シーン6 神の音楽
ピアノの演奏は続いていた。
舞踏会の後に開かれた、王子主催のピアノ演奏会。ステージ上には数種類のピアノが設置され、モーツァルトがその中の一台を弾いていた。
「モーツァルトさん」
演奏を続けているモーツァルトに静かに近づいて、美佳はそっと声をかけた。
「あ、お嬢ちゃん……」
モーツァルトが美佳に視線を移すと、その後ろにはウォルフが付き従っていた。
「ここは、私のステージですよ?」
「ごめん……」
モーツァルトは素直に謝り、演奏の手を止めた。
新しい音楽に命をつないでいく新しい芸術家。もともとこのステージは彼女のものだったのだ。
だが、美佳は立ち上がろうとするモーツァルトに、笑顔を見せた。
「あ、座っていていいですよ、私、あっちのピアノで弾きますから」
「うん……」
美佳は隣のピアノに歩きながら、振り向いた。
「ウォルフさんも、手伝ってね?」
「謹んで、共演させて頂きます……」
ウォルフは恭しく頭を下げ、持っていた楽譜をモーツァルトのピアノに置いた。
「え? この楽譜……」
見覚えのある楽譜。モーツァルトはウォルフを見上げた。
「ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト。……よろしく頼みます」
「あ……うん!」
嬉しそうに笑うモーツァルトに一礼すると、ウォルフは美佳の隣の一台に座った。
三人の演奏が始まる。その曲は、『3台のピアノ協奏曲 第7番 ヘ長調「ロードローン」』。
一つに溶け合う三台の音色が、会場いっぱいに広がっていった。
「良い音楽ね……」
「うん……!」
智恵とあかりが顔を見合わせる。
「これも滅多にきけるもんじゃねえな……!」
ホーキングが珍しく音楽で感動していた。
「アキラや雷牙と同じく……闇に操られていたわけではなかったんだな……」
弧次郎は納得したようにそう呟き、静かに目を閉じた。
演奏が終わり、三人がステージ中央に出て来ると、会場は万雷の拍手で包まれた。
モーツァルトは美佳達に歩み寄ると、ウォルフに頭を下げた。
「ウォルフ……だっけ? すまなかったね。君の演奏は……」
そう言いかけて、モーツァルトは美佳を眩しそうに見る。
「ははっ、お嬢様の想像力も侮れないなぁ」
「ふふっ……。当たり前です」
ウォルフが誇らし気に言った。
「夢想を表現すること……それが芸術! だもんね!」
モーツァルトは美佳の姿を眩しそうに、そして少し寂しそうに見つめ、ゆっくりと言った。
「神の音楽……こんどは君たちが聞く番だよ」
「……はい!」
美佳は尊敬する神の音楽家を見つめ、はっきりと答えた。




