シーン6 @放課後の学校
あかり、智恵、美佳の三人が集まった部屋は静まり返っていた。といっても、放課後の校舎内にはまだ残っている生徒も多く、にぎやかな教室もいくつか存在する。
だが、彼女たちが集結した部屋は静かだった。なぜなら――。
「さて、みんなに集まってもら……」
「ちょっと待ってあかり。本当にここなら誰も来ないかな?」
あかりの話を遮って、智恵が不安気にあたりを見回した。
「ウォルフさん達の事がばれたら、大変だもんね」
「大丈夫、放課後の生徒指導室なんて、誰も来ないって」
あかりの言う通り、生徒指導室周囲に人の気配はない。特に問題行動を起こして呼び出されでもしない限り、あまり立ち寄りたくないエリアなのだろう。あかりがこの場所を提案したのもそれが理由だった。
「なら大丈夫だね。と、言うわけで。さて諸君に集まってもらったのは……」
「あ~! 智恵、その台詞、あたしのだよ!」
智恵が言いかけたところにあかりが噛みつく。そんな事より、話を始めた方がよさそうなものだが。
「智恵ちゃん、言いたかったんだねっ」
「ば、ばれたか」
「もう!」
憤慨するあかり。美佳は二人をなだめるように微笑んだ。
「まぁまぁ。二人とも落ち着いて。
えっと、今日ここに集まってもらったのは他でもない……けど、なんだっけ?」
美佳が言うなり、智恵が声を上げた。
「あ~! 美佳、ずるい!」
「しかも、台詞台無し……」
がっくりうなだれるあかり。しびれを切らして、美佳の携帯からウォルフが口を挟んだ。
「お嬢様、例のデザインの件では……」
「あ、そうだった!」
ウォルフの一言で議題を思い出し、三人はようやく話を進める方向に気持ちを切り替える。
ようやくミーテングが開始される気配に、携帯の三人はほっとした顔になっていた。
「とにかく! MSガールズ第一回ミーティング、始めなきゃ!
昨日の怪物がいつ現れるかわからないし!」
あかりが勢い込んで言ったが、智恵も美佳も頭にハテナが浮かんでいる。
「え……MS?」
聞き覚えのない単語に目を白黒させる智恵。あかりの携帯で、弧次郎が目を伏せ、ため息をついた。
「あれ? 昨日夜送ったメール、読んでない?」
「うん、武器の件でしょ?」
もちろん智恵ははっきり覚えている。ホウキと言い合いをしている最中に届いたメール。
変身後に使う武器について設計と設定を頼まれたものだ。そのメールに従って、きっちり設定を仕上げ、美佳にデザインをお願いした。だがメールの内容はそれだけで、『MSガールズ』などという名前は全く記憶にない。
だがあかりは全く怯まなかった。
「その後! 戦隊の名前とか、変身のかけ声とか送ったじゃん!
うん、間違いないよ。滝壺で特訓してるとき思いついてすぐメールしたから……!」
「……確かに夢の中で、メールすると騒いでいたな……」
弧次郎があきれ顔で言った。夢の中で、現実のメールを送れるはずもない。
「私は昨日は夢の中では携帯持ってなかったと思う……ごめんね、あかりちゃん」
「あかり、滝壺なんかで特訓してたの?
せっかく夢なんだし、あたしの計算によれば、宇宙空間とか深海とかで特訓した方が効果が高いわよ」
そのまま話があさっての方向にずれていく。得意顔で話す智恵の言葉にあきれ顔のホウキがまぜっ返した。
「はっ、どんな計算なんだか」
「ゼロ気圧や、超水圧に耐える事、呼吸もままならない状況を克服する事で、より高い……
って、あんたは口を出さないでよ! 誰かにばれたらどうするのよ!」
話を遮られ、智恵は携帯に映るホウキに怒鳴りつけたが、ホウキはさらに大きい声で言い返す。
「俺様たちがつっこまなきゃ、果てしなく話が進まねーだろうが!」
「……その通りだな」
「お嬢様、そろそろ本題に……」
携帯の三人がそれぞれため息をついた。
「あ、うん。そうだねウォルフさん。
あかりちゃん、智恵ちゃん、変身した後のスーツと、武器のデザインしてみたんだけど……。
写メで携帯に入れたから、赤外線で送るね!」
「了解!」
「じゃ、その後、武器性能の設定を赤外線で送るわ!」
智恵が赤外線送信の準備をしているところに、美佳からファイルが送信されてきた。
「あ、智恵ちゃん、私の武器、ちょっと違う風に作っちゃったんだけど、ウォルフさんはわかってくれてるから大丈夫だよね?」
「そうね。携帯を武器に変形させるのは、彼らの担当だから。
弧次郎さんもお願いね!」
当たり前のように言った智恵の言葉に弧次郎は驚愕した。
「な、何!? 俺達が携帯を武器に変形させる?」
確かに昨夜、弧次郎は武器について話をした。だがそれは、変身しても丸腰で戦うのは難しい、三人には何か得意な武器はないのか、と聞いただけだ。それが何故そのような話になるのか。
「お、おまっ! 俺様、そんな話、聞いてねーぞ!」
ホウキも昨夜、智恵が妙にテンション高く何か書いているな、と思ってはいた。だがこんな事だとは。自分たちに何か役割を押し付けようとしてるくせに、相談はおろか一言も口をきかなかったのだ。
だが智恵には智恵なりの理屈は存在していた。
「あんたはあたしのチャリンコ智恵スペシャルを勝手に変形させたりしたんだから、出来るはずでしょ!
