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夢幻戦隊MSガールズ  作者: 硫化鉄
第11話 「新生」

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シーン5 集結

「……我が友よ……力を貸してくれ……!

 出でよぉぉーーーー! ツタンカーーーーメン王~~~!」


 アラジンの呼び声に応えて、黄金の棺桶がガタガタと揺れ始めた。


「ツタン……カーメン……!?」


 ウォルフの声に緊張が混じる。

 ウォルフは知っていたのだ。ツタンカーメンが紀元前14世紀頃に在位したエジプトの王である事を。

 そしてその墓の発掘者に呪いをかけたとされ、自らの死から数千年後の世界をも恐怖に陥れた存在である事も。


「へーぇ、おっさん、すげえ大物とダチなんだな」


 悟空が感心してそう言うと、棺桶は突然振動をやめた。シーンと沈黙が訪れる。

 ジンは棺桶に耳を寄せた。


「えー。

 だからー。お前なんかと友だちじゃない、なーんておっしゃってますです、はい」


 アラジンはがっくりと肩を落とす。


「む……ぅ……。ツーたん、そこをなんとか……」


 アラジンの言葉を遮るように、棺桶がガタッと揺れた。


「そ、その呼び方はするな、だそうです……」


 今度はジニーが棺桶に耳を寄せてアラジンに報告する。

 イエローは、胸がキュッと締め付けられるような気が、少しだけした。


「なんか……アラジンさん、可哀想……」


「ぬ……!

 だ、断じて! 断じて可哀想ではない!」


 アラジンはイエローに向かって叫んだ。

 そして、全員の注目を集めてしまった事に気付いて、慌てて威厳を取り繕う。


「あー……我が友……あ、コホン。

 我が客人ツタンカーメン、正確に言うならばトゥト・アンク・アメン王は、私への助力を確約してくれているのだ!」


 アラジンはそう言い切ってから、少し不安になった。


「……そうだな? ジニー」


「は、はいっ! ……そのはず、です」


 ちょっと不安になり始めているジニー。

 悟空は少し呆れて言った。


「じゃあ、なんで出て来ねんだ?」


 アラジンは盛大に目を泳がせる。


「む……。ツタンカーメン王は……その……。

 ひ、人見知りなのだ! 多分!!」


「人……見知り……?」


 ウォルフは耳を疑った。あまりにもイメージとかけ離れている。


「なんか、庶民的ですねっ」


 イエローは少しほっこりしていた。


「お嬢様、そのようなはずがありません。

 これはきっと何かの……。油断は禁物です……!」


 注意を促すウォルフの声に、棺桶がまたガタッと揺れた。

 ジンが慌てて棺桶に耳を近づける。


「ん……? ツタンカーメン王がお怒りに……?」


「あーあ。おっさんがいい加減な事言うから……」


 悟空が呆れて肩をすくめた。

 次の瞬間、棺桶がガタガタと音を立てて激しく振動し始める。

 その振動はどんどん激しさを増していき……その蓋が、ずれ始めた。


「棺桶が……開く……!

 お嬢様! お気をつけ下さい!」

「う、うんっ!」


 イエローが身構えた時、ついに棺桶の蓋が、バターーン、と大きな音を立てて開いた。


「ひ、ひ、人見知りで悪いかーーーーーーー!!」


 怒号とも言えるツタンカーメンの叫び。その場にいる全員が、同じ反応をした。


「……え?」


 皆がドン引きして見守る中、棺桶から出てきた男――ツタンカーメンは、大きな黄金のマスクを被り、我を忘れて怒鳴り散らす。


「人見知りで悪いか!

 え、何? 王が人見知りで何か問題あるわけ?

 王だって人間だ、人見知りの奴がいたっていいだろ!

 その点アラジン殿はよくわかっておられる!

 もう友だ! 友友! アラジン殿は超友!

 親友、むしろ親友! もうアーたんツーたんの仲だもんなー!

 ……はっ!」


 一人でまくしたて、驚愕の息を漏らすツタンカーメン。


「も、もちろんだとも! ツーたん!」


 アラジンが胸を張って答えている間に、ガタガタガタ……バタン、と音を立てて棺桶が閉じた。


「……あ」


 呆気に取られるアラジンに、ジニーがそっと報告する。


「お戻りになりましたね……棺桶に」


「ど、どういう事なのだ! ツーた……ツタンカーメン王!」


 アラジンの問いかけに、棺桶がガタガタと揺れた。ジニーは棺桶に耳をつけてツタンカーメンの言葉を聞く。


「えっとー、我に返ったら人が一杯いてびっくりしたんだそうです」


「そ、そうか……」


 がっくりと肩を落とすアラジン。


「……あと、ツーたんで良いそうです」


 ジニーの報告を聞いて、アラジンは思いっきり胸を張って、その場の全員を見回した。


「ほら! ほーらーーー!

