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夢幻戦隊MSガールズ  作者: 硫化鉄
第四話 「幸せの黄色い……」

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シーン8 @学校の屋上

 美佳は三つの携帯を持って、学校の屋上に来ていた。美佳は、作戦の決行はここしかないと思っていた。


「しかし……なんでまた学校の屋上なんだ……?」


 弧次郎が不思議そうに聞いた。


「え? だって……」


 言いよどむ美佳に、すかさずウォルフがフォローを入れる。


「ここなら周囲に被害が及びづらいし、人目にも……」

「前に勝ったところだから、縁起良いかと思って!」


 あっけらかんと言ったその言葉が、ウォルフのフォローを台無しにした。


「お嬢様……」


 額に手を当てて目を閉じるウォルフ。今度は弧次郎がフォローする。


「ま、まぁ、確かにウォルフの言うとおりだ。

 ここでディスペアーを……迎え撃つ!」


 闘志のこもった弧次郎の声が響き渡った。

 その時。


「あらぁ? 色男の声じゃなぁい?

 声はすれども姿は見えず……。

 いるのは可愛らしい小娘ちゃんだけだねェ?」


 上から艶めかしい女の声が降ってきた。狐仙だ。

 美佳たちには見憶えない顔だったが、ディスペアーの一員であることは一目でわかった。何しろ空を飛んでいるのだ。そしてその横には筋斗雲に乗った悟空が、巻き寿司を口に押し込んでいる。


「早速、現れましたね……」


 ウォルフの声には緊張が滲んでいた。彼らの登場があまりにも早い。

 こちらの作戦が全て読まれているとしたら……。


「そうだね……。もしかして、先に来て待ってたのかなぁ?」


 悟空は巻き寿司を咥えたまま、堪えきれずに笑った。


「ちげーし! 時間の都合ってやつ?」


「あ、悟空くん、この後なにか用事があるの?

 あ……そっか! だからご飯食べる暇がなかったんだね……!」


 納得して悟空に同情の目を向ける美佳。


「あ、いや、これは違うんだけど……」


「でもね、悟空くん、口の中に食べ物が入ってる時は、しゃべっちゃダメだよ?」


 悟空は口の中に残っている巻きずしを完全に飲み込んで、美佳にあっかんべーをした。


「わ、わーってらぃ!

 ……と、とにかく狐仙、絶対あいつらが何か邪魔してんだ、なんとかしろ!」


 言うが早いか、次の巻きずしを掴んで口に押し込む。


「かしこまりましたわぁン、悟空様ン。

 さぁ、最後の一人、この本体で吸い込んであげる。

 どんな邪魔してるのかわからないけど、そしたら全て解決ってこと。

 ……覚悟するんだねえ、お嬢ちゃん?」


 邪悪な笑みを浮かべながら、狐仙はひょうたんの栓を抜いた。


「よし、栓を抜いたぞ!」


 弧次郎の合図で、美佳は自分の携帯を構えた。


「じゃあ、変身だね! 念写! MS・コラボレート!」


 美佳の携帯から静かに光があふれ、MSイエローのスーツが装着された。


「……で、えっと……。うぉりゅちゅ……」


 自分で付けた武器の名前を言えず、噛んでしまうイエロー。


「お、お嬢様……」


 ウォルフのおろおろ声とともに、携帯が変形した。筆と弦を合わせたイエローの武器、ウォルツールだ。


「イエロー、ウォルフ、頼むぞ……っ!!」


 イエローは弧次郎にゆっくりとうなずいた。


「へん、一人で変身したって、何ができんだよ?」


 巻き寿司を頬張ったまま嘲笑う悟空をスルーして、イエローはウォルツールをギターのように構える。


「いっくよー! えーい!」


 気合一閃、イエローが爪弾く音色が響いた。

 優しく包み込むようなメロディラインに、ちょっぴりコミカルなリズムが隠し味となって、いつまでも聞いていたくなる曲だ。

 何かの攻撃かと警戒していた狐仙にも、聞いているうちにそれがただの音楽でしかない事がわかってくる。


「何、演奏……?

