シーン2 @常世の国
「何!? 現世界に、妄想の力で戦う戦士が現れた、だと?」
神託の間に、卑弥呼の声が響いた。驚愕と怒りが入り混じった声。卑弥呼がこのように声を荒げるのは、ディスペアーが組織されて以来初めてのことだ。
ディスペアーの現世界侵攻は容易いはずだった。現世界の人間には、妄想界からの刺客に対抗できるはずがないのだ。
卑弥呼の心は、自分でも不思議なほどざわついていた。
「はい。特に妄想力の強いタイプの人間のようです。
妄想界から、自分の妄想領域を擬人化して現世界に呼び寄せているものかと」
既にアラジンは、敵対してきた少女たちの分析を進めていた。
妄想界は、現世界の人間が持つ妄想や夢が生み出した異次元空間である。その中には当然、あかりたちが持つ妄想によって成り立っている領域も存在した。
あかりたちはその領域を力として使っている、というのがアラジンの結論であった。
「そんなこと考えてやれるタイプにゃ見えなかったけどなぁ」
悟空が頭の後ろで手を組み、アラジンを見上げて言った。三人の少女たちは、あの時初めて悟空たちに会うまで、現世界の危機には気付いていなかった。それに、彼女たちに変身の力を与えた妄想界の存在にも驚いていたではないか。
「無意識でやっているのだろう。それとも、その擬人化された妄想領域が自我を獲得したか……」
アラジンや悟空もまた、妄想領域が自我を獲得した存在だ。伝説や逸話を通じて人々が長い時間をかけて積み上げた、無数の記憶と妄想の集合体。
彼らが自我を獲得しえたのも、その強大な力によるものだ。
たった一人の妄想領域が、自我を獲得する力を持つなど考えられなかった。
「どちらにせよ、その者たちが持つ力の強さ故、という事か……」
卑弥呼は冷静さを取り戻して言った。個人の妄想領域が自我を持つという報告は荒唐無稽なものだったが、卑弥呼の心にあった苛立ちの種をなだめ、納得させる効果があった。
敵の存在は看過できない。だが、正体不明というわけでもない。
敵の力の源泉がわかっている以上、対策を立てる事も可能だろう。
「……で、バクの方はどうしている?」
「今日食った夢のエネルギーをこっちに送る準備でもしてんじゃねーの?
途中で邪魔が入っちまったけど、結構な騒ぎにはなってたから、今夜は良い悪夢の花盛りだろうしなっ!」
卑弥呼はゆっくりと頷いた。
「そうか……。人間の夢や妄想が闇に傾いてゆけば、主の望みも叶う……。
しかし、それを邪魔する戦士の存在……。許せんな……」
「御意」
アラジンは短くそう答え、一歩前に出た。分析と並行して、対策も練りあげてある。アラジンの表情は自信にあふれていた。
「バクには戦闘を想定した強化を施してはおりませんでした。
ですが敵戦士が現れた以上、万が一に備える必要がありましょう。
私はこれからバクの元へ赴き、戦闘用の能力強化をして参ります」
「うむ、任せる」
踵を返し、アラジンは決然と境界の穴へ歩み寄った。
「では。……お見送りは結構」
一言釘を刺して、アラジンは境界の穴へ飛び込んだ。
「わ、わかっている。いちいち言わずともよいっ!」
慌てて声を上げる卑弥呼の頬は紅くなっている。悟空は思わず噴き出した。
すぐに気づいた卑弥呼は唇を尖らせ、不機嫌な顔で悟空を睨む。
悟空は慌てて境界の穴へ駆け寄った。
「あ、お、俺もあっちの世界、行ってくるわ。おっさんだけに任せてたんじゃ、ちょっと不安だからな!
俺が知恵と力を貸してやらねーと!」
「なら……、その戦士とやら、確実に倒すのだぞ。さもないと……」
ジト目を赤く光らせる卑弥呼。その尻尾が威嚇する蛇のようにしゅるしゅると動く。
「わ、わかってるって! ねーちゃ……いや、卑弥呼様のお仕置きはマジ勘弁だからな……。
行ってくるっ!」
言い捨てて境界の穴へ飛び込む悟空を追うように、卑弥呼は境界の穴を覗き込んだ。
「……悟空! アラジンと力を合わせ、必ずや……」
……ごんっ。
「い、いったぁ…………」
涙目で額を押さえる卑弥呼をちらっと振り返って、悟空はため息をついた。
「……やっぱ、言わなきゃ駄目じゃん……」




