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正義の軍略家 ~自衛隊エリート、異世界で義勇軍を率いて腐敗を討つ~  作者: ローナ


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王都からの使者と、選択の時

盾の牙要塞の朝は、冷たい風が吹き抜けていた。

総勢290名に膨れ上がった『秩序の盾』は、要塞の各所で活発に活動を続けていた。

前衛部隊の訓練の声が響き、後方支援部が食料の在庫を点検し、斥候隊が周辺の安全を確認する。

神崎蓮は司令室の窓からその様子を眺めながら、静かに息を吐いた。

「順調に育っている……だが、まだ足りない」

そこへ、エリシアが急ぎ足で入ってきた。

狼族の女性の表情はいつもより硬い。

「蓮、王都から使者が来た。

白旗を掲げ、フェルン王国の紋章が入った馬車だ。

人数は十名ほど。 護衛は少ないが……油断はできない」

蓮の目が細くなった。

「王都直々か……ヴォルド男爵を捕らえた影響が、ようやく王都まで届いたな。

迎え入れる。 しかし、警戒は最大限に」

要塞の正門が開かれ、使者の馬車が入ってきた。

馬車から降りてきたのは、40代半ばの瘦せた男だった。

洗練された貴族服を着ており、名を「アルフレッド・ヴァイス」と名乗った。

フェルン王国第三王子の側近で、王国軍の情報担当官を兼ねているという。

アルフレッドは蓮の顔を見ると、わずかに目を細めた。

「神崎蓮……か。

噂には聞いていたが、若いな。

しかも、イケメンとは……異世界転生者という噂は本当らしい」

蓮は表情を変えずに応じた。

「歓迎します、アルフレッド卿。

用件を伺いましょう」

アルフレッドは周囲の獣人たちを一瞥し、軽く鼻を鳴らした後、切り出した。

「単刀直入に言う。

王国は、お前たちの存在を正式に認める用意がある。

ヴォルド男爵の罪はすでに調査済みだ。

奴隷商人の一件も……ある程度は目をつぶる。

代わりに、条件を飲んでもらいたい」

蓮は静かに先を促した。

「条件とは?」

「第一に、フェルン王国への忠誠を誓え。

第二に、魔王軍の脅威が迫っている今、お前たちの軍団を王国軍の傘下に入れ、辺境防衛の任に就け。

第三に……今後、奴隷商人の残党を討つ際は、王国に事前報告を義務づけろ。

これらを飲めば、辺境三村の自治権と、正式な爵位を約束する。

子爵相当だ」

司令室に重い沈黙が落ちた。

エリシアの耳がピクッと動き、ルークの尻尾が緊張で固まった。

シオンとガルムも無言で蓮の反応を待っている。

蓮はゆっくりと口を開いた。

「興味深い提案です。

しかし、条件を一つずつ確認させてください。

第一の忠誠——王国が現在、辺境の民をどのように扱っているか、俺はよく知っています。

重税、差別、奴隷取引の黙認。

そんな王国に、無条件で忠誠を誓えと?」

アルフレッドの目が冷たくなった。

「生意気な……お前はまだ若造だ。

王国は数百年の歴史を持つ。

辺境の小軍団が、好き勝手できると思っているのか?」

蓮の声は静かだが、芯が強かった。

「俺たちは王国に敵対するつもりはない。

しかし、理不尽な支配には屈しない。

奴隷取引は今後も許さない。

魔王軍の脅威に対しても、俺たち独自の方法で対処する。

傘下に入るつもりはない」

アルフレッドが声を荒げた。

「それでは反逆と見なされるぞ!