 とても上手だけどさぁ、ずいぶん余裕だねえ?

 あたしはバカにされて黙ってるほど、お人好しじゃないんだよ?

 小娘が……ナメんじゃないよ!!」


 激昂する狐仙に応えるように。


「ィ~~〜〜ヤッホーーーーウ!」


 校舎内への扉の陰から、黄金色のホウキが飛び出してきた。ホーキングだ。

 彼は交通事故から智恵と美佳を救った時のように、チャリンコ智恵スペシャルに宿り、黄金のホウキに変形して扉の陰に隠れていたのだ。


「な、なにっ!」


 巻き寿司を飲み込む事も忘れるほど驚く悟空を煽るように、ホーキングは悟空の周りをくるりと旋回する。


「はッ! 俺様を忘れて油断してんじゃねーぞサル!」


 悟空を強烈に煽って、ホーキングは突然狐仙に視線を向けた。


「おい、狐のおばさん!」

「な……っ!!」


 思わず返事をしかけた狐仙だったが、流石にその手には乗らなかった。

 蓋を開けさせて、うっかり返事をさせるように呼びかける。そんな作戦なのだろう。随分と甘く見られたものだ。


「おおっと、危ない危ない。

 そうやってスキを突いて返事させようって作戦かい。

 そうはいかないよ!」


「狐仙! ひょうたん取られるんじゃないぞ!」


 両手で持った巻き寿司を、交互に食いちぎりながら叱咤する悟空。

 だが、ぶんぶんと高速で飛び回り、隙を見てはひょうたんを狙ってくるホウキの猛攻に、狐仙は手を焼いていた。


「んっ! くぅっ!!

 ええい、飛び回るんじゃないよ、うっとうしい!

 そこのホウキ!!」


 狐仙の叫び声にホーキングは急停止した。反射的に答えそうになる言葉をグッと飲み込んで狐仙を見返した。


「おーっとっとぉ。返事するわけねーだろ、バーカ!」


 勝ち誇るホーキング。イエローはウォルツールを演奏しながら大喜びだ。


「さすが、ホーキくんっ!」

「おう! まぁな……」


 次の瞬間、ホーキングの姿が消えた。その声も、フェイドアウトして消えてしまった。


「……あ」


 弧次郎が絶句する。


「ああああ!!! ホーキくん!」


「お嬢様……」


 イエローの演奏と悲痛な叫びが交じり合う。ウォルフはやりきれない思いでうつむいた。

 そんなイエローたちに、狐仙が強烈な嘲笑を浴びせかける。


「あーーっはははははは! ほーんと、馬鹿な子たちだねェ。

 自分たちであのホーキを吸い込ませて、自分の首を絞めるなんてさぁ」


 勝ち誇る狐仙。呆然としていた弧次郎は、ふっと笑って狐仙に視線を向けた。


「……フン。それはどうかな……?」


「……と見せかけて、唯一飛べるホウキを、救出部隊として中に送り込んだ……ってとこかねェ?」


 狐仙は弧次郎の言葉を無視してそう続けると、イエローたちに見せつけるようにひょうたんの蓋をしめた。


「ざぁんねんだけど、これでホーキも、出られなくなっちまったねェ?」


 狐仙の高笑いがこだました。


「な……っ!?」

「ばれていたのか……」


 ウォルフと弧次郎が同時に焦燥の声を出す。


「ふん、焦るが良いさ。姿こそ見えないけど、いい男みたいだからねえ?

 色男が敗北感に打ちのめされる姿ってのも、また良いもんさね……。ふふふ……」


 狐仙が余裕の笑みを浮かべた、その時。


「だが……!」


 狐仙に投げつけられた弧次郎の声は強い。


「ならば、栓は抜けまい!