 小僧! そしてMSガールズの小娘!

 私とツタンカーメン王は、この通り! 親友なのだ!」


 アラジンの渾身の親友宣言がこだまする。

 やがて悟空が、静かに口を開いた。


「……で?」


「で? って……言われても」


 悟空とアラジンの間を天使が通っていった。


「敵がこれだけ集まっているのに、やはりまともな戦いになりませんね……」


 ウォルフがため息をつく。だがイエローは少し嬉しそうにはしゃいでいた。


「でも、ツタンカーメンさんの仮面、ほんと綺麗だったね!

 直接見られて良かったぁ!」


 イエローが言うと、棺桶がガタガタと揺れはじめる。


「マジ? だそうです」


 ジニーが棺桶に耳を寄せ、ツタンカーメンの声を代弁すると、イエローは元気にうなずいた。


「うんっ! 写真でしか見た事なかったけど……実際に見られて嬉しかったぁ!」


「お嬢様、これは夢の中ですが……」


 ウォルフが言う間にも、棺桶はまた揺れ始めていた。しかもかなり激しく。

 そしてバターーンと大きな音を立てて蓋が開いた。


「そうだろうそうだろう!

 我が黄金のマスクはーーーー!

 世界一ィィィィーーーーーーー!

 ふっふふ〜んっ! そこの黄色いマスクの娘よ、惚れるんなら惚れても良いぞ?

 そこの幼女も、そこのタヌキもだ!」


 ツタンカーメンのこの発言が盛大に物議を醸す事になる。今まで大人しくしていたジニーと仙狸が血相を変えた。


「幼女ってゆーーーなぁぁ!」

「タヌキじゃないもん! ネコだもん! ネコネコネコネコ! にゃー!」


 その糾弾も、イエローに釘付けになっているツタンカーメンには届かない。

 彼はジニー達に一瞥をくれる事もなく、あっさりと言った。


「……まぁ、その辺はどうでもいい」


「つーかおっさん。おっさんの親友、めんどくせえぞ」


「む、むぅ……。

 い、いや! そんな事はない!

 ツーたん! その小娘を亡き者にするのだ!」


 悟空の冷静なツッコミに、アラジンも心の奥底でちょっぴり賛同しながら、それでも親友・ツタンカーメンを信じる姿勢を崩さない。

 ツタンカーメンはそんなアラジンの気持ちを知ってか知らずか、マイペースに、というか空気を読めずに質問をぶつけて来た。


「……ふむ。

 アーたん。一つ聞くが、あの娘を亡き者にした場合……我が王墓に、共に埋葬しても良いのか?」


「え……?」

「何ッ……!」

「な、何言ってんだこいつ」


 驚くイエロー、聞き捨てならないウォルフ、ドン引きした悟空が次々に声を上げる。さすがのツタンカーメンも少し不安になってきた。


「だ……だめ……? かな? やっぱり……」


 ここでツタンカーメンに弱気になられてしまっては元も子もない。アラジンは思いっきり笑顔を作り、指でOKサインを出した。


「む? も、もちろんOKだとも! ツーたん! OKOK!」


「OK? ほんと……?」


 目を潤ませてすがるように問いかける声でツタンカーメンがアラジンに念を押すが、その顔はいかつい黄金のマスクのままだ。

 アラジンはもちろん二つ返事で胸を叩く。


「うむ! 私に任せておけ!」


 ツタンカーメンはあっさり元気を回復した。


「よぉぉし! ははははは!

 勇気百倍! ツタンカーメーン!

 我が必殺技を受けるが良い!」


 ツタンカーメンが叫んだその時。


「そこまでよ! ディスペアー!」


 力強く響くあかりの声。続いて響く、ガタガタ……バタンという棺桶の蓋が閉まる音。

 あかりはイエローに駆け寄った。


「美佳、大丈夫!?」


「あ! あかりちゃん、智恵ちゃん!」


 あかりに続いて、智恵、アキラ、弧次郎、ロックの片方を持ったガンジョーが集まってくる。


「ちー! ねえちゃん達まで揃っちまったか……!」


 悟空はそこまで言って、ハッと気付いた。


「えっ……、ってことは……!」


「巨乳ねえちゃん達は、倒させてもらったぜ!」


 智恵のスマホからホーキングが自慢げに叫ぶ。

 悟空の顔から初めて笑いが消えた。


「なに……! 俺のペットたちを……倒したって?」


 アラジンの顔を、失望と落胆が支配する。


「な、なにっ!? それはもったいな……いや、なんでもない。

 しかし、どうしてここが……!」


「俺様の仲間を、送り込んでおいたからな!」


 アキラ・ユーマが一歩前に進み出た。


「何……! お前は……!」


 無論悟空には見覚えがあった。刺客として黄仙とともにブルーの夢に送り込んだ魔法使い。


 という事は、レッドのねえちゃんのそばにいる弧次郎も、刺客として送り込んだ方か。あの傷だらけの男は、レッドの夢に紛れ込んでいた男だ。あのアキラとかいう魔法使いの仲間だったのか。


