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父上、私の夫を盗らないで!  作者: ひろの
第一章 父上、私の夫を盗らないで!

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第6話 平手打ちと、抱擁と、粉骨砕身

翌朝、早朝。


私は屋敷の裏庭に立っていた。


手にはレーザーガン。

貴族の子女が護身用に持つ、小型のもの。


遠方に的を五つ並べた。

距離は約二十メートル。


深呼吸。

構える。

引き金を引いた。


パシュ、パシュ、パシュ、パシュ、パシュ。


五発。

五つの的が、全て撃ち抜かれた。


「よし」


私はレーザーガンを腰のホルスターに収めた。


(私、銃器の科目、A判定だったんだよなぁ)


学生時代を思い出す。


男爵令嬢。

吹いたら飛ぶほど地盤の弱い、末端貴族。

だから、軍人を目指す時もあった。


貴族としての地位を保つより、軍で実力を認められる方が確実かもしれない。

そう思った時期もあった。


結局、父が優秀すぎて没落は免れたけど。


でも、その時の訓練は無駄じゃない。


(原生生物?)


私は熱帯雨林の方を見た。


(怖くない。撃てばいいだけ)


自信があった。

的を撃つのと、獣を撃つのは同じだと。

そう、思っていた。

甘かった。


◇◇◇


準備を整えて、熱帯雨林へ向かう。

護衛を雇おうと思ったけど――。


(お金がない)


没落男爵令嬢に、そんな余裕はない。


でも、大丈夫。

レーザーガンがある。

A判定の腕がある。


(少量でいい。試作品が作れるだけでいい)


私は熱帯雨林の地図を見た。


比較的安全なルート。

原生生物の目撃情報が少ない場所。


(これなら、大丈夫)


そう思った。

本当に、甘かった。


◇◇◇


熱帯雨林は、想像以上だった。

鬱蒼とした木々。


足元はぬかるんでいる。

見たこともない虫が飛び交い、奇妙な鳴き声が響く。


(怖い……でも)


引き返せない。


しばらく歩くと、果実を見つけた。

パンフレットで見た、ミャングス果実に似ている。


鮮やかな赤色。

甘い香りが、かすかに漂っている。


「これ……!」


手を伸ばした、その時。


ガサッ。


背後で、何かが動いた。


振り向くと――。

巨大な影。


体長三メートルを超える、獣。

黒い毛に覆われた体。

鋭い牙。

ギラリと光る、黄色い目。


(……あ)


恐怖って、こんなに一瞬で体温を奪うんだ。

頭が、真っ白になった。


(撃たなきゃ!)


私は腰のレーザーガンを抜いた。


手が震えている。

的を撃つのとは、違う。


これは生きている。

殺意を持って、襲ってくる。


引き金を引いた。

パシュ。


外れた。


(え!?)


もう一発。

パシュ。


また外れた。


獣が近づいてくる。


(なんで、当たらない!)


三発目。

パシュ。


獣の肩をかすめた。

でも、止まらない。


動く。

速い。


そして――怖い。


手が震えて、上手く狙えない。


(……ダメだ)


レーザーガンが手から滑り落ちた。


走った。

無我夢中で。


A判定?


そんなもの、何の役にも立たなかった。


背後から、獣の咆哮。

グルルルルル――!


地面が揺れるような重い足音。


追いかけてくる。

速い。


足が絡まった。

木の根に引っかかって――。

転ぶ。


「きゃっ!」


地面に倒れ込んだ。


振り向くと、獣が飛びかかってくる。

巨大な牙が、目の前に。


(終わった)


叫ぶこともできなかった。


その時。


パン!


銃声。


獣が怯んだ。

空中で体勢を崩して、横に着地する。


「ミレイユ!」


声。


ヴァルの声。


彼が木々の間から飛び出してきた。


軍服姿。

手には銃。


「下がっていろ!」


ヴァルが獣の前に立ちはだかった。


獣が唸り声を上げる。

そして、再び飛びかかった。


ヴァルが銃を撃つ。

パン、パン、パン!


