シーン3 @現世界某所
アラジンは上機嫌だった。作戦の第一段階は滞りなく進行している。
MSガールズとやらを亡き者にする力を持つ凶魔獣。それを現世界に呼び寄せるための準備も、残るは最終確認を残すのみだ。
部下の姿は見えない。まだ作業が終わっていないのだろうか。
アラジンは大声で呼びかけた。
「……準備は整ったか?」
しばらく待つ。だが返事はない。
「……準備はできたのか?」
さらに待つ。だがやっぱり返事はない。
アラジンは苛立って怒鳴った。
「……準備出来ているのか!?
コードネーム・ジン!!」
アラジンの怒声を食い気味に、野太い男の声が響き渡った。
「ハイハァ~イ♪
天知る地知るお味噌汁♪
豚汁ブラジルアルゼンチン♪
皆様おー待ちかねの~!
コードネーム・ジン!
満を持して! 今! 参上!!」
この無駄にテンション高く無駄に長い口上の間に、アラジンの周囲に風が巻き起こり、その風が集まって一人の男に変化した。
ムキムキの肉体を持つ、おっさんである。
彼の名前は、ジン。ランプの精霊である。
アラジンの配下である彼は、凶魔獣を呼び寄せる準備を任されていた。
「……満を持さんでいいから、早く返事をしろ。
準備は整っているのだろうな?」
アラジンは少しイラッとしながら確認した。さっきまでの上機嫌が台無しだ。
「もっちろ~ん♪ で、ございますですハイ。
もう不必要なまでに完全に!
過剰なほど完璧に!
これでもかと言わんばかりに整いまくっておりますです、多分」
アラジンはさらにイラッとする。
「多分とはなんだ、多分とは。
……まぁ良い、材料を早く出せ」
「ハイハァ~イ♪
かーしこまりまくりでございーます♪
少々々々々々、お待ち下さいませー!?」
相変わらず鬱陶しい喋りで恭しくお辞儀をするが、そのまま動こうとはしない。
「……で?」
アラジンが促す。もしかしたら準備をサボっていたのか……。
「ハイハァ~イ♪
もぅ、少々々々々々、お待ち下さいませー!?」
全く同じ動きで頭を下げて、また同じように突っ立っている。
「……で?」
「ハイハァ~イ♪
もぅ、少々々々々々、お待ち下さいませー!?」
そして、沈黙。
「……で?」
「ハイハァ~イ♪
もぅ、少々々々……」
ジンが何度目かのお辞儀をしようとした時。
「ばかぁ~~~~~!!!」
幼い女子の声と共に、ゲンコツが降ってきた。
ゲンコツが頭にヒットし、ぐらつくジン。
「ぐはっ……!」
ジンの頭を殴り飛ばしたのはアラビア風の派手な衣装を着た少女、いや幼女だ。人間年齢にして6歳くらいだろうか。
アラジンはその子の両肩を掴み、感極まった声を上げた。
「おぉジニー、ジニーじゃないか~!
OH! こんなに可愛い子が私の娘なのかい?
さぁよーく顔を見せておくれー?」
ジンの娘、ジニーは、もう一度拳を固めて父親の頭に叩きつける。
「ぐはっ!」
「……殴りますよ?」
ジニーは冷たく言い放った。
「もう殴ってるのだよジニー。
父を2発も殴るなんてひどいのだよジニー」
父の弱々しい抗議などものともせず、すぅ〜っと息を吸った。
「なぁにが『不必要なまでに完全に』ですか!
なぁにが『過剰なまでに完璧に』ですか!
なぁ~にが『これでもかと言わんばかりに整いまくってます』ですかっ!
ぜーんぶあたしにやらせて、おとたまはなんにもしてないくせにっ!!」
とんでもない暴露である。
だが、流石に自分の仕事を幼い娘に全て押し付けるなど……。
「OH愛娘のジニー、そう言うことばらすなんて父は悲しいぞ?」
ジンが悲しげに言った。娘に全て押し付けていたのは本当だったのか。
「だってー。有能な愛娘に任せた方が全てにおいて安心、完全、パーフェクト!
……そんな冷静な作戦と、娘に対する絶対的な信頼! 愛!
そんな父の想いからの行動を、『なんにもしてないくせに』とは……。
父は泣けてくるよ……。
よよよよよ……」
明らかな嘘泣きである。
「あーもうウザい。どーせめんどくさいからでしょ」
「どギク!!」
オーバーリアクションで胸を押さえるジン。こいつ、全方位をバカにしているのか。
アラジンは疲れた顔で、親娘喧嘩に口を挟んだ。
「……そろそろいいか?」
「ごめんなさい!
うちのおとたまがいつもいつもご迷惑おかけしてしまって!
準備はできましたっ!」
ジニーが慌てて頭をぴょこんと下げた。
「いつもいつもって……。
私たち今回が初登場だよ? ジニー……」
訳のわからない事を口走るジン。少し黙っていろ。
アラジンはジンを完全にスルーして、ジニーに指示を出した。
妥当な判断だろう。
「……ふむ。ではジニー、魔獣の依り代をここへ!」
「はいっ! アラジン様!」
ジニーの元気なお返事の後に、動物達の声が微かに聞こえてくる。
その声がだんだん大きくなって――。
「……愛娘ジニー、こんなに立派になって……。父、ちょっと嫉妬……」




