シーン5 美佳の場合
さらにその頃。
美佳は机に愛用の水彩色鉛筆を広げ、スケッチブックに何かを描いていた。
時折考え込みながら、真剣に、でも楽しそうに手を動かしている。
ウォルフはそんな美佳にそっと声をかけた。
「お嬢様、何を描いてらっしゃるのですか?」
美佳は携帯の画面に映るウォルフに、笑顔を向けた。
「あ、ウォルフさん。えっとね、昼間に変身? 念写? した時の格好がちょっと……。
だから、こんな風だったらいいな~って、描いてみてたの」
「ほぉ……。是非、拝見させて頂けませんか?」
「あ、うん。……でも、なんかしっくり来なくて……」
美佳は少し考えて、スケッチブックを携帯に向けた。
「ウォルフさん、これ、どう思う……?」
スケッチブックに描かれているのは、赤青黄、三人のヒーロー。
昼間に変身した全身タイツのようなスーツではなく、スタイリッシュなデザインへと大胆に変更されていた。
全身を覆う白のアンダースーツを基本に、それぞれ違ったデザインのアウターを重ね、個性と防御力を高めている。
赤のスーツは赤いレイヤードタンク風の強化服に、短めのスポーツスカート。
青のスーツは青のベスト風強化服とリボンタイ、スカートは短めのプリーツスカート。
黄のスーツは黄色いクラシックなコルセット風強化服に、ひざ下丈のティアードスカート。
各色のヘルメットはデザインが統一されていて、白のフェイスラインと黒のバイザーが、戦う少女という印象を一層際立たせている。
ウォルフはデザインをじっくりと観察し、うなずいた。
「……ふむ。とても愛らしいデザインだと思います。ですが……。
お嬢様がご納得いかないのは……腰回りではないでしょうか」
美佳はウォルフの指摘通り、腰回りに視線を移した。
全体の印象をまとめるためデザインした満月に蝶をあしらったバックルのベルト。だがそれでも収まりが悪い気がして、どうも腑に落ちなかったのだ。
やっぱり、このベルトだけじゃ足りないのかな……?
「この、腰回りに何かをプラスすることで、安定感が増すのではないかと思いますが……」
「腰回りに何か……。あ! そっか!」
何かを足す。
デザインを修正する事ばかり考えていた美佳にとって、それは啓示とも言える発想だった。
「そっか……そうだよね……。さすがウォルフさん!」
「あの、お嬢様。私のことは、『さん』などお付けにならずに、ウォルフとお呼び下さい」
「うんっ。……でも、腰回りに何か……うーん……」
バックル以外にも装飾を増やしてみようか、と美佳は考える。だがそれでも安定感にはつながりそうもない。
考え込む美佳に、ウォルフはそっと声をかけた。
「お嬢様、智恵様からメールが届きました。画面にお出しします」
「うん、ありがとう」
美佳は微笑んで、携帯を手に取った。
「えーと……?
私たちの、武器……? 剣と銃と……弦? 弓って事かな?
私がデザイン考えればいいのね! なんか面白そう!」
メールを読んで目を輝かせながら、美佳は画面をウォルフの待ち受けに切り替える。
「ねえねえウォルフさん!」
「はいお嬢様。……ですから『さん』は不要ですと……」
「智恵ちゃんからのメールでね、私たちの武器を、私がデザインするの。
私、武器ってよくわからないから、一緒に手伝ってくれる?」
本当に楽しそうな顔の美佳を見て、ウォルフも自分が高揚しているのを感じていた。無論ウォルフも、武器についての知識などは美佳と変わらない。だが全力で調査したりすれば、多少の役には立てるだろう。
「ええもちろん。喜んでお手伝いさせて頂きます」
ウォルフは心を込めて、ゆっくりとうなずいた。
「あかりちゃんが剣、智恵ちゃんが銃で、私は弦……弓らしいんだけど……。
実はね、ちょっと私、思いついたことがあるの」
「ほぉ、それは楽しみですね」
「……あ!」
黙々と武器デザインイラストを描いていた美佳が、突然声を上げた。
「ど、どうなさいました?」
「智恵ちゃんがね、私たちの武器は、この携帯をあなたたちの力で武器に変えるって言ってたんだけど……」
「……え!?」
ウォルフは思わず大きな声を出してしまった。全く予想外だった。
いや、もう何を言っているのかわからないと言っていい。
「さっきの腰回りの事なんだけど、右腰に携帯ホルダーつけたらどうかな?
ここに……こうして! ほら!」
イラストの右腰に携帯ホルダーを書き加えて、美佳は満足そうに微笑んだ。バランスが明らかに向上し、安定感が増しているのは、ウォルフの目にも明らかだった。
「あ、そっか! 携帯を武器に変形させても大丈夫なように、ホルダーと武器をデザインしないとだね!
ね、ウォルフさん!」
「いえ、あの、私はそんな話は伺っておりま……」
「智恵ちゃん、さっすが天才科学者! 私もがんばってデザインしようっと! ねっ、ウォルフさんっ」
変身の力を与えるだけでなく、この次元の物体に干渉し変形させる……。そんな事が出来るとは到底思えないが、ウォルフは美佳が悲しむような答えを言う事が出来なかった。
「……は、はい……。私も色々と……がんばらせて頂きます……」
「よぉしっ! 寝る前に描き上げようっ」
美佳は上機嫌で絵を描き始めたが、ウォルフにはまだ、美佳に言わねばならない事があった。
「お嬢様、せめて……『さん』付けだけでもおやめ頂け……」
「ねぇウォルフさん、私の武器、こういうの考えたんだけど……どぉ?」
「ですからお嬢様、『さん』は……。
……え? これが武器、ですか……?」
その頃……。
アラジンは全ての準備を整え、不敵な笑みを浮かべていた。
「ふふふ……これで万が一にも、バクが小娘どもに後れをとることはなくなった……。
バクよ、新たな力を自分の物として使いこなし、明日こそ、あの小娘どもを葬り去るのだ!」
「バクバク……バク~~~~~~!!!」
月の映える夜の街に、魔獣の声が響き渡っていく……。




