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第11章「逆転:盤外のスペクタクル」

バチバチと紫色の火花を散らすスタンガンが、シオリの肩に触れる寸前。


『――ピピッ! ピピピピッ!!』


地下室のスピーカーから、耳をつんざくような高い電子音が鳴り響いた。 黒服の男たちが「なんだ!?」と動きを止める。 その電子音は地下室から発せられたものではなかった。マイクがオンになったままの、最上階のVIPルームで鳴り響いた「システム警告音」を拾っていたのだ。


VIPルームでは、壁一面の巨大モニターが突如としてノイズに包まれていた。 「おい、どうした!? 映像が……!」 理事長が慌ててリモコンを操作するが、モニターは言うことを聞かない。やがてノイズが晴れると、そこには全く別の画面が映し出されていた。


それは、見慣れた『動画配信サイト』の画面だった。


『――素晴らしいチームワークだったよ、諸君』 『だがね、一つ根本的な勘違いをしているようだ。契約というものは、対等な人間の間でしか結ばれない。お前たちのような『所有物』の望みを、我々が真面目に聞いてやるとでも思ったのかね?』 『ゲームは終わりだ。お前たちは知りすぎたし、反抗的すぎた。……処理しろ』


画面の中では、つい数十秒前に投資家が言い放った冷酷な言葉が、リプレイのように再生されていた。 いや、リプレイではない。画面の右下には赤文字で**『LIVE』**と表示されている。 そして、その横にある「同時接続者数」のカウンターは、異常な勢いで跳ね上がり続けていた。


【同接:385,021人】


「な……なんだ、これは……っ!?」


51歳の投資家の顔から、初めて余裕が完全に消え失せた。

画面の右側を、滝のような勢いで視聴者のコメントがスクロールしていく。


『え、これガチの犯罪?』

『麻雀でデスゲームとか映画の撮影かと思ったけど、マジじゃん』

『この声、〇〇女学院の理事長だろ!! 娘のいじめ揉み消してるって暴露されてるぞ!』

『芸能事務所の〇〇社長もいる! アイドル志望の子に枕営業強要して違約金請求とかクズすぎ』

『イカサマ麻雀卓で借金漬けとか、警察動けよ!』

『今、この投資家の会社の株、夜間取引でストップ安になってるwww』


「ひっ……! あ、ああ……!!」

芸能プロダクションの社長が、自分のスマートフォンを取り出して悲鳴を上げた。着信履歴が、会社の役員や株主、そしてメディアからの電話で完全に埋め尽くされている。


「お、俺たちがハッキングされたのか!? どうしてこの部屋の音声と映像が、全世界に生配信されてるんだ!?」


事務所のオーナーがパニックになり、モニターを叩き割らんばかりの勢いで立ち上がった。


『……ハッキングなんて、そんな難しいことはしていませんよ』


VIPルームに、凛とした声が響いた。 モニターの端に小さく映し出された地下室の映像。そこで、シオリが黒服の前に立ち塞がったまま、ゆっくりと自分の胸元――ブラウスの第一ボタンに指を当てていた。


『学校という場所で、大人の卑劣な揉み消しと戦うには、「証拠」を残すのが一番ですから。……超小型のウェアラブルカメラ。私のスマートフォンと連動して、クラウド経由で生配信を続けるように設定してあります』


「き、貴様ぁぁっ!!」


理事長が絶叫した。

シオリは冷たく言い放った。


『地図に載っていない地下施設だと言いましたね? ええ、そうでしょう。でも、あなたたちの悪意は今、全世界の何十万人という証人によって共有されました。……あなたたちが自分たちの権力を誇示するためにベラベラと喋ってくれた「自白」も、すべてね』


シオリが起家の席に座る前に仕掛けていた、盤外のスペクタクル。 彼女は、自分が負けて地下に沈められる最悪のケースも想定し、自分の命と引き換えにこの男たちの悪事を社会に暴露する「自爆スイッチ」を最初から起動していたのだ。


だが、あの奇跡の配牌と、三人の少女たちが彼女を守ろうと立ち上がってくれたことで、この生配信は「悲劇の暴露」から「痛快な逆転劇」へと意味を変えた。


地下室の黒服たちも、自分たちの顔が全世界に生配信されていることに気づき、スタンガンを下ろして後ずさりを始めていた。こんな証拠が残る状況で暴行を加えれば、自分たちもただでは済まない。


『ルールだ、契約だと声高に叫んだのは、あなたたちから「ルールを反故にする言葉」を引き出すためです。あなたたちの本性を、社会に完全に晒すために』


シオリは、監視カメラを――いや、その向こうで震え上がっている権力者たちを、氷のような視線で射抜いた。


『ゲームセットよ。あなたたちの社会的な命は、たった今、完全に終わったわ』


直後、VIPルームの重厚な扉の向こうから、けたたましいサイレンの音と、多数の足音が近づいてくるのが聞こえた。


「警察だ! 開けなさい!!」


バンバンと扉を叩く激しい音に、四人の男たちは腰を抜かし、その場に崩れ落ちた。


地下室では、アヤが「……やった」と呟き、その場にへたり込んだ。 ルリとマナも、糸が切れたように泣き崩れながら抱き合っている。 シオリは、大きく、本当に大きく息を吐き出すと、三人の元へしゃがみ込み、その肩を強く、優しく抱きしめた。


自動麻雀卓の上では、シオリが放った純白の『白』を囲むように、三つの『国士無双』が美しく並んだまま、静かにゲームの終わりを告げていた。


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