 イエローを吸い込むことが出来なければ、お前たちの勝ちもない!」


 だが、弧次郎の言葉を聞いた悟空は、巻き寿司を飲み込む間もなく大笑いした。


「甘いよな~お前らさぁ。狐仙がなんでさっきフタ閉めたかわかるかー?」


「何……っ!?」


「フタを開ければホウキは中のねーちゃんたちを連れて脱出する。

 閉めたままなら安全に、変身したねーちゃんがこのひょうたんを奪うチャンスを狙う。

 そーゆー作戦なんだろーけどさぁ」


 そこまで言って、巻き寿司を口に入れる。


「あのホーキが中にいる二人を救い出すなんて、無理に決まってるじゃなぁい?」


 すかさず狐仙が次の巻き寿司を手渡しながら、悟空の言葉を引き継いだ。

 悟空は口をもぐもぐさせながら、我慢できずに喋り出してしまう。


「そゆこと~。勝ち誇らせてから絶望させる、そう言うのが大好きだからなぁ、狐仙は。

 だから、お前らの作戦に乗ったフリして、フタ閉めたんだよ!」


「何ですって……!?」


 ウォルフは呆然と呟いたが、すぐに気を取り直した。

 ここで負ける事は許されない。それを誰よりも理解しているのはホーキングのはずだ。


「……いえ、ホーキングなら必ず……!」


 だがその声も、悟空の爆笑にかき消される。まだ口の中に食べ物を残したまま、悟空はもう一口かみちぎった。


「あ~あ、お前らほんっと、人間ってもんがわかってねーな。

 ひょうたんの中は人間であふれてんだぞ?

 あっついし苦しいし、いつ出られるかもわかんねえ。負の感情でいっぱいだ。

 そんな中で、二人を救い出そうとしたらどうなる?

 周りの人間だって、自分も逃がしてもらおうとするわなぁ。我先に殺到して、パニックや暴動だって起こるかもしんねー。まず無事にはすまねえよなぁ。

 ……断言するよ。フタ開けたって、ホウキは出てこれねえか、一人で出てくることになる」


 悟空の演説には、反論できない程、筋が通っていた。


「ふふん。残念だったわねぇ、嬢やに坊や?」


「くっ……」


 弧次郎たちにもう反論の言葉は残っていなかった。

 口を閉ざしてしまった弧次郎たちの横で、イエローの奏でる音色が響き渡る。


「お嬢ちゃんの方はもう諦めてるみたいだねェ?

 さ、じゃあフタをあけてみようかねえ……?」


 狐仙はイエローたちに見せつけるように、ひょうたんの栓を抜いた。

 瞬間、ひょうたんの口から小さな金色の光が飛び出した。急速に膨張してホーキングの大きさを取り戻す。


「っぶはっ!!

 何だよ、あの暑さ! 湿気!! はー、苦しかった!」


 盛大に文句を言いながらイエローのそばに戻ってきたホーキングに二人は乗っていない。


「ホーキング! あかりは! 智恵は!!」


 噛みつくように問いかけた弧次郎の声が虚しく響いた。


「あーっははははははは!! やっぱり手ぶらじゃないか!

