表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
父上、私の夫を盗らないで!  作者: ひろの
第一章 父上、私の夫を盗らないで!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/13

第7話 平民には聞いたの?

部屋で私は天井を見つめていた。


昨日のコーヒータイム。


確かにヴァルは変わった。

私の話を聞いてくれた。

優しく向き合ってくれた。


でも――。


(胸のどこかがまだ空っぽのまま)


その後はまた仕事。

また、父上。

また、私は一人。


ずっと一緒にいたい。

それが、私の願い。


でも、どうすればいいのか。


香水の案は開拓待ち。

冒険は危険すぎる。


窓の外の熱帯雨林。


あそこに答えがある。

でも行けない。


(もう……諦めた方が楽なのかな)


そんな考えが頭をよぎった。


ベッドに倒れ込む。

猫耳が力なく垂れた。


「そうだ、ユッコに電話しよう」


また愚痴を聞いてもらう。

情けないけどユッコなら無条件で優しく愚痴を聞いてくれる。


通信端末を取り出す。

呼び出し音。

しばらくして画面にユッコの顔が映った。


「ミレイユ! 元気ない声してる。どうしたの?」


ユッコの明るい声。

それだけで少し救われる。


「実はね……」


私はまた話した。


香水の提案をしたこと。


認めてもらえたこと。


でも、開拓が必要だと言われたこと。


そして、無謀な冒険で失敗したこと。


全部。

全部話した。


「そっか……大変だったね」


ユッコが優しく言った。


「うん……もう、諦めた方がいいかなって」


弱音を吐く。

本当に情けない。


「えー!もったいないよ!」


ユッコが声を上げた。


「え?」


「前、フルーツ送ってくれたじゃない?」


「フルーツ?」


(送った?)


ああ、そういえば。

熱帯雨林から、命からがら持ち帰った果実を

試しにユッコに送ったんだった。


「あれ、すごく美味しかった!!」


「……え?」


「あ、いや、香水の話だから」


ユッコが慌てて言い直した。


「すごくいい香りがしたの!」


「そう、かな……」


「でも、本当に美味しかったよ。あんなフルーツ、初めて食べた」


ユッコが嬉しそうに言う。


「甘くて、でも爽やかで。最高だった」


(そんなに?)


そういえば私はまだ食べてなかった。

命がけで持ち帰ったものなのに……。


「でも、安定して収穫できなくて……」


私がため息をつく。


「危険な原生生物がいるから、開拓しないと無理なんだって」


「そうなの?」


ユッコが不思議そうに言った。


「おかしくない?」


「え?」


「結構出回ってるよ、あの美味しいフルーツ」


(……え?)


頭が一瞬凍りついた。


「気になったから調べてみたんだけど」


ユッコが続ける。


「食用としては十分流通してる。帝都の市場でも見かけるよ。

 もう何回もリピートしちゃってるもん。

 帝都で食べても凄く美味しい」


「どういうこと?」


混乱する。

出回ってる?

でも、父上は開拓が必要だと言っていた。


「私もわからないけど」


ユッコが首を傾げた。


「でも出回ってるってことは、そこそこ収穫されてるってことだと思うよ」


「でも、父上は……」


父上が間違えるはずがない。


「あのフルーツの産地は、リュベール密林だって言ってた」


リュベール密林。

ニャグネムIIIで最も危険な地域。

原生生物が多数生息する、開拓困難な場所。


「父上に限って、間違うわけが……」


「ねえ、ミレイユ」


ユッコが真剣な声で言った。


「平民には聞いたの?」


「平民?」


私はきょとんとした。


「うん」


ユッコが少し複雑な表情を浮かべた。


「平民ってね――貴族には“本当のこと”をあまり話さないの」


(……え?)


