シーン3 イエローVS……
美しい光が消え去った時、MSイエローが変身を完了していた。
今までのんびりしていたイエローの夢も、ついに戦闘開始である。
「ちー、変身しやがったかー!」
そう言ってはみたが、悟空は言葉ほど危機感を持っていない。
「大聖様、どうしようー!」
慌てて手足をバタバタさせる仙狸の頭を、悟空は背伸びしてぐいっと抑えた。
「あせんな仙狸。つーか、呼び方!」
「あ、ごめんなさい」
素直にペコリと頭を下げる仙狸。
「黄色いのは一番戦闘向きじゃねえ。それに俺もいるんだ。負けるわけねーだろ」
「あ、そっか、やったー!」
仙狸はバンザイしてぴょんぴょん飛び跳ねた。
確かに、刀を持ち肉弾戦が得意なレッド、銃を武器に頭脳戦を得意とするブルーに比して、イエローが携えるのは筆と弦。どう戦うのか見当もつかない。
それはイエロー側でも同じく見当はついていない。
だからこそ、気持ちで負けるわけにはいかないのだ、とウォルフは気合いを込めてイエローに声をかけた。
「お嬢様……。私たちだけでなんとか……戦いましょう!」
「……うんっ!
うぉりゅつりゅ……」
ウォルフの気合いも虚しく盛大に噛むイエロー。だがそれも気合い故だろうと、ウォルフは思っていた。
「かしこまりました、お嬢様」
スマホが変形して現れた、ギターと筆を合わせたような武器、ビュー・ブラッシュストリング――ウォルツール。
イエローはウォルツールを使ったある作戦を思いついていた。
「ねえウォルフさん、こんな作戦はどうかな?」
イエローはそう言うと、ウォルツールを振るって絵を描き始める。
「……えーい!」
次々と生み出される絵は、MSイエローそのものだ。
「これは……! なるほど!」
その意図を理解して、ウォルフは驚きながら敬服していた。
イエローはウォルツールをくるりと返し、元気な声を上げる。
「いくよっ! イエロー分身ー!」
「何!? 分身……!?」
警戒の目を向ける悟空。イエローが弦をかき鳴らすと、十数体のイエローが動き出した。
「分身により戦力を増やし、そして本物がどれかわからなくする事で防御を固める……。
見事な作戦です、お嬢様」
ウォルフは恭しくイエローに賛辞を送る。
「しかし……」
ウォルフの声が憂いを帯びた。
「ちょーっと小さすぎたんじゃね?黄色の姉ちゃん!
これじゃ本体バレバレだぜ?」
悟空の言う通り、分身のイエローは20センチ程度のミニチュアサイズだ。
「う……だって……」
「お、お嬢様……」
落ち込む二人。だが。
「わー! かわいー!! いいないいないいなぁぁ!!」
仙狸が羨ましがって、一つ欲しそうな顔で分身達を見ていた。
「てゆうかー。分身だったら俺の方が年期入ってるし! ふんっ!」
悟空は自分の髪の毛をひとつまみ引っこ抜いた。
「そんでもって……ふっ!」
悟空が毛を吹き飛ばすと、その一本一本が小さな悟空に変身する。
美佳と仙狸は大喜びだ。
「あっ! 小さい悟空くんがいっぱい!」
「ちび猿ちび猿ーーー!」
「なかなかまともな戦いにはなりませんね。予想はしていましたが……」
ウォルフが困り果てた顔でため息をつく。悟空はニヤリと笑ってイエローを見つめた。
「ふん、心配しなくても、戦闘にしてやるよ!
いけっ! 分身ども!」
悟空の小さな分身は、それぞれ小さな如意棒を振り回しながらイエローの分身たちに襲い掛かった。
仙狸はもう狂喜乱舞だ。
「いけいけー! ちび猿ーー!」
「……一応、分身も俺なんだけどな……」
戦闘的な悟空の分身とイエローの分身の戦闘は、すぐに形勢が明らかになった。
「お嬢様っ! 分身達が劣勢です!」
イエロー側の、圧倒的劣勢である。それはそうだろう。
イエローはその現実に、なんとか対応策を考えるしかなかった。
「そっか……。私は戦闘に向いてないから……。
よぉし、分身を赤く塗っちゃおう!
……えーい!」
イエローが赤の塗料を分身達にぶちまける。
「なるほど! 分身達が赤くなれば……戦闘力の高いレッドに……!
……え?」
ウォルフは目を見張った。
「オレンジ色だー! なんか美味しそうー!」
仙狸の言う通り、分身達はオレンジ色になっていた。
「あ……色、混ざっちゃった……」
「お、お嬢様……」
だが悟空は冷静に状況を分析していた。このあたりが戦闘力の差を決定的なものにしているのだが、イエロー達はわかっているのだろうか。
「油断するな分身ども! レッドとイエローの力を併せ持つ分身かも知れねえ!」
生み出した本人ですら考えもしなかった可能性に、悟空は警戒していた。
だが、生み出した本人が思いつきもしない能力が、分身達に付与されているはずもなく……。
「お嬢様……分身達が、どうして良いかわからぬようです……」
右往左往しているオレンジ色の小さなイエロー達。
「じゃ、じゃあ……、智恵ちゃんみたいに真っ青に!」
イエローは、青の塗料をたっぷり含んだウォルツールを振り上げた。
「で、ですからそれはニュアンスが……」
「えーい!」
青の塗料を浴びた分身達は……。
「お嬢様……」
呆然と呟くウォルフ。
「な、なんか変な模様になってる……」
流石の仙狸も表情が固まっていた。
「仙狸……。お前も引く事あるんだな……」
分身達は青とオレンジと混ざった色のまだらになっていた。だいぶ気持ちの悪い色使いだ。
「ウォルフさん……どうしよう……」
ウォルフもだいぶ引き気味だったが、それでも真剣に、イエローへの提案を考えていた。
「もう一度……書き直されてはいかがでしょうか……」
「そ……そうだね……」
イエローがもう一度描き直そうと、一旦分身達を消した時。
「そうはさせぬぞ!」
大きく張り上げた男の声が響き渡った。
「えっ? 誰?」
美佳が振り向くと、声を上げた男――アラジンの後ろから、筋肉ムキムキのおっさんが飛び出してきた。
「ハイハァ~イ♪
呼ばれてないけど飛び出てないけどじゃじゃじゃじゃーん!
……はぁ、これは言いにくいのだよジニー」
「……じゃあ言わなきゃ良いでしょ」
美佳はこの三人に見覚えがあった。
「はっ……! あなた達は……!
アラジンさんと……可哀想な親子……!」
「か、可哀想じゃないですっ!」
ジニーがぷんすか怒って言い返す。その間に悟空はアラジンに声をかけた。
「……おっさんか。おっさんが来るって事は……状況は結構やべえのか……?」
そしてジンが引きずってきた棺桶に目をやる。それは三重になっていた棺桶の一番内部にあった、黄金装飾の棺桶だ。
「……ん? 何だその……棺桶……?」
アラジンは余裕たっぷりに、誇らしげに、真打登場のようなドヤ顔で、高らかに宣言した。
「ふん、私が来たからには、もう奴らの好きにはさせん……!
……我が友よ……力を貸してくれ……!
出でよぉぉーーーー! ツタンカーーーーメン王~~~!」
アラジンの呼びかけに答えるように、棺桶はガタガタと揺れ始めた。