 しかも? なんの努力もせずに、すぐに諦めて帰って来たみたいだねェ?」


 高笑いする狐仙を無視して、イエローは演奏を続けながらホーキングに声をかけた。


「ホーキくん! ご苦労様!! うまくいった?」


「あったりめえだ! 俺様がしくじるわけねーだろ!」


 得意げに飛び回るホーキング。悟空の咀嚼が止まる。


「なんだと……っ!?」


 つぶやく悟空の耳に、聞きなれない声――かなり間延びした、少しイラッとする声が響いてきた。


「むーーーーしろ私のーーーーー、かーーーーーつやくですよーーーーぅ?」


「もちろん! ひょうタンのおかげ!」


 イエローの演奏が明るさを増した。作戦の第一段階が成功したのだ。


「ホーキング、早くあかりたちを!」


「おうっ!」


 屋上の床すれすれに降りてきたホーキングが身を揺すると、ドサッという音と共に三人の人影が現れた。


「うぅ、いったぁ~……」


 お尻をさすりながら立ち上がるあかり。


「もっと丁寧に扱いなさいよね!」


 早速ホーキングに文句を言う智恵。

 そして。


「どう……なってるんだ……?」


「あ、水上先生!」


 最後の一人は、水上鮎だった。


「その声……。お前……那須野……か?」


 周囲を見回していた水上は、イエローに目を向けた。

 その顔は、信じられないものを見た時の、恐怖にも似た表情に支配されている。


「ホーキング。何故……二人だけじゃない?」


 弧次郎の声が冷たい。


「あ、いや……ちょっとした手違いで……あはは」


「しくじるわけないんじゃなかったっけ?」


 智恵が冷静にツッコむ。


「うっせえな! ちゃんとお前ら助けたろーが!」


 言い合う智恵と金色のホウキ。

 空中から見下ろす女と雲に乗った少年。

 水上には全く状況がわからなかったが、危機的状況である事は察せられる。

 水上は黙って状況を観察し始めた。


「な、何がどうしたというのさ! なんでお前たちが……!?」


 ホウキが出てきた時、三人を乗せてはいなかった。

 なのに何故、彼女たちは脱出してきているのか。

 混乱する狐仙を揶揄するように、のんびりと間延びした声が響く。


「だーーーーーから私のーーーー、かーーーーつやくだといーーーーーってるでしょーーーーぅ?」


 その声に、狐仙の苛立ちはさらに加速する。


「一体なんの声なのさ! どこにいる!?」


「あはは! ここここ! 俺様にくっついてんだろ?」


 ホーキングはそう言って、穂の一本をひょいと曲げた。その穂先が指すのは、穂の根本に括り付けられた、赤いひょうたんのストラップだ。


「ひょうたんの……コピー?」


 悟空が巻き寿司をゴクリと飲み込んで身を乗り出す。

 悟空が見つめるそのひょうたんには顔が描かれていた。


「ひょうタンです!」


 イエローが胸を張って紹介する。命名したのは彼女なのだろう。

 ひょうたんストラップに描かれた顔が満面の笑みになった。


「はーーーーーい。ひょーーーーーうたんでーーーーーーーす!」


「正直、しゃべり方うっとうしいけどな」


 ホーキングがまぜっ返す。

 怒り心頭の狐仙と、巻き寿司を食いながら面白がって見ている悟空に、ウォルフたちの声が響いた。


「お嬢様に顔を描かれ、音楽の力で心を得たひょう……タンは、本体を裏切り、我々に協力してくれたのです!」


「コピー全部と本体のリンクを切り、ホーキングと共に本体に潜入し……」


「あかりちゃんたちを、本体に送らないようにしたままで吸い込んでくれたんだよねっ!」


「そーーーーーーういうことでーーーーーーーす!」


 ホーキングにつけられたひょうたんのストラップ――ひょうタンが、嬉しそうに揺れた。


「んまぁ、センセが返事したのは誤算だったけどな。呼んでもいねーのに」


 ホーキングがぼやくが、仲間を取り戻し、反撃に移る展開に上機嫌だ。


「癪だねェ……。

 でも、逃げ出したところで、このひょうたんがある限り、こっちの優勢は変わらないんだよ?

 中には10万人近くの人質がいるんだからねェ?」


 確かに狐仙の言う事は正しかった。10万人に迫る人数の人質が、いつでも溶かせる状態で狐仙の手の中にある。そのひょうたんは、中にいる人間を一人もこぼさぬよう、既にきつく栓がしてあった。

 だが。


「ふん! そう思い通りにはいかないわよ! あたしの計算によれば!」


 ゆっくりと、だが確実に智恵は身体を起こし、立ち上がった。

 身体はふらふらだ。だが気持ちで負ける気はなかった。


「そう! ピンチを脱出したら、あとは勝つだけ! いくよ!」


 あかりはすでに立ち上がっていて、拳を天に突き上げた。

 反撃の始まりだ。


「ちょっとまって、なんか飲みたい……」

「そ、そうだね……」


 先ほどまでの気合はどこへやら、二人は今にも座り込みそうだ。

 ホーキングはため息をついた。


「おめえら……」


 そこに立ち上がったのは、じっと様子を伺っていた水上だ。


「わかった!

