シーン7 @美佳の家
夜。
美佳は珍しく机に向かって考え込んでいた。
ウォルフに話しかけようとしては思いとどまって。それを何度繰り返しただろう。
昼間のホーキングの発言で、ウォルフが傷ついているのではないかと気にしているのだ。
美佳は意を決して携帯を取り上げた。もう十数度目だ。
「ウォルフさん……?」
そっと呼びかける。ウォルフは既に、柔らかい表情で美佳を見つめていた。
「はい、お嬢様」
「やっぱり……元気ない?」
「いえ、お嬢様。ご心配なさらないで下さい」
その答えは美佳の予想した通りのものだった。そして、それは唯一美佳が信用できないものだった。
もしウォルフが傷ついてたとしたら、彼はそれを自分に言うわけがない。美佳はそう思っていた。
そしてそれはホーキングのせいではなく、美佳自身の責任だと彼女は考えていた。
「私の妄想の仕方が悪かったんだよね……」
ぽつりと言う美佳。ホーキングの言葉を最も重く受け止めていたのは美佳だったのだ。
過去の芸術家の寄せ集め。その言葉は美佳の中に、ウォルフに対する罪悪感として刻み付けられたのである。
「お嬢様、そんな事は……!」
「だって……!」
常に笑顔を絶やさない美佳の、いつもは見せない顔。その顔はウォルフも見るのは初めてだったが、彼はずっと昔から、美佳のその顔を知っていた。そう、彼が自我を持つ遥か昔から。
ウォルフはその優しい表情で、美佳を包み込むように言った。
「考えるのはやめましょう、お嬢様」
「でも……」
「でなければ……私はお嬢様の明るい笑顔を見ることが出来ません。
それでは、私は困ってしまいます。
お嬢様の笑顔が、私の力の源なのですから……」
美佳の心にウォルフの言葉が素直に染み込んできた。
「ウォルフさん……」
ふっと心が軽くなって、表情が緩む美佳に、ウォルフは微笑んだ。
「……さん付けはおやめ下さい」
二人で同時にくすっと笑う。
「さ、そろそろ寝よっかなっ」
美佳は素直な笑顔を取り戻して立ち上がった。そして。
「……あれ?」
机の上に見慣れないものを発見し、取り上げる。
「いかがなさいました?」
「うん、あのね、机にストラップが置いてあって……」
彼女が手にした携帯ストラップの先には、小さなひょうたんがぶら下がっていた。
「わぁ、かわいい~~! 赤いひょうたん!
ウォルフさん見て見て! こうやって……」
美佳はひょうたんに油性ペンで目と口を描いて、満足気に携帯に取り付けた。
「ほら顔!! かわいいでしょ?
これって、パパからのプレゼントかな……?」