三発。

獣の肩に、弾が当たる。


でも、止まらない。


ヴァルが横に飛んだ。

獣の爪が、空を切る。


そのままレーザーブレードを構え、起動した。

白刃が、まぶしく輝き現れる。


獣が再度襲いかかる。


ヴァルが剣を振るった。


一閃。


獣の喉に刃が走る。

そのまま獣は倒れた。


地面に大きな音を立てて。

動かなくなった。


ヴァルが私の方を向いた。

レーザーブレードを停止させて、腰に下げると

ゆっくりと近づいてくる。


そして――。

パシン。


熱い衝撃が頬に走った。

それよりも――胸の奥が、ギュッと痛んだ。


平手打ちだった。


「っ……!」


痛い。

でも、それより。


ヴァルの顔……怒っている。


でも、ただの怒りではない、複雑な表情をしていた。


「何を考えているんだ……!

 こんなことで、君を失うところだった……!」


声が震えている。


「護衛もつけずに、こんな場所に……!」


「ご、ごめん……」


言葉がうまく出てこない。


「心配をかけさせないでくれ」


その言葉に。

何かが崩れた。

涙が溢れた。

止まらない。


怖かった。

死ぬかと思った。


そして――。

ヴァルが怒っている。

心配してくれている。

私のことを。


「ごめん、なさい……」


泣きながら、謝った。


初めて泣いた。

ヴァルの前で。


彼がそっと私を抱き寄せた。

今まで感じたことのない、優しさで。

その腕の中に入った瞬間、ようやく呼吸が戻った。


「でも――無事でよかった」


その声も震えていた。


「本当に、無事でよかった……」


抱きしめる腕が、強くなる。


「すまない……。

 君に寂しい想いをさせていたようだ」


(え……?)


顔を上げる。

ヴァルが、私を見つめていた。

優しい目で。


「もう少し、君のことをちゃんと見る」


涙の意味が変わった。

怖くて震えていたはずの涙が――

いまは胸の奥を温かくする涙に、変わっていた。


「ヴァル……」


私も、彼にしがみついた。

温かかった。

初めて、ちゃんと抱きしめてもらえた気がした。


「ミレイユ!!」


別の声が聞こえた。


ヴァルの抱擁から顔を上げると――。

父が走ってきた。

息を切らして。


「ミレイユ!」


父が私の前に立った。


そして――。

泣いていた。


「無事で……本当に、無事で……!」


父が私を抱きしめた。


ヴァルとは違う。

父の抱擁。


「父上……」


「どれだけ心配したと思っているんだ……!」


声が震えていて、いつもの父じゃなかった。


「ごめんなさい、父上……」


私もまた泣いた。


「心配、かけて……」


「いいんだ。無事ならそれで……」


父が私の頭を撫でた。

優しく。

昔から変わらない。

この手。

この温もり。


「もう、無茶はするんじゃないぞ」


「はい……」


しばらくそうしていた。

父と娘。

父の愛情は確かにそこにある。


父がようやく私から離れた。

そしてヴァルの方を向いた。


深々と、頭を下げた。


「ヴァルミール様」


「顔を上げてください、アレクシオン」


「いいえ」


父は頭を下げたまま。


「よく、娘を助けて下さいました」


「当然のことです。ミレイユは私の妻ですから」


「この恩義に――」


父がさらに深く頭を下げた。


「この恩義に報いるため、粉骨砕身の想いでお仕えいたします!」


(え?)


私は思わず父を見た。


「父上……?」


「ミレイユ」


父が顔を上げた。

その目は真剣だった。


「お前を救って下さった。この恩に、私は全力を尽くす」


「いえ、そこまでは――」


ヴァルが慌てて言う。


「いいえ!」


父が力強く言った。


「今まで以上に、領地開発に尽力いたします!