 お前ら、なんとかなったら、後で好きな飲み物好きなだけおごってやる!

 だから、今は捕らえられた人々を救い出せ!」


 水上の一括で、あかりと智恵の背筋にビシッと芯が通った。


「わかりました!

 ……っくうううう~~! 燃えて来たぁ!」


「いくよあかりっ!!

 念写! MS・インストール!」


「よっしゃあ! 念写! MS・シンクロナイズ!」


 二人の身体が光に包まれ、ホウキは地面に転がった。


「おーいお嬢様! ひょうたんのやろーはもう心を持ってる!

 音楽は、力を使う時以外はやめててもいいらしいぜ!」


「はーーーーーーい、ホーキさんのぉーーーーーー、おーーーーーーっしゃるとーーーーーーーーおり……」


「うんっ! ありがとう、ホーキくん、ひょうタン!」


 イエローが演奏を終えたところに、変身したレッドとブルーが並び立つ。


「真っ向勝負! MSレッド!」

「見事に勝利! MSブルー!」

「無敵のショータイム! MSイエロー!」


 そしてイエローが一歩前に進み、悟空たちを見上げ、大きく息を吸った。


「夢が生み出す無限の力! 夢幻戦隊!」

「MSガールズ!!」


 イエローの声に続けて、三人の名乗りが決まる。

 だが狐仙も負けてはいない。


「ふん! 変身した所で、どうするつもりだい?

 もしこのひょうたんを壊しでもしたら、中の人間たちは全員死ぬんだよ?」


 目の前にひょうたんをぶら下げ、ぶらぶらと振って見せる。


「どうしよう……」


「うーん……。なんとか敵の動きを封じられれば……」


 考え込むイエローとブルー。レッドは狐仙を見上げ、二人の前に出た。


「わかった! あたしがつっこむ!