 悟空がそこまで考えた時、ガンジョーが靴を片方差し出して叫んだ。


「さぁ、ロックの片方はどこだ! 出してもらおうか!」


「何のことだ……!」


 アラジンが怒鳴り返す。もちろん靴を片方突きつけられたところで、アラジンには何のことやらわかるはずもない。

 ガンジョーはさらに一歩前に出て、アラジンにもう一度靴を突きつけた。


「とぼけるな! これが……俺達の仲間、ロックだ! ロックをめがけて来てみたが……。

 ロックはハチミツまみれの床に片方だけしか残っていなかった……!

 ロックを……俺達の仲間……の半分を、どこに隠した!!」


 ガンジョーの剣幕に、アラジンが少したじろいだ時。


「あ、ごめんなさい、私が履いてます……」


 イエローがハッとして変身を解除し、右足に履いていた靴を脱いでガンジョーに差し出した。


「よいしょ……。はい、ロックくんの右の方です!」


 ガンジョーの手の中でついにロックの左右が揃った。


「はぁぁーーー、やっと……そろったぁ……」


 安堵のため息をついたロックを、その鎧のような大胸筋に押しつけるようにして力一杯抱きしめるガンジョー。


「お……おおおおおお~~~!! ロック! ロックぅぅぅぅ……!」

「ガ、ガンジョーさん……ですよね、やっぱり」


 抵抗もできず大胸筋に押し潰されながら、ロックは少し迷惑そうだ。

 そんな二人を見ながらアキラは目を細めて苦笑した。


「相変わらずだな、お前ら」

「そ、そんな鬼畜な……」


 ロックは助けてくれないアキラに不平を言うが、これも久しぶりの日常なのだろう。三人とも、少し嬉しそうだった。


「ふん、いくらお前達が揃ったところで、我が親友ツーたんさえいれば……。

 つ、ツーたん……?」


 しかしツタンカーメンの姿がない。


「えっと、棺桶に戻られました……」


 ジニーが言いにくそうに報告すると、ジンが棺桶からの声を代弁した。


「ふむふむ? 知らない人が急に沢山来たからびっくりした……と。ふむふむ?」


 状況が全く掴めず、あかりと智恵は顔を見合わせた。


「え? な、なんなの? 人見知り?」

「そ、そうみたいね……。あたしの計算によれば」


 MSガールズが三人そろってしまった。

 悟空は最も最悪の事態に陥ったことを自覚していた。

 MSガールズを抹殺することもできず、差し向けた刺客は敵に回った。

 そして――。


「そうか……。ねーちゃん達、俺のペット……倒したのか……。

 そんだけ力をつけたってわけか……!

 本気で、力出しきんねーといけねぇらしいな!」


 本気になった悟空の身体から、エネルギーが立ち上るのがわかる。

 その横で、表情を凍らせた仙狸がぽつりとつぶやいた。


「キツ姐とタチ姐、痛かったかな? 痛かったのかな?」


「……だろうな。再生にも時間かかんだろーし……。しばらくは苦しいだろーな」


 静かな悟空の声。仙狸はさらにうつむいて目を閉じた。


「痛かったんだ……。キツ姐とタチ姐、痛かったんだ……!」


 呪詛のように繰り返す仙狸。その身体がすこしずつ闇に染められていく。

 突然仙狸は目を見開き、顔を上げて絶叫した。


「痛かったんだぁーーーーーーー!!」


 仙狸の服装が漆黒に染め上げられ、その瞳は紅く染まっている。今までとは比較にならない闇の力がその身に宿っていた。

 放出されたそのエネルギーが、ビリビリと物理的な波動となってあかり達を襲う。


「な……ッ! この力……!」


 弧次郎が驚愕し警戒するほどの力を放ちながら、仙狸はその憎悪の瞳で周囲を睨めまわした。


「姐さま達を痛くさせた罪! 償ってもらうよ!!」


 人が変わったような仙狸の呪詛が響き渡る。

 ジニーもその声に引かれて、最終決戦への戦意を高めていた。


「おとたま! あたし達も!」

「おーうともさジニー。父も本気を出してボケるのだよ!」


 どーんと胸を叩くジンに、ジニーは深い溜息をつく。


「どーせならおとたまがやられちゃえば良かったのに」


 仙狸はジン親子に目を向き、怒鳴りつけた。


「うるさいよ! あんた達はひっこんでな!