ってか、出来る出来ないじゃなくて、やるの!」
「く~~~! 智恵、良い事言う! 弧次郎さんたちなら、絶対、大丈夫だよ!」
「お、おい……」
勝手に盛り上がっていくあかり。弧次郎が遮ろうとする声にも気づかず、美佳が送ってきたデザインに狂喜している。
「わ~~~!! きたきた! かわいい~! ってか、かっこいい!
あ~~~~、これに変身するんだね……! く~、燃えて来た!」
「じゃ、スーツと武器の性能設定、送るね!」
続けて設定を送信しようとした智恵が、美佳のファイルを見て驚愕の声を上げた。
「え!? 美佳の、これ武器!? ちょっと待って、設定直すから!」
慌てて送信を中止し、設定ファイルを編集し始める智恵。
「智恵ちゃん、ごめんね?」
「いいのいいの! これ、なんか面白い! すごいアイデアだと思う! 細かい設定は、任せて!」
「うん!」
三人は、携帯の彼らの事など忘れたように盛り上がっていく。
「じゃあ、昨日送ろうとしたメールの内容、話しちゃうね。
やっぱり、戦隊の名前とか、変身のかけ声とか決めておいた方が良いと思って!」
「うんうん! なんかわくわくするね!」
「……で、それがさっきのMS……ガールズ?」
「そう! 名付けて、夢幻戦隊、MSガールズ!」
ガッ、と拳を握りしめ、高らかに宣言するあかりに、美佳は少し首をかしげて聞いた。
「あかりちゃん、ちょっと気になってたんだけど、MSってなぁに?」
「もしかして……妄想……って事?」
「そうそう! 妄想ガールズじゃなんかいまいちかっこよくないから、イニシャル? 的な?」
「なるほどぉ! さっすがあかりちゃん!」
「……いい!! すごくいいよ! それ!」
三人はヒートアップしていく。携帯の三人については完全にスルーのままだ。
「でしょでしょ!
……で、それぞれ、変身のかけ声とか、決めポーズとか考えた方が良いと思うんだ」
「あれ? 念写! って言って変身しなかったっけ? 変えても平気なの?」
どんどん話を進めていくあかりに、美佳は質問したが、全く不安そうではない。
「うん、そこは変えられないと思うけど、それだけじゃなんかさみしいじゃん?
だからー。念写! のあとに何か付け加えれば良いんじゃないかと思って」
「うん、なるほどね!」
智恵は目を輝かせてうなずいた。
「あたしのは……『念写!……MSシンクロナイズ!』……で、変身してー。
変身したら『真っ向勝負! MSレッド!』って、決めポーズ!」
「へぇ~、かっこいい!」
美佳も身を乗り出してきたのをあかりは満足そうに眺め、二人に言った。
「智恵も美佳も、それぞれ考えてよ?
……で、三人とも決めポーズしたら、三人で、『夢が生み出す無限の力! 夢幻戦隊MSガールズ!』でキメ!」
「わかった! 覚えるわ!」
「うん! なんだか楽しそう!」
「弧次郎さん達も、把握しておいてね?」
三人で盛り上がった末、ようやく思い出したように、あかりは携帯の三人に声をかけた。
「……わかった」
「かしこまりました」
「……あれ? つーかちょっと待て、そういえば俺様の……」
ホウキが言いかけた時、突然校内放送のチャイムが鳴った。
そして水上の声が告げたのは、緊急事態。
「校内に残っている生徒! 今、校舎から外に出ないように!
校舎外に出た生徒が次々に倒れています。介抱しに出た教師も同じく倒れました。
原因は不明。今、警察を呼んでいます。
安全が確認されるまで絶対に外に出ないように!
繰り返します! 校内に残っている生徒! 今、校舎から外に出ないように!」
あかり達は顔を見合わせた。
「え……? これって……!」
「あたしの計算によれば……これは昨日の怪物の仕業ね……」
智恵の推測に、あかりも大きくうなずく。
「でもなんで学校に……?」
美佳は不思議そうに言った。
昨日は街中でたくさんの事故を起こしていたのに、何故今日はもっと狭い学校を狙っているんだろう。
「昨日、あの怪物、あたし達の妄想がおいしそうって言ってた。
あたし達の妄想力を探知できたとしても不思議はないわね」
あかりは携帯を掴んで立ち上がった。
「詮索は後! きっと怪物がみんなを強制的に眠らせてるのよ!
こんどこそやっつけて、みんなを起こさなきゃ!」
智恵と美佳も立ち上がる。が、美佳は少し首をかしげて考え込んだ。
「でも……、怪物はどこにいるのかな……?」
「それは簡単ね」
そう言ったのは、得意げな顔の智恵だ。
「校舎の外に出た人が全て眠らされているなら、校庭全てを見渡せる場所……そう!」
三人は顔を見合わせ、声を揃えて言った。
「屋上!」
あかりは高揚したまま、二人にサムズアップしてみせた。
「よし、いくよ!」
「OK!」
三人が生徒指導室を飛び出していく中。
「おい、俺様の名前……」
ホウキが言いかけるのも聞かず、智恵は携帯の電源を切った。