第三王子殿下は寛大だが、王は違う。

王国軍の本隊が動けば、お前たちの小さな軍団など一瞬で潰される!」

その瞬間、エリシアが一歩前に出た。

「蓮を脅すな。

私たちは、弱い者を守るためにここまで来た。

王国が守ってくれなかった人々を、私たちが守ってきた。

それが反逆だというなら……好きにすればいい」

ルークも小さな声で、しかしはっきりと言った。

「僕たち……もう、怯えない。

蓮さんがいるから」

アルフレッドは鼻で笑った。

「獣人風情が……。

まあいい。

今日は返事を聞くつもりはない。

三日以内に返事をよこせ。

賢明な判断を期待している」

使者一行が去った後、司令室は重い空気に包まれた。

蓮は皆を見渡し、静かに言った。

「これは試練だ。

王国に屈すれば楽になるが、正義を失う。

独立を貫けば、いつか王国軍と衝突する可能性がある。

皆はどう思う?」

エリシアが真っ先に答えた。

「私は蓮についていく。

王国が腐敗している以上、盲目的に忠誠を誓う気はない。

私たちは『秩序の盾』だ。

王国の盾ではない」

シオンが冷静に続けた。

「王国に取り込まれれば、獣人の扱いはまた悪くなる。

今の方が、はるかに自由だ」

ガルムが低い声で言った。

「戦う覚悟はある。

ただ……王国軍の本隊は強い。

数も、装備も、魔法も……」

ルークが拳を握りしめて言った。

「僕……怖いけど、蓮さんが正しいと思う道を行きたい。

みんなで強くなれば、勝てるよね?」

蓮はゆっくりと頷いた。

「ありがとう。

俺も同じ考えだ。

王国に完全に従う気はない。

しかし、無闇に敵対するつもりもない。

巧みに距離を保ちつつ、力を蓄える。

魔王軍の脅威が本格化する前に、俺たち独自の勢力を固める」

その夜、蓮は要塞の屋上で一人、星空を見上げていた。

【スキル『政治交渉対応』 レベル1を取得しました】

【現在のレベル:36】

新たなスキルが開花した。

しかし、蓮の胸には重い責任感がのしかかっていた。

「自衛隊時代は、上からの命令に従う側だった。

ここでは、命令を出す側……いや、独自の道を切り開く側だ。

正義感だけでは足りない。

戦略、外交、内政、すべてをバランスよく進めないと」

翌朝、蓮は全軍を集めて簡潔に説明した。

「王国から使者が来た。

傘下に入れという提案だったが、俺は断った。

これから王国との関係は微妙になる可能性がある。

しかし、俺たちは間違っていない。

弱い者を守り、理不尽を正す——それが『秩序の盾』の理念だ。

皆、覚悟を決めろ。

これからは、もっと大きな戦いが待っている」

広場に、静かな決意の空気が広がった。

エリシアが蓮の横に立ち、低く言った。

「蓮……大変な道を選んだな。

でも、私は嬉しい。

あなたは、ただ強くなるだけじゃない。

正しいことを貫こうとしている」

蓮は小さく微笑んだ。

「ありがとう。

お前たちがいれば、どんな道でも進める。

これから領地をさらに広げ、軍団を強くする。

王国軍が来る前に、辺境全体を俺たちの領域に変える」

その日から、要塞の動きが加速した。

農地の拡張、訓練の強化、新規加入者の選別、魔王軍対策の情報収集——

すべてが並行して進められていった。

一方、王都ではアルフレッドの報告を受け、第三王子が苦い顔をしていた。

「神崎蓮……面白い男だ。

ただの成り上がりではない。

しばらく様子を見るが……いずれ、決着をつけねばならんな」

遠い北の地では、魔王軍の先遣隊が、

『秩序の盾』という名前を、徐々に意識し始めていた。

神崎蓮は司令室の窓から、広がる辺境の大地を見つめた。

「俺の戦いは、まだ始まったばかりだ。

正義の軍略家として、この世界に秩序を——」

要塞の旗が、風に勢いよくはためいていた。

『秩序の盾』の白と青の旗は、

これからさらに大きな波乱の予感を、静かに孕んでいた。

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