表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
父上、私の夫を盗らないで!  作者: ひろの
第一章 父上、私の夫を盗らないで!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/6

第3話 私だって、やれる……はずだった

新婚六日目の朝。


私は書斎に籠もっていた。

テーブルの上には、領地の地図、資料、そして情報端末タブレット。


(よし、これで完璧!)


三日かけて作り上げた企画書を、私は満足げに眺めた。


きっかけは、あの散歩の時。


ヴァルが、あんなに嬉しそうに語っていた。

父の灌漑案を。

目を輝かせて、本当に楽しそうに。


(なら、私も灌漑案で成果を出せばいいんだ。

 そしたら、私のこともちゃんと見てくれるはず――!)


そうだ。

ヴァルが認めてくれた分野で、私も結果を出す。

そうすれば、父だけじゃなく、私のことも見てくれるはず。


(才能って怖い!ちょっと勉強しただけなのに

 なんとなくだけど答えが分かっちゃう!

 父上の娘でよかった。ありがとう、父上!!)


私が選んだのは、北部の未開発地域。

父が手をつけていない場所。


熱帯雨林が広がり、豊富な水源がある。

でも、農地としては使われていない。


だったら――。


「ここに、水路を作ればいい」


私は地図に線を引いた。

既存の河川から引水して、北部の平地に水を引く。


そうすれば、新しい農地が作れる。


図面も描いた。

資料も集めた。

父がやっていた方法を参考に、でも父とは違うアプローチで。


(これなら、いける)


私は企画書を抱えて、立ち上がった。


さあ、ヴァルに見せに行こう。


◇◇◇


執務室のドアをノックする。


「入れ」


ヴァルの声。

中に入ると、ヴァルと父が、地図を広げて話し合っていた。


「ミレイユ? どうした?」


ヴァルが、優しく微笑む。


「あの、少しお時間をいただけますか」


「もちろん。アレクシオン、少し休憩しよう」


「はい」


父も頷いた。


私は企画書をテーブルに置く。

緊張で、手が震えた。


「あの、私からも提案があります」


「提案?」


ヴァルが、興味深そうに身を乗り出した。


「灌漑計画です。

 北部の未開発地域に、新しい水路を作る案を考えました」


私は地図を広げた。

そして、自分が引いた線を指差す。


「この河川から引水して、北部の平地に水を引きます。

 そうすれば、新しい農地として開発できるかと」


ヴァルの目が輝いた。


(いける!)


私の心臓が高鳴る。


「なるほど。北部は確かに手つかずだった」


「はい。水源も豊富ですし、平地も広いです」


「面白い。具体的には?」


ヴァルが真剣な表情で聞いてくる。

私は図面を取り出した。


「水路はこのルートで――」


説明を始める。

ヴァルはちゃんと聞いてくれている。

父も黙って地図を見ている。


(やった、ちゃんと聞いてくれてる!)