 ジラードっ! とぉあぁっ!!」


 レッドが助走からジャンプして狐仙に斬りかかるが、狐仙はひらりとかわす。

 その時、巻き寿司を飲み込んだ悟空から狐仙に指示が飛んだ。


「狐仙! さっきのホウキから、コピーはずせ!」


「かしこまりましたわぁン、悟空様ン」


 狐仙は屋上に転がっているホウキめがけて急降下した。


「や、やべっ! 俺様こっちだし!」


 今は宿っていたホウキから離れ、ブルーの武器に移っているホーキングが慌てて叫ぶ。

 先に着地していたレッドが、狐仙の前に立ちはだかった。狐仙をホウキのところに行かせまいと懸命に剣を振るうが、いかんせん狐仙は素早く、力も強い。

 ブルーは苛立って叫んだ。


「あぁもう! 役に立たない! あんた、武器の代わりにあっちに移れないの?」


「お、その手があったか! でも、俺様があっちに移ったら……変身解けるぞ?」


「はぁ!? なんでそうなるのよ!」


「お前の変身は、俺様の力を宿すことで成立してんだ! 俺様が宿ってるアイテムを身に着けてないと、維持できねえんだよ!」


 ブルーとホーキングが言い合っている間に、狐仙はじりじりとレッドを圧倒し始めていた。

 そして。


「ふん、遅いね! 赤いお嬢ちゃん!」


 レッドの斬撃をするりとかわし、狐仙はついにレッドの脇をすり抜けた。


「うあっ! 抜かれたっ!?」


 振り向くレッドの目の前で、狐仙がホウキに駆け寄る。

 しかし一瞬早く、何者かがホウキに飛びつき、掴み取った。


「これを、奪われなければいいんだな?」


 ホウキを握りしめ、立ち上がったのは……。


「せ、先生!?」


 三人は驚いて同時に声を上げた。

 こんな、普通なら信じられない状況で、怒るどころか協力してくれるなんて想像もしていなかったのだ。


「な、なんだい、今度は……なんか癪な女だねェ?」


 水上はタイトスカートをポンポンとはたいて汚れを払うと、狐仙に厳しい視線を向けた。


「まだ詳しい事情はよくわかっていないが……。

 とりあえずお前たちはうちの生徒の敵らしいからな。

 それなら私の敵でもあるわけだろう?」


 凛と響く水上の声。そして、教え子を信頼し、守ろうとするその気概。


「先生……かっこいい……!!!」


 その姿に、レッドの心が燃え上がった。

 お返しに、あたしたちのカッコいいところも見せなくちゃ!

 気合を込めるレッドの後ろで、イエローが水上に向けて叫んだ。


「先生、そのホーキくん、智恵ちゃんに渡してください!

 ……あ、あー、えっと智恵ちゃんは、今、真っ青になってる……」


「ですからお嬢様、それは少しニュアンスが……」


 水上はイエローに向かって力強くうなずくと、ブルーへ力いっぱいホウキを投げ渡した。


「わかってる。姿が変わるところを見ていたからな。鷹城!!」


「あ、はいっ! って、わわっ! っとと……っ」


 猛スピードで飛んで来るホウキに、ブルーは慌てて飛びついた。うまく掴めずに落としそうになって、とっさに抱きしめてしまう。

 その瞬間にホーキングはホウキに移っていた。柄の先端に、ホーキングの目と口が浮かぶ。


「よぉし、ナイスキャッチだ! 飛ぶぞ!」


 早速飛び回ろうとするホーキング。ブルーは必死でホーキングにしがみついた。手が離れたら変身が解けてしまうのだ。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

「いいから、乗れっ!!」


 ホーキングはブルーを跳ね上げた。


「うわぁっ!!」


 必死で柄を掴んでいたブルーは、ホーキングの背にまたがるように乗せられていた。

 その姿を見て、イエローが喜んで手を振った。


「わぁ、智恵ちゃん、魔法使いみたい!!」


 すいすいと飛び回るホーキングの上で、ブルーは悔しそうに、左手で額を押さえた。


「く……屈辱だわ……」


「うっせぇなぁ! ほらさっさと俺様についてるひょうたん回収しとけよ!」


「はぁ!? なに偉そうに命令してんのよ!」


「うるせえさっさとやれ!」


「もうとっくに回収済みよ!」


 またもブルーが言い合いを始めるが、そんな場合ではない。


「智恵! 本体を奪わなきゃ! 手伝って!

 弧次郎さん、行くよ!!」


「応っ!!」


 レッドは床を踏みしめ、ホウキに乗ったブルーは空から、狐仙に攻撃を仕掛けた。

 だがひょうたんに攻撃を当てず、奪わなければならない。

 孫悟空は何を考えているのか、上空で巻き寿司を食いながら、ただ戦いを眺めていた。

 それが救いと言えば救いだったが、狐仙一人でも十分に強かった。

 その狐仙が自由に動き、ひょうたんを壊さぬよう動きを制限されているレッド達を圧倒し始めていた。


「私も、力にならなきゃ……。あかりちゃん達を助けただけじゃなくて……」


 イエローは考えを巡らせた。

 そうだ、私の目的は二人を助ける事じゃない。二人を助けたのは、三人で戦うためなんだ。三人で、捕まった人たちを助けるのが目的なんだ。

 イエローが顔を上げた時、バイザー越しにも強烈な日光が目を射た。

 もう日が傾き始めているのだ。


「うぅ、西日が……! 逆光でまぶしい……っ」


 レッドは腕で目を庇いながら苦戦していた。狐仙は巧妙に、太陽を背にして戦っている。


「ふふん。さらに不利になったようだねェお嬢ちゃん?」


 狐仙は勝ち誇って高笑いした。屋上の柵ギリギリの立ち位置を確保している限り、背後に回り込まれる事はない。飛び回っているホウキに乗っている方は、ひょうたんを囮にすれば、釣られた動きは簡単に予測できる。

 それはMSガールズ側にも分かっていた。


「っくぁー! なんか光を遮るもんねーかな……」


「今は銃も使えないし……。

 あかり! 美佳!