 姐さま達の仇は……あたしが討つ!」


「俺も、飼い主として、許すわけにはいかねーな……!」


「ここがお前達の墓場だ! MSガールズ!」


 悟空に続いてアラジンが叫ぶと、棺桶がバタンと開いた。


「違う! 黄色いマスクの娘の墓場は、我が王墓だ!

 ……あれ? 黄色のマスクの娘がいない……?

 隠したのはお前達か! むぅ……許さんぞ!」


 ツタンカーメンはまくしたてたが、イエローは既に変身解除している。


「……この人だけは意味わからないわね」


 智恵が呆れて首を振ると、敵に気圧されかけていたMSガールズ側にも、微かに笑顔が戻った。


「敵の人数が多いようだが……!」


 1、2、3、と数えて、弧次郎は不敵に笑う。アキラはかったるそうにボヤいた。


「っかー! めんどくせー事になったなぁ?」


「変身も出来なくてあんたと戦わなきゃいけなくなった時よりは、ずいぶんマシだけどね」


 智恵がまぜっ返すと、ホーキングはご機嫌で笑った。


「はは、ちげえねえ」


「みんながいるもんね!」


 仲間達にとびきりの笑顔を向ける美佳。


「お嬢様……必ずお守りします!」


 ウォルフの声にガンジョーがうなずいた。


「俺も、盾になるのには、慣れてるからな」


 いや、立っているのもやっとな身体で言われても。


「傷ついた時には回復の専門家もいますよー!」


 ガンジョーの胸に抱かれたロックがみんなにアピールする。いや、その前にやる事があるだろうに。


「あかり……。いくぞ!」


 あかりのスマホから、弧次郎の声が響く。あかりの瞳に燃える炎が、一際大きな光を放った。

 あかりはスマホを構え力一杯に叫んだ。


「うんっ!

 ……いよぉおおおおおおし! 超! 燃えて来たぁぁぁぁ!

念写! MS・シンクロナイズ!」

「応っ!」


 続いて智恵がスマホを構える。


「念写! MS・インストール!」

「ぃよっしゃああ!」


 最後に美佳がスマホを構えた。


「念写! MS・コラボレート!」

「謹んで、共演させて頂きます!」


 続けて弧次郎が満月を模したメダル・月輪環(がちりんかん)を、腰に巻いた雷牙ドライバーにセットした。


「むんっ! 雷牙ァァ……変身っ!」


 雷牙ドライバーから特殊忍装束『雷牙スーツ』が生成され、弧次郎の全身を包み込む。

 雷牙の変身が完了した時、そこには勢ぞろいしたヒーロー達が、横一列に並んでいた。


「真っ向勝負! MSレッド!」


「見事に勝利! MSブルー!」


「無敵のショータイム! MSイエロー!」


 三人が名乗りを上げると、雷牙たち、妄想界での仲間たちが続く。


「雷牙ァァ……! 見参ッ!」


「究極の大魔法使い! アキラ・ユーマ!」


「ドラゴンに踏んづけられても死なない男。ジョー・ガンジョー!」


「便所スリッパ! ロックのブーツ!」


 全員が名乗ると、レッドが高らかに締めのフレーズを叫んだ。


「夢が生み出す無限の力! 夢幻戦隊!」


「MSガールズ!!」


 三人が声を揃えてポーズを決めるのに合わせて、雷牙、アキラもポーズを決める。ガンジョーだけは愛しいロックを胸に抱きしめたままだ。

 それを刺すような視線で見つめていた仙狸。握っていた鞭に雷が宿る。その雷は、闇の力の干渉で赤黒い不気味な光を放っていた。


「ほんとなら……」


 怨念すら籠っている仙狸の声。鞭に宿る雷のボルテージが、急速に増大していく。


「ほんとなら、あたし達にもキメポーズあるのに……。あるのに……!

 あるのにぃーーーーーー!!」


 叫びとともに振るった鞭は、MSガールズ達を一気に薙ぎ払い、強烈な闇の雷を放った。

 吹き飛ばされ、壁に叩きつけられるMSガールズ達。初撃で意識を刈り取られるほどのダメージを叩き込まれ、地面に崩れ落ちる。


「……ちぃ、ガキがキレやがったか……!」


 アキラ・ユーマが身体を起こした。

 猛り狂う仙狸を見据えてひとつ苦笑すると、アキラは仙狸から視線を逸らさずに叫んだ。


「こいつは俺様が相手する! 後は任せた!」


「アキラ!?」


 ブルーが声を上げる。あの凶暴な仙狸に、1対1で戦うなんて、無謀でしかなかった。アキラは魔法使いなのだ。

 だがアキラはぐっと身体を伸ばして、仙狸に笑顔を向けた。


「こんなせめえところで戦うのは性に合わねえんでな!

