シーン1 マスクドガイ雷牙
富士宮あかりはピンチだった。
パートナーとのつながりが切れ変身不能、そして目の前にはあかりにとって最強のヒーロー、マスクドガイ雷牙が立ちはだかっている。
どうにか攻撃を避け続けていたが、武器もないあかりは手の出しようもなく、攻めあぐねていた。
「はぁ……はぁっ……。
何とかしなきゃ……! このままじゃ……!」
雷牙はゆっくりと、あかりに刃を向けた。息も切らしていない。力の差は歴然だ。
あかりが生き延びているのも、雷牙の余裕の態度のおかげだった。
雷牙がこういう戦い方をしているのを、あかりは見た事がなかった。雷牙は常に全力で、相手を侮る事はなかったはずだ。
変身できなければ、戦う相手としても見てもらえないのか――。
あかりは無念だった。
「どうした? 無抵抗のまま終わるのか? お前も戦士なら、俺に一矢報いる気概はないのか!」
「でも……でも……っ!」
雷牙に、戦う価値もないと見られている。よりにもよって、一番そう思われたくない相手に。あかりにとってそれは絶望でしかなかった。なのに、何もできない。
「ふん。パートナーとやらに頼って、自分一人では戦えない腑抜けか……!」
「そんな……」
目の前が暗くなる感覚。だが、あかりは雷牙を見据えていた。目を放す事などできなかった。
あかりの視線の先で、雷牙が斬鉄ブレードを構え直した。
「ではこの俺が! 引導をわたしてやる……!
……覚悟っ!」
雷牙はあかりに避ける方向を定めさせぬように、円を描くようにあかりの周りを走った。
悲鳴を上げるあかりに、雷牙が一気に距離を詰めようとした、その時。
「そろそろ……どいてくれ……。むうんっ!」
あかりの足元から野太い男の声。そしてあかりの身体が宙を舞った。
「え? きゃああっ!」
「れっこーーーーーざんっ!」
あかりの身体を放り上げた男は、幅広の大剣を背負って起き上がりざま、雷牙にその刃を叩きつけた。
不意を突かれた雷牙は、その重い一撃を斬鉄ブレードで受けきれず、吹き飛ばされる。
「……なにっ!?
……ぐぁっ!!」
「なに……? あれは……誰だ?」
それは狐仙にも初めて見る顔だった。卑弥呼の用意した刺客ではない。
作戦にイレギュラーが発生したとなれば、対応策を講じる必要があった。
「雷牙! 一旦引き上げるよ!」
狐仙の声に、雷牙は身体を起こしながらうなずいた。
「ぐっ……了解した……!
……疾風牙!!」
雷牙が呼んだのは、専用バイク・疾風牙。雷牙はジャンプし、空中で身体をひねって、高速で駆けつけたバイクに飛び乗ると、あかり達に顔を向けた。
「ひとまず勝負は預ける……!
次は必ずその命、もらい受けるぞ! 富士宮あかり!」
狐仙はバイクの後ろにまたがり、雷牙の腰に手を回す。
「そーそ。首を洗って待ってるんだねえ。
あーーーっはっはっはっは!」
狐仙の高笑いを残して走り去る雷牙たちを見送って、あかりは力なく座り込んだ。
「弧次郎……さん……」
雷牙に一撃を食らわせた男は、苦笑しながら自分の服をぱんぱんとはたいた。もうもうと砂埃が上がり、男は渋面になる。
座ったままあかりが見上げるその男は、身長は190センチ以上ありそうな大男だった。その身体も筋肉で鎧われていて、小型の戦車のようだった。防具もつけておらず、背中に背負った一本の大剣。それだけが彼の装備だった。
砂埃がひと段落したところで、男はぼやいた。
「ふぅ。やっぱ俺はどこ行っても……」
あかりは慌てて立ち上がり、頭を下げた。
「あ、あのっ! 助けてくれてありがとうございました!
あと、……踏んづけちゃってごめんなさい」
雷牙と対峙している最中、あかりの足元から聞こえたウシガエルを踏み潰したような声の主は彼だったのである。
踏んだことに気付いていないあかりにそのまま踏んづけられていたが、雷牙の攻撃をかわし切れなくなったあかりを空中に放り投げ、危機を救ったのだ。
あかりの謝罪に、男はぼりぼりと頭を掻きながら手を振った。
「あー、慣れてるから大丈夫」
この人は、誰なんだろう。どんな人なんだろう……?
あかりは心に浮かぶ疑問のまま、男に尋ねた。
「あの……あなたは……どなたですか……?」
「あぁ、俺か? 俺は……」




