シーン1 @常世の国
神託の間には、珍しく穏やかな空気が流れていた。
「悟空、前回の働き、ご苦労だった。
負のエネルギーも相当たまったようだな?」
「うん、あ、はい、卑弥呼様」
悟空は片膝をついて頭を下げた。既に悪魔ポイズンの効果は切れていたが、もう二度と喰らいたくないという恐れが、悟空を神妙にさせていた。
「……でも、MSガールズを捕らえられなかったのが……」
悟空が言いづらそうに言ったその言葉を受け、アラジンが口を開いた。
「殊勝だな、小僧。
とは言え……あの戦果は評価すべきだ。
MSガールズとやらはこちらに任せて、少し休んでおけ」
胸を張るアラジンに、悟空は笑顔を見せた。
「ありがとな、おっさん。んじゃ、そうさせてもらうわ」
悟空は立ち上がって一歩後ろに下がった。
「アラジン……。なにか自信がありそうだな?」
「はい。既に作戦立案は済んでおります。今回送り込むのは、凶魔獣……」
その言葉に、悟空は思わず口を挟む。
「凶魔獣? もしかして、あいつか?
ちょっとおっさん、いくらなんでもあいつ送り込むのは無理だろ。
確かに通路は相当でかくなったけどよ、あいつのエネルギーはもっと……」
凶魔獣……。魔獣を分類するランクの中でも『凶』は特に強力なランクである。
だからそのランクに位置する魔獣は少なく、悟空はほぼ確信に近い目星を付けていた。
だがそれほど強力なエネルギーを持つ凶魔獣が、境界の穴を通れるのか。
悟空やアラジンにしても、力の全てを現世界へ送れるわけではない。力の一部、境界の穴を通れるほど小さな一部を送り出しているに過ぎないのだ。
だがアラジンの自信は、いささかも揺るがない。
「いや、やり方次第だ。今の通路で充分に……」
この自信は本物だ、と悟空は悟った。そして同時に、素直に感心もしていた。
「な、なんか秘策があんのか。なんだかんだ言ってすげえなおっさん」
アラジンは悟空からの賛辞に少し照れたのか、目を逸らして咳払いした。
「それも、全て通路を広げてくれたお前の働きがなければ出来ない話だがな」
「おっさんに褒められると、なんかくすぐってえな、へへ……」
悟空はアラジンからの賛辞に素直に照れて頭を掻いた。
いつもは険悪な二人がお互いを認め合っている。そんな二人の様子に、卑弥呼は満足げに頷いた。
「うむ、ではアラジン、任せるぞ」
「御意。まずは……現世界へ行ってまいります。
……お見送りは結構」
アラジンが境界の穴に消えるのを見送って、悟空が手を振った。
「おう、いってらーーーー!」
手を振る悟空。現世界に飛び立ったアラジン。神託の間は、卑弥呼と悟空の二人きりになっていた。
卑弥呼には、悟空に尋ねておきたい事があった。今は二人きり。絶好のチャンスである。
卑弥呼は、おそるおそる口を開いた。
「……ところで悟空」
「ん? 何? ねえちゃ……卑弥呼様」
屈託なく振り向く悟空。
「先のチーズフォンデュの件だが……」
瞬間、悟空の表情が凍り付く。
「あ! お、俺、ちょっと用事があるんだった! ひ、卑弥呼様、ごめんな、また今度に……!」
悟空の慌てようをあっけにとられて見つめていた卑弥呼。駆け去る悟空の背中を見送りながら、彼女は不思議そうにつぶやいていた。
「……? どうしたのだ……?
我は、ただチーズフォンデュって何かを聞こうと思っただけなのだが……」