 おいタヌキ! 爆乳ねえちゃんをぶっ倒したのは俺様だぜ!

 ほぉらこっちだ! フェインビーーーート!」


 高速飛翔の呪文で仙狸をかすめ、ブルー達と正反対の方向に飛び去る。


「お前かーーー! 姐さま達を倒したのはお前かーーーーー!!」


 仙狸はアキラを睨みつけると、大声で叫びながら追いかけて行った。


「タヌキじゃないぞーーーー! ネコだぞーーーーー!!」


「仙狸!」


 悟空は仙狸を呼び止めようとするが今の仙狸に聞く耳はない。悟空はギリッっと奥歯を噛みしめた。


「くそ、仙狸のやつ、見境なくなってやがる……!

 あの魔法使いの下に行かせたのは黄仙だ……。

 って事は、狐仙を倒したのは……お前か! 雷牙!」


 悟空の殺意が膨れ上がる。その矛先が向いた雷牙は臆する事なくゆっくりとうなずいた。


「……その通りだ」


「こじろ……あ、ええと、雷牙!」


 レッドは慌てて口を挟んだ。狐仙にとどめを刺したのは雷牙とMSレッドだ。雷牙一人に悟空の殺意を集中させてはいけない、とレッドは考えていた。だが。


「奴を欺いてお前達を助けたのは俺だ。間違いではあるまい」


 雷牙はそう言うと、悟空に向けて斬鉄ブレードを構えた。悟空は殺意のこもった笑顔を雷牙に向ける。


「一番歯ごたえのありそうな奴が相手か……、おもしれーじゃん。

 ……表へ出ろ!」

「応ッ!」


 雷牙は鋭く応えると、廊下の壁を突き破って外へ飛び出した。続いて悟空が飛び出してゆく。

 ガンジョーは壁に空いた大穴を見て、苦笑いした。


「壁をぶっ壊すのは俺の専売特許なんだけどな……。

 ま、いいか。さて、俺の相手は……」


 ガンジョーは残されたアラジン達を値踏みするように眺めまわすが……。


「カラフルなマスクの娘達! 勝負だ! お前達を倒して、我が王墓に連れて帰ってやる!

 さぁー! 惚れても良いぞ! 惚れても!」


 ツタンカーメンはMSガールズしか見ていない。


「な……俺を無視すんな!」


 ガンジョーがわめく横で、レッドもガンジョーに構わずツタンカーメンに言い返した。


「ばーか! 惚れるわけないでしょ!

 いくよ弧次郎さん! ジラードっ!」

「応ッ!」


 完全に戦闘態勢に入るレッド。ツタンカーメンは見せつけるようにその黄金のマスクを向けた。


「ふふふふふふー。無理するな無理するな!

 恥ずかしがるなんてかわいいのう!」


 ブルーは鳥肌の立つような悪寒を感じてスマホを取り出す。


「マスクフェチ? 気持ち悪いわねっ!

 キングガン!」

「へーんけーい! とうっ!」


 イエローもスマホを構えて叫んだ。


「ウォルフさん、私たちも!

 うぉるつーりゅ!」

「お嬢様! 惜しい……!」


 戦闘態勢を整えた三人を見て、ガンジョーはがっくりと肩を落とした。


「俺は……やっぱり無視か……」

「そんな鬼畜な」


 落ち込むガンジョーとロックを気にも止めず、ツタンカーメンはレッド達を指差し、高らかに宣言した。


「さぁ、いきなり最後の大技を見せてやる……!

 んん~~~っ! ファラオの呪い……!

 むああああ~~~~~♪」


 ツタンカーメンの声が響き渡る。その声は以前苦しめられた鵺の声に勝るとも劣らない力を持っていた。彼に触れた者、怒りを買った者の全てを呪う、恐るべき声。

 それはMSガールズ達を飲み込んだ。


「きゃあああっ!」

「な……なにこの声……っ!」

「心が……砕かれそう……っ!」


 イエローが、ブルーが、そしてレッドが、絞り出すような悲鳴をあげる。ツタンカーメンが発しているのは声だけではない。呪いの波動とでも言うべきエネルギーが、共にMSガールズ達に浴びせかけられていた。


「ふはははははは!

 恐怖しろ! 我が王家の呪い……!

 世界を恐怖のどん底に追い込んだ我が力……!