 ヴァルミール様のお役に立てるよう、私の全てを捧げます!」


(……あ)


ミレイユの眉間にしわが寄った。


(うわ……この流れ、絶対まずいやつだ)


ヴァルが困ったように笑った。


「そこまで言われると恐縮ですが……

 アレクシオンの力は、本当に頼りにしています」


「はい!」


父が力強く頷いた。

その目は輝いている。

やる気に満ち溢れている。


(父上のライバル化、加速した……!)


私は内心で頭を抱えた。


◇◇◇


翌朝。

目が覚めると、隣にヴァルはいなかった。

いつも通り。


(……でも、昨日は確かに)


頬がまだ少し痛い気がする。


「君のことをちゃんと見る」


その言葉を、信じてみよう。

食堂へ向かう。

ヴァルがコーヒーを飲んでいた。


「おはよう、ミレイユ」


「おはようございます」


「座ってくれ。一緒にコーヒーを」


(え……)


いつもならもう書類を広げている時間。

でも、今日は違った。


「体調は大丈夫か?」


「はい」


「そうか」


ヴァルが微笑んだ。

そして――。


「昨日は怖かっただろう」


「はい……」


「どうして一人で行こうと思ったんだ?」


ヴァルが優しく聞いてくれる。

私は、少しずつ話した。

香水のこと。


認めてもらいたかったこと。


待っているだけが嫌だったこと。


ヴァルは黙って聞いてくれた。

頷きながら。

時々、相槌を打ちながら。


(変わった……!)


心臓が高鳴る。

ヴァルが私の話を聞いてくれている。

ちゃんと、向き合ってくれている。


「君は頑張り屋だな」


ヴァルが優しく言った。


「でも、無理はしないでほしい」


「はい……」


(嬉しい)


本当に、嬉しい。

こんな風に、話を聞いてもらえるなんて。

コーヒーを飲み終わる。

ヴァルがカップを置いた。


「さて」


(え)


「そろそろ仕事に戻らないと」


ヴァルが立ち上がった。


「アレクシオンが、新しい開拓案を持ってくる時間だ」


(……あ)


「ミレイユ、ゆっくり休んでいてくれ」


ヴァルが私の頭を撫でた。

優しく。

そして、執務室へ向かって行った。

私は食堂に一人残された。


(……そうじゃないの)


小さく呟いた。

確かに変わった。

コーヒータイムは、私の話を聞いてくれた。

でも。


(それで満足して欲しくないの!)


その後は、また仕事。

また、父上。

また、私は一人。


(ずっと一緒にいたいの!!)


心の中で叫んだ。

コーヒータイムだけじゃ、足りない。

朝だけじゃ、足りない。


私が欲しいのは――。

一日中。

いつも。

ずっと一緒にいること。


(ヴァル、やっぱり違うぞ)


紅茶を啜る。

少しだけ進んだ。

確かに進んだ。

でも、まだまだ足りない。


「次の作戦、考えなきゃ」


窓の外を見る。

熱帯雨林。


(危険な方法はダメ。でも――)


諦めない。

絶対に、諦めない。


「ヴァル。

 まだまだ、ここからだからね」


小さく呟いた。

挿絵(By みてみん)

【あとがき】

第6話をお読みいただきありがとうございました!

命がけの単独行動でようやく手に入れた旦那様の抱擁……!

「君をちゃんと見る」という言葉に、「ついに!?(期待)」となったはずです。


が、まさかのお父様が「娘を救った恩返し」でやる気MAXになり、最大の壁として立ちはだかるとは……。

ヴァル様、コーヒー1杯分だけ優しくなったのは嬉しいですが、その後速攻でお義父さんとイチャ(仕事)つきに行くのは、もはや高度な焦らしプレイですか!?(笑)


ご感想やご意見、スタンプ、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。

もしよろしければ、次の読者への道標に、評価やブクマをお願い致します。


【おまけ設定集】

平民は研究者とかの専門職が最高の職種になります。

そうじゃなければ、会社員、事務員、農場、兵士、鉱山といった重労働につくことになります

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