でも――。


「ミレイユ」


父が静かに口を開いた。


「うん?」


「いい着眼点だ」


父は優しく微笑んだ。

でも、すぐに真剣な仕事モードの顔に戻る。


「だが、この北部の地域は、少し問題がある」


「……問題?」


嫌な予感がした。

父は地図の別の部分を指差した。


「この辺りの地下水脈は、非常に複雑なんだ」


「地下水脈……?」


「ああ。表層だけ見ると、確かに水が豊富に見える。

 だが、地下には大きな岩盤層があってね」


父はさらさらと別の図を描き始めた。


「だから、単純に水路を引いても、土壌が水を保持できない。

 すぐに地下に流れてしまう」


「あ……」


私の声が小さくなった。


「それに、この地域は雨季になると――」


父の説明は続く。

地質の問題。

水源の位置。

既存のインフラとの兼ね合い。

全部、私が見落としていたこと。


「だから私は、南部ルートで迂回する案を既に考えていてね」


父が別の地図を広げた。

そこには、私の案とは全く違う、精密な計画が描かれていた。


「こちらのルートなら、岩盤を避けられる。

 測量も終わっているし、来月には着工できる」


ヴァルが目を輝かせた。


「さすがアレクシオン! 完璧だ!」


その声が遠く聞こえた。


「ミレイユ」


ヴァルが私の方を向いた。


「よく勉強したね」


その言葉は、優しかった。

そして、私の頭を撫でる。


「でも、父君がいるから大丈夫だよ」


ああ。


「君は無理しなくていい」


ヴァルの笑顔は、本当に優しくて。

だからこそ、辛い。


「父君がちゃんと考えてくれているから、

 ミレイユは心配しなくていいんだ」


(あ、これ……完全に戦力外通告だ)


完全に、子供扱い。

妻じゃない。

戦力でもない。

ただの――。


「わかり、ました」


私は企画書を抱えた。


「失礼します」


部屋を出る。

背後で、ヴァルと父が再び話し始める声が聞こえた。


「それで、南部ルートだが――」


「ああ、こちらの地域から――」


楽しそうな声。

私の提案なんて、もう忘れられている。


◇◇◇


部屋に戻って、ベッドに倒れ込んだ。


「チーン……」


効果音が聞こえた気がする。

私の自信も、企画書も、全部チーン。


三日かけて作った企画書。

父は、三分で代替案を出した。


しかもそっちの方が、圧倒的に優秀。


(そりゃそうだ。父上だもの)


わかってた。

わかってたけど――。


「よく勉強したね」


ヴァルの言葉が、頭の中でリピートされる。

勉強した、じゃない。

結果が、欲しかったのに。


「父君がいるから大丈夫」


その言葉も。

優しいけど、残酷。

私は、いらない子。

そう言われた気がした。


「……くそぅ」


胸の奥がじん、と痛む。

悔しい。

でも、このまま膝を抱えてる私じゃない――。


「って、沈んでてたまるか―!」


私はガバッと起き上がった。

企画書を床に投げ捨てる。


そうだ。

ダメだったんだ、今回は。


でも、それだけ。

次がある。


(父と同じ土俵じゃダメなんだ)


灌漑案は父の得意分野。

そこで勝負したって、勝てるわけがない。

なら――。


(父がやらないこと。父ができないこと。

 いや――父が気づいていないこと)


それを見つけるんだ。

私にしかできないこと。

私だから気づけること。


それを、見つけてやる。


「絶対に、認めさせてやる!

 がおぉぉぉぉぉ!!」


猫耳が、怒りでぴんと立った。

窓を開ける。

熱帯の風が、部屋に吹き込んでくる。


ひとしきり吼えたらすっきりした。

外で掃き掃除をしていたメイドが口をポカーンと開けた状態で

心配そうに見つめている。


きっとあの部屋では父とヴァルが楽しそうに議論している。

はっきりと想像できた。

でも――。


(次は、負けない)


私は拳を握った。

父の真似じゃない。


私だけのやり方を見つける。

そして――ヴァルに。

ちゃんと、“妻として”見てもらう。


「さあ、次の作戦を考えましょう!」


落ち込んでいる暇はない。

私は再び資料を広げた。

挿絵(By みてみん)

【あとがき】

ご愛読ありがとうございます!

ヴァル様、それは優しさじゃなくて、新妻の心にトドメを刺す追い打ちです……(笑)


完璧なイケメンなのに、女心に関しては壊滅的にズレている彼。

そんな彼を「父上越え」で振り向かせようとするミレイユの健気な挑戦を、

ぜひ次回も温かく見守ってください!


ご感想やご意見、スタンプ、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。

もしよろしければ、次の読者への道標に、評価やブクマをお願い致します。


【おまけ設定集】

この国の身分上下ですが。


神聖皇帝 > ①公爵 > ②侯爵 > ③伯爵(辺境伯) > ④子爵 > ⑤男爵 > ⑥準男爵


な感じです。

①②③が大貴族で、④は大貴族の子弟が良く就任します。

⑤が下級貴族、⑥はほとんど平民と変わらない末端貴族です。


ミレイユは……下級貴族出身です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