 なんとか立ち位置逆転させるか……、なんか大きな影に入るかしないと勝てないわ! あたしの計算によれば!」


 学校の屋上には給水タンクが設置されていたが、位置的には背後で、影は反対側に伸びている。

 こちら側に大きな影などなかった。


「影ったって……」


 狐仙と入れ替わろうと必死なレッド。周囲に影など見当たらない以上、そうするしかない。

 イエローは、きょろきょろと見回しながら、考えていた。


「影……影……?」


 そして、レッド達の影を見て、声を上げた。


「……影!!!」


「お嬢様……?」


「ウォルフさん……! 私に、力を貸して!」


 イエローの声は、力強かった。

 思いついた作戦は、この不利な状況から脱出できるものだった。だがそれには、とても大きな力が要る。

 今まで以上に、ウォルフの協力が不可欠になるのだと、イエローには分かっていた。


「お嬢様、それはもちろん……」

「そうじゃなくて……!」


 ウォルフの返事を遮って、イエローはもう一度、強い声で念を押す。

 それは覚悟を決めた者の意志がこもっていた。


「力を貸して! 今までみたいじゃなくて、本当の、全部の全力で!!」


 イエローの気持ちがウォルフの中に染み込んでいく。

 ウォルフは覚悟を決めた。


「お嬢様……。かしこまりました!!」


 ウォルフの気合の高まりに呼応して、ウォルツールが眩いほどの輝きを放つ。


「じゃあ、いくよ……っ! ん~~~~~~……っ! えーーーーい!!!」


 イエローはウォルツールを抱え、筆先を屋上の床に走らせた。


「那須野……! 地面に……黄色……??」


 イエローが描いたのは……。

 黄色に塗りつぶされた、狐仙の影。


「イエロー・シャドウ・バインド!!」


 ウォルツールを構えなおし、弦をかき鳴らす。

 狐仙の影が地面から起き上がり、本体を抱きすくめて拘束した。


「な……なんだい、こいつは……!

 ってゆうか、黄色い……あたし……!?」


 狐仙は、黄色い影の自分に羽交い締めにされる。


「なるほど……影!!」


 イエローの策とその技に、ブルーが感嘆して指を鳴らした。


「へー、あのお嬢様、やるじゃんか。

 影を自分の色で塗りつぶして、自由に操るとはな!」


「うん! 影がこっちまで伸びてきてたから!」


 イエローの演奏はさらに熱を帯び、呼応して黄色い影の力も強くなっているようだった。


「そして、その力でヤツを完全に押さえ込んでいる……。

 あかり、チャンスだ! 今のうちに!」


「うんっ! いくよ必殺!! 奥義・万斬刀ぉーっ!!!」


 ジラードを構えて狐仙へ向けて振りかぶるレッド。狐仙は逃れようと必死でもがくが、すでにレッドの剣は避けられない間合いに入っていた。


「ええい……離せっ! 離せ……離すんだよっ!!