 見るがよーい! むあああああ~~~♪」

「むああああ~~♪」


 そこにもう一つの声が重なり、溶け合った。

 声の主は、ジンだ。ジンはツタンカーメンの隣に寄り添い、手伝うが如くその力強い声を発していた。


「お前は真似すんな。俺の美声が台無しだろ!」


 ツタンカーメンの胴蹴りが、ジンの声をぶち切る。

 そしてとどめとばかりに大きく息を吸い込んだ。


「最大パワーでー! むああああああ~~~♪」


 さらに威力を増した声がMSガールズを襲った。音とともに、王墓の中のカビの混じった埃の匂いまでがリアルに感じられる。強力な幻覚が生じていた。


「あ……あぁあっ……!」


 レッドが苦悶の声を上げる。


「あかり……しっかりしろ……!」

「うん……でもっ……」


 幻覚は五感を支配し始めていた。

 暗い地下迷宮の奥底に安置された棺桶。彼女たちは、今まさにその中に閉じ込められているように感じていた。

 感覚も、身体の自由も奪われて、抑えようのない恐怖が心を押し流していく。


「うぅ……あああああ……っ!」

「お嬢様……っ……この……声は……!」


 イエローを気遣いながら、ウォルフもなす術なく苦悶する。イエローは必死でウォルツールを構えた。


「うん……私の……音楽で……きゃああっ……!」


 イエローが悲鳴を上げて膝をつく。


「お嬢様……っ!」

「美佳っ……!」


 ウォルフに続けてブルーが叫んだ。だが当のブルーも立っているのがやっとの状態だ。


「くぁ……っ……これは……シャレになんねーぞ……」


 戦うどころではなくなっている三人に、アラジンは満足げに笑いを浴びせた。


「ぬははははは! いいぞツーたん!

 もうすぐ舞踏会の時間も終わりだ!

 ツーたんの声で、この小娘達の妄想領域も破壊される……。

 これが我が首領・卑弥呼様の最終作戦なのだ!」


 ついに耳にする敵首領の名前。

 レッドはぐっと身体に力を入れ、背を伸ばした。


「卑弥呼……。それがディスペアーの首領の名前……!」


「抜け目ない……首領の……ようね……!」


 ブルーが膝に手をついて顔を上げる。


「私がなんとか……しなきゃ……! 私が……!」

「お嬢様……っ……!」


 イエローが立ち上がってウォルツールを構えた、その時。


 ピアノの音色。


 どこからともなく聞こえて来たピアノのメロディが、静かに、でも確実に、ツタンカーメンの声を押しのけて心に響いてきた。


「な……何……? この曲……」


 ブルーが周囲を見回し、耳を傾ける。


「ピアノ・ソナタ第11番イ長調……」


 ウォルフが静かに呟いた。


「うん……。モーツァルトさんだ……!」


 イエローがうなずく。美しい曲を生み出し、その曲の美しさを全て理解した上で引き出す演奏……。そんな事が出来るのは、イエローの知る限り一人しかいない。


「何……? モーツァルトだと……?」


 アラジンが不審気に周囲を見回したが、音楽は聞こえてもその姿はどこにも見えない。


「きれいな曲……」

「心が洗われるようね……」


 レッドとブルーの心と身体に力が戻り始めていた。

 ツタンカーメンの声に焦りが混じり始める。


「な、なんだこんな曲! 我が王家の呪いがこんなもので……!

 むあああああああ~~~~♪」


 ツタンカーメンは更に声量をあげた。だが静かに流れてくるピアノ曲はツタンカーメンの声を圧し、確実に三人の心に届いている。


「力がわいてくる……!

 これがモーツァルトさんの……神の音楽……!」


 イエローの声が明るく響いた。ブルーとレッドも大きくうなずく。三人の心と身体に、力がよみがえってきていた。


「ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト……」


 ウォルフがポツリと呟く。


「ぬぅ……モーツァルトまでが裏切ったか……!

 ツーたん……! 頑張れ!」


 アラジンがツタンカーメンに発破をかけた時。

 突然、アラジンの顔色が変わった。


「……ん!? 何ッ!」


 妄想界に重大な変化が訪れているのをアラジンは感じ取っていた。なぜなら……。


「アラジン様!」

「どうしたのだ、アーたん!」


 ジニーとツタンカーメンが視線を向けた。アラジンの様子は、どう見てもただ事ではない。


「この気配……卑弥呼様の御身に何か……!」


 アラジンは焦っていた。先程脳裏に響いてきたのは卑弥呼がアラジンを呼ぶ声だったのだ。そしてその声は、悲鳴を最後にもう聞こえなくなっている。


「すまぬツーたん……。ここは任せるぞ……!」

「あぁ任せろアーたん!」


 どん、と胸を叩くツタンカーメン。アラジンは魔法の絨毯を広げた。


「コードネーム・ジン! ジニー! 卑弥呼様の下へ急ぐぞ!」


 そう言いながら絨毯に飛び乗り、雷牙の開けた穴から飛び出して行く。


「ハイハァ~イ♪ それでは我々、ランプに戻りますですハイ!」


 ジンとジニーは煙と化しながら、アラジンの腰に下がっている魔法のランプへ吸い込まれていった。


「MSガールズ! 最期が見られなくて残念です! べーーーーだ!」


 最後に、ジニーの捨て台詞が響いた。


「最期なわけ……ないでしょ!」


 レッドがジラードを構える。


「あたし達は必ず……勝つのよ!」


 ブルーがキングガンをツタンカーメンに向けた。


「私たちには……たくさんの味方がついてる……!

