく調べればわかりそうだな。

 それは私の方で調べてみよう」


 だがそう言う水上の顔色は悪い。学校の仕事の他にやるべき事を増やすのは、負担が大きすぎるのではないか。

 あかりも美佳も、見ていられなかった。


「長官、寝なくて大丈夫なんですか?」


 水上はふっと笑うと、意思の籠った目であかり達を見た。


「大丈夫。どうせ夜は眠れないんだ。夕方に寝ておいて夜に調査をする。

 ……っていうか富士宮、私は長官じゃないぞ?」


「はーい、長官!」


「ありがとうございます、先生!」


 二人が元気に返事をする。ミーティングも終わりに近づいていた。


「では俺達は、妄想界の方でホーキングと連絡を取ってみよう」


「うん、弧次郎さん、ウォルフさん、お願いね?」


 弧次郎たちに声をかけながら、美佳は鞄を持って立ち上がった。

 水上ものろのろと席を立った。やはりどう見ても調子を崩しているのは明らかだ。


「よし……では今日のところは解散……だな……」


 言い終わると同時に大欠伸をする。


「はい!」


 元気よく返事をして、あかりは美佳の方を向いた。


「ね、美佳、手足のない虎とか、胴体のない狸とか、尻尾のない蛇とか探せば、敵はその近くにいるんじゃないかな?」


 突然物騒な事を言いだすあかりに、美佳は笑顔でうなずいた。


「そうだね!

 ……でも、蛇ってどこからが尻尾なのかなぁ……?」


「お前たち……」


 弧次郎は額に手を当ててため息をつく。


「お嬢様、鵺に蛇の尻尾がついているのではなく、鵺の尻尾そのものが一匹の蛇になっているのです」


「え? じゃあ、蛇は残った部分がないって事?」


 美佳がびっくりして聞き返した。


「手がかりが減ったわね……」


 腕ぐみをして考えるあかり。


「お嬢様方、そう言う問題では……」


 ウォルフは頭を抱えながらつぶやいた。


「お前たち、意外と残虐な想像もするんだな……」


 水上は軽く引きながら二人の教え子を眺める。

 美佳はきょとんとして聞き返した。


「残虐、ですか……?」


 水上はそれに答えず、気を取り直して指示を出した。


「ま、まぁとにかく、みんな、自分の出来ることをしっかりやっておくんだ。いいな?」


「はい! ……あんまり無理しないで下さいね、先生、いや、長官!!」


 そう言って、あかり達は元気よく生徒指導室を後にした。


「……そんなに長官と呼びたいのか? 富士宮……」

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