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父上、私の夫を盗らないで!  作者: ひろの
第一章 父上、私の夫を盗らないで!

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第9話 父の推薦とデジャヴ

屋敷に戻って、すぐにユッコに連絡した。


通信端末を取り出す。

呼び出し音。

すぐに、ユッコの顔が画面に映った。


「ミレイユ!」


「ユッコ!」


私は興奮で声が大きくなった。


「うまくいった!」


「やったー!」


ユッコが画面の向こうで飛び跳ねている。


「主人も女将さんも協力してくれることになったの!」


「良かった!本当に良かった!」


ユッコが涙ぐんでいる。


「それでね、色々聞きたいことが――」


「待って待って!」


ユッコが慌てて言った。


「実はね。もう動いてるの」


「え?」


「ミレイユから最初にミャルティカもらった時、すごく美味しかったじゃない?」


「うん」


「だから、私、友達に渡したんだ」


「友達?」


「ルミナス・キャトレールの研究員」


(……え?)


頭が一瞬止まった。


「ルミナス・キャトレールって、

 あのアロマティーク・ニャルディアのライバルブランド?」


「そう!」


ユッコが嬉しそうに言った。


「で、その子がサンプルを会社に持って行ったの」


「それで?」


「もし安定供給が可能なら、主力のキャトルーナシリーズの新作として、

 キャトルーナ・ミャルティカを制作してもいいって!」


「……え!?」


声が裏返った。


「本当に!?」


「本当!もう根回し済み!」


「ユッコ!!」


嬉しさで、涙が出そうになった。


「ありがとう……!」


「どういたしまして!」


ユッコが笑った。


「それでね、販路と輸送コストのシミュレーションも用意したよ」


「え、もう?」


「うん。商社勤めだからね。このくらいできるよ」


画面にデータが映し出される。


「……すご」


鮮度を考慮した販路。

香水の販売先。

輸送コスト。

バイラルマーケティングに必要な費用。


全部、具体的な数字で見ていてビックリする。


「これ、使っていいの?」


「もちろん!ミレイユのためだもん」


「ユッコ……」


本当に、本当に。

良い友達を持った。


ユッコから送られたデータを、提案書に反映する。

栽培計画。

収穫量。

輸送ルート。

販売先。

コスト。

収益予測。


提供してくれたデータ全部、

その一つ一つを確認していく。


夜が更けていく。

でも、止まれない。


もう少し。

もう少しで、完成する。


窓の外の空が暗くなっていく。

部屋の明かりだけが、私を照らしている。


「……できた」


完成した提案書を見つめる。


分厚い。

でも、中身は完璧だと思う。


父が見ても、文句を言えないはず。

いや、文句を言わせない。


数字。

データ。

具体的な計画。

全部、揃っている。


「明日、提出しよう」


私は提案書を大事に抱きしめた。


(これだけ揃えて駄目って言われたら泣く。

 いや、たぶん泣く。

 間違いなく泣く。


 明日。明日こそ、ヴァルに――認めてもらう。


 今度こそぉぉぉ!!)


窓の外を見る。

星が輝いている。


明日が楽しみだ。

いや、楽しみなんてもんじゃない。


「絶対に、成功させる」


小さく呟いた。


◇◇◇


翌日。

私は提案書を持って執務室へ向かった。


深呼吸。

ノックする。


「入れ」


ヴァルの声がする。

中に入ると、やっぱり父もいた。

二人が地図を見ている。

いつもの光景だ。


「ミレイユ、どうした?」


ヴァルが顔を上げた。


「あの……、提案があります」


私は提案書を二人に差し出した。


「これを見てください」


ヴァルと父が提案書を受け取った。

見入るようにして、隅々まで読みとる。


沈黙が流れる。

二人とも真剣な顔でページをめくっていく。


ドキドキする。


(どうかな)


二人とも真剣な顔のままページをめくっていく。


(認めてくれるかな)


時間がとても長く感じた。


(いや何か言って!?)


ヴァルが時々頷く。

父が何かメモを取っている。


二人とも真剣そのもの。

その表情が読めない。


(大丈夫……かな?)


私は拳を握った。

手が汗ばんでいる。


ヴァルが顔を上げた。

笑顔で。


「これは面白いね。非常に良い」


(……!)


一気に頭が熱くなった。


「アレクシオンの意見は?」


父がまだ提案書を見ている。

真剣な顔で。

父の書類にはメモがたくさん書き込まれていた。


(父上……)


そして父が立ち上がった。


真剣な表情でヴァルを見る。


「ヴァルミール様、大変申し上げにくいのですが……」


(……え?)


嫌な予感がした。

また何か問題が?


(また……父上が駄目だしするの!?)


ミレイユの顔が引きつる。


父が深々と頭を下げた。


「このようなことを申し上げると親バカと思われるかもしれません」


(親バカ……?)