 ウォルフさんや、ロックくん……モーツァルトさん……」


 ウォルツールを構えて静かに話すイエローの言葉に、ブルーとレッドの力強い声が続く。


「ホーキも、アキラも……!」


「弧次郎さん……ジョーさん……マスクドガイ雷牙も!

 いくよ! みんな!」


「OK!」


 レッドの掛け声に、ブルー、イエローの声が揃った。


「バーカな! この俺の能力が! ファラオの呪いだけだと思ったか!」


 ツタンカーメンの声は、少しも怯んでいなかった。勝利の確信と、マスク姿の少女達との戦いに向かう高揚感が、彼の戦意を高めているのだろう。


「なんですって!」


 あかりの声に警戒心が混じる。

 あの攻撃だけでも脅威だった。モーツァルトの音楽が流れている現在、あの技の脅威は去っている。だがさらに別の攻撃があるとすれば……。


「ふん。このマスクは完全防御のスペシャルマスク!

 あの棺桶も、物理攻撃魔法攻撃問わずに完全に防ぐ事ができる!

 そしてーーーー!」


 ツタンカーメンは大声で叫ぶと、バタン、と音を立てて棺桶の中に閉じこもった。

 棺桶の中から、こもった声が聞こえて来る。棺桶の中で必死に叫んでいるのだろう。


「俺はこの棺桶の中からでも攻撃出来るのだーーーー!!

 そーらそらそらそらーーーー!」


 すると、なんと棺桶が立ち上がり、さまざまな箇所から黄金色の光線が発射された。

 光線は乱射されていたが、無数の発射口から、角度を変えながら発射されるビームを避けるのは困難だった。しかもその威力は、壁石や瓦礫を破壊する程だ。

 数条の光線が三人へ向かって、空間を薙いでいく。


「きゃああっ!」


 避けようがない。三人が悲鳴を上げた時、彼女たちの前に大きな影が立ちはだかった。


「んぐぁ……っ!」


 その大きな身体で黄金の光線全てを受け止めているのは、ガンジョーだ。


「ジョーさん!」


 レッドがその背に叫んだ。ガンジョーはこれまでの戦いで満身創痍なのだ。それなのに――。

 ガンジョーは一歩も下がる事なく光線を受け止めている。

 

「俺は……大丈夫だ……! 早く……奴を……っ!」

「で、でも……っ!」


 こんな敵にどう立ち向かえばいい?

 ジョーさんを助けるには……?


 レッドが絶望しかけた、その時。


「弱気になるな! 富士宮あかり!」


 思いがけない方向から声が響き、光線の放射が止まった。

 声の方向から現れたのは……!


「雷牙……!」


 レッドの声が震える。


「な~んかあいつら、首領がピンチとか言ってどっかいっちまったからな。戻って来たっつーわけだ」


 別の方向からアキラの声。ブルーの肩の力が抜けた。


「これは……百人力ね」


 だが棺桶の中からツタンカーメンの声が響く。


「ふんっ! 光線のエネルギーが尽きようが! お前らが大勢でかかってこようが! この絶対防御は破れぬ……!」


 物理攻撃魔法攻撃問わず完全防御するという棺桶を信頼しきったツタンカーメンの叫び。

 だが。


「それはどうかな……?」


 低く、静かに、雷牙の声が響いた。


「何っ!?」


 雷牙は斬鉄ブレードを構え、棺桶に一歩一歩近づいていく。


「俺は全ての敵から人類を守る……。

 どんな敵でも……全ての物を斬る力を……この手で!」


「くああああああ!! その台詞! 生で聞けるなんて!! 超燃える~~~!!」


 レッドが全力で叫んだ。食い入るように雷牙の背中を見つめ、身もだえするほどの歓喜だ。

 レッドが見つめるその先で、雷牙が跳躍した。


「とぉぉああああ! 奥義……万斬刀!!」


 全ての攻撃を防御する棺桶、そして全ての物を切り裂く奥義。その激突は、まさに矛盾と言ったところだ。

 だが、矛盾は生じなかった。

 金属的な破壊音が響き渡り、棺桶は真っ二つに斬り裂かれていた。


「あ……あああああ!! む、無敵の棺桶が……!