「どういうこと?」


「だって、貴族に情報を渡したら、それを独占されちゃうかもしれないじゃない」


ユッコが少し寂しそうに言った。


「税金が上がるかもしれない。

 規制が入るかもしれない。

 だから、平民は貴族には本当のことを言わない。

 特に儲かる情報は」


(そんな……)


世界の見え方がぐらりと揺れた。


父上が情報を集める時――。

報告書を読む。

書類を確認する。

貴族たちと協議する。


でも、現場の平民に直接話を聞くことは――。


(あまり、ないかも)


「あ、私はミレイユのことをとても善良な貴族だと思ってるから、

 全て曝け出してるからね!」


ユッコが慌てて付け加えた。


「ミレイユは、私を庇ってくれたし。

 平民だからって距離を置いたりしなかった。

 ずっと、同じ目線で話してくれた。

 だから、信頼してる」


「ユッコ……」


「でも、普通の貴族には平民は警戒するよ」


ユッコが真剣な顔で言った。


「だから、もしかしたら。

 お父さんが聞いた情報と、実際の現場は違うかもしれない」


(平民……)


そうだ。

父上は優秀。


でも、父上が情報を集めるのは――貴族のルート。

公式の報告書だ。


でも、現場の平民は――。


「平民?あー、生産農家に直接聞けってことなのね!」


立ち上がった。


「そうそう!」


ユッコが嬉しそうに言った。


「ミレイユならきっと話してくれるよ。だって、優しいもん」


「ありがとう、ユッコ!!」


「うん!頑張って!」


通信を切った。


私は部屋の中を歩き回った。


(父上が知らない情報。

 平民しか知らない情報。


 ……それを私が見つける!)


そうだ。

これが父上と違う土俵。


父上は貴族のネットワークを使う。

そこに平民は登場しない。


でも、私は――平民のネットワークを使える。


ユッコという平民の友人がいる。


そして――私なら平民に話を聞ける。

その自信はある。


学生時代、平民を庇ってきた。

貴族と平民を区別しなかった。

それが、今、武器になる。


「領民に――直接、聞きに行こう」


窓を開けた。

熱帯の風が吹き込んでくる。

今度は熱帯雨林じゃない。


街へ。

市場へ。


平民が集まる場所へ。


地図を広げる。

屋敷から街まではエアビークルで約三十分。


市場は午前中が賑わうはず。


明日、行こう。

今度は準備をちゃんとして。

護衛は――雇えない。


でも、街なら安全だ。

市場なら人もたくさんいる。


(大丈夫)


私は拳を握った。


次は失敗しない。

次こそ成功させる。


そして――。

ヴァルに認めてもらう。

父上じゃなく、私を見てもらう。


「待っててね、ヴァル。

 今度は、“ちゃんと私を見させてあげる”から」


小さく呟いた。

空を見上げる。

明日が楽しみだ。

今度こそ。

今度こそ、やってやる。


「私にしかできないこと、見つけてやる!」


猫耳がピンと立った。

元気が戻ってきた。


(ユッコ、ありがとう。

 また、希望をもらった。

 また、前に進める)


「よし、準備しよう」


私は明日の計画を立て始めた。

市場で聞くべきこと。

話しかけ方。


服装もあまり目立たないものがいい。

貴族だとバレたら、警戒されるかもしれない。


(でも、嘘はつかない)


正直に話そう。

私が誰で何を知りたいのか。

そして、なぜ知りたいのか。

きっとわかってもらえる。


(そうだ!あのフルーツもいただこう!

 目的の物に関して何も知らないじゃ……話にならない!)


私の目的はヴァルの役に立つこと。

それは言い換えればこの惑星が豊かになること。

そして、実現したら貴族も平民もみんなが豊かになるんだ。


ユッコが言ってくれた。


「ミレイユなら、きっと話してくれるよ」


その言葉を信じよう。


「明日、頑張るぞー!」


私はベッドに横になった。

久しぶりにワクワクする。

久しぶりに希望が“手の届く場所”にある気がした。

次はきっと。

きっとうまくいく。

挿絵(By みてみん)

【あとがき】

第7話をお読みいただきありがとうございました!

「開拓が必要だ」と大真面目に議論している旦那様とお父様を尻目に、実は市場にフルーツが出回っていたという衝撃の事実。

有能な男たちが「国家レベルの開発」に頭を抱えている間に、平民たちはサクッと実利を得ていた……この格差が面白いですね。

旦那様の「優しさ(という名の放置)」を、ミレイユが平民ネットワークでどうひっくり返すのか。

次回の潜入調査が楽しみです!


ご感想やご意見、スタンプ、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。

もしよろしければ、次の読者への道標に、評価やブクマをお願い致します。


【おまけ設定集】

大貴族は軍やご領地に就職先がいくらでもあるので、問題ありませんが、下級貴族や平民は、学や資格を得るために大学に通うんです。

ユッコとミレイユは大学で親友になりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