「ですが、我が娘の提案ながらも、この提案書は勝ち筋が見える素晴らしいものです。

 私はそう信じております。

 承認していただけませんでしょうか?」


「……え?」


私は固まった。


「父上!?」


父が推薦してくれた。

私の提案を。


「あぁ、私もこれには強く惹かれるものがあった。

 実行に移そう」


ヴァルが笑顔で言った。


「ヴァル!?」


「ミレイユ、頑張ったね」


ヴァルが優しく微笑む。


「ミレイユ、いいところに目を付けた。素晴らしい案だ」


父も笑顔で言った。


嬉しさで、目頭が熱くなる。

認めてもらえた。


ヴァルにも。

父にも。


(やった……!)


涙が溢れそうになった。


「ですが……課題が一つあります」


唐突に父が告げた。

嫌な予感が背中をぞわっと走る。


(がぁ!?また来た!?)


「課題?」


ヴァルが聞く。


「はい、投資しようにも当家にはそこまで予算がありません」


「……え?」


私は固まった。


「お金ないの!?」


「……うむ……難しいか?」


ヴァルと父が渋い顔をする。


(そんな……)


せっかく、ここまで来たのに。


「いえ」


父が力強く言った。


「第5居住ブロックの建設と開墾、第22〜25鉱山。

 これらのプロジェクトを一旦中断しましょう!」


「え?」


「ミレイユのプロジェクトの方が優先度が高いです」


「父上ー!!」


父が私のために、他のプロジェクトを中断する。


「中断可能か?」


ヴァルが聞く。


「はい、着手率から考えて、今であれば大丈夫です」


「そうか」


ヴァルが頷いた。


「せっかくのミレイユのプロジェクトだ。

 中断を承認する」


「ヴァル!!」


ヴァルが優しく私を見つめる。


「このプロジェクトの責任者は君に任せるよ」


「……え?」


「良いんですか?父上じゃなく?」


私は信じられない。

責任者。

私が?


「そうだよ。これは君の発案だ。

 それに君が一番うまくやれると私は思う」


「ヴァル……」


涙が溢れそうになった。


「ありがとう」


「ミレイユ、何か困ったことがあったら言いなさい。

 この父は全力でサポートするよ」


父も優しく言った。


「父上!」


「今日から開始してくれ」


ヴァルが私の肩に優しく手を置いた。

私もその手に手を重ねる。


「はい!任せてください!!」


しばらく見つめ合った。

温かかった。

初めてちゃんと見てもらえた気がした。


ヴァルの目が優しい。

父も嬉しそうに笑っている。


(これが欲しかったもの)


認めてもらうこと。

必要とされること。

ようやく手に入れた。


「……さて、アレクシオン。早速協議だ!」


ヴァルが父の方を向いた。


「ミレイユのために予算を作るぞ」


「はい!中断だけだと心許ないです」


父が資料を広げた。


「第22干拓工事ですが、生産性向上の余地があります。

 原価を抑えて、ミレイユに回しましょう」


「そうだな!これはどうだ?」


「おー。このプロジェクトももう少しスリム化できそうです!」


(……あ)


二人が完全に仕事モードに入っている。


「あ……あの……」


私の声が小さくなった。


(あかん……これ見たことある。最悪なデジャヴだ……)


「どうした?ミレイユ、君も大変だろう。

 もう行ってもいいよ」


ヴァルが優しく言った。


「これから忙しくなるだろう。

 必ず期日までにこの提案書にある予算は確保してみせる」


「は、はい」


「任せてくれ。

 困ったら私とアレクシオンに何でも相談しなさい」


彼のまぶしい笑顔が切ない……。

その笑顔が私だけに向く日は、もう少し先なんだろう。


「……はい、失礼します」


私は執務室を出た。

扉が閉まる。

背後から二人の声が聞こえる。


「それで、この案件だが――」


「ええ、こちらを先に――」


楽しそうな声。

盛り上がっている。


廊下を歩く。

足音だけが響く。


認めてもらえた。

責任者にもなれた。


父も、ヴァルも、応援してくれる。

でも――。


(やっぱり二人の世界だ)


私はまた一人。

ため息をついた。


(あれー?なんか思ってたのと違う)


「まぁ、いっか」


小さく呟いた。

プロジェクトが成功すれば。

きっともっと見てもらえる。

ずっと一緒にいられる。


その未来を信じることにした。


「頑張ろう」


拳を握った。

次は実行だ。


窓の外に広がる熱帯雨林と市場。


これから全部動き出す。

私のプロジェクト。

私の初めての責任。


(絶対に成功させる)


そう心に誓った。

挿絵(By みてみん)

【あとがき】

第9話をお読みいただきありがとうございました!


ついについについに!

責任者に任命してもらえました。

ヴァルもミレイユのことをしっかりと見てくれました。


ですけど……。

なんか違いますよね。


まぁ、ミレイユならきっと大丈夫です!



【おまけ設定集】

実はニャーンという種族は排他的な側面もあります。

神聖帝国は結構多くて有名な銀河帝国ですが、

異星人はあまり移住していません。


この物語にも登場するのは全てニャーン、猫耳たちです。

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