 馬鹿な! 馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁぁぁああ!!」


 何故か無傷で棺桶から出てきたツタンカーメンは、半狂乱になって喚いた。だが彼の頭にはまだ黄金のマスクが残っている。


「さぁて、今度は俺様の番だな!

 おい、ブルー! 手を貸せ! あいつのマスク割るぞ!」


 アキラがブルーの背中をポンと叩いた。


「なるほど、ハーモニクスで一気にっつーことか!」


 ホーキングはアキラの意図を察して納得している。ブルーはそのやりとりに少しイラッとした。


「ってゆうか! さっき聞きそびれたんだけど! ハーモニクスって何よ!」


 アキラとの戦闘の時、僅かに発動した光円斬(フォトンソーサー)。あの時に効果を発揮したのがハーモニクスだとホーキングは言っていたが、ブルーはその意味を聞きそびれていたのだ。


「同じ呪文を同時詠唱する事で、マナの動きを飛躍的に跳ね上げる……。

 説明としちゃ、こんなもんかな?」


 アキラが説明すると、ホーキングは臨戦態勢に入った。


「完璧にあわせねーと成功しねえからな! アキラ、智恵!

 うまく合わせろよ!」


「あぁ? 何言ってんだ、お前らが俺様に合わせりゃいいだろ! こちとら先輩だぞ!」


 早速喧嘩するアキラとホーキング。


「あぁもううっさいわね! 二人とも、あたしについてくるのよ! いいわね!」

「……はい」


 二人の返事は完璧にシンクロしている。

 ブルーは一人で狂乱しているツタンカーメンを見据え、呪文を唱えた。同時にアキラとホーキングも詠唱を開始する。


「光の粒子よ……我に集いて刃の輪を成せ……」


「すごい……息ぴったり……!」


 イエローが息を飲んで見守る中、三人の詠唱は完全に同期していた。


光円斬(フォトンソーサー)ーーーーー!!」


 差し渡し数十メートルはあろうかという巨大な光の円盤が生成され、ツタンカーメンに向けて放たれた。

 円盤は飛翔しながら密度を高め、直径を縮めながらその切先を鋭く、硬く、変化させてゆく。

 その円盤はツタンカーメンの黄金のマスクに、寸分違わずに向かっていた。


「あ……うわ、あああああーーーっ!」


 悲鳴を上げて逃げまどうツタンカーメン。光の円盤はツタンカーメンを正確に追尾し、そのマスクを真っ二つに断ち割った。


「あ、あ……顔、み、みるなぁあああ!」


 両腕で顔を隠して背を向けるツタンカーメン。


「よし、今だ!」

「決めちまえ!」


 雷牙とアキラが叫ぶ。


「うん! 智恵、美佳!」

「OK!」


 三人はそれぞれの武器を構え、声を揃えた。


「MS! トリプルエンド!」


 それぞれの武器に、パートナーの力が流れ込んでゆく。

 技のトリガーを引くのはブルーだ。


「エーーーーックス!!」


 XV=DaMの光線がツタンカーメンに照射され、彼に取り憑いた闇の中心をマークする。

 続いてイエローがツタンカーメンの影を黄色に染め、ウォルツールをひっくり返す。


「Y!」


 イエローが弦を掻き鳴らすと、ツタンカーメンの影が起き上がり、本体を羽交締めにした。

 その時すでに、レッドは空中高く飛び上がっていた。


「絶……刀~~~~っ!!」


 ツタンカーメンに向けて急降下しながら、マーキングに向けてジラードを振り下ろす。


「あ、なっ……ああああああああ~~~~っ!!」


 ジラードに斬り裂かれた闇の力はツタンカーメンの身体から抜け、消滅した。


 戦いは終わった。はずなのだが、ツタンカーメンはまだその足で立っていた。


「あ、あれ? ここはどこ? 俺は、何を……?」


 きょろきょろとあたりを見回すツタンカーメン。彼は違和感を感じ、その顔を手で探った。


「え? あ、マスク!」


 そして割られたマスクのそばに、斬り裂かれた棺桶、そして……。


「あー! 棺桶! あああああああっ! 人がいっぱいいる!

 はああああああ~~~~~!」


 ツタンカーメンは一人で騒いで、逃げ去って行った。


「な、なんなんだ? あいつ?」


 ホーキングが呆れ声でつぶやく。

 レッドは両手を上げてぐーっと伸びをした。


「ふぅ、とにかく……勝ったぁぁ~!」

「勝った!」

「やったぁぁ!」


 ブルーとイエローがレッドに駆け寄る。


「ふえー、なーがかったなぁ~」

「後は……」

「現世界に帰るだけ……ですね」


 ホーキングたちもようやく解決した安堵感に、ほっとしていた。

 だが、そこに。


「待ってウォルフさん! その前に……」

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