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夢幻戦隊MSガールズ  作者: 硫化鉄
第十話 「彷徨」

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シーン7 赤いピンチ

 その頃、富士宮あかりは荒野で一人、考え込んでいた。と言うより悩んでいた。むしろ思いつめていた、と言う方が正確だったかも知れない。彼女の思考は袋小路に幽閉され、一歩たりとも前進できなかったのだから。


「弧次郎さん……っ!

 あたしの……正義……。パートナーは……。でも……っ!」


 吹き荒ぶ風が、あかりを打つ。あかりの心の内を写し出すように、風は荒れていた。

 風音に砂を踏む足音が混じる。

 その足音は、あかりのそばまで近づいて、止まった。


「ここにいたか」


「その声は……!」


 あかりの見上げる先には弧次郎が、あかりを見下すように立っていた。


「こそこそと隠れる姑息な奴だったとはな……!」


 吐き捨てる弧次郎。その言葉はあかりの心に突き刺さった。

 しかし、あかりはそれでも立ち上がった。どうしても弧次郎に問いただしたい事があったのだ。


「弧次……郎……っ!

 あなたは雷牙でしょう! あなたの正義はどこへ行ったんですか!

 あたしはみんなを守りたい……!

 それを邪魔しないで!」


 弧次郎はふっと笑みを浮かべると、満月をかたどった円盤『月輪環がちりんかん』を取り出し、腰に巻いたベルト『雷牙ドライバー』にはめ込んだ。


「守りたいだと……?

 ならば、それを証明してみせろ!

 雷牙ァァ……変身ッ!」


 月輪環をはめ込んだ雷牙ドライバーが起動し、忍装束『雷牙スーツ』が弧次郎の身体を包む。

 黒を基調としたスーツに、赤い眼のヘルメット。

 マスクドガイ雷牙が風を切り裂き、闘気を発した。

 その変身プロセスをありえないほどの至近距離で見ていたあかりは、その感動よりも先に危機感を感じ、動き始めていた。


「変身も出来ないあたしに勝てるわけない……。でもっ!

 とぉぉあああっ!!」


 何万回、何十万回、いや何百万回稽古してきただろう。スピードとパワーを兼ね備えたあかりの拳が雷牙に繰り出された。

 雷牙は最小限の動きであっさりとかわす。


「その程度の腕か……。それで良く人を守ろうなどと!」


 かわされた瞬間に地面を蹴って距離を取るあかり。一瞬の迷いが命取りになるギリギリの戦いなのだ。


「かわされた……っ! 当たり前か!

 何とか……なんとかしなきゃ……!」


「気持ちだけでは、何ともならない事もあるのだっ!

 雷牙ァァ……キーーーック!」


 頭を働かせる余裕もなく、雷牙の技が繰り出される。あかりは本能で飛びのいた。


「きゃぁっ!

 ……よ、避けられた……!?

 まずは、距離を取らなきゃ……っ!」


 あかりは雷牙から離れるように、全力で走り出す。走力も雷牙に敵うわけがないとわかっていても、全力で抗わずにはいられなかった。


「逃がすか!」


 即座に追いついてくる雷牙を、不規則な方向転換でかわしてゆくあかり。だが、そんな抵抗が長く続かないことは、あかり自身がいちばんわかっていた。


「はぁ、はぁ、はぁっ……。

 だめ、変身しなきゃ……勝負にならない……!

 もう一度、弧次郎さんを……でも、弧次郎さんは、本当は……」


 その時、あかりは何かを踏んづけ、バランスを崩した。ウシガエルを踏み潰したような声が響く。


「ぐえっ」


「きゃぁっ! な、なに?」


 顔から地面にぶっ倒れ、顔を上げるあかりに、雷牙は容赦なく技を放った。


「ふっ……。これで終わりだ……!

 とぉっ! 雷牙ァァ……キィーーーック!!」


 まだ立ち上がる事が出来ていないあかりの表情が歪む。


「避けきれない……! きゃあああっ!」


 悲鳴を上げたあかりの目の前に大きな男が立ち上がった。


「どぉぉりゃああっ!!

 ……ぐうっ……!」


 男は雷牙キックを、その逞しい身体で受け止めた。


「あ、あなたは!」


「雷牙キックを受け止めただと……? 何者だ!」


 あかりと雷牙が同時に声を上げる。男が両腕で掴んでいた雷牙の足をぶうんと投げ捨てると、雷牙は空中で身体をひねって着地した。

 男は身体を雷牙に向け、不敵に笑う。


「ふっふっふ。俺は女子高生に踏んづけられても死なない男……ジョー・ガンジョー!」


 バーン! と胸を張るジョーに、あかりは一瞬ぽかんとした。


「なんかそれ、普通な気が……」


「あ、じゃあ……ドラゴンに踏んづけられても死なない男……! ジョー・ガンジョー!」


 改めて胸を張り直すジョー。雷牙はジョーに向き直った。


「ジョー・ガンジョーとやら……! またしても邪魔をするか!」


「ジョーさん! 仲間を捜しに行ったんじゃ……?」


 ジョーは顔だけあかりに向け、ニッと笑った。


「道に迷ったんで、寝てた」


 そして再び雷牙に視線を移すと、ジョーは大声で怒鳴った。


「ってゆーか、あかり! とりあえずこいつは引き受けるから、お前はパートナーを!」


「え、でも!」


「身体だけはもうおかしいくらい頑丈にできてるんでな。時間は稼いでやる!」


 ジョーは背中に担いだ大剣を掴み、ぶうんと振った。


「でも……弧次郎さんは……」


「自分のパートナーを信じろ! 言ったはずだ!」


 ジョーの剣幕に、あかりはうなずく他ない。それにパートナーの弧次郎を復活させる事でしか、この状況を打開する術がない事を、あかりは充分に理解していた。


「は……はい!」


「面白い……。ジョー・ガンジョー! 勝負だ!

 斬鉄……ブレェェェドっ!」


 幅広の刀身が持つ質量でどんなものでも斬り砕くジョーの大剣。対するは全ての物を斬り裂く雷牙の忍者刀。

 正反対の特質を持つ二つの剣が対峙した。


「あかり、出来るだけ、急いでくれよ……?」


 なんでもない口調で言うジョー。だがそのなんでもない口調、なんでもない声にこそ、あかりは事態が容易ならざる事を感じていた。


「はい……!」


 真剣な表情でうなずくあかり。

 雷牙は斬鉄ブレードを構えつつ、あかりに視線を移した。


「笑止……! 生まれて今まで培ってきた妄想……このような短時間で再現出来るものか!」


 その言葉に、あかりはハッとした。


「……っ! 今まで培ってきた妄想……!」


 あかりの心の中に、爆発的に記憶が蘇った。

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