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第2章「ルリ:籠の鳥と、絶望の箱庭」

ルリの16年の人生は、美しく設えられた鳥籠の中で完結していた。 歴史ある名家に生まれ、愛情深い父の下で、ルリは純粋培養の花のように育てられた。外の世界の汚れを知らず、いつか素敵な殿方と結ばれ、穏やかな家庭を築くのだと無邪気に信じていた。


その幻想が打ち砕かれたのは、16歳の誕生日を迎えてすぐのことだった。


「ルリ……本当に、すまない……!」 書斎で、いつも威厳のあった父が涙を流して頭を下げた。相手は、冷酷な乗っ取り屋として悪名高い51歳の投資家。ライバル会社の卑劣な罠にはめられ、一族の事業が巨額の負債を抱えて破綻寸前に追い込まれたのだという。借金のカタとして、その投資家が突きつけてきた唯一の条件が、美しく育ったルリとの政略結婚だった。


親子ほど……いや、父親よりもさらに年上の男。白髪混じりの頭、たるんだ頬、そしてルリを「極上のコレクション」としてしか見ていない、ギラギラとした欲望にまみれた目。


「お父様が謝ることではありませんわ」 父の涙を見たルリは、家と、そこで働く多くの人々を救うため、自らその生贄になることを受け入れた。


しかし、結婚式当日。ウェディングドレスに身を包み、控室に一人でいたルリの元へ、その男が下卑た笑みを浮かべてやってきた。 「いやぁ、美しい。今日から君は、私の可愛い『所有物』だ。私の言うことには絶対服従してもらうよ。家が潰れたくなければね」 まるでモノを品定めするように全身を舐め回す視線。その瞬間、ルリの中で無理やり押し殺していた恐怖と嫌悪感が限界を突破した。


(こんな男の所有物になるくらいなら……!)


ルリは無我夢中で控室を飛び出し、重いドレスの裾を引きずりながら、式場の廊下を駆け抜けた。 向かった先は、吹き抜けになった高層階のバルコニー。


「いやっ! こっちに来ないで……!」 追ってきた黒服の部下たちを前に、ルリはバルコニーの柵に足をかけた。絶望の鳥籠に閉じ込められるくらいなら、このまま空へ落ちた方がマシだ。 しかし、身を投げ出そうとした瞬間、黒服の大男たちにあっさりと両腕を捕縛され、乱暴に安全な床へ引きずり戻されてしまった。自ら命を絶つ自由すら、彼女には与えられていなかったのだ。


恐怖と絶望で顔を歪め、ボロボロと涙をこぼすルリを見下ろし、追いついた男は加虐心を刺激されたように喉の奥で笑った。


「死んで逃げようとするとは、とんだじゃじゃ馬だ。……いいだろう。ただ力で押さえつけるだけじゃ面白くない。お前のその生意気な命、ゲームのチップにしてやる」


男はルリを冷酷に見下ろした。

「今夜、俺の知人たちが集まる麻雀の卓がある。4人の女が潰し合う見世物だ。この勝負でトップを取れたら、お前の勝ちだ。結婚は白紙に戻し、お前の家の借金も帳消しにしてやろう。だが負ければ……」


男の目が、蛇のように細められた。

「一生、日の当たらない地下室で、俺の奴隷として生きてもらう」


――そして現在。 地下深くの無機質なコンクリートの部屋。ルリは与えられた紺色のワンピース(チャイナボタンのついた、古風で窮屈な服だ)に身を包み、「西家」の席で膝を震わせていた。


対面には、どこか冷めた目をした知的な女性。右隣には、派手なネイルをした水商売風の女性。左隣には、今にも泣き出しそうな少女。 麻雀のルールは、教養の一つとして家庭教師から教わったことがあった。だが、こんな極限状態でまともな思考ができるはずもない。


(どうせ、あの男の掌の上で弄ばれているだけ……私はここで、一生を終えるんだわ)


しかし、配牌を理牌リーパイしたルリの目に飛び込んできたのは、見たこともない光景だった。 一九字牌が、一枚の被りもなく綺麗に13種類。 『国士無双13面待ち』。


神の悪戯か、それとも悪魔の罠か。 ルリの真っ黒に塗りつぶされていた瞳の奥に、小さな、しかし決して消えない反逆の炎が灯った。


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