 ご、悟空様ぁ……!」


 涙目になって悟空に助けを求める狐仙に、レッドの剣がヒット……する前に、レッドは狐仙の腰にぶら下がっているひょうたんをするりと奪い取った。


「ざーんねん、ひょうたんはもらったよ!」


「……くぅっ!!」


 影に捕えられたまま悔しがる狐仙に、上空から悟空の檄が飛んだ。


「狐仙、なんとか抜け出せねえのか!?」


 言い終わるとすぐに巻き寿司を口に放り込む。


「影は音楽の力で本人よりパワーアップしてるから、そう簡単には抜け出せないよぉだ!」


「後は……っ! みんなを開放する……っ!」


 状況は完全に逆転した。狐仙はまだ逆転を狙ってもがいているが、上空の悟空は手を貸そうともせず、巻き寿司を食いながら見下ろしているだけだ。

 悟空の余裕はどこから来るのか――。

 弧次郎はなにか嫌な予感がした。


「あかり、とりあえずひょうたんを安全なところへ!」

「ほいきた!」


 弧次郎の声に反応したのはホーキングだ。ブルーを乗せてレッドのもとへ飛来する。


「あかり!」

「智恵、頼むね!」


 手を伸ばしたブルーに、ひょうたんを渡して、レッドは改めてジラードを構えた。


「……いらつくねェ……っ!」


 だがその瞬間、狐仙は影の存在感が薄くなってきている事に気付いた。

 太陽が沈みかけ、影そのものが薄くなってきていたのだ。


「いつまでも調子に乗ってんじゃないよッ! ……えええええいっ!!」


 狐仙が力任せに黄色い影を引きちぎった。


「あっ!」


 破壊された黄色い影が消滅してゆく。もう一度描きなおそうにも、薄暗くなった屋上には、既にはっきりした影は見えない。


「フン、覚悟するんだねぇ、嬢やたち?

 ……悟空様、ご指示を!!」


「よぉし、次は……」


 悟空は口の中の巻き寿司を飲み込んだ。そして次の巻き寿司に手を伸ばす。

 ……が。


「ああああああ!! 食うもんなくなった!! 腹減ったぁぁぁ!!」

「それは大変ですわ! 悟空様!」


 狐仙は血相を変えて悟空のそばへ飛んだ。


「……はぁ?」


 ブルーは呆れて悟空を見上げた。


「ね、姉ちゃんたち、今日はこれくらいで勘弁してやるっ」


「嬢やたち、次はこうはいかないからねェ?」


「は、早く帰るぞ! 狐仙!! 食うもん確保だ!!」


「は、はぁい、悟空様ン」


 帰ろうとしている悟空たちの背中に、レッドが叫ぶ。

 

「はん! 何度でも、あんたたちの悪巧みは阻止してみせるからね!」


 悟空はくるっと振り返ってアッカンベーをした。


「へーんだ! まぁ、勝ち誇ってな! 俺達の作戦はもう成功してんだよー!」


「負け惜しみいってんじゃないわよ!」


 レッドが声を張り上げるが、悟空はもうそれどころではなかった。


「ああああああ!!

 急ぐぞ、狐仙!! 腹減ったぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「はぁい悟空さまぁ!

 何を召し上がります? ビーフストロガノフ? チーズフォンデュ?」


「ピ……ピザまん……」


「あらン、今回はちょっとチープですわねえ?」


 飛び去っていく二人の声はだんだん小さくなって、消えた。


「……逃げた……わね」


 そう言って降りてきたブルーに、イエローが駆け寄った。


「智恵ちゃん、早く捕まった人を……!」


「あ、そうね。えっと、フタ開けて、逆さにすれば出てこられるんだっけ?」


 ブルーは早速、ひょうたんの栓に手をかけた。


「鷹城、ちょっと待て!」

「は……はい?」


 学校で先生に注意された時のように、ビクッと手を止めるブルー。


「バァカかお前は!

 こんな屋上で10万近くの人間出したら……どうなるんだよ!」


 呆れたホーキングかツッコむ。


「確実に……大半がこぼれ落ちるわね……。あたしの計算が正しければ」


「カッコつけてねえで気付け!」


「うっさいわね! 校庭で、少しずつ解放すればいいんでしょ?」


 放っておけば終わりがなさそうな二人の言い合いを断ち切るように、水上が割り込んだ。


「まぁ……それしかないだろうな。

 とりあえず、三人とも元に戻れ。校庭に降りるぞ」


「はい!」


 三人は同時に返事をして、変身を解いた。

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