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夢幻戦隊MSガールズ  作者: 硫化鉄
第二話 「三つの力」

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シーン3 あかりの場合

 その夜。

 あかりは庭に出て、特訓をしていた。日課にしている一時間の特訓だったが、今日はいつもよりさらに気合の入ったものになっていた。

 家に帰ってすぐに着替えて庭に出た。そこからもう四時間が経過している。


 正拳。肘打ち。貫手。裏拳。猿臂(えんぴ)

 上段。中段。下段。逆突き。順突き。掬い突き。

 前蹴り。横蹴り。後ろ蹴り。

 ロー。ミドル。ハイ。


 汗が飛び散り、ポニーテイルが揺れる。

 基本動作、そして連携技。あかりは飽きることなく、愚直に訓練を続けていた。

 鍛えて、鍛えて、鍛えて。強くなって悪の組織からみんなを守るんだ。

 マスクドガイ雷牙みたいに。弧次郎さんみたいに。


 一心に身体を動かしていたあかりが、ゆっくりと動きを止め、縁側に立てておいた携帯に向き直る。

 待ち受け画面では弧次郎が、あかりの動きを観察していた。


「……どうですかっ? 弧次郎さんっ!」


 頬にはりつく髪から滴り落ちる汗を気にすることもなく、あかりは真剣な目で弧次郎を見つめる。

 画面内の弧次郎は、視線を落として一つ息を吐くと、あかりに目を向けた。


「スジはいい……。だが、お前の動きは実戦の動きではない。

 ……そのままでは、あの連中に勝つことは出来ない」


 弧次郎の声は静かだったが、有無を言わせぬ響きがあった。まぎれもなく、弧次郎は真実を語っていた。


「そ、そんな……! あたし、どうしたら……!」


 一瞬、あかりの目の前が真っ暗になった。憧れて、目標にしていたマスクドガイ雷牙。その人が目の前で、彼女に落第を突き付けたのだ。


 ……でも! あたしが! やらなきゃ!


 あかりの瞳に炎が宿った。どんな時もくじけない、そのヒーロー魂が、あかりの最大の美点だろう。

 弧次郎はそのあかりの顔を見て、少し笑みを浮かべてうなずいた。


「俺が鍛えてやる。だが、それでも間に合うかどうか……」

「弧次郎さん! あたし、どんな特訓にも耐えます!

 崖下で、上から大きな岩を落としてもらって拳で打ち砕く特訓とか!

 滝壺で、上から大木を落としてもらって手刀で切り裂く特訓とか!

 北極の海で、崩れてくる氷河を気の力で蒸発させる特訓とか……」


 勢い込んで指折り数えるあかり。子供の頃見ていた『マスクドガイ雷牙』の中で、弧次郎が行っていた特訓だ。

 雷牙がその特訓の末、どんな強敵にも打ち勝ってきた姿は、あかりにとって、バイブルだったのである。

 弧次郎は慌ててあかりの言葉を遮った。


「……待て。死ぬぞ」


 あまりにも当然の指摘。だが怯むあかりではない。


「でもでも! 悪を倒すためには! 今の自分を超えなきゃ!」


 携帯電話を掴んで叫ぶあかり。

 今のあかりは焦っている。弧次郎にはそれが見えていた。

 初めての戦闘、そして弧次郎の出現。

 もちろん焦りだけではないだろう。自分がヒーローになれるという高揚感。それらがないまぜになり、今のあかりは不安定になっているのだ。

 あかりの妄想から生まれた弧次郎だからこそ、あかりの深層に気付き、危険を感じていた。


「……落ち着けあかり。慌てても何にも得られるわけではない!」

「だって!」


 なおも言い募るあかりに冷水を浴びせるがごとく、弧次郎はあかりに大きな声をぶつけた。


「だから!!」

「は……はいっ?」


 弧次郎の突然の剣幕に、あかりの背筋が伸びる。一瞬、あかりの中にあった全ての感情、考えが吹き飛んだ。


「……だから、俺がいる」


 空っぽになった頭に、落ち着いた弧次郎の声が染み込む。あかりの身体から、余計な力が抜けた。


「……はいっ」

「変身すれば俺の力がお前に宿る。お前は俺の動きにシンクロする事に集中すればいい。

 そうすれば……お前自身の力も鍛えられるはずだ」

「はい!」


 返事をするあかりの表情は輝いていた。

 これから厳しい闘いが始まる事は間違いない。今の自分たちでは何もできないのかも知れない。

 だが、どこか自分たちにも何かできそうな、そんな希望をあかりは確かに感じていた。


「後は、基礎的な身体能力の訓練と、イメージトレーニングだ。俺の動きをイメージにすり込み、完全に再現する。

 完璧にイメージできた動きなら、鍛えれば必ず出来るはずだ」


 細かくうなずきながら聞いていたあかりは、最後に一つ大きくうなずいた。


「イメージ出来た動きは絶対に出来る……出来るはず!!

 わかりました! くぅぅ~~!! 燃えて来た!!!

 ええと、じゃ、ご飯食べたら稽古、再開します!

 イメージトレーニングは……そうだ! 寝てるときに夢の中で!

 弧次郎さん、あたしの妄想から生まれたんだから、夢にも出てこられるんでしょ?」


 ハイテンションで喋りまくるあかり。わかっていたとは言え、弧次郎は少したじろいだ。


「……まぁ、お前の夢に出てくるマスクドガイ雷牙は、俺だが……」

「じゃあ、決まりですね!

 夢の中なら、崖下の特訓も、滝壺の特訓も、北極の特訓もできそうだし!」


 マスクドガイ雷牙と同じ特訓ができる……。あかりは、遠足か修学旅行前のようにうきうきしていた。


「……その特訓は……きついぞ……?」

「うん! 弧次郎さんがやった特訓だもん、あたしも頑張ります!」


 これは自分が難易度の調整を含めたサポートをしなければならないだろうな、と弧次郎は苦笑した。


「ま、まぁ、段階を踏んでな……?」


 そして弧次郎は、表情を引き締めて言った。


「それから、その前にもう一つ……」


 つられてあかりも真剣な表情になる。

 これから戦い抜いていくためのアドバイスだろうか。

 あかりは唾を飲み込んだ。


「もう一つ……ですか……?」

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